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ジローナの若武者サヴィオはマン・Cに行くべきなのか? ベンチを温めるよりラ・リーガを切り裂く存在に

昨年、サヴィオはマンチェスター・シティでプレーしたいと明言した。

「僕の目標はマンチェスター・Cでプレーすることだ。プロ契約した時からずっと、僕の目標はマンチェスター・Cに入ることだと思っていて、そのために一生懸命やってきた」と、8月にブラジルの『PLブラジル』で語ったのだ。

これまでの彼の活躍は、この夢を叶えるのに十分なようにみえる。まさかのラ・リーガ優勝に手が届きそうなジローナで大活躍しているサヴィオは、プレミアリーグのディフェンディング・チャンピオンとの契約に合意したことが伝えられている。契約の詳細はまだ明らかになっていないが、来シーズンはジローナにレンタル移籍で戻される可能性がありそうだ。だが、彼の目標がペップ・グアルディオラ監督を感心させるチャンスを得ることであり、プレミアリーグで才能を発揮することであったなら、サヴィオは今まさにそれを十分に実行できる立場にいる。

彼がチャンスをつかんだところで誰も悪くは言えない。サヴィオは大きな野心をもった若者であり、マンチェスター・Cは誰にとっても魅力的な未来のあるチームだ。

それでも、サヴィオがいるべき場所について、もっとよいアドバイスがあってしかるべきだ。サヴィオはとてつもない才能を持った19歳で、今シーズンだけでなく、今後もずっとラ・リーガの強豪となるべきチームの、剃刀のように鋭いキレをもった選手なのだ。ジローナはこれまで、どちらかと言えばバルセロナの北側で目立たない存在であったが、サヴィオならそこにいてもスターになれる。それに対してマンチェスター・Cは、彼の成長を妨げるだけでなく、彼のキャリアを閉ざしてしまいかねない。サッカー選手あこがれのチームではあるが、早すぎる加入は将来性豊かな選手を無価値な選手にしてしまうかもしれない。

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    なぜシティはサヴィオを欲しがるのか

    確かにサヴィオは素晴らしい。ここ最近の、特にラ・リーガでブラジル人ウイングを評価する際の基準点となるのはヴィニシウス・ジュニオールだ。それでも、ジローナのミチェル監督はサヴィオとヴィニシウス・ジュニオールを比較することにいささかも躊躇しない。

    「言い過ぎだとは思うが、ヴィニシウスが現れて以来、彼ほど心を揺さぶるマンツーマンの才能を見たことがない」と、ミチェル監督は2023年9月にスペインのラジオ局カデナ・セールで語っている。

    だから基準なのだ。ヴィニシウスは間違いなくワールドクラスの選手で、サッカー界で見ていて最高に楽しい選手である。キリアン・エンバペと並び称される、世界最高の左ウイングなのだ。

    サヴィオは破壊的なドリブラーであり、セットアップにも優れた選手だ。ラ・リーガでの5得点7アシストという記録は必ずしも世界的に見て輝かしい記録というわけではない。だが、彼の自由な動きから生まれる攻撃は大いなる恐怖として機能する。

    ゴール数は少ないが、重要な局面でゴールを決めている。去年11月のラージョ・バジェカーノ戦では逆転勝利を導く決勝点を挙げたし、点の取り合いとなったアトレティコ・マドリー戦では一時勝ち越し点となるゴールを決めた。大量得点でマジョルカを下したときのとどめの5点目もサヴィオだった。

    エンターテインメント的な要素も見受けられる。サヴィオは猛烈に素早く、身軽なドリブラーであり、一瞬のフェイントやショルダー・ドロップで相手を交わす。どの動きにも目的があるように見え、シザーズはどれもリズミカルで、股抜きはワールドクラスだ。マンチェスター・Cは非常に優れた、非常にエキサイティングな選手を手に入れようとしている。

