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ニコ・パス:レアル・マドリーが育てたコモ所属の若き才能はメッシの引退後にその穴を埋める存在となり得る

メッシはサッカー界の奇跡の男だ。生理学や物理学の法則を嘲笑う天賦の才能に恵まれている。正直なところ、前回のカタールW杯でアルゼンチン代表として成し遂げたことも、本来なら不可能だったはずなのに、当時35歳だったメッシは、ヨシュコ・グヴァルディオルらを軽々と翻弄していた。

しかし、メッシが来夏の北米大会を前に代表引退を決断した場合、アルゼンチンはどう対処するのだろうか。結局のところ、最近リオネル・スカローニ監督が認めたように「メッシの後継者は存在しない」ため、彼を失うことは「計り知れない損失」となる。メッシは選手としてもリーダーとしても、かけがえのない存在だ。もっとも、スカローニ監督はすでにこのカリスマ的な背番号10が不在の未来に備えており、強力なサポート体制は整っている。

第一に、スカローニ監督の下での基本的なゲームプランは、メッシの出場の有無にかかわらず、これまで一度も変わっていない。また監督は、アルゼンチンにはすでに主将の引退によるダメージを最小限に抑えられる選手たちが揃っていると語っている。そのひとりは間違いなくニコ・パスだろう。

  • 「レアル・マドリーの未来を担う選手」

    ニコ・パスのプレーを見た者なら誰の目にも明らかなように、彼は純粋なストリートサッカーの選手だ。生まれ育ったテネリフェで子ども時代に遊んだ広場の賜物である。しかし父親のパブロはセンターバックとしてアルゼンチン代表で14試合に出場した実力者だった。ガブリエル・バティストゥータ、ハビエル・サネッティ、ディエゴ・シメオネ、フアン・セバスティアン・ベロン、エルナン・クレスポといったスター選手を擁して1998年のワールドカップに出場した時代の代表である。

    だから、若きニコ・パスが守備的なポジションでキャリアをスタートさせたのは必然だったかもしれない。しかし、12歳になる前にテネリフェを出てレアル・マドリーと契約すると、たちまちクラブは、ストリートサッカーで磨かれた彼の技術は攻撃的なポジションにこそ適していると気づく。その結果、2023年11月8日に快勝したチャンピオンズリーグのブラガ戦でプロデビューを果たす頃には、レアル・マドリーのカスティージャで右ウイングとセンターフォワードの両ポジションで印象的な活躍を見せていた。

    当時のカルロ・アンチェロッティ監督はクラブの育成部門をもっと信頼すべきだと批判されることも多かったが、このイタリア出身監督がパスを繰り返しトップチームの練習に招いたことは評価できる。この判断にはトニ・クロースも賛同していた。「この少年は毎日我々と練習すべきだ。非常に優秀だから」と、この元ドイツ代表の司令塔は熱く語っていたのである。

    アンチェロッティはさらに11月下旬、同じくチャンピオンズリーグのナポリ戦でも、後半途中、2-2の同点の場面から投入した。これは絶妙な判断であった。

    試合終了まで残りわずか6分、パスは得意の左足で内側に切り込み、20ヤード(約18メートル)以上離れた位置から低いシュートを放って、相手GKアレックス・メレットを驚愕させた。終了間際にホセルが追加点を挙げたが、試合後サンティアゴ・ベルナベウで話題となったのはパスだった。

    「彼はレアル・マドリーの未来を担う選手だ」と、4-2で勝利した後、当然ながら満足げにアンチェロッティ監督は語った。「レアル・マドリーでプレーするのに必要な資質をすべて備えている」。

     

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  • コモへの移籍

    しかしながら、パスが2023-24シーズン前半で合計4試合に出場できたのは、チーム内でのちょっとしたケガによる相次ぐ選手の離脱のおかげであり、そのため主力選手たちが復帰すると、若きパスは再びレアル・マドリーのリザーブチームに戻り、主にスペイン3部リーグでプレーすることとなった。

    その結果、2024年夏、パスと代理人は移籍を強く求めた。クラブもチームを出ていくことには同意したが、買い戻し条項を契約に盛り込むことが条件だった。これはサンティアゴ・ベルナベウでレギュラーになるという夢を諦めなくてすむことを意味したため、パスも歓迎した。

