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Atalanta overachievers Europa League final GFXGOAL

アタランタ&ガスペリーニの“プライスレス”な物語:カネのない地方小クラブがヨーロッパリーグ優勝を成し遂げた理由

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ジャン・ピエロ・ガスペリーニは、監督になってから一度もタイトルを取ったことがなかった。アタランタは、61年間一度もタイトルを取ったことがなかった。先週もコッパ・イタリアでまたしても決勝で涙を呑んだばかりである(ガスペリーニ体制で3回目)。

だからこそ、361日間・51試合無敗でブンデスリーガ王者に輝いたレヴァークーゼンに勝てる可能性があると考えた人間はほとんどいなかったはずだ。多くの専門家もそう予想したし、会見で「決勝の結果は関係ないさ」と指揮官が語った時には「監督すらそう考えているのでは」との見方も広まった。

だが、66歳の老将はこうも言った。「アタランタが(決勝の地)ダブリンにいること、それ自体がある種の優勝なんだ」。そして、まさにその通りだった。ガスペリーニとアタランタの功績は、それだけで最大限の敬意を得るに値するものだった。とはいえ、誰にも止められないと思われたシャビ・アロンソのチームを完璧な形で撃破しなければ、ふさわしい称賛を得ることはできなかったかもしれない。今ようやく、彼らは堂々と獲得したタイトルを掲げ、世界中の賛辞を集めている。

  • gasperini(C)Getty Images

    「目標は降格しないこと」

    2010年、元所属選手であり地元の名士でもあるアントニオ・ペルカッシがオーナーになった時、アタランタはピッチ内外の問題でセリエBに降格していた。最初の目標はセリエAに復帰することで、次の目標は残留し続けることだった。今でもペルカッシは、毎年シーズン開幕時の目標は「降格しないこと」だと言っている。そして、それは実にもっともなことだった。

    アタランタはプロビンチャーレの代表格で、改修前のホームスタジアムは15000人程度の収容人数だった。収入の大部分は選手の売却であり、年間2億ユーロ(約334億円)程度。『デロイト』の「フットボール・マネー・リーグ」トップ20に入るようなクラブではない。

    そんなクラブを、ペルカッシとガスペリーニは5年間で3度のチャンピオンズリーグ出場権獲得に導くと、今回ヨーロッパリーグで偉業を達成したのだ。そしてさらに印象的なのは、彼らが結果だけを目指したのではなく、魅力的なフットボールを展開しながらすべてを達成したことである。

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  • GasperiniGetty Images

    「あんたのアイディアは良い」

    ガスペリーニのスタートは決して良いものではなかった。就任した2016-17シーズンは開幕5試合で4敗、ダントツの降格候補だった。そんな苦しい中、10月のある日に指揮官はベルガモの自宅前でひとりの男に声をかけられたという。当然ながら罵倒されることを恐れたそうだ。指揮官は当時のことを『ガゼッタ・デロ・スポルト』のインタビューで振り返っている。

    「『あんたのアイディアは良いね。あんたなら、きっとここでうまくやっていける』と言われたんだ。その時はからかわれているんだと思ってしまったけどね」

    そして迎えた次節、アタランタはクロトーネを3-1で撃破する。ガスペリーニは自信を手にしただけでなく、特別なディナーも手にしていたようだ。

    「また例の男に会ったんだ。彼は自宅のディナーに招待してくれた。リゾットは絶品だった。その男、パオロは今や大親友だよ」

    地元サポーターとペルカッシ家がチームを支え続けたことが、その後のガスペリーニ監督の成功に重要な役割を果たしたのは間違いない。だが、監督自身が自分や自分のサッカー哲学に信念を貫いたことも成功の要因であった。

  • Atalanta GasperiniGetty Images

    カネはなくとも野心はある

    ガスペリーニは監督としての10年間、「守備で数的優位を保つことが必須だった」と素直に認めている。それでも2013年~2016年にかけてジェノアで2度目の指揮を執っていた時、ユヴェントス戦を前にあることをひらめく。いつもの3-4-3を維持しつつも、ポゼッション時には最終ラインで1対1になることを許容し、「(中盤以降で)選手を1人余らせて柔軟に戦術変更できる」形を試していくことになる。

    「リスクはあった」。指揮官は上述のインタビューで語る。「今アタランタでやっている、守備陣がコンスタントに攻撃に加わる形はあの時の直感から生まれたんだ」

    こうしたリスク覚悟のチャレンジは、時に大失敗も経験した。特にビッグクラブとの対戦はそうだ。「5失点する旅に、他のやり方でプレーすることも考えた」と、最近になって認めている。「だが私とアシスタントコーチのトゥリオ・グリッティは、二人とも頑固なんだ。今シーズン我々は大躍進したが、同時に自分たちのアイデンティティも続けている」

    実際、アタランタはセリエAで5位以内を確定させ、すでに来シーズンのチャンピオンズリーグ出場を決めた。コッパ・イタリアの決勝にも進んでいる。選手たちの給与総額が2900万ユーロ(約49億円)程度しかないクラブにとって、これは快挙だ(ユーヴェは7410万ユーロ)。

    ガスペリーニが証明したことの意味は大きい。プロビンチャーレでもビッグクラブに勝てること、ただ勝つのではなく試合をコントロールできること、そしてヨーロッパのタイトルを勝ち取れるということ。

