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ケインがついにトロフィー獲得へ…コンパニ率いるバイエルンは本物か

バイエルン・ミュンヘンのトーマス・トゥヘルの後任探しは茶番劇となり、シャビ・アロンソ、ユリアン・ナーゲルスマン、ラルフ・ラングニック、オリヴァー・グラスナーに断られて恥をかいた後、最終的にチームを去ろうとする監督に翻意を促すほどだった。

そして5月9日、自暴自棄のバイエルンはとてつもない衝撃をもたらした。哀しいかな、バーンリーをプレミアリーグから降格させてしまったばかりのヴァンサン・コンパニ監督を新監督に指名したのである。昨シーズンのバーンリーの得点はわずかに41、78失点を喫して、勝ち点を24しか積みあげることができなかった。

解説者や元選手たちは彼の就任に仰天したが、ペップ・グアルディオラは違った。「私は彼の仕事ぶり、人格、専門知識に最大限の賛辞を送る」と、マンチェスター・シティの監督は、かつて自らのもとでキャプテンをし、バーンリーに行く前に生まれ故郷のクラブであるアンデルレヒトの監督をしていたコンパニについて言った。「バーンリーで降格の憂き目に遭ったことは関係ない」

バイエルンも同じだった。そして彼らが反対派を無視したことは正しかったようである。コンパニ監督はアリアンツ・アレーナで指揮を執り始めると、記録的なスタートを切った。

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    「グアルディオラ時代に戻ったように感じる」

    グアルディオラの公私にわたる支持は、バイエルンがコンパニを監督にする決定を下す際に重要な役割を果たした。「彼はほめちぎっていた」と、後に監査役のカール=ハインツ・ルンメニゲは語った。「そして彼の意見を我々は重視した」。もちろん、このことは少しも驚くべきことではない。

    グアルディオラは、エティハドで一緒だったコンパニをよく知っていただけではない。2013年から2016年までの3年間の任期中、3年連続優勝と2冠を達成したグアルディオラは、今でもバイエルン史上最も崇拝されている監督のひとりだ。

    実際、クラブ関係者の中には、ペップの下でのサッカーが、ミュンヘンで見られた最も美しいサッカーだと今でも信じている人々もいる。だからバイエルンの理事会が今やかなりご機嫌なのも当然だ。なにしろ、21日のホームでのヴェルダー・ブレーメン戦でバイエルンが5-0で勝った後、狼狽したブレーメンのスポーツ・ディレクター、クレメンス・フリッツが「グアルディオラ時代に戻ったように感じる」と漏らした。

    そして、その理由も簡単に説明できる。

    ヴェーザーシュタディオンでのバイエルンのパフォーマンスは、まったくもって桁違いだった。ヨーロッパの5大リーグのひとつでよく見られるように、一方的に試合を支配していたのである。バイエルンはやすやすと5得点を決めたのみならず、相手にシュートを1本も打たせなかった。つまり、この試合のブレーメンのxG(ゴール期待値)は0.0だったのだ。

    「バイエルンは非常に激しいプレーをし、ボールコントロールが完璧だった」と、フリッツは言った。「最近のバイエルンは常にボールを保持し、自分たちのシステムを構築できるようになっている」

    「だが、88分になってもあの激しさを保持できるのは素晴らしい。コンパニ監督はサイドラインから選手たちを鼓舞しつづけ、選手たちも前へ向かおうとし続けていた。あんなカウンタープレスをされたのでは、我々は息をつく暇もなかった」

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  • バイエルンの自由な得点力の中心はケイン

    バイエルンの輝きはブレーメン戦だけではなかった。ブレーメンに大勝する前の週末にはホルシュタインキールを6ー1で破っており、チャンピオンズリーグの開幕戦ではディナモ・ザグレブに歴史的な9-2のスコアで勝利していた。

    つまり、バイエルンは新監督の下で、全公式戦で6連勝を果たし、その間29得点をたたき出したわけだ。失点はわずか5で、クラブ史上どの監督よりも素晴らしいスタートを切った。オットー・レーハーゲル、ユップ・ハインケス(4期目)、カルロ・アンチェロッティ、ニコ・コヴァチも監督就任の初戦から6連勝しているが、コンパニ監督は得失点差で上回っている(+24)。

    驚くことではないが、このバイエルンの麗しく自由な得点力の中心はハリー・ケインである。

    ケインはEURO2024では残念な成績だったかもしれないが、すでにアリアンツ・アレーナでは記録破りの活躍をしている。ミュンヘンに来てからわずか1年で、ブンデスリーガ史上イングランド出身選手として最多得点を記録し(チャンピオンズリーグでも)、今シーズンすでに2度もハットトリックを決めたのだ。そのうちのひとつがザグレブ戦で決めた4得点である。

    こうなると、いよいよケインはトロフィーを獲れないという呪いを破るチャンスが来そうなだけでなく、昨シーズンのわずか45試合で44得点を挙げた以上の記録が期待できそうだ。とりわけ、今や、彼の前にたったひとりしか傑出した若きストライカーがいないのではなく、2人いるとなれば。

  • Michael Olise of Bayern Munich celebrates with Jamal Musiala and Harry KaneGetty Images

