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スランプに陥るマーカス・ラッシュフォード…チームとしてのサポートが不可欠に

ブライトン戦でエリック・テン・ハーグ監督がアントニー・マルシャルをオールド・トラッフォードのピッチに立たせたとき、不協和音のようなブーイングが響き渡った。ブライトン相手に生き生きとプレーしていたラスムス・ホイルンドとの交代に、マンチェスター・ユナイテッドのファンはこのエキサイティングなデンマーク代表をもっと見たいと激怒したのである。

ホイルンドを下げてマルシャルを入れたのは劣勢に立たされていた試合をひっくり返すのとは逆の戦術だと、ファンには思えたのだ。だが、先週土曜のクリスタル・パレス戦でオランダ人監督がマーカス・ラッシュフォードに代えてマルシャルを投入した時には、7万人のホームのサポーターからの抗議はなかった。それがすべてを物語っている。

昨シーズン全公式戦で30得点を記録し、クラブの年間最優秀選手に選ばれた男は、今やゴールを決める確率が最も低い選手と思われるようになってしまった。しかもこれは決して例外的なことではない。今シーズンの大半において、ラッシュフォードの起用が正しいと思われなくなっているのだ。全公式戦9試合で得点はたったの1点にとどまっている。

昨シーズンに復活を遂げたラッシュフォードは2年前、チームを去る方向に向かっていたように思えた時のレベルに戻ってしまったように見える。しかし、ラッシュフォードを下げてマンチェスター・Uの攻撃の左サイドにアレハンドロ・ガルナチョを放つことがどれほど魅力的に見えたとしても、今はマンチェスター・Uとテン・ハーグ監督にとっておぼつかないプレーをしているチームのカリスマを支える時なのである。

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    適切ではないポジションでの起用

    今シーズンのラッシュフォードがスロースタートとなってしまったのには幾つか理由があり、マルシャルと新加入のホイルンドがともに負傷したため、開幕当初センターフォワードとしてプレーしなければならなかった。自分に最も居心地のいいポジションは左ウイングだと公言しているストライカーにとって、最前線にいるというのは孤独を感じることなのだ。

    「左サイドだとリラックスして試合に臨める。子どものころから、サッカーをするときは、いつもそこがよかった」と、『ザ・オーバーラップ』という番組でガリー・ネヴィルに語っている。

    「時々イライラしてしまって、センターフォワードとしてプレーするのは嫌なんだ。ボールに20分も触れられないこともあるし、挙句に最初のタッチが得点チャンスだってこともある。その瞬間に心にスイッチを入れなければならないんだ」

    ラッシュフォードは前線で起用されたウルブス戦とトッテナム戦で役割を果たすことができず、マンチェスター・Uのこの2試合で唯一の得点は、アーロン・ワン=ビサカからのクロスをラファエル・ヴァランが決めたものだった。

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  • Marcus Rashford Man Utd 2023-24Getty

    短かった復活

    ラッシュフォードは今シーズン3試合目のノッティンガム・フォレスト戦でお気に入りのポジションに戻り、それ以降は左サイドでプレーしつづけている。最初のうちは昨シーズンの輝きを取り戻したように見えていた。

    フォレスト戦では大活躍で、マンチェスター・Uの3得点すべてに関係した。クリスティアン・エリクセンの得点をおぜん立てし、見事なパスでカゼミーロの同点ゴールを組み立てた後、PKを勝ち取ってブルーノ・フェルナンデスに決めさせ、3対2の逆転勝利を完結させたのだ。

    ラッシュフォードは次のアーセナル戦でも活躍した。3対1で負けた試合だったが、左ウイングから切りこんでファーポストに向かってシュートを叩きこみ、先制点を決めたのだ。ブライトンに3対1で敗れた時も、ラッシュフォードのプレーはよかった。ただ運がなかっただけだ。ラッシュフォードのシュートはクロスバーに弾かれ、ホイルンドへのパスで同点に追いついたかに見えたゴールは、VARでラッシュフォードのパスがラインをオーバーしていたと判定されてしまった。

    そして、それ以降は特にラッシュフォード個人として、すべてが下降線をたどることとなる。

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    バイエルン戦とバーンリー戦は不調、パレス戦は絶不調

    バイエルン・ミュンヘン戦でラッシュフォードは良いスタートを切り、試合序盤でバイエルンの急ごしらえの右サイドバック、コンラート・ライマーを翻弄した。だが、GKアンドレ・オナナの大きなミスのせいでバイエルンが調子づくと、ラッシュフォードの存在感は急速に薄れていった。

    3日後のバーンリー戦でもほとんど消えていて、マンチェスター・Uはたまたま運よくジョニー・エヴァンズとフェルナンデスのインスピレーションを共有する瞬間が生まれ、1対0で勝ったのであった。ラッシュフォードはプレッシャーを受けてバーンリーの守備を崩すことができず、特にホイルンドやハンニバル・メイブリと比べると、プレスをかける際もやる気がないように見えた。

    パレス戦での無様な負けは、マンチェスター・Uが数多くの明らかなチャンスをものにすることができず、すでにラッシュフォードにとって悪いシーズンになっている今シーズンのどん底だった。試合序盤、左ウイングを駆けまわりながら、パレスのディフェンダーに取り囲まれ続けたり、間違った方向へ行ったりしていた。ある時はサイドライン際で相手を倒し、ペナルティーエリア内にクロスを上げようとしたが、ボールは漫然と宙に打ちあがり、エリアの外へ飛んでいった。結局スコット・マクトミネイに当たってカゼミーロにつながり、気の抜けたシュートが横にそれていったが、ゴールへの理論的な道には見えなかった。

