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ジュード? マクアリスター&ショボスライの契約がリヴァプールファンにベリンガムを忘れさせる

リヴァプールのユルゲン・クロップ監督は、クラブがジュード・ベリンガムとの契約争いから手を引いたことが判明した後の最初の記者会見で何を質問されるか正確にわかっていた。クロップ監督は4月に以下のように話している。

「あなたたちはここにいる私にこう聞きたいのだろう。これができない、あれができないと言われて、私がオーナー(フェンウェイ・スポーツ・グループ)に腹を立てているかどうかって。いいや、私は腹など立てていない。怒ってなどいない」

「私はいつだって、クラブがしていることすべてに同意しているわけではない。だが、私は雇われの身だ。仕事がうまくいっているかいないかについて、ここで怒りを表したりはしない。これまでにクラブがしてきたように、これからもクラブはしていくだろう。そういうものだ」

だが、クロップ監督が怒っていなくてもファンは激怒していた。リヴァプールの元ディフェンダー、ジェームズ・キャラガーは、多くのスカウスと呼ばれる同郷人たちを代弁してこう言ったのだ。

「1年間やりとりをつづけてきた挙句に追い払われて、マンチェスター・シティとレアル・マドリーの取り合いを許すなんて、臆病な敗残者の気分だ」

「リヴァプールとユルゲン・クロップ監督はヨーロッパ中がうらやましがる移籍に関して一定レベルの信頼を築いていた」と、キャラガーはザ・テレグラフに投稿している。

「その信頼は、この夏ジュード・ベリンガムとの契約を追い求めないというニュースとともに消え去った。すべてがベリンガムを待つ方向に向いていたのに、スティーヴン・ジェラードの再来がアンフィールドに来るというサポーターの夢が砕かれたのだ」

キャラガーはこうも言った。

「リヴァプールというクラブの力を誇示して、ライバルたちにピッチの外でも中でも自分たちは戦えるし、戦うつもりであることを示す必要のあるときがある。今、チーム全体が力を失い、怠け者で、無様な計画しかなくて、やらなければならないことがありすぎて、身を引くしかないのか」

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    ベリンガムを待って無駄にしたシーズン

    実際、フェンウェイ・スポーツ・グループ(FSG)が財政的な理由でベリンガム獲得を断念したと発表したとき、サポーターたちが本当は何に怒ったかといえば、それはFSGが移籍市場で最も人気だったこのミッドフィルダーを獲得するのにボルシア・ドルトムントが1億ポンド(約180億円)を超える金額を要求するだろうことを、つい最近知ったかのように言ったことである。

    結果として、彼らが「完璧な」契約を求めてきたことは完全な時間の無駄づかいだったように思われた。本当は昨夏のリーグ開幕前にベリンガムを加入させておかなければならなかったのだ。そうすれば、クロップ監督の機関室が、必然的だが突然に燃料不足に陥るようなことはなかったはずなのに。

    リヴァプールはオーレリアン チュアメニと契約しようとしたが、結局アルトゥールが加入することとなった。その代償は当然のことながら大きかった。前のシーズンでは4冠達成まであと2試合のところまで迫っていたのに、プレミアリーグのトップ4にも入れなかったのである。つまり、レッズは2016年以来初めてチャンピオンズリーグ出場を逃したのだ。

    それゆえ、リヴァプールが今年の夏、最も獲得を希望する選手たちのうちの誰かの獲得に失敗するということはファンにとって当然の恐怖だった。

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    この夏これまでに交わした契約

    しかしながら、移籍市場が始まってから3週間足らずでリヴァプールはすでに2人の素晴らしい選手を獲得し、中盤の有意義な強化を達成している。それも、レアル・マドリーがベリンガムのために支払った金額とおおむね同じ額を使って。

    この夏、これまでにアレクシス・マクアリスターをたった3,500万ポンド(約63億円)で獲得した。このアルゼンチン代表選手は昨シーズンのプレミアリーグの最優秀選手のひとりで、クラブ史上初めてチャンピオンズリーグ出場権を獲得した、驚嘆すべきブライトンというチームで大車輪の活躍を見せ、最多得点選手(10ゴール)となった。

    さらに印象深いことに、彼は母国のワールドカップ勝利にも中心的な役割を果たした。マクアリスターは大会初戦にアルゼンチンがサウジアラビアに2-1でまさかの敗戦を喫した試合ではベンチに座りつづけてきたが、その後すべての試合で先発し、グルーブステージ突破には勝つしかなかったポーランド戦で貴重な先制点を挙げた。さらに、フランスとの決勝戦ではアンヘル・ディ・マリアの得点のアシストを決めている。

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    「メッシがマクアリスターを捜していた」

    カタールでの活躍でわかるように、マクアリスターは24歳という年齢ながらサッカーのほとんどすべてを理解しており、さまざまな役割を果たすことができる。「彼をワールドカップで見ることができたのは、特別なことだった」と、ブライトンの攻撃的ミッドフィルダーでリヴァプールの人気選手だったアダム・ララーナは、1月にザ・ビッグ・インタビューのポッドキャストで語っている。

    「最初の試合はプレーできなかったが、その後に実力を証明してみせた。彼は素晴らしいプレーをした。彼を起用しないなんてありえない!」

    「だから最後には(リオネル・)メッシが彼を捜すようになった。メッシが彼と連携し、プレーしたいと思ったんだ! アレクシスの役割はメッシを鏡に映したようにほとんど正反対のものだった。メッシが深いところにいるときはアレクシスが高いポジションを取る。メッシが高いときはアレクシスが下がる。アレクシスがどれほどサッカーを理解しているか、その賢さを証明するものだ。そう、彼は最速でも最強でもないが、頭がいい。(ルカ・)モドリッチのようだ。サッカーは誰よりも速いこと、何よりも速いことが大事であることを知っている」