    問題は移籍先だけだったが、特に熱心だったのはコモだった。セリエAに属するコモはパスを徹底的に調査しており、ディレクターのカルラベルト・ルディは彼をプロジェクトの「中心」に据えることで、その大きな可能性を引き出せると確信していた。

    ただし、他にも複数のクラブがこのウィングを獲得しようとしていた。「彼には多くの関心が集まっていた」と、ルディは『カルチョメルカート』で語っている。「我々は最前列にいたわけではなかったが、彼を獲得する意思が最も強かったのが我々だった」。

    重大なことに、コモにはセスク・ファブレガスが監督であるという切り札があった。このワールドカップ優勝経験者は、600万ユーロ(約10億円)の契約を成立させることにおいて、「決定的」な要素だったと、ルディは言う。

  • セスク・ファブレガスという切り札

    パスが休暇で家族とギリシャにいた時、父親がコモのファブレガス監督から連絡を受けた。パスはこの時のことを「本当に特別な瞬間だった」と、言っている。彼の成長にとって極めて重要な出来事でもあった。

    「伝説的な選手が監督だなんて、特別なことだ」と、パスは、クラブの公式サイトで言った。「監督は周りにいる人たちを安心させ、人生とサッカーの両面で多くのことを教えてくれる人だ」。

    これはただ、セスクがパスと同じスペイン語を話すというだけの話でないことは明らかだ。アーセナルとバルセロナでエースだったセスクは、サッカーを見る目がパスと明らかに同じだった。その時代の最高のMFのひとりだったファブレガスは、常にボールに触れたいというパスの欲求を理解していた。

    「何より素晴らしいのは、監督が私に自信を持って自分のサッカーをプレーさせてくれることだ」と、パスは『DAZN』で語っている。「監督のおかげで私は冷静さを保つことができる。監督は僕にラインとラインの間でプレーすることを望んでいる。それは本当に重要なことだ」。

    「監督の選手時代のことも覚えている。圧倒的な技術と驚異的なラストパスを持っていた選手だった。ペナルティエリアに飛び込んで得点するタイミングを知っていた。そこが僕の改善点で、もっとボックス内に入っていかないといけない。監督のあの決定的なパスを、大いに研究している」

    かつて自らも天才少年だったファブレガスは、成長期に制限をかけることの危険性も理解していた。

    「彼は特別な選手だ。自由に表現する余地を与えねばならない」と、2024年10月19日、パルマと1-1で引き分けた試合で、パスがコモでの初ゴールを決めた時、ファブレガス監督は言った。「彼をロボットのように型にはめてはいけない」。

  • 「プロになって最高の瞬間」

    確かにパスは、硬く機械的な動きをする選手ではない。彼の動きにはバレエのような優雅さがあり、とりわけジネディーヌ・ジダンのようなピルエットをセリエAでよく披露している。

    長身で細身の身体で相手選手を軽やかに抜き去り、ピンポイントのパスで敵の守備を崩壊させる様子は、カカを彷彿とさせる。また、その左足はマルティン・ウーデゴールと比較されることも多い。

    だがパスは、自身が史上最高の選手と考えるメッシのプレーをできるだけ多く学ぶために、メッシの試合の映像を何時間も見てきたし、今でも見続けていると言う。

    そのため当然ながら、昨年10月に初めてアルゼンチン代表に招集されたとき、パスは自身のアイドルにほとんど一言も話しかけられなかった。

    「メッシを見ると緊張してしまう」と、パスは『DAZN』で言った。「だって、とても恥ずかしかったから、ほとんど話せなかったんだ!」

    とは言え、メッシと話はできなかったとしても、メッシへのパス出しは完璧だった。アルゼンチンのサッカーの聖地であるエスタディオ・モヌメンタルで代表デビューを果たしたボリビア戦、6-0で圧勝した試合で、新戦力となったパスは、ハットトリックを達成した背番号10の3点目をアシストしたのである。

    「プロになって最高の瞬間だった」と、パスはコモの公式サイトで語った。「史上最高の選手にアシストを決められて、それもデビュー戦で、夢のようだった。レオの年齢を考えれば、彼とプレーする機会が巡ってくるとは思っていなかった。だけどそれが現実となって、人生で起こりうる最高の出来事のひとつになった」。さらに、偉大な選手本人から特別に称賛されたことは、おそらくパスにとって最高の瞬間に勝るとも劣らない喜びだったろう。

