レアル・ソシエダはチャンピオンズリーグ・ラウンド16でパリ・サンジェルマンの前に合計1-4と敗れ、欧州での戦いを終えた。その中でチームの中心選手であり、日本代表の久保建英はどう戦ったのか。ソシエダの地元記者がどう見ていたのか振り返る。
(C)Getty ImagesCLでの舞台はベスト16で幕閉じた久保建英、ソシエダ地元記者は最高峰での戦いをどう見たか?
CL・EL2025-26配信!
(C)Taisei Iwamoto今季の姿を象徴する試合に
プレーサイドは同じだがチームは別々……久保建英はその背後に世界最高の選手の息遣いを感じていた。久保がレアル・ソシエダの右ウイング、キリアン・エンバペがPSGの左ウイングとして相手ゴールを目指し……後者がこの試合の、もっと言えばこのノックアウトラウンドの完全なる主役となっている。
久保の欧州大会での冒険は、ひとまずここで幕を閉じる。グループステージを首位通過しながらもベスト16でエンバペのPSGと対戦することになったのは、確かについていなかった。ただ、たとえ相手が強かったとしても、チーム自体に問題がなかったかどうかと問われれば、なかったと断言することはできないだろう。
ラ・レアルは堂々たる内容でグループステージを突破している。パフォーマンスの質は素晴らしく、失点はわずか2ゴールと32チーム中最少。昨季の大会ファイナリスト、インテルとの戦いでも決して引けを取らず、チームも久保も世界中から称賛を受けることになった。
ただボールをどれだけ支配しても決め切れず、歴史的勝利を逃したインテルとの2試合こそが、今のラ・レアルを象徴しているのだろう。ラ・レアルはしっかりと“フットボール”をプレーをし、幾度もチャンスをつくり出している。しかし、肝心要のゴールが決まらないのだ。ゴールが決まらなければ、チームが努力しなければならない量は何倍にも増え、そしてそのすべてが徒労に終わることになる。
(C)Getty Images穴から抜け出せなかったラ・レアル
中盤のスビメンディ、ブライス・メンデス、ミケル・メリーノは、はまれば圧倒的な支配力を発揮。そして右ウイングの久保は最たる違いを生み出す選手として君臨し、彼にマークが集中するときにはバレネチェアが逆サイドから手薄な守備を突く……。
だが、いくらそうやって攻撃を仕掛けようとも、今のラ・レアルにはチームとしての仕事を完遂するストライカーが存在しない(サディク? 彼はソシエダが2トップでプレーしていた頃に2トップの一角として起用することを前提に獲得したストライカーだ)。このクラブの象徴、オヤルサバルが“偽9番”の役割を務めてくれているが、現時点においてはその場凌ぎの域を出ていない
それでも、どんな形でも、1点でもいいからゴールを決めて勝利を重ねてきたラ・レアルだったが、シーズンが深まるに連れて疲労が溜まり、負傷者が増えていった。このチームの選手層は決して厚くはない。攻撃陣ではオヤルサバル、バレネチェアが離脱したことで本格的なゴール欠乏症に陥り、ドリブルなどの鋭利なプレーで相手の守備を切り崩せる選手も久保だけになってしまった。
疲労と欠場者が増え、攻撃のボリュームとゴールが減ったラ・レアルは結果を出せなくなり、自信を失っていった(ここ10試合の成績は1勝4分け5敗。得点数はわずか7だ)。誰もが知る通り、フットボールは精神状態の鏡だ。自信があるときには山をも動かせるが……なければ底のない穴に落ち続ける。
(C)Taisei Iwamoto次は主役として…
ラ・レアルはそんな状態で、今季の命運をかけた1週間を迎えた。コパ・デル・レイ準決勝マジョルカ戦をPK戦の末に落とし、PSG戦ではエンバペがどんな可能性も与えてくれなかった。久保はルイス・エンリケのチーム相手にも、よくやってくれていた。前半には2回にわたってペナルティーエリアに惜しいパスを出し、枠をわずかに外れる強烈なミドルも放っている。だが日出づる国の選手がいくら奮闘しようとも、チームとしてゴールを欠けば太陽は見えない。この日のサン・セバスティアンの空は厚い雲に覆われていた。
だがしかし、それでもラ・レアルのサポーターはチームを責めなかった。ラ・レアルが0-2とされてから意地の攻撃を仕掛け、終了間際に1点を返したこともあるのだろう。アノエタの観客は試合後、10年ぶりにチャンピオンズに出場したチームの軌跡と健闘を称え、マフラーを掲げながらイムノを大合唱していた。そう、彼らはここまで辿り着くのも容易ではないことを、分かっていたのだ。久保もその表情に悲しみをたたえていたが、それと同時に、彼のことを深く愛する観客に誇りを感じていたようだった。
久保はこのPSG戦で、同じサイドを(逆方向に)走っていた三つ年上の怪物に、いつの日か追いつくことを夢見ているはずだ。若いながらその才能を多大なる努力でもって光らせ、幾度も逆境を乗り越えてきた彼は、これからも挑戦することを止めないだろう。再び、この夜のような大一番に臨み、今度は主役になることを目指すだろう。




