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運を味方につけたフランス。デシャン監督はエンバペの並外れた攻撃的才能を解き放つことができるのか

フランスがベルギー戦に1対0で辛勝し、幸運にもユーロ2024の準々決勝進出を決めた後、ウィリアン・サリバはレ・ブルーの戦い方が「褒められていいものだ」と主張した。だが、そうはいかないだろう――フランスが退屈なサッカーでサポーターを眠らせ続けることをやめない限りは。

サリバをはじめDF陣が敵に対するやり方には褒めることが数多くあるかもしれない。これまでのところ他のどのチームよりも無失点試合が多いのだ。だが、メディアの関心は終始、フランスの攻撃陣が機能不全に陥っていることに集中している。そして、それは当然のことだ。

ディディエ・デシャン監督には攻撃的才能に優れた選手が大勢いるというのに、ドイツに来てからフランスは3得点しかしていない。そのうち2得点がオウンゴールとPKだ。これは衝撃的な数字であり、実際、とんでもなく恥ずかしい数字である。だが、デシャン監督は気にしていない。これまでもずっとそうだった。

  • Didier Deschamps Michel Platini FranceGetty

    水を運んで勝利を

    マルセイユやユヴェントス、フランス代表で同僚だったエリック・カントナは、選手時代のデシャン監督について創造性には欠けるが「水を運んで」勝利をもたらす選手だと言っていた。つまり、ユヴェントスのかの有名な勝利至上主義の格言「勝利は重要なのではなく、唯一のもの」を完全に自分のものとし、徹底的に体現していたのである。だから、監督となった彼が最も保守的であるとしても少しも驚くことではない。

    「最高のレベルにおいては、堅固なディフェンスなくして何も得るものはない」とデシャン監督はかつて言ったことがある。「ひとつの試合では勝てるだろう。だが、大会を優勝できるか?できない」

    この言葉は、サー・アレックス・ファーガソンの「攻撃は試合を勝たせる。守備はタイトルをもたらす」という言葉を思い起こさせる。だが、スコットランド出身で頑固と言えど、サー・ファーガソンは決してデシャン監督ほどネガティブではなかった。

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  • Didier Deschamps France 2024Getty Images

    「繰り返し、繰り返し、繰り返し」

    デシャン監督はある程度は正しいことではあるが、国際サッカーには現実主義が不可欠だと主張している。「戦術を練習し、間違いを正して変更する時間がたった15日から3週間しかないのに、進化するのは難しい」と6年前に言っていた。

    「選手たちは賢いが、クラブではそれぞれのやり方でプレーしている。レアル・マドリーの監督がパリ・サンジェルマンやチェルシーの監督と同じことを求めるはずがない。だから、代表では全員がプレーできる戦術プランを見つけることが必要だ。私の目標は選手ひとりひとりが最大限活躍できるようにすることで、それを繰り返し、繰り返し、繰り返し、やるしかない」

    だが問題は、同じことを何度も何度もすることで、ベルギー戦の後にデシャン監督が称賛した「良い習慣」が身に着くとしても、それは代表を痛ましいほど予測可能なチームにしてしまうリスクもあるということだ。実際、ドイツでのフランスのプレーには想像性がまったく感じられない。それはおそらく、12年間課されてきたディフェンス至上主義にどっぷり浸かってきた結果であろう。

  • Deschamps World Cup 2018Getty

    「ロシアでの結果は私の正しさを証明」

    2018年のワールドカップ優勝の後、デシャン監督が方針を転換するのではないかと期待されたが、監督の態度は明確だった――「うまく行っているのに、変える必要はない」。

    「他のやり方でも優勝できたかもしれない」とデシャン監督は認めた。「だが、私が方針を変えれば私を批判する人々を喜ばせるだけだ。ロシアでの結果は私の正しさを証明した」

    デシャン監督はユーロでも自身の正しさを証明できると自信をもっている。実際、サリバと同じく監督もすでにドイツでのフランスのプレーはもっと称賛されてもいいと主張しており、ベルギー戦での1対0の勝利の後の喜び方が大げさだとの指摘に腹を立てていた。

    「私は準々決勝進出を大いに誇りに思う」と月曜の夜、デュッセルドルフで監督は記者たちに語った。

    「予想されていたことだとしても、(この快挙を)過小評価してはならない。ハイレベルな戦いで、非常に接戦だった。勝ったのは我々で、我々はそれに値するプレーをした。今この時を楽しむべきだ。調子に乗るつもりはないが、我々は準々決勝に進出したのだ」

  • Kylian Mbappe France Poland Euro 2024Getty

    より多くのチャンスを

    「もっと多くのチャンスを作りたい」

    だが、今はどうなのか、という疑問はある。というのも、フランスのゼロ・リスク戦略は持続可能ではないからだ。

    ユーロの歴史を振り返ると、オウンゴールのおかげで1対0で勝ちあがったチームは過去に5つある。デシャン監督のフランスはそのうちの3つを占めており、彼がいつも言うとおり、チームにはたまにはちょっとした運が必要だろうが、最終的にはその運を使い果たす可能性が高い。

