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エンバペの復帰がPSGにもたらすもの。欧州で真に戦える新チームへ

キリアン・エンバペはこれまで、パリ・サンジェルマンで本当に成し遂げたいことについて特別にコメントしてこなかった。チャンピオンズリーグで成功したい、もっと一般的に生まれ故郷のクラブに勝利をもたらしたいというのが曖昧な決まり文句だったのだ。しかし、チャンピオンズリーグの優勝トロフィーについて言えば、母国にそれをもたらすことは悲願であるものの、実際にはエンバペは多くを語っていない。

事実エンバペは、この件についての質問をかわしつづけており、直近ではこう言っている。

「PSGがチャンピオンズリーグで優勝するのに何が必要か、僕にはわからない。僕にきかないでほしい。チームを作る人たち、チームを組織する人たち、このクラブを構築する人たちに質問すべきだ。僕はただ、やるべきことにベストを尽くすだけだ」

PSGはここ10年、チームの構築に失敗し、重すぎる期待と特には運の悪さのせいでチャンピオンズリーグから敗退しつづけている。

だが今後、事態が変わるかもしれないと信じるに足る理由がある。PSGはヨーロッパの頂点に立てるかもしれない。ここ数年でライバルたちが弱くなったように見受けられるが、サッカー史上最高のストライカーのひとりが左サイドでプレーするシステムを構築し、より良いチームになったように見えるのである。

  • 20230814_Mbappe(C)Getty images

    完璧ではない選手

    PSGがチャンピオンズリーグで勝てないのは、エンバペひとりの責任ではない。もちろん、試合の振り返り方次第ではあるが、究極の目的が優勝であることを念頭に置くならば、エンバペは自分の役割を果たしてきている。わずか24歳でチャンピオンズリーグの61試合に出場し、40ゴールをあげているのだ。このペースで、またはこれ以上のペースで得点を重ねるなら、クリスティアーノ・ロナウドを抜いて大会の歴代最多得点王になるだろう。これらのゴールのうちの15得点は決勝トーナメントに進んでからのもので、エンバペがプレッシャーに弱いという批判は見当違いもいいところである(ワールドカップの決勝でハットトリックを達成したことも、こんな批判を払しょくするものだ)。

    だが、サッカーは2つのチームが争うスポーツであり、PSGの問題の始まりはその点にある。PSGがチャンピオンズリーグで勝てないのはすべて、攻撃の選手たちが走ろうとせず、ボールにブレスがかからないからだというのは単純すぎる見解である。事実、ボールにプレスをかける方法はいくつもあるし、PSGはユルゲン・クロップ監督率いるリヴァプールのような、猛烈なカウンター・プレスを行うチームではない。

    とはいえPSGは2年近くの間、守備を嫌っているように見える3人の選手のフォローをしなければならなかった。

    エンバペに関しては、こんな話もある。フランス代表はエンバペが左サイドで守備をしないために、ワールドカップの大会後半、彼を中央に置かせざるをえなかったというのだ。PSGはクリストフ・ガルティエ監督時代、スリーバックにシステムを変えた。これは部分的には、両ウイングバックが数的不利になったとき、余っているセンターバックをそのサイドに向かわせるためであった。

    守備で批判を受けるエンバペだが、それでも黒字を出している。ここで私たちが語っているのは、世界最高の選手のひとりのことなのだ。だが、彼がサッカーにおいて完璧ではないことも確かだ。

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  • Neymar Kylian Mbappe PSGGetty

    ネイマールがいないチームの利点

    だが、今のPSGは昨シーズンにチャンピオンズリーグのベスト16で敗退したときとは根本的に違っている。メッシが去り、セルヒオ・ラモスも去り、まもなくマルコ・ヴェッラッティがその後につづくかもしれないのだ。

    だが、エンバペがチームに戻るのが、ネイマールのサウジ・プロリーグのアル・ヒラルへの移籍が現実味を帯びてきたのと同じころだったというのは、かなり好都合な偶然である。

    ある意味、正当な理由はある。ネイマールがPSGと契約したのは、チーム唯一のスターになれると思ったからだ。エンバペが来たのは、そのほんの数週間後のことで、ネイマールへのもてはやしは実際に始まる前に消滅した。