    オリーズは「特別な才能の持ち主」

    もしマンチェスター・ユナイテッドにトップクラスの実力を持つ選手たちを獲得する能力があったなら、ケインはオールド・トラッフォードでミカエル・オリーズとプレーすることもあり得た。しかし現実には、2人はアリアンツ・アレーナにやってきた。この2人が今シーズン、ジャマル・ムシアラとともに相手DFを切り裂くだろうことは、シーズン当初からわかっていた。

    ケインはかなり前からムシアラを称賛していた。このドイツ代表が真に「恐ろしい選手」になれる、とんでもなく将来有望な選手であると信じているのだ。

    だが、オリーズもワールドクラスの可能性を秘めている。マイクの前での口数は少ないが、攻撃に必要な能力はたっぷりある。

    フランス代表のオリーズは今シーズンこれまで、自身で決めた5得点を含む、8得点に直接関係している。ムシアラとのコンビは、早くもバイエルンの伝説の2人組フランク・リベリとアリエン・ロッベンと比較されるようになった。

    コンパニ監督はこう言った――「彼のFCバイエルンでのスタートはこれ以上なく素晴らしいが、この調子を続けていかなければならない。だが、彼はプレッシャーに押しつぶされるような選手ではないと思っている。彼はただサッカーを楽しむことができる、特別な才能の持ち主だ」

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    相変わらず素晴らしいキミッヒ

    だが、コンパニ監督が早々と成功したことをオリーズのような新加入選手たちのおかげだというのは間違いだろう。この夏の主な移籍は他に2人だけで、伊藤洋輝はケガのためまだ1分も試合に出ていないし、ジョアン・パリーニャもまだ1試合しか先発していない。

    それより重要なのは、コンパニ監督が既存の才能を存分に活用していることで、とりわけヨズア・キミッヒは素晴らしい。トゥヘル前監督がこの多才なドイツ代表を守備的MFではなく右サイドバックで起用するほうが良いと思っていたことは有名だが、コンパニ監督は、4バックの前というキミッヒが好むポジションで起用することで成果をあげている。

    その結果、29歳のキミッヒはバイエルンの華麗なる舞台に戻ってきた。今シーズン、チームメイトの誰よりも多くのパスを成功させ、より多くのチャンスを創りだし、より高いポゼッション率を誇っている。

    まったく対照的に、同僚のMFレオン・ゴレツカは2試合しか出場せず、合計で10分しかプレーしていない。しかしながら、ザグレブ戦では途中出場で得点を決め、チームメイトたちは大いに喜んだ。

    「彼は我々にとって重要な選手であり、チーム内で人気がある」と、後にコンパニ監督は認めた。「全力を尽くさない者がチームに入ることはできない」

  • ローテーションが功を奏す

    結果として、選手たちは信じられないほど懸命にプレーし、激しくポジション争いをしている。実際、コンパニ監督のこれまでの指揮について注目すべきことのひとつに、選手たちをローテーションして使うことがあげられる。今シーズンすでに22人もの選手を起用し、そのうち19人が先発しているのだ。

    「彼の指揮ぶりは非常に、非常によい」と、エーバルは絶賛している。「彼はチームを最大限活用している。シーズン終了まで全員が必要とされるだろう」

    コンパニ監督が全員を幸福にすることに挑戦していることは明らかだが、報道によると、ある選手たちは、監督のコミュニケーション・スキルには改善の余地が多くあると思っているという。『キッカー』は、ホルシュタインキール戦の先発メンバーが『WhatsApp』で知らされたと報じており、ロッカールームでリーダー的な選手たちが困惑していると言われるのは、そういうところなのだ。

    しかしながら、今のアリアンツ・アレーナの雰囲気は圧倒的に良い。ベテランFWのトーマス・ミュラーは、冗談めかして、これまでの連勝で大騒ぎをしてきたから、今年のオクトーバーフェスト(9月中旬から10月上旬にかけてミュンヘンで開催されるビール祭り)で「気分を盛り上げる」ためにビールをがぶ飲みする必要はないとすら言っている。

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    待ち受ける試練

    もちろん、バイエルンから危機が去ったわけではない。就任から最初の6試合を連勝した4人の監督のうちの2人、アンチェロッティとコヴァチが、18カ月を待たずして解雇されたことは無視できない。コンパニ監督の守備力にも問題がないわけではないのだ。

    監督はマタイス・デ・リフトのマンチェスター・ユナイテッドへの移籍に反対はしなかったと言っているが、伊藤がケガで出場できないとなると、あの決断は間違っていたように思われる。バイエルンは、コンパニ監督が高いライン設定を好むせいで、ミスの多いセンターバックのダヨ・ウパメカノとキム・ミンジェに頼らざるを得なくなったのだ。

    実際にバイエルンがどれだけ良くなったかが本当にわかるのは、来月になってからだろう。次の土曜には、昨シーズンのブンデスリーガを無敗で制し、バイエルンの12年連続のブンデスリーガ制覇を阻んだチーム、レヴァークーゼンと対戦するのだ。

    ただ、バイエルンのミュンヘンでの首位決戦への準備が完璧に出来ていることは否定できない。オリーズ、ケイン、キミッヒは3人とも絶好調だし、すでにコンパニ監督は自身の監督としての実力を問題視していた批評家たちを黙らせている。

    結局のところ、彼はこれまでの試合をただ全勝しただけではない。ペップと比較されるまでになっているのである。バイエルンがこれ以上ない絶好のスタートを切ったことは間違いない。