まず伊東についてだが、その成長曲線は目を見張るものがある。日本にいた頃から可能性の塊だった彼は、ベルギーから欧州に挑戦するという決して簡単ではない道程を歩み、フランスに到着してからその力をグンと伸ばした。来年3月に32歳となるサイドアタッカーは、シーズンを経る毎に完璧な選手に近づいており、チーム内での重要度をさらに増している。
現在の伊東は繰り返し繰り返し突破を狙う、ただ速い選手というだけではない(無論、それだけでも十分な才能だが)。アシストやゴールを目的として、そこから逆算した最適解のプレー判断ができている。チームメートと見事に連係を取り、様々なスペースに顔を出しながら流れるようにプレーするのが、最新版かつ“最高の伊東”。彼がその手に持つ創造性のパレットは、ドリブル突破という一色だけではなく、まさに多彩だ。だからこそ継続的に、大量のチャンスを描き出している。
伊東は様々な局面で有効なプレーを見せる。今の彼はサイドだけでなく中央のスペースも使って、ボールを持たないときにも重要な役割を担う。例えば、相手センターバック&サイドバックの間に位置して、1トップのバフォデ・ディアキテが降りてくるスペースを生み出したり(モンペリエ戦を参照)、サイドバックのオーバーラップを促したりする様子は非常に興味深い。伊東は以前には見せなかったそうした動きによって、自身がチームに与える影響を最大化させている。そのほか、アタッキングサードで見せるダイアゴナル・ラン、インサイドを狙うパスも、新たに加わったプレーレパートリーと言えるだろう。
もちろん、伊東の真骨頂はサイドで違いを生み出し、質の高いクロスを放つことにある。DFラインの裏にあれだけ高精度のボールを送ることができるウィングは、欧州を見渡してもそうはいない(そのボールを逆サイドの中村が生かしている)。伊東はそのスピードとキック精度によってカウンターやプレースキックでも存在感を発揮しており、ランスにとって攻撃の創造主として君臨している。さらに付け加えれば、守備意識の高さも素晴らしい(中村にも同じことが言える)。PSG戦でエルスナーは1-4-4-2の守備ブロックを敷いたが、伊東はブラッドリー・バルコラとマッチアップする左サイドバックのアウレリオ・ブタをサポートし続けている。ハイプレスでも手を抜くことなく相手センターバックを追いかけ、献身的な上下動を見せ続けた。
伊東のランスに対する際限のない貢献は数字にも表れている。彼はリーグ・アンで最もチャンスを創出している選手で(51回)、加えて3ゴール3アシストを記録。片や中村は6ゴールを記録と、より得点に特化した成績を残している。