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伊東純也は「ただ速いだけ」じゃない!なぜ中村敬斗はゴールを量産できる?ランス&日本代表に欠かせない2人を徹底分析

伊東純也と中村敬斗。2人の日本代表ウインガーは、スタッド・ランスにもはや欠かせない存在だ。

3シーズン目を迎えた伊東は、開幕13試合で3ゴール3アシストをマーク。右サイドを基本としつつ、ピッチ中央や左と様々なエリアに顔を出しながら、文字通り攻撃の中心としてチャンスを量産。試合を見れば、その数字以上の貢献度は一目瞭然だ。一方の中村は、5試合連続ゴールを含む6ゴール1アシスト。強豪パリ・サンジェルマン戦でもネットを揺らすなど、その得点能力が開花している。

そんな2人について、これまで長年にわたって海外で活躍する日本人選手や日本代表チームを分析してきたスペイン『as』副編集長のハビ・シジェス氏が分析。今季のパフォーマンスを振り返りつつ、両者のプレーを紐解く。

文=ハビ・シジェス/スペイン紙『as』副編集長

翻訳=江間慎一郎

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    日本人への偏見を覆す存在たち

    欧州における日本人選手の見方は、ずいぶんと変化したように思う。

    これまで、日本からやって来るフットボーラーはあまり信用されていなかった。足元の技術を主とした才能はあっても、フィジカルや安定感や適応能力が欠けており、クラブは能力よりも“円”狙いで彼らを獲得してきたとされた。

    だが、そうした考えは毒や偏見を含んでおり、完全な真実と言えなかった。多くの分野で私たちが敬服してきた日本人のポテンシャルは、何があっても、絶対に侮るべきではないのだ。

    現に真面目かつストイックな彼らは、凄まじいスピードで進化を果たし、存在感を増している。偏見の壁はようやく打ち砕かれたようだ。それを成し遂げたのは久保建英であり、三笘薫であり、そして、伊東純也と中村敬斗である。

    伊東と中村は選手としてのタイプこそ違えど、どちらもランスにとって必要不可欠な存在だ。素晴らしいのは20代前半の中村はもちろんのこと、すでに長いキャリアを歩んでいる伊東も、まだ全盛期を迎えていないように感じさせること。補完的な関係を構築する彼らは、ゲーム理解力に優れながらも情熱を感じられるプレーで燦然と輝き、なおかつ月日とともにその輝度を増している。指揮官ルカ・エルスナーが採用する1-4-3-3(スペインではGKからフォーメーションを表記)で、伊東は右サイド、中村は左サイドから決定的なプレーを見せて、ランスを勝利に導いているのだ。

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    “最高の伊東純也”

    まず伊東についてだが、その成長曲線は目を見張るものがある。日本にいた頃から可能性の塊だった彼は、ベルギーから欧州に挑戦するという決して簡単ではない道程を歩み、フランスに到着してからその力をグンと伸ばした。来年3月に32歳となるサイドアタッカーは、シーズンを経る毎に完璧な選手に近づいており、チーム内での重要度をさらに増している。

    現在の伊東は繰り返し繰り返し突破を狙う、ただ速い選手というだけではない(無論、それだけでも十分な才能だが)。アシストやゴールを目的として、そこから逆算した最適解のプレー判断ができている。チームメートと見事に連係を取り、様々なスペースに顔を出しながら流れるようにプレーするのが、最新版かつ“最高の伊東”。彼がその手に持つ創造性のパレットは、ドリブル突破という一色だけではなく、まさに多彩だ。だからこそ継続的に、大量のチャンスを描き出している。

    伊東は様々な局面で有効なプレーを見せる。今の彼はサイドだけでなく中央のスペースも使って、ボールを持たないときにも重要な役割を担う。例えば、相手センターバック&サイドバックの間に位置して、1トップのバフォデ・ディアキテが降りてくるスペースを生み出したり(モンペリエ戦を参照)、サイドバックのオーバーラップを促したりする様子は非常に興味深い。伊東は以前には見せなかったそうした動きによって、自身がチームに与える影響を最大化させている。そのほか、アタッキングサードで見せるダイアゴナル・ラン、インサイドを狙うパスも、新たに加わったプレーレパートリーと言えるだろう。

