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ルイス・ルビアレス会長時代は終焉へ…サッカー界の「ウルフ・オブ・ウォールストリート」は不条理のすべてを具現化

先週金曜の午後、スペインサッカー連盟の(本物の)臨時理事会にルイス・ルビアレス会長が登場する、まさにその瞬間まで全世界のサッカー関係者は彼が会長を辞任すると予想していた。そのほんの5日前の女子サッカーワールドカップ決勝の最中とその後におけるルビアレス会長の行動は恥ずべきもので、大いに困惑させるものだった。その始まりは、スペインが先制点をあげた後、自身の股間をつかんで、究極に毒々しい男性性を見せつけたことだった。

それはスタジアムのどこでやろうと、まったくみっともない行動であったのだが、とりわけ彼がいたのは貴賓席。スペイン王妃の隣であったというのだから、無礼千万でしかなかった。だが、さらに悪いことにルビアレス会長は、スペイン女子代表が優勝メダルを授与されている間に、キャプテンのジェニファー・エルモソに熱烈なキスをしたのである。

30分ほどの間に、ルビアレス会長はせっかくのスペイン女子サッカー史上最大の勝利を自身のせいで台無しにしてしまったのだ。事実上、彼は選手たちにとって最も輝かしい瞬間を盗んだと言っていい。というのも、あらゆるニュース媒体が、あっという間に、かつ必然的かつ正確に、ルビアレス会長のあさましい行動に占拠されてしまったのである。

大会前のスペイン女子代表は、ホルヘ・ビルダ監督の選手たちに対する厳しい扱いに対する抵抗のことばかりが取りざたされていたが、大会後はそんなことすらRFEF会長の卑猥な行為によって影が薄くなってしまった。まったく、スポーツ界の悲劇である。

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    ルビアレス会長の二重の過ち

    金曜、ルビアレス会長には正しいことを行うチャンスがあった。メディアの騒ぎを鎮め、国中を新しいスポーツのヒロインを祝うムードに戻すことができたはずだったのだ。だが、彼は辞任しなかった。それどころか謝罪もしなかった。二重に過ちを犯したのである。

    ルビアレス会長はまさに、「ウルフ・オブ・ウォールストリート」そのものだった(一個人が「ウルフ・オブ・ウォールストリート」そのものとは!)。事実、ルビアレス会長はジョーダン・ベルフォートの有名な「社長をやめない」スピーチに非常に傾倒するあまり、何度も何度も「私はやめない」を繰り返した。その言葉は、ただ頑固で、視野の狭い言葉として受けとめられた。

    ルビアレス会長は、あのキスを「触れただけ」と言い、「合意の上だった」と述べて、自身の行動を批判するのは「エセフェミニスト」たちだと言い捨てた。そういう連中は現代社会における「害毒」だと言うのである。

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  • Jenni hermoso, Luis Rubiales GFXGoal / Getty / The Sun

    「一言でいえば、私は尊敬されていなかった」

    彼の発言と態度はショッキングなものだった。それらは「不適切」を具現化する、この新たなイメージキャラクターに奇妙かつ完全にふさわしいと思われたのであった。

    エルモソ自身も金曜に声明を発表し、「私は不運な事故だというルビアレス会長の説明はまったくのでたらめで、彼自身が作りあげた言葉のすり替え文化の一部であると言わなければならないと思っています。あのキスは決して、合意のうえのものではありません。プレッシャーを減らすため、共同声明を出そうと言われましたが、私の頭にあったのは、ただ歴史的快挙を楽しみたいということだけでした。私の気持ちとは異なり、ルビアレス会長の行動を正当化するための声明を出せというプレッシャーに、私はさいなまれつづけています」

    「どんな仕事、スポーツ、または社会的環境にいる人物も、こうした同意なき行動の犠牲者にしてはなりません。私は弱い人間であり、衝動にかられた性差別主義者の、場をわきまえない、私の同意などない行動の犠牲者です。一言でいえば、私は尊敬されていなかったのです」

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    歩く死に体

    ルビアレス会長は自身の汚名を晴らすために喜んで裁判所に行くと言っているが、今や歩く死に体である。すでにFIFAが事態解決に乗りだし、彼に60日の猶予を与えている一方、スペイン政府の高官の中にはルビアレス会長はみずから退くべきだという立場を明らかにしている人たちもいる。つまり、彼の解任はもはや避けられなくなっているのだ。

