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テン・ハーグの思い通りの補強。マン・UはプレミアとCLでの復活を目指さなければならない

「良かっただけでは十分ではない」がエリック・テン・ハーグ監督のモットーである。期待以上だったデビューシーズンを終え、マンチェスター・ユナイテッドはステップアップの時を迎えた。非常に実りの多かった移籍市場を終え、来シーズンの赤い悪魔は飛躍しなければならない。

昨夏、テン・ハーグ監督はここ30年で最少の勝ち点しかプレミアリーグで獲得できなかった大混乱のチームを立て直すべく、2億1000万ポンドを使うことが認められた。チームを3位に導き、6年ぶりに主要タイトル獲得を果たした今、このオランダ人監督は昨シーズン成し遂げた進歩を完成させるべく、再びクラブから大々的なバックアップを受け、1億7000万ポンドの補強資金を託されたのであった。

昨夏の移籍市場でマンチェスター・Uは散弾銃を打つようなやり方をした。ブライトンとブレントフォードに衝撃的な負けを喫した後、カゼミーロと契約し、移籍最終日に条件をはるかに上回る金額を払ってアントニーと契約したのだ。

今シーズン、クラブは弱点と認識されるすべてのエリアを補強するため、ターゲットを絞って移籍活動を展開した。テン・ハーグ監督のもとには欲しかった人材が集められ、前任者には欠けていたクラブの上層部とチームに対して権威をもつようになったのだ。

テン・ハーグ監督は、タイトル競争にチームを導き、マンチェスター・シティをはねのけて、チームの期待に応えなければならない。チャンピオンズリーグへ戻るという本気の表明をすることも必要だ。

  • Wout Weghorst Manchester United 2023Getty Images

    不十分だったヴェグホストとマルシャル

    マンチェスター・Uが強化しなければならないことが最もはっきりしているエリアは前線だ。昨シーズン、プレミアリーグを3位で終了したが、得点はたったの58点。9位だったブレントフォードと同数で、上位6チームの中では最少だった。

    無得点の試合でも、あらゆる種類のチャンスを作りあげていたが、ボールをネットに叩きこむ選手がおらず、特に5月にはウェストハムとブライトンに惜敗した。シーズン後半にはセンターフォワードの選択肢がアントニー・マルシャルとボウト・ヴェグホストしかいなかった。

    マルシャルはケガで31試合に出場できず、シーズン中ずっと90分プレーできる試合がなかった。ヴェグホストはプレミアリーグ17試合に出場したが、ゴールを挙げることなくシーズンを終えた。

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  • Rasmus Hojlund DenmarkGetty

    攻撃をヒートアップさせるホイルンド

    だが、ラスムス・ホイルンドと契約することで、マンチェスター・Uの前線は相手を震えあがらせるものとなるだろう。このデンマーク代表のストライカーは、ヨーロッパの五大リーグのひとつで1シーズンを過ごしたばかり。まだ粗削りで実績が少ないが、とてつもないポテンシャルを秘めている。

    セリエAのアタランタで挙げた9得点は、7000万ポンドの選手にしては多いとは言えないかもしれないが、たった20試合でのことである。デンマーク代表としてはゴールを量産しており、デビュー戦でのハットトリックを含む、4試合で6得点を決めている。

    戦車のような体格で、フィジカルの強さが要求されるプレミアリーグにはうってつけであるだけでなく、素晴らしいスピードも有している。マンチェスター・Uの攻撃の中心となることもでき、ワイドに開くフォワードのマーカス・ラッシュフォードやアントニーへのプレッシャーを軽減することもできるだろう。

    テン・ハーグ監督やマンチェスター・Uのファンが契約を夢見る選手はハリー・ケインだが、20歳のホイルンドは天井知らずの、ワクワクするような未来を予想させる。トッテナムのストライカーであるケインは最近30歳になったが、ホイルンドは今後10年以上クラブで活躍するか、より高い金額で売りに出せるようになる可能性をもっている。

  • David de Gea Manchester United 2022-23Getty

    GKの変更

    クリスティアーノ・ロナウドがクラブを去った日から、あるいはおそらく、昨夏にC・ロナウドが移籍に向けて動きはじめた頃から、マンチェスター・Uにストライカーが必要なことは明らかだった。だが、新しいゴールキーパーが必要であることも同じくらい明らかだった。ダビド・デ・ヘアはボール扱いが拙いことをスーパープレーで補ってきた。マンチェスター・Uは期間を短くして彼と新しい契約を交わす用意ができていた。だが、シーズン終了にむけてミスを連発し、クラブは姿勢を変えた。

    マンチェスター・Uがデ・ヘアの未来に決着をつける気になった最終的な要因は、デ・ヘアがもはや有能なシュートストッパーだと思えなくなったからでもある。ウェストハム戦での失態や、FAカップ決勝での残念なパフォーマンスがそれを決定づけた。

    それに対し、チャンピオンズリーグ決勝のインテル戦でのアンドレ・オナナのパフォーマンスは、前向きに考えてボールを扱えるゴールキーパーがチームを改革できることを示した。マンチェスター・U はデ・ヘアに背を向け、テン・ハーグ監督がアヤックスで指揮を執っていた時の背番号1であるオナナ獲得に全力を尽くしたのだった。