    もちろん、伊東の真骨頂はサイドで違いを生み出し、質の高いクロスを放つことにある。DFラインの裏にあれだけ高精度のボールを送ることができるウィングは、欧州を見渡してもそうはいない(そのボールを逆サイドの中村が生かしている)。伊東はそのスピードとキック精度によってカウンターやプレースキックでも存在感を発揮しており、ランスにとって攻撃の創造主として君臨している。さらに付け加えれば、守備意識の高さも素晴らしい(中村にも同じことが言える)。PSG戦でエルスナーは1-4-4-2の守備ブロックを敷いたが、伊東はブラッドリー・バルコラとマッチアップする左サイドバックのアウレリオ・ブタをサポートし続けている。ハイプレスでも手を抜くことなく相手センターバックを追いかけ、献身的な上下動を見せ続けた。

    伊東のランスに対する際限のない貢献は数字にも表れている。彼はリーグ・アンで最もチャンスを創出している選手で(51回)、加えて3ゴール3アシストを記録。片や中村は6ゴールを記録と、より得点に特化した成績を残している。

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    “末恐ろしい”中村敬斗

    さて、中村についてだが、今季ここまで活躍の見せるとは、正直に言って予想していなかった。オーストリアのようなリーグからフィジカルの強さを特徴とするリーグ・アンへ渡れば、適応にそれなりの時間がかかると思われたからだ。だが、彼はオープンスペースにも堅守に対しても効果を発揮する攻撃能力、また圧倒的強度のプレッシングによって、フランスでもその力が通用することを、すぐさま証明してしまった。“末恐ろしい”若者である。

    中村は前線で動き回るディアキテ(彼は日本人2選手にとって理想的な1トップだ)がつくり出すスペースを、しっかりと生かし切る。右サイドから中央に流れて相手の両センターバック間に現れるプレーは再現性が高く、オセール戦ではその動きからゴールを決め、トゥールーズ戦でもビッグチャンスを迎えている。

    ランスがトランジションから攻撃を仕掛けるとき、中村はボールを持ち運ぶ能力を輝かせる。また、たとえボールを離しても立ち止まることなく、全力で前へと走り込んで、的確なポジショニングからシュートを決め切る(PSGのゴールがそれだ)。その一方で、相手が引いて守っているときにはペナルティーエリア手前中央に位置したり(ナント戦)、センターバックの背後を取るべくエリア内に侵入したり(アンジェ戦)することで、ゴールをかっさらう。

    中村にはまだ伸び代がある。とりわけ足元でボールを受けた際、プレー判断がもたつくところは改善の必要があるだろう。いずれにしても、彼にはそうした短所を覆うほどの長所がある。攻撃の構築においては相手の選手たちを意図的に引きつけながら、オーバーラップするサイドバックや中央レーンに絶好のパスを通す。そして貪欲さもポジショニングもシュート技術も伴った得点力は一際目を引くものがあり、その長所だけでもこれから魅力的なキャリアを築いていく可能性を感じさせる。

  • 20241113-japan-training-ito-nakamura(C)Masahiro Ura

    日本代表でも…

    伊東と中村は相互に理解し合っており、補完性も高い。ランスで必要不可欠な2人は日本代表においても大きな価値を持ち得る。

    伊東については、すでに代表でも成功をつかんでおり、現世代の攻撃陣の中で最も安定した成績を残してきた。高いプレーリズム、積極果敢な姿勢、ゴール前での効果性……彼のプレースタイルは、トランジションや縦へのスピードが支配している現代フットボールにしっかりと合致している。中村にも同じことが言え、伊東とともにプレーするならば、事はより簡単に運ぶだろう。

    日本代表を率いる森保一は、もっと彼ら2人に信頼を寄せていいはずだ。