Japan Women's World Cup featureGOAL

誰にも止められない! なでしこが女子ワールドカップの優勝候補に

「私が知っているかぎり最強のチーム」。こう日本を評したのは、バルセロナで2度のチャンピオンズリーグ優勝に輝いたキャロライン・グラハム・ハンセンである。彼女が所属するノルウェーが女子ワールドカップ2023のベスト16で、なでしこに負けた後のことだった。何年も何年も最高レベルでプレーしてきたワールドクラスのサッカー選手が語った、とてつもない賛辞だ。

事実、準々決勝に残った国々の中で勝つべきチームは日本であろう。2011年に栄冠に輝き、その4年後にも決勝に進出した日本だったが、ニュージーランドに乗りこんできた頃には高い期待をかけられていたわけではなかった。しかし、大会が始まってからのパフォーマンスを見れば優勝候補に挙げられても当然である。

初戦でザンビアに5対0で勝ち、1週間後にドイツを破った日本はその数日前、同じく自由に動きまわり、目を見張るようなスタイルで2対0でコスタリカに勝った。さらに、スペインに4得点無失点で勝ったことで優勝争いに名乗りを上げたのである。ラ・ロハことスペイン女子代表のプレッシャーを吸収し、カウンターでとらえるゲームプランを採用した日本は、よく訓練され、集中力があり、冷静なチームであった。

「日本は非常に訓練されており、攻撃でも守備でも非常に組織化されていた」とグラハム・ハンセンは語った。「日本はゴール前でのクオリティが高く、多くのチャンスを必要としない。今日の試合でも、日本は引いて守り、スペースを創りだしていた。とても強く、どんなチームと対戦しても力を発揮できることを示した」

4年前にはベスト16で、どちらかというと相手に圧倒されて敗退した日本は真の実力を発揮する道程に戻ってきたように見える。残り8カ国となった今回のワールドカップで、なでしこほど絶好調の国が他にあるだろうか。

  • Japan Women's World Cup 2011Getty

    黄金時代

    12年前、日本は女子ワールドカップで優勝し、サッカー界を驚かせた。大会前に15000人以上が亡くなった東日本大震災と津波の被害からまだ立ち直れていない日本中を彼女らの活躍が勇気づけたのだった。

    なでしこは、それまでの3大会ではグルーブステージで敗退していたにもかかわらず、決勝でPK戦の末アメリカ合衆国を破り、世界チャンピオンになった。

    それが日本代表の黄金時代の始まりだった。オリンピックでは銀メダルを獲得し、アジアカップでも初優勝。さらに再びワールドカップで決勝に進出したのである。たちまち日本は女子サッカーの強豪国のひとつとなり、その成功は、広く称賛されたプレースタイルによって成し遂げられたのであった。

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  • Yuka Momiki Japan Women 2019Getty

    低迷期

    しかし、女子サッカーが世界中に広がっていった一方で、日本はやや遅れをとってしまった。特にヨーロッパ各国が強化に乗りだし、なでしこやアメリカのような国々を破るようになっていったのである。国内に強力なリーグがないことも問題のひとつで、2019年の女子ワールドカップの日本代表には母国でプレーする選手がたった2人しかいなかった。

    日本に優れた才能をもつ選手や監督がいることは間違いなかったが、それらの力を集結させることができなかったのだ。その後アジアの大会でも他を圧倒することができなくなり、2022年のアジアカップでは決勝に進むことすらできなかった。

  • Jun Endo Japan Women 2023Getty

    トップに返り咲く

    だが、事態は劇的に変化した。国内の女子サッカーリーグを改革し、初の完全プロリーグであるWEリーグを創設すると、才能ある選手たちを生みだして進化させつづけている。キャプテンの熊谷紗希は、2011年の優勝にインスパイアされた若い選手たちが大勢いることが、非常に有意義だと語っていた。

