Leicester City relegation GFXGOAL

チャンピオンからチャンピオンシップ(イングランド2部)へ? レスター・シティの降格迫る

5月8日(月)、フラムFCの本拠地クレイヴン・コテージで前半終了の笛が吹かれたとき、アウェイスタンドにブーイングの嵐が吹き荒れた。レスターから遠征してきたファンは、自分たちのチームがフラムに3得点もプレゼントする一方、反対のペナルティーエリアには入りこむことすらできない事態を見せられたのだ。この試合は、悲惨なシーズンのターニングポイントになるはずだった。ところが、またしても降格の危機に瀕するフォックスの寿命を縮める試合となってしまったのだ。

ほぼ7年前、同じサポーターたちはホームのキング・パワー・スタジアムですし詰め状態になりながら、プレミアリーグのトロフィー授与の完璧な前奏曲として、世界的に有名なイタリアのテノール歌手、アンドレア・ボチェッリの「誰も寝てはならぬ」の歌声を聴いていた。もう少し最近の話としても、レスターのファンたちは、チャンピオンズリーグの準々決勝や、欧州リーグの常連としての試合、ウェンブリー・スタジアムでのFAカップ決勝の勝利を楽しんでいたものだった。

それが今や、リーグ戦残り3試合で奇跡的な連勝でも起こらないかぎり、レスターは、スペインのワンダ・メトロポリターノでの夜の試合ではなく、トーントン・ディーンでちょっと寄り道をしてからプリマス・アーガイルへ行くことになりそうなのだ。

レスターの凋落は目覚ましかった。去年の夏も長く望まれているチームの立て直しが実現しなかったことで、今シーズンも優勝争いをするとは期待されていなかったものの、シーズン末にここまでぼろぼろになるとは誰も予想していなかった。いったいなぜ、こんなことになってしまったのか。

  • Jannik Vestergaard Leicester 2022-23Getty Images

    選手獲得に失敗

    近年のレスターの成功は、ヨーロッパ最高のコストパフォーマンスでのチーム経営によるものであった。たった3,000万ポンド(約51億円)で主要タイトルを11個も獲得しているのだ。エンゴロ・カンテ、ジェイミー・ヴァーディ、リヤド・マフレズといった選手たちが関わっていることを考えると、驚くべき効率である。

    こうした成功をけん引した首謀者はスカウト担当のスティーヴ・ウォルシュで、彼が2016年にエヴァートンへ行ってしまったとき、フォックスは彼の賢明な移籍政策を続けられないのではないかと心配されていた。だが、ウォルシュがいなくなっても、レスターは素晴らしい契約を交わしつづけていた。

    2018年にはハリー・マグワイアを7,000万ポンド(約120億円)ほどの儲けで移籍させ、ユーリ・ティーレマンス、ジェイムズ・マディソン、リカルド・ペレイラといった選手たちも市場価値を大きく下回る額で獲得した。

    だが、最近ではこうした移籍市場での成功を認めることが難しくなっている。2021年夏の移籍市場は、特に散々なものとなった。パトソン・ダカ、ブバカリ・スマレ、ヤニク・ヴェスターゴーア、ライアン・バートランドが加入したが、それぞれが救い難い失敗であった。

    今シーズンの移籍も同じように酷いものだった。夏と冬にヴァウト・ファースとハリー・スーターが加入したが、いずれも守備の穴を埋めるような働きはしていない。一方で、若きフルバックのヴィクトル・クリスティアンセンは、プレミアリーグでデビューできるような状態からは100万マイル(約160キロ)も遠く、気分屋のテテはごくたまにしか才能を発揮しない。

    世界で最も競争の激しいリーグにいながら、移籍市場で2、3の慎ましい成果しかあげられないのでは順位は下がる一方であり、それこそがレスターで起きていることなのだ。

  • 広告
  • Jon Rudkin Leicester chairman Getty Images

    経済的な問題

    選手獲得がうまくいかない背景には、キング・パワー・スタジアムの経済的な問題がある。使える金額が減っている理由は複数ある。第一に、レスターのスポンサーはタイに本拠地を置く免税店経営会社であり、新型コロナウィルスの世界的流行で空港が閉鎖されるという難しい時期を耐えてきたことは理解できる。

    予算が自然にインフレしていくという問題もある。プレミアリーグに長く在籍すればするほど、選手たちの契約額を増やしていくことが避けられなくなり、毎シーズンを5位で終了するとなると、選手たちに成功報酬を払わないといけなくなる。

    だが、一番の問題は、最新式のトレーニング施設の建設計画にある。報道によると、レスターは1億ポンド(約170億円)もの大金を使って、ゴルフコースまで備えた新しいホームスタジアムを建設するという。

    その結果、フォックスは3月に9,250万ポンド(約160億円)もの記録的な赤字を公表した。この数字にはウェズレイ・フォファナの7,500万ポンド(約130億円)の移籍金は含まれていないが、それでも長年チームの大改造をサポーターに約束してきたレスターが、夏にたった2人の選手としか契約しなかった理由を理解させるものである。

