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ナポリのスター、オシムヘンの契約がまだなのはなぜ?移籍市場を開くカギを握るのはエンバペ

今月初め、ナポリは来シーズンの新ユニフォームをお披露目した。昨シーズン、セリエA優勝という快挙を成し遂げたため、30年以上ぶりに、すべてのユニフォームにイタリアの三色旗が輝いている。

「これは、長く苦しい戦いの年月の末の、自由の象徴である」と、ナポリのアウレリオ・デ・ラウレンティス会長は言った。ただ単にスクデットを獲得できないでいたことだけでなく、2004年の会長就任の際、クラブの破産を救ったという事実を思い起こさせる発言であった。

三色旗が、長く耐え忍んできたナポリのサポーターたちの変わらぬプライドの源を示したことは間違いないが、チームのスター・ストライカー、ヴィクター・オシムヘンが来シーズンの新ユニフォームを着るのかどうかという疑問があることは明らかだった。

「もちろん、イエスだ」と、デ・ラウレンティス会長は宣言した。だがそう言った直後、こうも言ったのである。「それほど悪くないオファーが来れば、考えることになるだろう。我々には、オシムヘンと同じくらい強力な他の選手を見つけるだけの力があるのは確かだ」

デ・ラウレンティス会長に関して言えば、この会長を交渉のテーブルに着かせるために必要な金額(およそ2億ユーロ、約314億円)を出せるのは、パリ・サンジェルマンだけである。そしてそうだとしても、パルク・デ・プランスからオファーが来るかどうか、予言することはできなかった。「私は、オシムヘンが残ってくれると信じている」。

しかしながら、移籍市場は数週間にわたって停滞し、その間、オシムヘンはナポリと新しい契約を交わすところまで来ていると繰り返し報道されていたが、その後、大きな移籍話が持ちあがり(そのほとんどがサウジアラビアからだが)、オシムヘンがスタディオ・ディエゴ・アルマンド・マラドーナに残るかどうか、疑問が投げかけられるようになった。

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    フェイクニュース?

    つい先週、ナポリの日刊紙『Il Mattino』は、オシムヘンの代理人が、契約更新に同意する前に、他のすべての選択肢をちゃんと考えろと依頼人に助言したことを報道した。これについて代理人は「フェイクニュースだ」とSNSにアップし、契約延長を話し合うべく、ナポリのプレシーズンの練習場があるディマーロに向かった。

    3日間の話し合いの末、オシムヘンは現在の契約を延長することに同意したと噂された。この契約は2年後の2025年に満了になるという。だが、その後もさまざまな報道がなされており、『コリエレ・デッロ・スポルト』は、バイアウト条項が提案されたが行き詰り、デ・ラウレンティス会長は固定給を1億8,000万ユーロ(約283億円)とすることを要求したのに対し、選手側はその3分の2の額を希望したが、それは、いずれ、ヨーロッパのエリートチームのどこかからのオファーが来るチャンスを得るためだと報じた。

    最終的に、オシムヘンは契約の遅れにフラストレーションを募らせたようで、オフシーズンのこの段階までに自分の未来について解決したいと希望したと言われている。

    さらにその後、PSGが3億ユーロ(約472億円)という大金でキリアン・エンバペをアル・ヒラルに行かせることに同意したというニュースが流れ、ナポリに漂う不穏な空気は増大するばかりだった。ナポリのファンが、チームの背番号9の未来がナポリにあることを信じようと躍起になるのは理解できる。

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  • Luciano Spalletti Napoli 2022-23Getty

    ナポリからの衝撃的な離脱

    思い起こせば、ルチアーノ・スパレッティ前監督は、デ・ラウレンティス会長と対立してすでにチームを去っており、その衝撃的な去り方は、スクデット獲得のお祝いに少しばかり水を差した。前監督は、オシムヘン自身が言ったとおり、ナポリの歴史的成功の「建築家」であり、センセーショナルなチーム改良の責任を負った監督であった。そのおかげで、センターフォワードたるオシムヘンは、セリエAの試合に32試合しか出場しなかったのに26点を挙げ、前シーズンの自身のリーグ最高得点の2倍近い得点を記録した。その結果、この24歳は、イタリアのトップリーグで得点王となった初めてのアフリカ系選手となったのである。「監督は、僕に、持てる限りの自信を与えてくれた」と、『DAZN』のインタビューで感激の言葉を述べている。

