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イングランド“夢の中盤”…ベリンガム、フォーデン、ライスをユーロ2024で解き放つべき理由

イングランドが世界のサッカー界のトップに戻ってきた。ユーロ2016でアイスランドに負け、みじめな敗退を喫した後、ガレス・サウスゲート監督はただピースを拾い上げていただけではなく、再び国中の信頼を取り戻し始めたのだった。

2018年ワールドカップ(W杯)で準決勝に進出したことで、チームへの期待は目に見えて際限のないものとなり、3年後のユーロでは快進撃続きで決勝までたどり着いた。最終的にはウェンブリーで死力を尽くして戦い、PK戦でイタリアに敗れて1996年以来の優勝とはならなかったが、それで終わりではなかった。

サウスゲート監督率いるイングランドは、昨年カタールW杯で難なく準々決勝に進出し、その先にももう少しで行けるところだった。イングランドは試合の大半を支配しながらいくつかミスを犯してしまったことで、フランスに2-1で負けたのだった。

相手の実力を考え合わせると、この試合はサウスゲート監督が就任してからこれまでで、チーム全体として最高の試合だったと言えよう。スリー・ライオンズは短期間で高みにのぼりつめたが、その位置にいるべき実力があることは間違いない。ユーロ2024で求められることはただひとつ、優勝だけだ。

そしてもし、イングランドが来年ドイツでついに主要大会のトロフィーを掲げようと思うなら、サウスゲート監督は可能な限り最強のチームを作りあげなければならない。それはつまり、ジュード・ベリンガム、デクラン・ライス、フィル・フォーデンの3人を、大会中ずっと中盤に起用するということだ。

最近の試合を見れば、保守的なやり方ではイングランドが約束の地にたどり着けないことは明らかだ。今こそ、サウスゲート監督が最高の選手たちを100%信頼し、ついにチームの能力をすべて解き放つ時である。

  • Foden-Rice-Bellingham-England-World-CupGetty

    世界最高

    ベリンガム、ライス、フォーデンは、3人とも、苦もなくスターダムに駆けあがってきた選手である。若いころから、プレッシャーがかかっても成熟した冷静なプレーをしてきた。その実力があれば、どこまでも高く昇っていくことだろう。

    クラブレベルでは2023-24シーズンがどのように始まったにせよ、モチベーションに問題はない。レアル・マドリーとアーセナルは、それぞれベリンガムとライスに巨額の資金を投じたが、2人ともすでに輝かしいプレーぶりでその額に見合う活躍をし始めている。

    ベリンガムはロス・ブランコスでの最初の4試合で5得点をあげ、ラ・リーガの8月の月間MVPに輝いた。この20歳の青年はサンティアゴ・ベルナベウの明るい光を浴びて、まさに我が家にいるようなくつろいだ表情をしている。

    今現在の欧州サッカー界で最高のオールラウンドなミッドフィルダーとして、ベリンガムの右に出るものは誰もいない。ボルシア・ドルトムントでもスターだった彼は、見かけは華奢だが強靭で、狭いスペースもドリブルで突破することができ、頭脳的なパスを出すことも決定的なゴールを決めることもできる。このままいけば、世代を代表する最高の選手のひとりとなることは、ほぼ間違いない。

    ライスはベリンガムほど試合を決める能力があるわけではないが、あのポジションでは職人の域に達しており、すでにウエスト・ハムからアーセナルへ、楽々とロンドンを横断してきた。試合の流れを読むことに優れ、ボールを落ち着いて保持することができるし、絶妙なポジション取りを見せる。その能力は、9月初めのマンチェスター・ユナイテッドでの試合終了間際のゴールで証明ずみだ。

    この2人の代表のチームメイトに比べれば、フォーデンは新シーズンの始まった当初こそやや控えめな印象だった。23歳のフォーデンはマンチェスター・Cでの最初の4試合ではネットを揺らすことができなかったが、チームは最大勝ち点をあげてプレミアリーグの首位に怒涛の返り咲きを果たしている。

    とはいえフォーデンもアシストは3つ決めており、そのうちの1つはニューカッスル戦での劇的勝利の際の、右サイドからの見事なアシストだった。ペップ・グアルディオラ監督はますますフォーデンを起用するようになっており、フォーデンはどの試合でもますますダビド・シルバの真の後継者らしくなってきている。

    イングランド代表がこの3人をいつでも招集できるというのは、他の国に対する巨大なアドバンテージだ。この3人が集まればチームを栄光に導くことができるだろう。

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  • Jordan-Henderson-EnglandGetty

    不可抗力的選択

    2022年W杯でイングランドがフランスに負けたとき、サウスゲート監督は中盤にライスとベリンガムに加えてジョーダン・ヘンダーソンを配置し、フォーデンはもっと前目に出してハリー・ケインをサポートさせていた。ヘンダーソンは最高に創造的な選手でもなければ、フォワードとしての思考を持ち合わせた選手でもない。レ・ブルーことフランス代表に対するスリー・ライオンズの守備の要ではあったが、決定機に冷静さを欠いていた。

    ヘンダーソンはリヴァプールに戻っても精彩を欠き、ユルゲン・クロップ監督率いるリヴァプールが5位まで落ちてプレミアリーグ終了を迎えた後、最終的には必ずしも必要な選手とはみなされなくなった。その結果、この32歳の選手は物議を醸しながら、リヴァプールのレジェンド、スティーヴン・ジェラードが監督を務めるアル・イテファクへ移籍したのだった。

