De Jong Xavi Felix Barcelona GFXGetty/GOAL

フレンキー・デ・ヨング負傷で窮地に立つバルセロナ。中盤のマエストロがシャビ監督のチームを動かす

土曜のセルタ・ビーゴ線で勝利したバルセロナは、何の文句もなく復活劇を続けていくはずだった。この試合、ホームながら82分まで2-0でリードされていたにもかかわらず、その後の8分間で3得点を挙げ、3-2で勝利すると、ラ・リーガの首位に立ったのである。客観的に見て、この勝利は素晴らしいものであり、もしシャビ監督率いるバルセロナが2023-24シーズンに国内リーグ2連覇を果たすことになれば、「今シーズンを決定づけた」試合と言われることになりそうな勝利だった。現在のバルサには何の不満もないはずだが、それでもこの試合の勝ち方には落胆させるものがあった。

もちろん試合の最終盤での得点は称えられるべきものである。しかし、その内容は不安を感じさせるものだった。バルサは優勝を目指して戦いながら、これまでどこか不安定だった。チームの統率がとれておらず、鋭さはあっても正確さに欠けていて、冷静さがなかった。根本的に、勝てたのは短時間に非の打ち所がない才能が3回、別々の瞬間にたまたま発揮されたおかげだった。

そんなカオスが起こったのは、中盤の真ん中に欠かすことのできない選手が不在だったせいと言える。フレンキー・デ・ヨングは、メトロノームのように規則正しく相手を打ち砕くことのできる選手だが、前半のうちに負傷して足を引きずりながらピッチを後にしていたのだ。そして、どうやら最大6週間は試合に出られないらしい。

バルサは今シーズン、すでにケガ人続出で苦しんでいる。ディフェンスのスター、ロナルド・アラウーホは1カ月の療養後の復帰に向けて進んでいる最中だし、中盤のダイナモであるペドリはリーグ2週目から出場できない状態にある。だが、デ・ヨングはバルサにとって最大の損失と言えるだろう。一度は切り捨てられたこともあるこのオランダ代表は、今やチームで最も重要な選手となっており、彼がいるといないのとではバルサはまったく違うチームになってしまうだろう。

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    デ・ヨングがそれほど重要な選手である理由

    デ・ヨングは現在のバルセロナのチームの中で、最も信頼できる働きをしている。セルヒオ・ブスケツの再来と言われた2021年の春ごろから一直線に成長してきたデ・ヨングは、現在バルサの命運を握る選手となっている。ブスケツとデ・ヨングは中盤の底で最高のコンビネーションを作りあげ、2人のタンデムはブスケツをより現実的に、デ・ヨングをより冒険的にしていった。一風変わったコンビだったが、これを発展させることで、バルセロナは2023年にスペイン国内のタイトルを獲得することができたのだった。

    夏にブスケツがインテル・マイアミに移籍したことで、デ・ヨングの役割が危うくなるのではないかと思われていた。ところが逆に、デ・ヨングはオリオル・ロメウの隣で間違いなく成長を遂げ、冒険的ではなくなったものの確実にブスケツと同じような選手になっていった。事実上、ブスケツがやっていたことすべてをやっているのだ。ただし、ブスケツほど上手くはない(順位表中位のジローナから800万ユーロ/約12億円で契約した選手にとっては当然のことだが)。

    実際、デ・ヨングは絶頂期を迎えつつある選手として当然の成長を遂げてきている。常勝チームにおいて明確な役割を与えられ、それを自分のものにしつつあるのだ。ボックス・トゥ・ボックスの司令塔は、もはや必ずしもスタイリッシュではない。敵陣に切りこんでいき、最後のパスを出すのに完璧な角度を作り出すことがすべてだ。現代のミッドフィルダーは、ボールを受けたら素早く前線に運ぶのが普通になっている。ヨズア・キミッヒ やロドリのような、この役割において最高の選手でさえ、デ・ヨングのようなドリブルや表現力はない。

    元アヤックスのデ・ヨングは違う。ピッチの深いところからプレーを始め、ボールを前線に運ぶと、ゆっくりと考えて物事を上手く運んでいく。依然として攻撃方法の発見を学んでいる最中のバルサにおいて鍵となる選手であり、中盤の底ですべてをセットアップする定評のある存在である。

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  • Pedri(C)Getty Images

    優秀な代役

    それがなければ、どんなにシャビ監督がこっそりと深いところを変えようと思っていても、バルサは完全に違うチームである。ペドリの全治1年のケガは復調したジョアン・フェリックスや知略に長けたイルカイ・ギュンドアンが解決してくれているし、ハフィーニャが開幕戦でヘタフェ相手にくらった愚かなレッドカードによる出場停止はラミン・ヤマルの出現で修繕された(ラミン・ヤマルはすぐに働きすぎになりそうなスペインの最新の若手選手である)。おそらくは昨シーズンはヨーロッパで最も安定感のあるディフェンダーであったアラウーホも、筋肉の問題で苦しんでいた時期から回復しつつある。

    これらは数年前のバルセロナならガタついたであろう衝撃だ。昨年、ヨーロッパ・リーグのマンチェスター・ユナイテッド戦でペドリが負ったハムストリングのケガは、たちまちバルセロナに影響し、ヨーロッパ・リーグの敗退だけではなく、その後にコパ・デル・レイ準決勝でレアル・マドリーに大敗することにもつながった。昨年の秋、アラウーホを欠いたバルサはチャンピオンズリーグでも大崩れし、インテルやバイエルン・ミュンヘン相手に守備が崩壊して非難を浴びた。