    ネイマールも、もめごとの絶えない性格である。エンバペ同様、ボールをもったときのネイマールはとてつもない才能の持ち主だ。だが常に、それ以外のことに興味がなく、しばしばピッチの反対側を物珍しそうに見ていることがある。チームメイトが必死になってディフェンスしている姿を、ただ見ているのだ。その一方、2人はピッチの外ではひどく注意散漫になる点において、似た者同士であるのも確かだ。だがPSGは、2人のスーパースターを雇っていられるほど大きなクラブではない。ネイマールが去ったことで、注目はエンバペに集中する。ネイマールがいなくなり、何かを起こす責任という点でエンバペにかかる比重は大きくなる。ビッグな瞬間から決して逃げることのない選手にとって、これは悪いこととも言えないだろう。

  • Luis Enrique PSG 2023Getty

    若返ったチーム

    だが、だからと言って突然全責任を負うスターになることは簡単ではない。エンバペの抱える矛盾が簡単に消え去るわけではないのだ。ルイス・エンリケは良い監督だが、スター選手と衝突した過去がある。たとえそれが夢のシナリオだったとしても、エンバペがサッカーから明確に逃げだそうとすることはないだろう。むしろ、おそらくエンバペはバランスのとれたシステムの中でプレーする必要がある。エンバペだけでなくどんな選手も楽々と左ウイングに忍びこめるような、戦術的に充分整えられたシステムが。

    スター選手不在中の再建ではなく、クラブの改造と微調整のために、数々の契約が交わされた。攻撃陣にはマルコ・アセンシオ、ウスマン・デンベレ、イ・ガンイン、ゴンサロ・ラモスを加え、中盤にマヌエル・ウガルテを獲得。後方ではミラン・シュクリニアルがチームにやってきた。かつての輝きを取り戻せれば、移籍市場でコスパ最高の選手である。長くターゲットとしているランダル・コロ・ムアニと、おそらくもうひとり中央のミッドフィルダーがチームに加われば、PSGは興味深く、おそらく漠然とエキサイティングな夏を満喫することになるだろう。

    これらの契約に、明らかな戦術的な筋道や型のようなものは見られないかもしれないが、PSGは大金を使って多くの若い選手を獲得し、ベテランとは友好的な取引をしている。ヨーロッパでの優勝経験がある監督に統率された、ハングリー精神のあるチームとなるだろう。エンバペがいなくても、ワクワクする理由がここにある。先発イレブンにエンバペを入れれば、将来有望なチームから素晴らしいチームになるだろう。前線にゴールを量産するカミソリのような鋭さをもったチームに。

  • Kylian Mbappe PSG 2019-20Getty Images

    どう機能するか

    だが、PSGは以前もこうだったことがある。賢い契約をし、戦術的に優れたベテラン監督を雇い、どこまでも明るい未来が約束された夏が複数あった。来るべき選手が来たと思われ、良い雰囲気に包まれていた。派手な新しいユニフォームを発表し、大量に販売し、プレシーズンのツアーに大金をかけ、PSGは再び永続的に競争できるクラブになったと思われていた。

    だが、結果はいつも同じだった。PSGはリーグ・アン優勝の常連だが、チャンピオンズリーグではグルーブステージを突破しても、決勝トーナメントでバツの悪い負け方をして敗退する。もちろん、失望の程度は違っていた。2020年のチャンピオンズリーグでは決勝で敗れ、翌年は準決勝で負けた。準々決勝で負けたことは、理想からは程遠いがバカにされるようなことではない。

    大金を使ったヨーロッパのクラブが、そのおかげでチャンピオンズリーグを優勝していることもある。しかも、PSGにはそうしたクラブが使った額を合わせた以上の資金があるのだ。資金があるのと、その使い方を知っているというのは違う。PSGはこれまでに優勝を果たしているべきだったのだ。

    そして今年、どんな希望もそうであるように、再び高い望みが掲げられている。これまでのPSGは堅固な組織として機能するスペースを埋められる選手とともに、スターを集めるために大金を投じてきた。それでわかったことは、ダニーロ・ペレイラが周りの選手の足りないところを補うためにできることは限られているということだった。

    だが今ここに、チームを導くスーパースターのいるチームのようなものがある。チャンピオンズリーグに勝てなかったり、昨シーズンよりも比較的弱いように見えたりする、いつもの役者たちも何人かいるが、全員が一丸となるシーズンとなり得るだろう。

    エンバペが別のチームに行くまで、あと12カ月なのはほとんど間違いない。今シーズンはPSGが本当に欲しい栄冠を勝ち取る最高のチャンスなのだ。