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    シティ・フットボール・クラブの産物

    当然のことながら、どうしてこの移籍が許されたのかについては疑問がある。サヴィオは規約上、フランスのリーグ・ドゥのトロワというチームから、ジローナがレンタルで借りている選手だ。いずれもシティ・フットボール・クラブ(CFG)であり、結果として彼は複雑なシステムによって「昇進」しているのである。

    そもそも、CFGはこうした類の契約のために設立されたものであり、その旗振りチームにして中核となるのがマンチェスター・シティである。バルセロナの元理事フェラン・ソリアーノのビジョンを基に、マンチェスター・Cのオーナー、シェイク・マンスールが設立したシステムで、世界中のトップクラスの選手の移籍を可能にする。2013年初めから、CFGは世界中で13チームを買収もしくは設立し、今や日本からスペインまで広がっている。

    複数のクラブを所有することは、まったく新しい考え方というわけではないが、CFGの活動は斬新であると同時に少々不安を掻き立てるものでもある。最高のレベルでは、選手とリソースの両方の移動を可能にするネットワークであり、世界中の特定のクラブに才能ある選手を集中させる、事実上のアカデミーとして機能している。その一例がラツィオのバレンティン・カステジャーノスで、ニューヨーク・シティFCで活躍した後ジローナに移籍し、その後セリエAのラツィオに売られて高収益をもたらした。

    だが、そこには厄介な真実もある。第一に、マンチェスター・Cおよび他のCFGのクラブは選手の価値を支配している。例えばサヴィオは、現在の情勢では5,000万ユーロ(約80億円)以上の価値があるはずだ。マンチェスター・Cがトロワに払うであろう実際の価格は公表されていないが、『デイリー・テレグラフ』によると、「公正な価格」であることを証明するために、プレミアリーグが厳密な監査を行うことになるという。さらに、より危険な問題なのは選手の移籍がたびたび、ネットワーク内の小規模クラブの成功を犠牲にしているということだ。例えばトロワは、そのリソースをグループを統括する中央組織が無視したために、今や2年連続で降格の危機にある。

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    リスクは報われるか

    これらのどれもサヴィオの問題ではない。カステジャーノスの問題でもなかった。2015年にマンチェスター・Cからニューヨーク・シティFCに移ったフランク・ランパードですら、違う。サッカー選手は最高のチャンスが得られるところへ行く。とてつもない可能性を秘めた、19歳のブラジル人選手であるサヴィオが、近年世界で最も成功し、強力なクラブに加入するというチャンスに背を向けることなど、できるだろうか。

    もちろん、ここで大きな力をもつのはグアルディオラ監督である。サッカー史においても、彼以上に効果的に選手に実力を発揮させ、完璧な選手にした監督はいない。彼はノリを嫌い、時には個人の突出を軽蔑することで批判されるかもしれない。しかし、磨かれるべき若い選手にとって、サッカー界でこれ以上に素晴らしい監督はいない。

    サヴィオもタイトル獲得に魅了されるに違いない。昨シーズン、マンチェスター・Cは三冠を達成し、数カ月後には少なくともひとつはトロフィーを掲げることは間違いない。来シーズンのサヴィオはジローナにレンタルで戻されるだろうと様々なところで報道されているが、勝利を渇望するチームに再移籍するのは間違いない――マンチェスターでチャンスをつかめるかどうかは別として。

    移行期のチームにも、まだわずかなチャンスがある。現在のマンチェスター・Cは複雑な段階におり、数多くの攻撃的選手たちは絶頂期に到達したばかりであり、その他に移籍が必要な選手たちがいる。ケヴィン・デ・ブライネは下降の年齢にさしかかり、マンチェスター・Cの攻撃陣に入れ替えが必要となるだろう。混沌の中にあるチームに入りこむチャンスはあると、サヴィオは感じているかもしれない。