    日本で大いに成長したスターたちは世界最高のリーグのいくつかでプレーするチャンスを得ている。さらに、なでしこはようやく池田太監督という、よって立つべき人物を見出すことにも成功した。

    4年間女子のユースチームの監督を務めた後、2021年に就任した池田監督は今大会が始まるまで、世界的にはそれほど有名ではなかった。アジアカップの準決勝で中国にPK戦の末敗れた後、池田監督率いる日本は11月、イングランドに4対0で負け、その数日後にスペインに1対0で負けた。ワールドカップ前の数カ月間、ブラジルやアメリカ、デンマークにも敗れていた。

    だが、そうした試合で選手たちを最大限有効に使えるシステムを見出した池田監督は、今やそれを成功させている。彼の3-4-3のシステム、特に遠藤純を左のウィングバックに、宮澤ひなたを3トップの右に配したフォーメーションは選手たちを躍動させた。試合ごとに適切な11人を選ぶ思慮深さがあり、これによって常にベンチにも強力な選手がいることとなった。ここ最近、日本で比較的プレッシャーがかけられることが減っていたこともここまでの成功をもたらす完璧なレシピであった。

  • Japan Spain 2023 Women's World CupGetty

    戦術の対応力

    日本がワールドカップで活躍しているもうひとつの巨大な要因は、試合ごとに池田監督が周到にゲームプランや戦術を立て、それを実行していることにある。ザンビア戦とコスタリカ戦で日本は自由に動きまわり、大会前に見せていた以上にアタッキングサードで鋭い切れ味を見せて、試合を支配していた。ところが、スペイン戦ではまったく違った。

    池田監督はチームに引いて守らせ、ラ・ロハに好きなようにボールをもたせた。そしてチャンスとみるや、カウンターアタックを発動させたのだ。選手からの抗議で屋台骨となるワールドクラスの選手を2人欠いていたスペインはスピードダウンし、中盤での攻守の切り替えが弱かった。日本は、そうしたスペインの欠陥を暴きだし、活用した。その結果、11月に0対1で負けた同じ相手に4対0という極めて対照的な勝ち方ができたのである。

    試合後、池田監督はそれまでの2試合と比較しながら、チームが「調整」という面で進歩したと語った。また、選手たちがいかに自分たちがしたいことの「所有権」を獲得したかについても語った。

    「この3試合で、選手たちは経験を積んで自信が持てたと思う。チーム内でのコミュニケーションも高まってきている」と、池田監督は説明した。「チームとしても選手個々としても成長していると思うし、3つの違うタイプの試合をこのワールドカップのこのタイミングで体験できたのは、よかった」

  • Japan World Cup 2023Getty

    誰にでも勝てる

    つまり、グラハム・ハンセンが言ったとおり、日本はどんなタイプのチームにも勝てるということだ。試合を支配して勝つこともできるし、相手にボールをもたせてから勝つこともできる。この2つを取り混ぜて勝つことすらできるのだ。

    今回のワールドカップで日本が見せているメンタルの回復力と集中力には、凄まじいものがある。スペイン戦のように、試合のほとんどの時間帯でボールを保持できないでいることは、選手にとってつらいことだ。それでも彼女らは頭をあげつづけ、ボールをもった瞬間、たとえそれが久方ぶりであったとしても、攻撃の本能を発揮するのである。

    彼女らは今、非常によいプレーをしている。そして、それも彼女らがより大きなスケールで大会に取り組む方法なのだ。監督と選手がすべての記者会見に出席し、それぞれの試合について、ひとつずつ話をする。それはサッカー界で誰もがすることだが、今回の場合は重要だ。特に、プレッシャーがなかったことでなでしこは見ていて楽しいチームになり、大事な瞬間に冷静でいられるのだから。

    なでしこは、今大会で最も印象的なチームにもなっている。彼女らには優勝するための素晴らしいチャンスがある。ドイツですべての人を感動させてから12年。再び彼女たちが優勝できれば、また別の輝かしい物語が生まれることだろう。

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