Neymar Santos return GFXGetty/GOAL

今こそ“ネイマール”を楽しむ時:バルセロナ、PSG、サウジ…悲劇的なキャリアを経て辿り着いた始まりの場所

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ネイマールのキャリアは、32歳で終わりを迎えるはずではなかった。もっと公平な世界であれば、ネイマールは今でもチャンピオンズリーグで活躍し、クラブや代表チームで多くの主要タイトルを獲得し、トップレベルの選手として実力を発揮しながら、ゆっくりとキャリアの終盤に向かうはずだった。

しかし、度重なるケガや野心、単純な運の問題から、そうはならなかった。実際、サウジアラビアの強豪アル・ヒラルとの契約は、史上最低の移籍の1つとして語り継がれることになるだろう。

そして31日、ネイマールの強い思いから大幅な減俸を受け入れ、古巣サントスへの復帰が決まっている。この1年半は複雑な膝の負傷、パリ・サンジェルマンでの“スケープゴート”的な扱いに7試合しか出場できなかったアル・ヒラルなど、彼にとっての逆風は強まるばかりだったからこそ、故郷で穏やかに再出発を図りたいという彼の希望は受け入れられるべきだ。

彼に対し、世界中で賛否両論が巻き起こるのは当然だ。だが今こそ、我々は武器を下ろし、彼を正当に評価すべきではないだろうか。

  • FBL-RECOPA-SANTOS-U. DE CHILEAFP

    最初の『YouTube』スター選手?

    サントスはその才能にすぐに気づいたいた。14歳でレアル・マドリーのトライアルを受けたことで大きな話題を呼んだが、その3年後にはトップチームに定着。最初のシーズンで2桁ゴールを記録し、当時はチェルシーとウェストハムの注目を集めている。

    2010年ワールドカップを戦うブラジル代表メンバーからの落選でさらにモチベーションを高め、サントスがサンパウロ州選手権で栄冠を勝ち取った際には60試合で42ゴールという驚異的な数字を記録した。偉大な記録とタイトルは次々と積み上げられ、ペレが活躍した1963年以来となるコパ・リベルタドーレス優勝にも導いている。

    そしてこの活躍により、世界中のファンがネイマールに熱狂するようになる。FIFAのプスカシュ賞という栄光を手にした伝説的なゴールは、当時は今ほど普及していなかった『YouTube』で驚異的なスピードで拡散された。このプレーから世界中の人々が「ネイマールの姿を見てみたい。次のスーパースターを見ていたい」と願うと、彼の新天地はバルセロナに決定。リオネル・メッシとの、夢の共演が実現したのである。

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  • FBL-EUR-C1-JUVENTUS-BARCELONA-FINAL-TROPHYAFP

    バルセロナでの大ブレイクと“MSN”

    2013-14シーズンのバルセロナは、ネイマールの決勝弾によって手にしたスーペルコパ・デ・エスパーニャが唯一のタイトルと目立ったシーズンではなかった。それでも、ブラジルからやって来た天才にとっては実り多い初年度であり、将来の成功へ準備を整えていた。そして2014-15シーズンにルイス・スアレスが加入(噛みつきによる長期の出場停止処分を終えて)し、伝説的なトリオが誕生する。

    メッシ、スアレス、そしてネイマールの頭文字をとった“MSN”。おそらく歴史上でも最も完成された3トップの1つだ。当時バルセロナがチケット代を300ユーロに値上げしたとしても、見に来るファンは後を絶たなかったはずだ。2015年には歴史的な三冠を達成し、翌シーズンもラ・リーガとコパ・デル・レイを制している。

    2014-15シーズン、メッシが58ゴール、ネイマールが39ゴール、スアレスが25ゴールを記録。2015-16シーズンはそれぞれ41ゴール、31ゴール、59ゴールを記録した。選手が1年間で奪えるゴール数には限界がないことを、彼ら3人が証明している。

  • UD Las Palmas v FC Barcelona -Getty Images Sport

    “MSN”の大成功の影で

    しかし“MSN”の大成功の影で、ネイマールの野心とは相容れない部分もあった。サントスで頭角を現して以来、彼は世界最高の選手になるという野望を抱いていた。しかしクラブですら最高の選手になれなければ、それは不可能だ。

    メッシというあまりにも巨大な存在と神格化される扱いに、ネイマールは我慢できなかったのかもしれない。本人は否定したが、史上最大の逆転劇となった2017年のチャンピオンズリーグのパリ・サンジェルマン戦、“奇跡”の立役者として評価されなかったことが要因の1つと広く報じられている。

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    PSGでの栄光と…

    バルセロナにとっては、ネイマールを売却する必要はなかった。 しかし、2億2200万ユーロに設定していた契約解除金を支払うクラブが現れれば話は違う。ラ・リーガへ史上最高額となる移籍金を支払い、パリ・サンジェルマンが正式に契約解除条項を行使。世界中に衝撃を与える移籍劇となった。