  • Jonny Evans Leicester 2022-23Getty Images

    多すぎる優遇

    レスターの経済破綻の一端には自業自得の面もある。ブレンダン・ロジャーズ前監督が指揮を執っていた間、契約での失策が複数あった。明らかに下り坂にいる選手たちに、報酬の増加が含まれていたであろう契約延長を提示してしまったのだ。

    ジョニー・エヴァンズは2020年12月に2年半の契約を提示されたが、その後はプレーできる時間よりも負傷している時間の方が多くなっている。同じく高額契約選手であるバートランドも、2シーズンでたった12試合しか出場できていない。移籍の失敗であるヴェスターゴーアは長期契約のうちの1年がまだ残っている。

    過去2シーズンが選手としてのピークだったティーレマンスの放出失敗も失策のひとつだ。2021年のFAカップ決勝で信じられないようなゴールを決めて以来、彼のパフォーマンスは大きく低下しつづけている。

    ティーレマンスはクラブのレジェンドとしてチームを去るべきだったのだ。だがティーレマンスは残留し、夏が来るたびにレスターが売りに出そうとする注目選手で居続ける長期記録を更新し続けている。フォックスに充分尽くしてきた選手だが、2022-23シーズンには、最終的にフリーで移籍できるようになる夏を待って居座っているのだという印象を何度も与えてしまっている。

  • Daniel Iversen Danny Ward Leicester splitGetty Images

    新しいゴールキーパーが必要

    昨年の夏、カスパー・シュマイケルがニースに移籍したとき、代わりの選手を獲得しないというレスターの決定は、やはり当時から奇妙に思えたものだった。振り返ってみるに、奇妙どころではなかった。完全に愚かなことだ。

    今シーズン前半のフォックスを見ると、GKダニー・ウォードがバックラインをまったくコントロールできていなかったことは火を見るよりも明らかだった。コミュニケーションの混乱は常態化し、シュートストップも最悪とまでは言わなくとも、もう少しやりようがあるだろうと思わせることが多かった。

    今シーズン、このウェールズ代表選手がシュートを打たれた後、得点されそうだと思われた数から実際に得点を決められた数を引いた数字(シュートストップに関する最も信頼できる数値として広く受け入れられている指標)は、わずか「-5.5」だった。これを書いている時点で、これ以上に悪いゴールキーパーは4人しかいない。

    シーズン終了間近になって加入してきたダニエル・イヴェルセンは多少ましではあるが、プレミアリーグの平均には届いていない。先日のフラム戦でのミスはひどいもので、レスターの最近の歴史にみじめな1日を刻んでしまった。サッカー界のトップリーグでレギュラーを張るだけの精神力を持ち合わせていないことを示してしまったのである。

    フォックスは、夏の移籍期間を十分に使ってシュマイケルの代わりを探すことができたのに、ウォードを信頼してしまった。今シーズン、誰を起用し、誰を控えにするのかを決める余裕がほとんどなかったことを考えると、致命的なミスだったと言わざるをえない。

  • Victor Kristiansen Getty Images

    底なしのザルディフェンス

    今シーズンのレスターに欠けているものはゴールキーパーだけではない。ディフェンス全般もプレミアリーグ最悪の状態だ。これには個人能力の問題も関係している。

    フォックスの選手たちが精神的なプレッシャーに弱いことは長年の問題である。過去2シーズンで失点につながった8つのミスと、衝撃的なペナルティの数が示す通りだ。今シーズンは個人のパフォーマンスも良くない。ファースは開幕当初こそ良かったもののそれ以降は安定感を欠き、レスターの他のディフェンダーもほぼ全員がしばしばコンディション不良に陥っていた。

    だが、ロジャーズ前監督も批判を受け入れるべき監督だった。昨シーズン、レスターはセットプレーから20点も失点したが、今シーズンもほとんど改善しておらず、サポーターたちは今もなお、レフェリーがコーナーフラッグを指さすと全員で息を殺して見守ることとなる。ロジャーズ前監督は解任されるまでこの事態の改善に失敗し続け、問題は雪だるま式に大きくなり、コーチングまでおかしくなっていった。サッカーにおいてセットプレーはまれにみる「コントロール可能な」瞬間のひとつであるというのに。

    移籍に対する寛大さも現実的な問題である。ウィルフレッド・エンディディはかつて、タコのように自在に脚を動かしてバックラインを隅から隅までカバーし、息をのむようなカウンターアタックの王様だった。ところが、ここ2年間ばかりでエンディディが起用されることは少なくなり、もはや確実な先発メンバーではなくなった。彼が出場しなくなって以来、他の選手は誰もディフェンスの穴を埋めることができていない。

  • James Justin Leicester 2022-23Getty Images

    ケガ

    レスターの守備陣からは過去2シーズン、チームの運動量を奪うようなケガ人が何人も出ている。今更考えても仕方ないかもしれないが、ペレイラはかつてヨーロッパ最高の右サイドバックのひとりだった。新型コロナウィルスの世界的流行前に前十字靭帯を負傷し、全盛期を奪われた。ベストの状態に近いところまで戻れそうになっていたところでアキレス腱を切ってしまい、今シーズンのフォックスではまたしても主役の座に戻ることができないでいる。