    デシャン監督は、ベルギーに対してフランスが「待ちの試合」をしたことを正当化し、むしろまったくの皮肉なしに「慎重な」試合だったと言って楽しんでいるようだった。だが、監督は「ポゼッションだけで勝つことはできない。もっと多くのチャンスを作りたい」とも言っている。

    この目的を果たす方法のひとつは、もっと攻撃的な布陣でプレーすることだろう。

  • Olivier Giroud FranceGetty

    いよいよジルーの出番か

    ハンブルグでのポルトガルとの準々決勝の激突にはアドリアン・ラビオが出場停止であるため、ベルギー戦では右ウィングで実力を無駄遣いしたアントワーヌ・グリーズマンが、中盤でハイブリッドな役割を引き受けるべきである。ドイツに来て初めてオリヴィエ・ジルーが先発する絶好の時が来たとも思われる。グルーブステージでは途中出場の機会しか与えられず、ベルギー戦ではまったく起用されなかった。

    デシャン監督はキリアン・エンバペを最大限活用すべく、あらゆる手を打った。フランス代表の正統派の背番号9と並べることはしなかったが、レ・ブルーの監督はエンバペがノックアウト方式での戦いに向いていることをよく知っている。ジルーはもうあまり動き回れないかもしれないが、フランスの前線で素晴らしい的となってくれるだろう。ジュール・クンデたちが素晴らしいクロスを空中高くあげた時、ふらふらしてしまうマルクス・テュラムよりは、はるかに良い仕事をすることは間違いない。

    だが、もっと可能性が高いのは期待はずれだが危険なポルトガルに対して、デシャン監督が用心すべきサイドを間違えることだ。監督はラビオの代わりに中盤にユスフ・フォファナかエドゥアルド・カマヴィンガを起用するだろう。ウォーレン・ザイール=エメリのほうがずっとエキサイティングで推進力があるが、ユーロではまだ1分もプレーしていない。

    つまり、我々はまたしてもグリーズマンが場違いな右ウィングにいるのを見ることになりそうだ。もしくは先発を外されるかもしれない。その代わり、ポーランド戦ではエンバペと素晴らしいコンビネーションを見せたウスマヌ・デンベレをブラッドリー・バルコラの前に置いてサイドで起用し、テュラムに代わってランダル・コロ・ムアニを入れるという、正気とも思えぬ一貫性を欠いた戦術が取られるだろうか。

  • Didier Deschamps FranceGetty

    リスク

    だが、デシャン監督の決意がどうあれ、フランスの守備のラインは変わらないと思われる。選手は変わるかもしれず、フォーメーションも同じではないかもしれないが、安全第一の哲学は変わらないだろう。

    もっと積極的な策を求める声は何年も前から上がっていたが、デシャン監督は聞く耳をもたない。「変えることは可能かもしれないが、リスキーだ」と、2018年のワールドカップの後に言っていた。デシャン監督は決して「リスキー」なことをせず、前例を踏襲する。見ていて退屈だが、打ち負かすのは非常に困難だ。

    その理由のひとつは、選手たちが監督と監督のやり方を完全に信頼していることにある。更衣室で不満がつぶやかれることはなく、ゲームプランに納得しない選手がいるという証拠はない。

    たとえばグリーズマンは、自分にまったく合っていない役割を任されることにも何の問題もないと言っている。むしろ、ベルギー戦でのフランスの戦術を正当化し、デシャン監督と同じ考えであるようだ。『ビーイン・スポーツ』でこう言っていた――「素晴らしい守備なしには、前に進めない」。

    ラビオは14日の日曜にベルリンでトロフィーを掲げられるのであれば、選手たちは今までどおりのプレーを続けることを「いいことだ」と思っていると言っている。「唯一の目標は勝つことだ」と、RMCスポーツで語った。

    一方、サリバがデシャン監督の指示に従う以上に監督を擁護しなければならないことにフラストレーションを感じていることは明らかだ。

    「我々はこんなに強いチームだ。コンパクトで、堅固なブロックを敷いている」と、ESPNで語った。「我々を相手に戦うことがどれだけ難しいか、みんなわかっていない。我々は敵に対して非常にハードに相対している」

    だが、彼らの試合を見るのもハードだ。悲しいことである。フランスは『ビューティフル・ゲーム』の素晴らしい伝道師になれるはずのチームなのに、監督は美しくなくとも勝利を収めることに満足している。あの日の最後、デシャン監督は自身の評判をまったく気にしていなかった。ただ勝つことだけを考えているのだ。

    デシャン監督にとって、結果は常に手段を正当化するものだ。たとえそれが、他のすべての人々を思案に暮れさせるとしても。