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ジョゼ・モウリーニョ復活! ローマ再建で健在ぶりを証明

セビージャはヨーロッパリーグのスペシャリストだ。今年もマンチェスター・ユナイテッドやユヴェントスを連破して決勝に進出した。それでもイヴァン・ラキティッチは、あるひとつの理由から、ローマを倒すのは「今まで以上に厳しい」仕事だと言っていた。そのたったひとつの理由とは、ラキティッチのいう世界三大監督のひとり、ジョゼ・モウリーニョの存在だ。

「すごい監督だ」と、ラキティッチはイタリアのトゥットスポルト紙で語っていた。

「監督になってからヨーロッパのすべてのタイトルを手にしている。モウリーニョは本当に特別な戦略家で、すべての面において唯一無二だ」

モウリーニョとその手腕をどう評価するかは人それぞれだとしても、彼の成功を否定することは不可能だ。スパーズを解雇された後のモウリーニョはまさに最高のレベルでフィニッシュしたように見えたが、彼のトッテナム時代は、その後ダニエル・レヴィ会長のもとで奮闘したアントニオ・コンテによって、かなり違う光を当てられてきた。そして、それよりはるかに重要なことに、ローマでの素晴らしい復活によって、モウリーニョの評価は変わったのだった。

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    2シーズン連続でヨーロッパの大会の決勝に進出

    モウリーニョが2021年の夏、鳴り物入りでイタリアの首都に到着したとき、ローマはヨーロッパレベルのメジャーなタイトルをひとつしか持っていなかった。1960-61シーズンのインターシティーズ・フェアーズカップの優勝である。ところが昨シーズンはヨーロッパ・カンファレンス・リーグでフェイエノールトを破って優勝し、今年もヨーロッパリーグで決勝に進出した。

    ブダペストで行われた決勝では敗れたものの、ローマの選手層を考えれば、非常に印象深い偉業だと語り継がれることだろう。火曜にモウリーニョが試合前の記者会見で皮肉ったように、昨シーズンの今ごろは、選手たちにUEFAメディアDAYでの仕事を説明しなければならなかったのだ。

    「2シーズン連続でヨーロッパ大会の決勝に進出するなんて、通常は由緒あるビッグクラブでしかできないことだ」と、モウリーニョはSky Sport Italiaで語った。「ビッグクラブだったとしても、たやすくできることではない。それなのに我々がそれを成し遂げたことは、大いに意味のあることなのだ」

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    ケガ人続出

    モウリーニョが来た直後、確かにローマはセリエAのクラブとしてはかなりの大金を使った。タミー・エイブラハムに4,000万ユーロ(約60億円)を費やしたのを含め、1億ユーロ(約150億円)も支出したのだ。だが、昨シーズンはわずか700万ユーロ(約10億円)しか使わず、パウロ・ディバラ、ネマニャ・マティッチ、アンドレア・ベロッティといった自由契約の選手たちを頼り、クラブの予算が厳しいことが如実に証明された。

    その結果、シーズンを通して、国内とヨーロッパの大会という少なくとも2つの戦線で戦うチームが、またしても厳しいシーズンの終盤に向かって崩壊しはじめたとしても、それほど驚くべきことではなかった。

    わずか1カ月前、ローマはトップ4の位置を確保していたが、ケガ人が続出し、セリエA最終盤の7試合でひとつも勝利できなかった。そして、2シーズン連続で6位フィニッシュとなったのである。

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    「イエスがバチカンを散歩するようなものだ」

    今シーズンのローマに関しては、大勢の専門家が大いに期待していた。ヨーロッパ大会での成功がリーグでのさえない結果から目をそらす効果をあげているという専門家もいた。だが、モウリーニョがそんな風には考えていないことは明らかだ。

    「私は常に正直でいようとしている」と、先週モウリーニョは言った。「私は嘘を言うつもりはない。ローマがチャンピオンズリーグに行けるようなチームだとは、決して言わない。チャンピオンズリーグに出場しているチームを目の当たりにしたら、そんなことを言うのは無責任だ」

    「移籍市場で700万ユーロ(約10億円)しか使わなかったのにチャンピオンズリーグに出場したなどという前例はない。そんなことになったら奇跡だろう。イエス・キリストがローマにやってきて、バチカンを散歩するようなものだ!」

    それでも、ヨーロッパリーグの決勝に進出したことは、不可能な夢だったものが今やはっきりと可能性のあるものになったことを示している。それは守備重視が特徴のモウリーニョのマスタークラスが継続され、過剰に引っ張られたチームの一部にとてつもない力が注がれたからである。

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    ローマとの土壇場での話し合い

    モウリーニョは選手たちを誇りに思っていると繰り返し語り、常に、困難な時を乗り越えようとする芯の強さを称えていた。だが、チームの質についての彼の否定的なコメントが、チーム構築の責任を負う人々に、良い作用をもたらすはずがないことは明らかだ。

    実際、何カ月も前からクラブのダン・フリードキン社長とスポーツディレクターのティアゴ・ピントが、モウリーニョの度重なる不平と試合中のベンチ入り禁止などを受け、うんざりしているとの噂が流れていた。