    そして、新たに契約したハンガリー代表MFドミニク・ショボスライも非常に貴重なマルチな才能をもつミッドフィルダーであり、その意味で2人はよく似た選手である。

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    「ハーランドと同じくらいの才能の持ち主」

    レッドブル・ザルツブルクとRBライプツィヒでショボスライの元上司だったジェシー・マーシュによると、「才能でいうと、あのポジションで彼よりうまくプレーできる選手は多くない。強い選手、テクニックのある選手、戦術眼の秀でた選手、守備がうまい選手、たくさん走れる選手はいるだろう。だが、ドミニクはこれらすべてのスキルを兼ね備えた特別な選手だ。ドミニクはアーリング・ハーランドと同じくらいの才能の持ち主だ」という。

    クロップ監督は明らかにこんな大胆な物言いは避けようとしているが、それは完全に理解できる。リヴァプールはショボスライ獲得のために6,000万ポンド(約110億円)を支払ったようだが、彼はまだ22歳。レッズが最後にライプツィヒから獲得したミッドフィルダーであるナビ・ケイタは、間違いなくクラブ史上最も失望した契約の一つとしてアンフィールドを去ったばかりである。

    ケイタはすべてのことができる選手であり、リヴァプールにうってつけの選手だと思われていた。ところが、まったく何もすることなくチームを去った。

    だから、クロップ監督が慎重だったのも驚くべきことではない。「プレッシャーはない」と、クロップ監督は強調した。

    「ドミニクはまだとても若い。これからどんどん成長するし、その意味では我々は辛抱強く、時間を与えて彼の才能が我々のチームの中で花開くようにすることが必要だ」

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    個性も素晴らしいショボスライ

    ショボスライは、ここ数年ハンガリーが輩出した最もエキサイティングな才能の持ち主だというプレッシャーにうまく対処している。すでに母国代表のキャプテンを務め、母国をユーロ2020出場に導く得点を決めているのだ。

    「これはまったく素晴らしいことで、我々がサッカー選手としての彼の才能について考えるようになるずっと前からそうだったのだ」と、クロップ監督は話す。

    「このステージでそれについて多くを語る気はないが、うまくいけば彼らは多くの楽しみをもたらしてくれるに違いないし、我々によい結果をもたらしてくれるだろう」

    実際にショボスライは足が速く、ハードワークをするセットプレーのスペシャリストだ。長距離シュートでも有名でシーズンが終わるまでには間違いなくファンのお気に入りになるだろう。

    もちろん、今期待することはリヴァプールがシーズン開幕前にもっと守備の意識の強い選手を加入させて新たな中盤を完成させることだ。

    ニースのケフラン・テュラムは何度もアンフィールドへの移籍が取りざたされているが、このフランス代表へのリヴァプールの関心は冷めはじめていると言われている。

    このところ、サウサンプトンの10代のロメオ・ラヴィアの移籍の噂も出てきている。だが、報道されている5,000万ポンド(約91億円)という提示価格は高すぎるだろう。

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    クロップ監督が持ちつづける信念

    さらに、昨年頭角を現した選手のひとりであるステファン・バイチェティッチも、来るシーズンには最初からチームにフィットすることが期待されている。つまり、リヴァプールは理論上、守備的ミッドフィルダーとして豊富なストックがあるわけで、いずれにしてもファビーニョがファーストチョイスでありつづける可能性が高い。

    ジョーダン・ヘンダーソンとチアゴ・アルカンタラは、2人ともこの夏サウジアラビアへ行くことが取りざたされており、もしどちらかひとりが出ていけば、リヴァプールはその資金を再投資することができるだろう。だが、その場合はバックラインのカバーの獲得に使われる可能性が高い。

    何カ月も不安の中にいたサポーターたちは、今やチャンスがあるならレッズの移籍担当チームがそれをフル活用するだろうと感じているだろう。マージーサイドでは諦めが楽観主義へと変わり、リヴァプールはたった3年前に「すべてのチャンピオン」となるのに役立った、ある種の信念とスピードをもって移籍市場を走りまわっている。

    ヨルク・シュマトケがスポーツ・ディレクターに就任したのが5月末だったということに不安を感じるファンもいただろう。夏の移籍市場に間に合うのか、明らかなリスクがあったのだ。だが、レッズは全力疾走しており、うまくいっている。

    昨シーズン明確になったことはベリンガムが来てもリヴァプールの問題のすべてが解決されるわけではないということだ。ひとりのスーパースターとの契約に予算のほとんどを使うことは、マンチェスター・シティや多くのライバルと同じような財政計画で動くことがかなわないクラブにとって賢い選択ではない。

    クロップ監督は信念として常にこう言っている。

    「外には多くの素晴らしい選手がいる。本当に多くの素晴らしい選手が。我々はすべての素晴らしい選手たちに注目している。その何人かは最終的にはここへ来るだろう」

    そのうちの2人はもう来ている。もうひとりもきっと来るだろう。

    その意味ではリヴァプールはただチームを強化しただけではない。ファンの信頼を取り戻してもいる。ベリンガムが来ないことは大きな痛手だったかもしれない。だが、レッズは予想される誰よりも早く復活しつつあるのだ。