    問題は、そんなオシムヘンが新監督のルディ・ガルシアとまったく同じような絆を築けるかどうかにある。ガルシア監督はローマを率いたことがあり、イタリアで尊敬に値する監督だとみなされているが、スパレッティ前監督の後任としては面白みに欠けていることは否定できない。

    さらに、ナポリにはキム・ミンジェとクリスティアーノ・ジュントーリを失ったという事実もある。キムは大柄で実力のある韓国代表DFで、カリドゥ・クリバリの代わりを楽々とこなしていた。そして、おそらく最も重要なことに、ジュントーリは、雀の涙ほどの予算で優勝できるチームを作りあげる責任を負っていた、天才的なスポーツ・ディレクターであった。

  • Mbappe-PSGGetty

    エンバペが回すメリーゴーランド

    つまり、オシムヘンの契約状況に関係して緊張が増していることは無理もないことなのだ。現在の移籍市場を見るに、エンバペをめぐる動きから始まって、オシムヘン、ハリー・ケイン、ドゥシャン・ヴラホヴィッチ、ロメル・ルカク、ランダル・コロ・ムアニといったセンターフォワードたちのメリーゴーランドが回りだす可能性があると言える。

    PSGは(バイエルン・ミュンヘンやレアル・マドリー、マンチェスター・ユナイテッドもそうだが)、現在背番号9が欠番で、オシムヘンとのことが取りざたされている。これは、エンバペが、2024年以降の契約延長はないと認めて、PSGの移籍計画が大混乱に陥る前から、そうだった。

    ユヴェントスはヴラホヴィッチをPSGに移籍させる準備ができており、その代わりにルカクと契約するつもりだが、エンバペがサウジアラビアへ行くことに同意すれば、PSGがケインかオシムヘンのどちらかの獲得に動いても、まったく驚くことではないだろう。アル・ヒラルが払うと言っている記録破りのカネがあれば、たちまちPSGのファイナンシャル・フェアプレー(FFP)がらみの問題は解決し、ナセル・アル=ケライフィ会長は自身が欲しいと思うフォワードと契約することができるようになるのだ。

    現段階で、バイエルン・ミュンヘンのトーマス・トゥヘル監督がオシムヘンを絶賛していることはよく知られているが、移籍市場では比較的慎重だと有名なバイエルンが、デ・ラウレンティス会長が要求するような金額に近いものを支払うとは考えにくい。

    レアル・マドリーやマンチェスター・ユナイテッドも同じだ。フロレンティーノ・ペレス会長はこの夏すでに、ジュード・ベリンガム獲得のために大金を使っており、ペレス会長が本気で狙っているのは、今年であろうと来年であろうと、エンバペと契約することである。たとえ、オシムヘンがカリム・ベンゼマの代わりなどにはとどまらない、素晴らしいフォワードであったとしてもだ。

    マンチェスター・Uについて言えば、オシムヘンはいつかプレミアリーグでプレーしたいと公言しており、得点力とスピードに秀でていて、空中戦も得意なストライカーを求めてやまないチームにとって、オシムヘンはうってつけだろう。スパレッティ前監督はオシムヘンのことを「コンプリート・パッケージ」と呼んでいた。だが、アタランタのラスムス・ホイルンドのような、安価な選手を求めているクラブにとって、法外な価格であることは明らかだ。

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    「ここより良いところはない」

    そんなわけで、現状では、オシムヘンが最低でももう1シーズン、ナポリにいることは間違いないように思われる。結局のところ、本人が出ていきたがっているわけではない。オシムヘンは繰り返しナポリが好きだと語っており、最近も「ここより良いところはない」と言っている。ただし、たとえ彼が出ていきたいと思っていても、デ・ラウレンティス会長は事実上、彼の移籍金額を設定している。少なくとも今のところは。

    多くのことがエンバペ次第なのは確かだ。このフランス代表フォワードが、夏の移籍市場を開放するカギであることは間違いない。ストライカーが次々にチームを変える引き金となる、検査反応を起こす媒体となる可能性は高い。

    だが、もしエンバペが移籍しなかったら、オシムヘンも残留する可能性が高い。デ・ラウレンティス会長が提示した金額を支払えるチームはPSGしかないのが現実であり、その意味では、ナポリのファンは来シーズンもまた、大好きな選手がセリエAを制するシーンを見られるチャンスを手にすることだろう。今回は、胸に三色旗をつけて。