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    克服すべき多くの問題

    それでも、ワクワクする可能性すべてを考慮しても、サヴィオの移籍が間違っているかもしれないと思う理由もある。

    まず何と言ってもクラブ内での競争の激しさがある。マンチェスター・Cは、昨年の夏にコール・パーマーとリヤド・マフレズが去った後、ここ数年では最も手薄なチームとなった。ただし、サヴィオが好み、ベストポジションである左ウイングは間違いなく、グアルディオラ監督が利用できる選択肢が最も数多くあるポジションだ。ジェレミー・ドクは昨年の夏に加入して以来、やや安定性に欠けているが、グアルディオラ監督がこのベルギー代表に心酔しているのは明らかだ。ジャック・グリーリッシュも、ようやくマンチェスターに自分の居場所を見つけたようで、昨シーズンのマンチェスター・Cの三冠達成の主力となっていた。今年、派手ではないが全公式戦で13得点10アシストの活躍をしているフィル・フォーデンも、ワイドポジションでプレーすることができる。

    グアルディオラ監督も、新しく契約した選手たちとの関係について複雑な話がある。チーム内に割って入るには十分な実力がないと感じる選手たちに、平気でベンチを温めさせる。カルヴィン・フィリップスは18カ月ほとんどピッチに立てなかった後、現在はウェストハムにレンタル移籍されている。その気持ちをよく知っているだろう。

    CFGのシステムが若い選手たちにとって良くないことすらある。マンチェスターに連れてこられた、数多くの輝かしい才能の持ち主たちが、このシステムの中でキャリアの成長を阻害され、行き詰っているのだ。フィリプ・ステヴァノヴィッチは現在、エールディヴィジ所属のRKCヴァールヴァイクにレンタルされているが、10代の頃にはトップクラスの将来性豊かな選手とみなされていた。ダリオ・サルミエントも同じで、ジローナで不完全燃焼だった後、マンチェスター・Cに戻された。パトリック・ロバーツ(サンダーランド)、アンテ・パラヴェルサ(トロワ)、ジエゴ・ホサ(ベルギー2部のロンメル)もそうだ。サヴィオが現在どれほど優秀でも、二の舞にならないとは限らない。

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    彼はグレードをあげられるか?

    話をサヴィオに戻そう。彼は直近のCFG卒業生であり、今後数年において最も将来性豊かな選手だ。CFG内での移籍に関しては、いつになく派手な契約である。当然ながら熱狂的に扱われている。ヴィニシウスとの比較は早急かつ大いに杜撰な話だが、サヴィオがいずれワールドクラスの選手となる可能性は高い。さらに、グアルディオラ監督はここ最近、マンチェスター・Cが何度も絶対的な力を発揮して、華やかな選手と仕事をすることに意欲を示しており、若きブラジル出身のサヴィオが楽観的になるのは当然だ。

    レンタルでジローナに戻るのも悪くないアイディアだ。若手には試合に出ることが必要であり、サヴィオにそれができることを示してきたクラブである。今年、ジローナがラ・リーガで優勝できなかったとしても、来シーズンにチャンピオンズリーグに出場できることはほぼ間違いない。サヴィオなら、チームを大いに盛り上げられるだけでなく、彼個人も大いに成長することだろう。

    それでも、事は慎重に運ばなければならない。これまでのことを見れば、CFGは無慈悲なシステムにもなりうる。大活躍が期待できるエキサイティングな才能の持ち主を守ろうとしないシステムなのだ。並の活躍ができなかったり、コンディションが悪かったりすれば、これまでの多くの選手がそうだったように、ネットワーク内をたらい回しされる可能性もある。さらに、マンチェスター・Cのレギュラーになるには容赦ない競争が待ち受けている。何も保証されていないのだ。

    サヴィオはグアルディオラ監督のもとでプレーしたい、マンチェスター・Cにタイトルをもたらし、世界最高の選手のひとりになりたいと思っているかもしれない。だが注意を怠れば、その夢を追いかける中で、自身のキャリアを阻害するような決断を下してしまう可能性もある。