    「カネがないからと言って、野心家になれないというわけではない。良いプレーをしていれば大いに結果が出せると私は固く信じている」

    だが、ガスペリーニも強調するように、アタランタの台頭はひとえにペルカッシ家あってのことだ。「アタランタのように良いプレーをして自分たちを表現しているチームの後ろには、いつも偉大なオーナーがいるものだ」。元イタリア代表指揮官チェーザレ・プランデッリは『ガゼッタ』で語る。「オーナーがしっかりした考えの持ち主ならば、チームに大いに役立つ。ジャン・ピエロの銅像がベルガモに立つ時は、ペルカッシ家と並んでいるだろう」

  • Gasperini AtalantaGetty

    成功の鍵

    アタランタの会長を務めるペルカッシは裕福な男だ。24歳で選手生活を終えた後、ベネトンで働き、化粧品業界で財産を築いた。だが、イタリアで最高の選手を買うカネはない。だからこそ、冷静かつ堅実に動き続ける。以前に『スカイ』で「帳簿の収支を合わせることが我々には何よりも重要だ」と語っている。実際、イタリアだけでなくヨーロッパ全体で、アタランタほど経営がうまくいっているクラブはないだろう。

    アタランタは何年も連続して黒字を出し、同時に地方自治体からスタジアムを買い取り(セリエAでスタジアムを保有しているのは5クラブだけ)、同時にUEFA基準に適応するために改修も進めてきた。来シーズン開幕までには最終段階が完了する予定で、収容人数は一気に25000人となる。

    「アタランタ史上最大の投資だったが、我々は誇りに思っている。アタランタとベルガモの人々は、このスタジアムに値するんだ」。ルカ・ペルカッシ言う。「スタンドから町の城壁が見えるというのは、本当に意味深いものだ。このスタジアムはチームとファンにとって、素晴らしいホームになる」

    では、アタランタはどうやってこれらすべてを成し遂げたのか。イタリアの他のチームとは全く違う方法で選手を発掘し、育ててきたのである。

  • Rasmus Hojlund Atalanta 2022-23Getty

    「ターニングポイント」

    初めてクラブの会長となった1990年~1994年の間、ペルカッシはトップ選手を育てる施設を創設すべく、コモのフェルモ・ファヴィーニを雇った。その金脈を、ガスペリーニは最大限活用している。今やアタランタのアカデミーはセリエAで最も多くの名選手を輩出していると言っていい。指揮官は語る。

    「(8年前)ユースにはトップチームに昇格できそうな選手がたくさんいたが、ほとんど契約しなかった。あれがターニングポイントだった。あの時からずっと、アタランタは少しずつ変わっている」

    アタランタがヨーロッパ最高のチームの1つになったのは、フランク・ケシエ、アンドレア・コンティ、ロベルト・ガリアルディーニ、マッティア・カルダーラ、アレッサンドロ・バストーニといったアカデミー出身選手をトップチームに入れてから他のクラブに移籍させ、大きな利益をあげてきたからだ。他にも、トップチームではほとんど活躍しなかったデヤン・クルゼフスキやアマド・ディアロといったユースのスターでも多額の資金を集めた。

    その後、たとえばラスムス・ホイルンドは、2022年8月にシュトゥルム・グラーツから1700万ユーロ(約28億円)で獲得し、翌年には4倍以上の金額でマンチェスター・ユナイテッドに放出した。元テクニカル・ディレクターのジョヴァンニ・サルトーリが発足させた素晴らしいスカウトとリクルートのチームが完璧な仕事をした一例である。

  • Atalanta HDGetty

    “プライスレス”な物語

    これら堅実かつ挑戦的なオーナーと指揮官の積み上げてきたものが見を結び、アタランタはクラブ初のヨーロッパリーグ優勝を成し遂げたのだ。

    この偉業は、クラブの全関係者が一丸となって共通の目標に向けて働けば偉大なことを達成できるという、輝かしいまでの“お手本”である。「アイデア、管理能力、帰属意識が重要だ」。決勝前夜、ガスペリーニは語った。「我々はすでに、どんなに小規模な環境で人数が少なくとも、充分に地域に根差したチームを作ることが可能であることを証明してきた。我々の素晴らしい旅は、おそらく数年後にはさらに高く評価されることだろう」

    いや、今でもすでに高く評価されている。あの優勝は、ガスペリーニとアタランタの評価を一変させた。彼らの勝利とその素晴らしいパフォーマンスは、世界の目をすべてベルガモに向けさせた。5年以上かけてきた成果は、フットボール界最大の偉業の1つとして認識されるべきなのだ。

    ジョゼップ・グアルディオラも、カルロ・アンチェロッティも、ユルゲン・クロップでさえも、ガスペリーニとアタランタが成し遂げた偉業は達成していない。同じような例を探すならば、サー・アレックス・ファーガソンがアバディーンで、またはギー・ルーがオセールでやったことだろうか。

    「常にタイトルが獲得できるわけではない」

    4月、ガスペリーニは『スカイ』で言った。リヴァプール本拠地アンフィールドで2勝目を挙げたイタリア史上初のチームになった後だ。

    「だが、私たちのようなクラブが歴史を作れたのならば、それは非常に価値のあることでもあるね」

    サッカーがカネの力に支配される現代において、彼らの物語は文字通り“プライスレス”だ。このハッピーエンドとタイトル獲得は、常に称賛されるものである。