    ガゼッタ・デロ・スポルトによると、ヨーロッパリーグで優勝しようとしまいと、シーズン終了後に全当事者が集まって状況を評価し(チャンピオンズリーグ出場が確保されればモウリーニョがより多くの選手を希望することは理解できる)、どうやって一緒に進んでいくかを――あるいは、まだそうしようとする希望があるのかをどうかを――話し合うようだ。

    モウリーニョにはまだ1年契約が残っているが、ここ数カ月で様々なクラブから声がかかるようになっており、古巣であるチェルシーやレアル・マドリー、パリ・サンジェルマン、あるいはクリスティアーノ・ロナウドのいるアル・ナスルとの噂すらある。

    当然のことながら、選手たちは神経質になっている。ロレンツォ・ペッレグリーニとジャンルカ・マンチーニは二人ともすでに、自分たちの将来についての監督からの保証を個別に受け取ろうとしている。だが、話し合いで、2度のチャンピオンズリーグ優勝の実績があるモウリーニョがローマに残るという平和的な同意につながるという希望はあった。

    サポーターたちがモウリーニョにどうしても残ってほしいと思っていたのは明らかだった。クラブのレジェンド、フランチェスコ・トッティは、もし自分が責任者だったら少なくとももう1シーズン、モウリーニョに残ってくれるよう説得するのは「当たり前だ」とほのめかしていた。だが、試合前の時点では何の保証もなく、ファンの間には、「特別な男」が水曜の夜に(できれば勝って)涙ながらの別れを告げるのではないかという恐れが広まる一方だった。

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    「ローマと私の絆は永遠」

    だからこそ、ほとんど避けがたく、適切とも言えるのだが、日曜のスタディオ・オリンピコでのスペツィア戦が終わってローマの今シーズンの最終結果が出るまで、モウリーニョの処遇は保留されてきた。

    振り返れば、2010年にインテルで三冠を達成した時、サンティアゴ・ベルナベウでのチャンピオンズリーグ決勝でバイエルン・ミュンヘンに勝った後、モウリーニョはミランに帰りもしなかった。優勝のお祝いをされて、レアル・マドリーを去るという決心が鈍るのを恐れたからだ。「私は感情から逃げることした」と、後にモウリーニョは語っている。水曜の夜にローマが勝っていたら、彼が自身の感情から逃げるチャンスはなくなっていたかもしれない。

    モウリーニョは選手たちと深い絆を結ぶ。決勝の前に将来のことを聞かれたモウリーニョは、「今は勝つことだけを考えている」と強調した。「それに、どんな結果になっても、ローマと私の絆は永遠だ」

    単純に言って、この言葉に嘘はない。最近モウリーニョ自身が指摘したように、彼が強い絆を感じなかったクラブは、スパーズだけなのだ。

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    「私はすべてを捧げている」

    ここまで見てきたとおり、スタディオ・オリンピコでのモウリーニョの仕事ぶりは、たとえこの夏彼がチームを去ることになっても、成功以外の何ものでもない。それこそ、最初からの典型的なモウリーニョの姿であった。モウリーニョはファンを燃え上がらせ、トロフィーをもたらしたのだ。

    当然、サッカーの質を問題視しつづける人々もいる。ローマはしばしば、見ていてつまらないチームだった。かつてのフォワード、アントニオ・カッサーノが言ったような「ク○」なチームではないが、守備偏重のローマのプレーぶりは敵チームをいらだたせてきた。

    レヴァークーゼンのMFケレム・デミルバイは、こんな「醜い」戦術で勝利を得ることは「恥」だと言い、フェイエノールトのアルネ・スロット監督は、ローマのプレースタイルが「結果を出す」ことは認めながら、もっと大きなサッカーを見るほうが好きだと言った。これを侮辱と受け止めたモウリーニョは、報道によると、オリンピコでフェイエノールトを破った後、スロット監督に「ナポリを見ろ」と叫んだという。

    その日遅く、モウリーニョは再びさらに歴史を作りそうになっていた。自身が指摘したとおり、「歴史は消せない」のだ。彼の何が何でも勝つというメンタリティーは、彼に5つのヨーロッパの大会のトロフィーをもたらし、水曜の夜に6つ目のタイトルを得ることが出来ていれば、この最新の勝者のメダルは(もしくは監督としての彼への関心が更新されたことも)世界で三本の指に入る優秀な監督という名声を保つ証拠となっただろう。

    確かに、彼が来シーズンどこにいるのかは、わからない。今いうことは不可能だ。だが、モウリーニョが最高のレベルで終わっていないことは間違いないと言える。彼のメソッドは古びておらず、彼が人間管理への「人間的な」アプローチだと呼ぶものは、依然として称賛に値する。そして、おそらくもっと重要なことに、すべてが間違っていることを証明しようとする彼の内なる炎は、まだ燃え盛っているのだ。

    「私は今でもすべてを捧げている」と、モウリーニョはSkyで語った。「人は私を実際より老いていると思っているかもしれない。私の白髪を見て、本当に老人だと思っているかもしれない。だが、私はまだ若く、表舞台に立っていたいと思っている。まだまだ、これから先、何年も何年も、私の姿を見ることになるだろう」