    なぜヨーロッパ屈指のチームを離れ、世界最高の3トップを解散し、人気の劣るリーグ・アンへ挑戦するのか? 当時のサッカーファンは疑問だらけだった。最初に浮かぶ言葉は「カネ」という人も多かった。それでも本人は、ロナウジーニョなどPSGで活躍した歴代のブラジル人選手の後を追いたかったと語っている。

    PSGのデビューシーズン、公式戦30試合で28ゴール16アシストを記録。平均62分で1ゴールに絡んだ計算だ。これこそ、メッシに期待するようなスタッツである。だが3月初旬に中足骨を骨折し、シーズンは早々に終了。エースを失ったPSGの夢は、チャンピオンズリーグ・ラウンド16でレアル・マドリーに打ち砕かれた。 翌シーズンもケガによって欠場が続き、マンチェスター・ユナイテッド相手にまたもラウンド16で姿を消している。

    そして迎えた2019-20シーズン、世界中が新型コロナウイルスに揺れる中、PSGに最大のチャンスが訪れる。ロックダウン中に行われた特別方式のトーナメントを勝ち抜き、クラブ史上初の決勝戦へと進んだのである。しかし欧州制覇の夢は、冷酷なバイエルン・ミュンヘンを前に散った。決勝後に涙を流したネイマールにとって、二度目のビッグイヤーは実現しなかった。

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    悲しい衰退

    PSGのプロジェクトは、バイエルンに敗れたあの決勝から立ち直ることができなかった。ネイマールにとってはバロンドール受賞という個人的な目標も、キリアン・エンバペの存在によって難しくなった。2020-21シーズンは指揮官交代もあり、フランス王者の座も奪われている。

    その夏にはバルセロナを退団したメッシがフリーで加わったが、あの“MSN”のような輝きは放てず、欧州の舞台ではタイトルに挑戦できない時間が続くことに。ネイマールも負傷の影響から年々衰えていくのが明らかだった。2023年にメッシが契約を解除してインテル・マイアミに移籍した時、PSGの路線変更は明らかで、ネイマールの退団も規定事実であった。

    結果的に、ネイマールを獲得できる唯一のクラブはサウジアラビアだけであり、アル・ヒラルしかいなかった。キャリアの終盤に差し掛かる彼に9000万ユーロを支払えるクラブはないだろう。だがこの挑戦も、悲劇的な形で幕を閉じることになる。

    ブラジル代表での活動中、ネイマールは膝の前十字靭帯と半月板を断裂した。30代前半のサッカー選手にとって、それは最高レベルでのキャリアの終焉を意味すると言ってもいい。出場できたのはわずか7試合で、アル・ヒラル側もサウジ・プロ・リーグへの登録を見送ることに。終わりの時だった。

  • Croatia v Brazil: Quarter Final - FIFA World Cup Qatar 2022Getty Images Sport

    ブラジル代表キャリアも…

    ネイマールの代表キャリアも、クラブキャリアと同じような道を辿っている。唯一の成功は2013年のコンフェデレーションズカップと2016年のオリンピック金メダル。ワールドカップとコパ・アメリカは、未だ手の届かないところにある。

    自国開催の2014年ワールドカップは悪質なタックルで一足早く大会を終え、ブラジルもドイツに1-7と屈辱的な敗退。2018年大会は中足骨骨折から復帰したばかりだったが、万全ではないまま準々決勝で敗退。そして2022年大会、ラウンド16のクロアチア戦であのプスカシュ賞のような素晴らしいゴールを決めたものの、彼に大きく依存していたチームは不甲斐ないまま、PK戦2-4で敗退を余儀なくされている。

    ネイマールは、2026年大会を最後のチャンスと捉えて再び分きするだろう。しかしブラジル代表チーム自体が過去最低の低迷期にある中、彼がこれまで以上に輝く姿は想像できない。

  • FB-WC-2026-SAMERICA-QUALIFIERS-BRA-TRAININGAFP

    サントス復帰への願い

    そう、ここ10年近く、ネイマールのキャリアはピッチ外の様々な要素によって振り回されてきた。サッカー史上最も才能ある選手の1人が、こうしたキャリアを描くと想像できた人は多くないはずだ。サントスへの復帰自体は感動の物語かもしれないが、PSGからアル・ヒラルへ渡った時と同じように考える人も少なくない。

    だが、これは過去の冒険とは異なる。今こそ、世界中のファンは余計なものに惑わされないネイマールを楽しむことができるのだ。彼にヨーロッパ最高レベルに求められる強烈なプレシャーはもうないし、バルセロナ時代の輝きを求める声もない。自由に、羽根を伸ばしながら躍動するネイマールの姿を期待できるのだ。

    ネイマールのキャリアは、90%がピッチ外のストーリーに彩られてきたと言ってもいい。今こそファンは、その10%の部分、彼が純粋にピッチ上で楽しむ姿を堪能すればいい。ミスを批判したり、欠点を嘆くのはもうやめだ。我々ファンも純粋な心で、彼の魔法を楽しめばいいのである。