    そもそも、スペインにはもはや女子のチームはない。ワールドカップ優勝チームの全員とその他の58名の選手たちが、すでにルビアレス会長が連盟のトップに残るなら、二度と代表としてプレーしないと公言している。コーチングスタッフも、ビルダ監督を除いて一人残らず辞任した。そのビルダ監督ですら、会長を批判する声明を出しており、ルビアレス会長の地位がどれほど脆弱なものになったかを完璧に強調するものとなっている。

    スペインは2030年の男子ワールドカップの共催を希望しているということもあり、政治家たちは今やルビアレス会長がRFEFの責任者でありつづければ、成功のチャンスはないことに気づいている。オウンゴールの王様ジャンニ・インファンティーノですら、女子サッカーをつかさどることにおける、不当なすべてを象徴することとなった男と何かを一緒にやりたいとは思わないだろう。

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    組織を全面改修するチャンス

    だが、実のところルビアレス会長だけが連盟を離れるべき人物ではない。ビルダ監督を含め、会長に賛同する者は一人残らず出ていく必要がある。というのも、RFEFはFUTPRO(スペイン女子サッカー選手会、エルモソを支持する声明を発表した)に対して法的手続きをとると脅し、UEFAに対して政府介入の可能性があると、ヨーロッパの大会にクラブを出さないよう求めてもいる。こうした動きは不合理であり、ルビアレス会長への恐ろしいほど見当違いな忠誠心という驚くほど根深い性質を痛感させるものだ。

    しかし、この悲劇にはポジティブな面もある。サッカー界全体はほぼ、ルビアレス会長とRFEFに反対しているのだ。ボルハ・イグレシアスも、あきれた風でスペイン代表辞退を表明し、週末にラ・リーガのカディスとセビージャは女子代表支持の声明を発表した。カディスは「我々はジェニーを全面的に支持する」との横断幕を掲げ、セビージャは、エルモソのチームメイト、アレクシア・プテジャスが始めたハッシュタグ「It’s over(終わりだ)」が書かれたTシャツを作った。

    さらにバルセロナの男子チームのチャビ監督が、ルビアレス会長の行動を「まったく認められない」と評し、その結果、恐ろしいことに「ワールドカップ優勝という歴史的快挙」について話ができなくなってしまったと嘆いた。元レアル・マドリードでスペイン代表キャプテンだったイケル・カシージャスも、同じ気持ちだと言っている。

    「あなたのことが恥ずかしい」と、ゴールキーパーのカリスマはルビアレス会長に向かってツイートした。「この5日間、我らは女子チームの栄光を語りつくせるはずだったのに! 彼女たちは、我々みんなに喜びをくれた! 女子サッカー初の優勝を誇れるはずだったのだ」

  • Luis Rubiales Jennifer Hermoso SpainGetty/GOAL

    ルビアレス会長のキャリアは終わった

    ルビアレス会長の恥ずべき臆病な辞任拒否は、本質的に、全世界にRFEFの欠点を意図せぬ形で暴露することとなり、スペインのサッカーに棚ざらいして組織を全面改修する思いがけないチャンスをもたらした。

    もちろん、ルビアレス会長とその取り巻きたちは戦わずして負けを認めることはしないだろう。そのことは金曜に判明した。会長は厚かましくも今回のすべてにおいて自分は被害者だと言い張り、「社会的暗殺が行われている。私は殺されようとしている」と言った。このため、彼の母親は今回のことを魔女狩りだと認識し、ハンガーストライキをつづけている。

    しかし、実際に今回のことの犠牲者はただひとり、エルモソだけだ。そして、ルビアレス会長の評判――および間違いなく彼のキャリアーーを抹殺した唯一の責任者は彼自身である。彼は立ち去ることができたはずだったのに、ふんぞり返って歩きつづけ、さらなるトラブルに足を踏み入れたのだ。

    事ここに至って、ルビアレス会長には「ウルフ・オブ・ウォールストリート」でFBI捜査官のパトリック・デナムが、最後にジョーダン・ベルフォートに言った「ちょっとした法律的アドバイス」に従うよう、アドバイスできるかもしれない。遅ればせながら「く***れを黙らせる」ことに同意することによって。

    ベルフォートはこの言葉を完全に無視した。おそらくルビアレス会長もそうだろう。だが、彼と彼の仲間たちは本当に終わっている――彼らが認めたいか認めたくないかにかかわらず。