  • Andre Onana Manchester United 2023Getty

    オナナが可能性の世界を開く

    レアル・マドリー戦やドルトムント戦でのオナナの勇敢なプレーはファンを興奮させ、彼の情熱とメンタリティも、サポーターたちがたちまち彼を温かく迎えることにつながった。足下の技術やパスレンジの広さはマンチェスター・Uに可能性の世界を開かせ、昨シーズンとはまったく異なるプレーをさせることができた。デ・ヘアはプレッシャーがかかると自信をもって後方からプレーすることができないと知った指揮官は現実的にならざるをえなかった。

    テン・ハーグ監督は試合中のオナナに関して世界最高のゴールキーパーの一人だと評する。

    「昨シーズン、彼はそのことを証明したと思っている。だが、新しいクラブに来たのだから、ここでそれを証明しなければならない」

    「彼には可能性がある。その点において、我々の試合をよりよくするスキルがあるし、間違いなく我々のチームを救ってくれるだろう」

  • Mason Mount Man Utd 2023-24Getty Images

    マウントのダイナミズムとセットプレー

    マンチェスター・Uが強化しなければならないもうひとつのエリアが、チームの指揮と攻撃へのフィードをブルーノ・フェルナンデスに任せすぎている中盤だった。テン・ハーグ監督は、メイソン・マウントを必要な選手だと感じていた。マウントは5年前、アヤックスの監督としてエールディヴィジで対戦したフィテッセにいたとき、わずか18歳だった。

    マウントはチームにバリエーションと深さ、ダイナミズムを与えることだろう。ボックス・トゥ・ボックスのミッドフィルダーとして、クリスティアン・エリクセンのアップグレード版であり、右からも左からも攻撃できる。うってつけなのは背番号8としてのポジションである。

    ボールを捉える才能にも秀でており、セットプレーでも重要な戦力となりうる。2021-22シーズンにはプレミアリーグのどの選手よりも多く、セットプレーからの得点につながるプレーをした。フリーキックから決定的なボールを出したり、直接決めたりすることもあった。そのエリアは、マンチェスター・Uが是が非でも改善する必要のあるエリアだったのだ。昨シーズン、セットプレーからの得点はたったの5点。プレミアリーグ最少で、さらにその前のシーズンは7得点で18位であった。

    マウントはすべてのファンが欲しいと思う選手ではないかもしれないが、テン・ハーグ監督は彼との契約がトップ事項だと確信した。チェルシーが提示額を下げることを渋っているにもかかわらず、マンチェスター・Uにマウントの獲得を促したのだ。

    「この契約の締結のためにハードワークをした。たくさんのクラブがメイソンと契約したがっていたと思うが、我々は成功した。彼は我々の試合にダイナミズムをもたらしてくれると確信している」

  • Sofyan Amrabat Fiorentina 2022-23Getty

    「ハードルをあげることが必要だ」

    他にもマンチェスター・Uがチームに加えるべき選手がいる。フィオレンティーナのミッドフィルダー、ソフィアン・アムラバトと、日本人ゴールキーパーの鈴木彩艶だ。彼らが加入するかどうかは、スコット・マクトミネイ、フレッジ、ハリー・マグワイアといった選手を適切な移籍金額で放出できるかどうかにかかっている。

    「私は常に、より良いものを求めている。マンチェスター・Uの一員になりたければ、本当に高い基準に合った選手にならなければならないし、より良くなれるチャンスを見つけたときは、それを行わなければならない。誰もが我々に最高であることを期待しているからだ」と、テン・ハーグ監督はプレシーズンツアー中に語っている。

    「だから、我々はハードルをあげることが必要だ。だが選手たちに、我々が彼らを信じていることを理解してもらうことも非常に重要だ。自分の可能性を信じ、個性を信じなければならない。なぜなら、サッカー選手たちのチーム・スピリットや連帯感、ともに戦う気持ち、人と人とのつながり、関係性といったものは本当に良いものでなければならないからだ。サッカーはチームスポーツであり、チームは一体となった時により強くなれるのだ」

  • Erik ten Hag Manchester United BrightonGetty Images

    「投資しなければならない」

    テン・ハーグ監督は、この夏クラブが使った金額に関して弁解していない。マンチェスター・Uの競争相手が何をしているかを見れば、監督を責めることはできないだろう。アーセナルはデクラン・ライスと契約するのにイングランドの移籍史上最高額を使ったし、カイ・ハヴァーツやユリエン・ティンバーを加入させるために2億ポンドの枠を超えた。チェルシーは昨シーズン、3億ポンド以上を使ったし、この夏はさらに1億ポンドを使ってクリストファー・エンクンクやニコラス・ジャクソンと契約した。リヴァプールも加入の可能性を高めるべく、アレクシス・マクアリスターやドミニク・ショボスライに1億ポンド以上を投じた。

    「他のクラブが行った投資をすべて見れば、チームに投資しなければプレミアリーグの上位になることはできないことがわかるだろう」と、テン・ハーグ監督は言った。「簡単な選択だ。戦いたければ投資しなければならない」。

    だが、彼がどんなに軽視しようとしても、2年連続で監督を真剣にバックアップしたマンチェスター・Uが、今シーズンにプレッシャーをより強く受けることは間違いない。テン・ハーグ監督はその舵取りをして、マンチェスター・Uをいるべき場所に戻すのに適任なのは自分であると示さなければならない。

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