    ジェイムズ・ジャスティンにも同じようなことが起こった。ジャスティンはペレイラの最初のケガを受けてその代わりを見事に果たし、ユーロ2020のイングランド代表に選ばれるはずだったのに、2021年2月に前十字靭帯を損傷してしまった。復帰しようとしたところでアキレス腱を痛めてしまい、不気味なほどチームメイトと同じ轍を踏今シーズンの大半を棒に振った。

    こうした問題はフォワードにも広がった。ケレチ・イヘアナチョはレスターの試合に起用されたりされなかったりしながらも素晴らしい活躍を見せ、残留争いにおいて大きな原動力となるはずだった。だが、リーズ・ユナイテッド戦のヴァーディのゴールをお膳立てした際、そ径部を負傷したことで、シーズン残りの試合に出場できるかは非常に疑わしくなってしまった。

  • Youri Tielemans Leicester 2022-23Getty Images

    選手たちは気にしているのか?

    レスターのファンを最も傷つけているのが、このトピックである。フォックスを信じるファンたちの中に、今のチームはプレミアリーグに残留できるほど懸命に戦っていないのではないかという疑念が強くなってきている。スタジアムに行くファンの数は減ってはいない。だが、スタジアムの雰囲気は良くない。

    クレイヴン・コテージでのブーイングも、ファンにとって初めての不満表明ではない。今シーズン、ホームスタジアムで何度も選手たちへ罵声が浴びせられた。勝利への貪欲さが欠けていることは、MFマディソンがほのめかしたことでさえある。フラムに負けた後、マディソンは「試合に勝ちたいというハングリー精神が充分ではない」と言ったのだ。

    このコメントの後、疑問をもったサポーターたちは「どうしてそんなことに?! 」と問いかけた。あの試合はまさに、今シーズンのレスターの運命を左右する試合だった。それなのにモチベーションが低かったら、降格を逃れるチャンスなどつかめるはずがない。

    試合後、マディソンはSNSで自身の発言の真意を伝えようとしたが、フォックスの選手たちの中に残留争いをするライバルたちほどのモチベーションをもっていない選手がいるという批判は、いくらか真実であるに違いない。たとえ来シーズンもプレミアリーグに残留できたとしても、マディソンはきっと移籍するに違いなく、移籍先はニューカッスルである可能性が最も高い。

    前述のティーレマンスもレスターを去る可能性が高く、チャーラル・ソユンジュもアトレティコ・マドリーに行きそうだ。契約満了となるダニエル・アマーティが新たな契約を交わすとは思えず、ハーヴィー・バーンズ、ファース、スマレといった選手たちは、レスターが降格すれば引く手あまただろう。そういう選手たちは他にも何人かいる。

    これほど多くの選手が出ていくつもりなら、お互いのために壁を乗り越えようとしないことは理解できる。このままでは降格間違いなしだ。もっと早く、ピッチ内外で選手たちをうまくコントロールしなければならなかった。

  • James Maddison Leicester 2022-23 on floorGetty Images

    「俺たちは大丈夫」

    シーズン中ずっと、キング・パワー・スタジアムから超然とした傲慢さが感じられるとの意見もあった。プレミアリーグの元チャンピオンにして、FAカップでも優勝、チャンピオンズリーグ出場を争ったこともあるレスターは、確かに「降格するにはもったいなさすぎる」チームである。

    マディソン自身、3月に尊敬されている地元記者ロブ・タナーのツイートを引用した際、そんな気持ちを表していたようだ。サウサンプトン相手に0-1でみじめにも負けた後、タナーは「すべての要素」がレスターの降格を示していると発言した。

    マディソンは速攻で返答している。「ばからしい。試合をちゃんと見て分析すれば、ファンをネガティブにさせるあんな文章は書けないはずだ。ああいうふうにプレーしていけば俺たちは絶対に大丈夫だ。素晴らしいチャンスをたくさん作って、次の試合には楽々勝てる」

    このツイートの後、レスターは獲得可能性があった勝ち点30のうち「6」しか取っていない。チームがあの日負けたのは不運だっただけで、ある特定の部分を分析して期待を持たせるマディソンのやり方は正しいかもしれない。別の見方をすれば、彼の現状に対する緩い反応は、惨憺たる現状を生み出すことになる両極端な感情を反映しているのかもしれないが。

    レスターは、ロジャーズ前監督を解任するのに時間をかけすぎた。もっと早く動いていれば、順位表で転がり落ちるのを止めることができたかもしれない。だが、ディーン・スミス暫定監督もまた、記者会見にリラックスして臨んでいた。

    実際、レスターの苦境の大きさをようやくスミス暫定監督が認識したのは、フラムに負けた後だったようだ。彼はこう言っている。「確かに、今日の前半は非常に不安だった。後半は良くなった。ここの選手たちにそれ(闘争心のなさ)を見たのは、あれが初めてだ。もう2度と見なくて済むと思いたい。きっとそうなるだろう」

    レスターのファンもそう希望している。そうでなければ、ボチェッリが「誰も寝てはならぬ」を歌ってから10年も経たないうちに、2部リーグに戻ることになってしまうのだ。