    ガルナチョが投入された後、右からの攻撃にシフトしたが、かえって効果的でなくなり、ほとんどボールが来なくなった。

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    明確なチャンスを作りだせず

    パレス戦の負けの後、ラッシュフォードの苦闘が大きくクローズアップされるようになったが、彼がマンチェスター・U全体の問題の原因というよりは、症状のひとつである。はっきり言って、テン・ハーグ監督のチームは明確なチャンスを十分に作りだせていない。

    マンチェスター・Uは7試合で勝ち点9にとどまり、現在プレミアリーグで10位である。34年間で最悪のスタートだ。得点数は12位で、7試合で7得点である。ゴール期待値は11位で、チェルシーや降格争いをしているエヴァートンよりも下である。

    シュート数はまずまずで、1試合につき15でリーグ6位である。たとえばパレス戦では19だった。だが枠内シュート数は1試合につき4と、12位である(両方ともトッテナムが1位で、マンチェスター・シティとブライトンが続く)。

    昨シーズンは1試合あたりのシュート数が3位で、1試合あたりの枠内シュート数は2位だった。今シーズンは明らかに悪くなっている。しかしながら、最終順位が3位だった昨シーズンでも、マンチェスター・Uの得点数はわずか58だったことを忘れてはいけない。ブレントフォードと同じ7位タイで、他の上位6チームのどのチームよりも少なかったのだ。ゴール期待値は6位だった。

  • Marcus RashfordGetty

    昨シーズンとの違い

    昨シーズンのマンチェスター・Uの得点数の少なさとトータルのゴール期待値の低さを考えると、一昨年が6位だった赤い悪魔が3位だった主な理由はラッシュフォードだったと結論付けたくなる。

    昨シーズンのマンチェスター・Uがリーグ戦で挙げた得点の29%がラッシュフォードで、17点だった。2番手のフェルナンデスよりも9点多く、それぞれ6得点だったマルシャルやジェイドン・サンチョよりも11点多い。

    昨シーズンのマンチェスター・Uがどれほどラッシュフォードに頼っていたか、4位までに入った他のチームと比べてみよう。アーセナルは11得点以上を挙げた選手が4人(ブカヨ・サカとガブリエウ・マルティネッリが15得点ずつで、マルティン・ウーデゴールが14得点)で、ニューカッスルは3人が10得点以上している。マンチェスター・Cはアーリング・ハーランドに大きく頼っており、ハーランドひとりで記録更新の36点を挙げたが、7得点以上の選手が5人いる。

  • Marcus Rashford Man Utd 2023-24Getty

    もっとサポートが必要

    昨シーズンのマンチェスター・Uが強かった理由がラッシュフォードならば、調子を崩した直後にチームから外すのは合点がいかないだろう。チーム全体の質が落ちていることを彼だけのせいにするのは不公平に思える。

    テン・ハーグ監督は、火曜のチャンピオンズリーグのガラタサライ戦を前に、このことをはっきりと述べていた。

    「今まで彼の得点が少ないのは事実だが、彼にはチャンスがあった。例えばブライトン戦がそうだ。絶好の位置でのチャンスが5回か6回はあった」と、監督は言ったのだ。

    「彼がハードワークして、毎日正しいことに集中して努力していれば、そしてチームが彼にボールを供給して助け、動いて彼をサポートしていれば結果は出るだろう。マーカス・ラッシュフォードは全試合で得点できる選手だ。良い位置に入っていければ彼は得点できる」

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    ガルナチョはインパクトのある控えのまま

    ラッシュフォードを信頼するもうひとつの理由は、代わりがいないことである。夏に2億ポンド(約360億円)近い金額を使ったにもかかわらず、マンチェスター・Uはサイドで使えるフォワードと契約することができず、サンチョがテン・ハーグ監督と対立しているために代わりとなる選手の数が減ってさえいるのだ。

    今のところ代わりになれそうな選手はガルナチョだけだ。土曜に途中出場して活躍して以来、ガルナチョが先発に選ばれる可能性は高まっている。しかしながら、上位との対戦でレギュラーとして先発できるようになるには、まだ鍛錬が必要だろう。

    カラバオカップのパレス戦で最高のプレーを見せたが、相手はかなり弱っているチームだったし、先発したウルブス戦やトッテナム戦では守備の時のサポートがほとんどなく、ガルナチョのサイドは空っぽだった。

  • Marcus RashfordGetty

    エースのサポートを

    ラッシュフォードにはシュート精度と意思決定力の改善が必要だが、それでも相手にとって存在自体は脅威となる。ボールをネットに叩きこみ、ホイルンドとかみ合うようになるのも時間の問題だろう。

    彼がそうなるための方法は、もっとチャンスを与えて、元の自分を取り戻させることである。調子を落としたのは自信と気力をひどく失ったからだ。

    好調時のラッシュフォードはマンチェスター・Uで最高の選手だ。彼自身はもちろん、テン・ハーグ監督とチームも最高のを引き出す手助けを継続していくべきだ。