    今年のチームも試練が続くだろう。だが、フェリックス, ガビ、ギュンドアンといった別の選択肢は、まったく同じではない。解決策がプラグ・アンド・プレーで機能したとしても、しい状況であることは確かだ。

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    圧倒的な代役

    もちろん、シャビ監督は穴を埋める選手たちを確保している。そうする必要があるのだ。月曜の記者会見では、アカデミー出身のフェルミン・ロペスや、右サイドバックにコンバートされたセルジ・ロベルトが必要な時に試合にインパクトを与えられたことを語った。

    「我々には代わりとなる選手がおり、そのひとりがセルジ・ロベルトだ。彼は、監督からすれば素晴らしい切り札であり、贅沢な切り札だ。フェルミンと同様、彼も大いに我々を助けてくれる。重要な選手になりうる」と、シャビ監督は火曜のマジョルカ戦を前に語った。

    だが、2人はいずれもデ・ヨングのような中盤のマエストロではない。ロベルトは直近で出場した50試合中、右サイドバックで先発したのが33試合、ミッドフィルダーとしては11試合のみだった。通常は4-3-3のシステムの右サイドで起用されている。ボールがないところでの動きがよく、サイドで使われているのだ。シャビ監督は以前、ロベルトはディフェンダーとしての本能を生まれ持っており、プレスに優れたミッドフィルダーだと語ったことがある。だが、ロベルトはボックス型の中盤の左サイドでプレーする選手では決してなく、より深いところから指示を出す選手でもない。

    一方、フェルミンは攻撃的ミッドフィルダーで、ピッチの高い目の位置で起用するのがベストだ。アタッキングサードのエキスパートである。事実、キラーパスや危険なシュートを放つことができる。ブラウグラナでの唯一の重要な時間はプレシーズンマッチで、大きく変わったアーセナルやレアル・マドリー相手に非常に印象的な2つのパフォーマンスをした。苦しんでいるマジョルカ相手なら守備面での常識に欠けることも問題ではないが、今後数週間、より攻撃的なチーム相手にシャビ監督が彼を信頼できるかどうかは難しいところだ。

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    デ・ヨングがいない試合

    今後のバルサの対戦相手の多くが勝ちやすいチームであるとしても、大人しい相手ではない。火曜にマジョルカと対戦した後、72時間足らずでホームに戻り、セビージャと対戦することになる。今シーズンこれまでは苦戦しているセビージャだが、経験豊富で誰が相手でも果敢に挑戦していくチームだ。

    その後、ポルトではClグルーブステージの中で最もタフになりそうな試合に向かい、さらにグラナダでのリーグ戦の1試合を挟んで、インターナショナル・ブレイクとなる。

    それが明けると、いつだって難敵のアトレティック・クルブとホームで戦い、シャフタール・ドネツクとの試合を経て、10月28日に今シーズン最初のクラシコが行われる。デ・ヨングの初期の診断では回復に6週間かかるだろうということで、レアル・マドリーとの試合には間に合わない可能性が高い。レアル・マドリーの中盤は優秀であり、いつもよりデ・ヨングの存在が重要になるはずの試合である。

    クラシコ後のアウェイのレアル・ソシエダ戦とシャフタール・ドネツク戦にもデ・ヨングがいない可能性は高く、シャビ監督は最新の問題に対応できるしっかりした解決策を確保する必要があるだろう。

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    システム変更は必要か

    バルサの監督は、システムの変更が必要かもしれないという可能性と向き合わなければならない。昨シーズンのシャビ監督のチームは、ボックス型の中盤でポゼッションをするときに最も効果的となった。ブスケツとデ・ヨングが中盤の底で二重の要となり、ガビとペドリがピッチの高い位置でそれぞれのポジションを占めていた。ペドリの代わりにギュンドアンを入れて、このシステムは今年もずっとうまく機能していた。

    だがフェリックスの加入で事態は変化した。フェリックスは同じようには機能していないのだ。戦術理解が足りないのか、監督が自己表現を強要しているせいなのか、おそらくはその両方のせいだろうが、フェリックスはどちらかと言うとセカンド・ストライカーのようになり、バルサのシステムはエース・ストライカーと2人のウィング、3人の確かなミッドフィルダーがいる古典的な4-3-3をより想起させるようなものに変化した。

    そしておそらく、これが今、最も正しいシステムであろう。攻撃的フルバックが広く展開して中盤に人数をかけることで、バルサは土曜のセルタ戦に勝利した。サイドにデ・ヨングがいないため、バルサはシンプルな試合をしたのだ。ロメウが外に出たときはギュンドアンとガビが中盤に上がり、レヴァンドフスキとフェリックスとハフィーニャかヤマルが前線に上がる。ブラウグラナは暫定的に試合の大半を勝つための力を必要以上に持っているはずだ。

    事実、あれは深さを反転させたものである。主要エリアで使えるオプションを持っているということは、選手個々のパフォーマンスに関しては低下しない可能性があるということだ。だが、これらのピースは有能ではあるものの、違った形で機能させなければならない可能性がある。

    バルサがラ・リーガ連覇を目指し、チャンピオンズリーグで勝ち進むつもりなら(どうやらうまく行きつつあるが)、最も重要な選手がいない試合での戦術の調整が必要になるだろう。今はまだ長いシーズンが始まったばかりではあるが、バルセロナが浮上し続けるには変化が必要に違いない。