    「ニコは素晴らしい才能を持っている」と、その時メッシは語った。「彼は頭が良く、試合の流れを完璧に理解している。このまま成長を続けてほしい。彼はプレーを楽しみ、ボールを持つことを好む選手だから、このチームを居心地良く感じられるだろう」。そしてメッシは、メッシがバルサのトップチームでデビューした時、パスは生後わずか1カ月だったと指摘され、「知ってたよ!」と、笑いながら答えたのだった。

    さて、今や焦点となるのは、17歳の年齢差にもかかわらず、来夏のワールドカップでパスとメッシのコンビが見られるかどうかである。皮肉なことに、唯一の懸念はメッシがスカローニ監督の代表に入ることを決断するかどうかなのだ――なぜならパスは選出がほぼ確実だから。

  • メッシのように注目される

    パスは昨年のデビュー以来、アルゼンチン代表でさらに3試合に出場しており、今後の親善試合のベネズエラ戦かプエルトリコ戦の少なくともどちらか1試合には先発出場すると見られている。

    もちろん、アルゼンチン代表の驚異的な選手層の厚さを考慮すれば、パスはあらゆる機会を最大限に活用して存在感を示す必要がある。また、夏に同じくアルゼンチン代表のフランコ・マスタントゥオーノを獲得したことが、レアル・マドリーがコモからパスの買い戻せる3回のチャンスのうちの1回目を行使しなかった主な理由と報じられている点も特筆すべきだろう。

    とは言え、2024-25シーズンにセリエAの最優秀若手選手に選出された21歳のパスは、今シーズン、さらに高いレベルに到達したと言えるようだ。実際、ファブレガス監督は、バルセロナ時代のメッシがそうだったように、今のパスは相手チームのマークを一身に集めていると述べている。

    「今後、ますますそうなっていくだろう」と、ファブレガスは言う。「だけど、このことはシーズン当初にも言ったし、彼にも伝えた。『これは相手がお前を今までとは違う目で見ている証拠だ。今までとは違うやり方でお前と戦おうとしている』と。ただ、私はこれをポジティブなことだと捉えている」。

    確かにパスはDFの標的となる状況に対して印象的な対応を見せている。2024-25シーズンに通算30試合で14得点に関与し、今シーズンは6試合で3得点3アシストと、1試合平均1得点のペースを維持しているのだ。

    「ニコ・パスは、ワールドクラスの選手だ」と、最近、ルディは言った。「謙虚な若者であり、私のキャリアでも数えるほどしか見たことがないレベルの才能を持っている」。

  • パスの今後

    コモというチームとファブレガス監督は、これまで、パスの天賦の才能を存分に引き出す見事な仕事をしてきた。だからこそアルゼンチン代表のスカローニ監督は、この万能型の攻撃的選手にとって今以上に素晴らしい環境はないと考えている。「セスクは我々が好むサッカーを実践する監督だ。ニコ・パスに我々が望むプレーをさせ、彼に必要な重要なことを教えてくれている」と、Direttaで語っている。

    しかし他の誰もがそう考えるように(ファブレガスも例外ではない)、スカローニ監督は、驚異的な能力をもつパスは遅かれ早かれベルナベウへ戻ることになるだろうと確信している。そしてパスに父親の足跡を辿るよう説得するのに何の問題もなかったこと、つまりパスがスペイン代表ではなくアルゼンチン代表を選択したことに、ただただ感謝している。

    「その点では我々は非常に賢明だった、だろ?」と、スカローニ監督は、ジャーナリストのシロ・ロペスのインタビューの中で、冗談めかして言った。しかし、これは極めて重要なポイントだ。メッシが引退する時が来れば、GOATの去った代表チームには大きな穴が残る。スカローニ監督はパスがその穴を埋める助けとなることを望んでいる。

    「我々には基盤が固く安定した代表チームがあり、すでに次世代の選手たちもチームに貢献している」と、アルゼンチン代表監督はDirettaで語った。「そしてニコは、長きにわたって我々とともに歩む選手のひとりとなる運命にある」。