    サウスゲート監督は、最近のユーロ予選を戦うイングランド代表にヘンダーソンを選び続けており、このミッドフィルダーはサウジアラビアのクラブへ移籍したにもかかわらず、母国にとって財産でありつづけていることを証明しようとしているが、現実的には、今後のスリー・ライオンズの先発イレブンに彼がいるべきではない。

    ヘンダーソン以外に、サウスゲート監督には中盤の真ん中に配置できる選手が他に2人いる。ユーロ2020でライスのパートナーとして重要な役割を果たした、マンチェスター・Cのカルヴィン・フィリップスと、マンチェスター・ユナイテッドの新星メイソン・マウントだ。

    フィリップスは、リーズからマンチェスター・Cに移籍したデビュー・シーズンは悪夢にうなされており、コンディションの調整に苦しみ続け、マンチェスター・Cの3冠達成に貢献することはほとんどできなかった。27歳のフィリップスは現在はケガの心配がなくなったように見えるが、まだグアルディオラ監督のチームに馴染めていない。

    マウントもプロとして悩ましい時期に陥ってしまい、ユースから所属していたチェルシーの青いユニフォームを着るようになってから最悪のシーズンを経験し、クラブを去ることとなった。しかし、サポーターや専門家は揃ってマンチェスター・Uがスタンフォード・ブリッジから彼を連れていくのに6,000万ポンド(約110億円)払ったことに驚愕し、エリック・テン・ハーグ監督からの熱烈な支持を知ってもそれが変わることはなかった。

    そうした疑念は、マウントがマンチェスター・Uとして2試合出場した後も増すばかりだった。かろうじて勝ったウォルヴス戦では影を潜め、北部ロンドンでトッテナムに2対0で負けた時には相手ミッドフィルダーに振り回されていた。

    この試合でマウントはハムストリングスのケガにも見舞われ、最新のユーロ予選のためのイングランド代表から外れることとなった。古巣のチェルシーでは、かつて「先生のお気に入り」と言われ、サウスゲート監督の先発イレブンの要のひとりだったが、今や代表争いの戻るためにやるべきことはたくさんある。

    実際、イングランドにベリンガム、ライス、フォーデンの後ろ深くの強力な選手はそう多くない。彼らを引き離しても無駄なのはそのためだ。

  • Maddison-EnglandGetty

    マディソンという選択肢

    ピッチの中央にいるべき唯一の選手は新しくトッテナムに入ったカリスマ、ジェイムズ・マディソンだ。スパーズは4,000万ポンド(約73億円)でこの26歳の選手をレスター・シティから引き抜いた。すでに夏の移籍市場で最高のビジネスだったとみなされている。

    アンジェ・ポステコグルー監督率いるトッテナムは開幕から4勝1引き分けで堂々たるプレミアリーグ2位の順位におり、マディソンはこのトッテナム復活のカギとなっている。レスターの司令塔だったマディソンはすでに2ゴール2アシストの大活躍で、マンチェスター・Uは何故マディソンではなくマウントを取ったのだろうと多くの人が疑問に思っている。

    マディソンはここ1年、イングランド代表入りも果たしているが、それは彼のハードワークのたまものである。ユーロでも中盤に起用すべきという意見が起こるのも当然だ。

    マディソンほどパスレンジの幅が広い選手は滅多にいない。しなやかな右足で、ほぼあらゆる角度からシュートを決めることもできる。フリーキックのスペシャリストでもあり、ボックス内でのイングランドの空中戦での脅威を最大限引き出すことができる。

    サウスゲート監督は、より深い位置にマディソンを起用するためにフォーデンにウィングをさせることも極めて簡単にできるだろう。今後数カ月、マディソンがスパーズで輝きつづけられればなおさらだ。しかしながら、マーカス・ラッシュフォードとジャック・グリーリッシュの2人も、左からの攻撃における重要な場所を狙っていることだろう。

    イングランドは、マディソンと同じくらい優秀なフォーデンを中盤において、よりバランスをとることができる。フォーデンならその位置からアタッキングサードに入ってインパクトを与えることもできるが、マディソンではできないような方法で試合のペースを操ることもできるだろう。

  • Alexander-Arnold Saka England North Macedonia

    アレクサンダー=アーノルドという難問

    来年6月、ユーロの開催中にサウスゲート監督が特に大胆な気分でいられるとしたら、トレント・アレクサンダー=アーノルドをもっと攻撃的なポジションで使うこともできるかもしれない。このリヴァプール所属の選手は、カイル・ウォーカー、キーラン・トリッピアー、リース・ジェイムズといった全員ディフェンスの能力に長けた選手のいる右サイドバックでは活躍の場がなかった。

    しかし6月、4-0とイングランドが大勝したマルタ戦で、アレクサンダー=アーノルドはユニークな才能を見せた。イングランドの中盤の3人の右側でコンスタントに相手を脅かし続け、25ヤード(約23メートル)の距離から稲妻シュートを決めてサウスゲート監督率いるイングランドは完全に試合を支配できるようになったのだ。

    守備でのアレクサンダー=アーノルドはしばしば、ポジション取りの能力に欠けているために失敗をしやすいと指摘されているが、マルタ戦では邪魔者どころか立派な財産となっていたし、続くホームでの北マケドニア戦でもチーム内での立ち位置を正しくキープしていた。

    その試合のイングランドは、ウェンブリーで7-0の大勝を飾ったが、それはブカヨ・サカのハットトリック、ケインの奮起、ラッシュフォードとフィリップスのゴールによるものだった。アレクサンダー=アーノルドは得点こそなかったが、またしてもピッチ上で最高の選手のひとりとなり、見事なアシストを記録した。

    守備での鋭いパスとピンポイントのクロスを披露したアレクサンダー=アーノルドは、誰よりも素晴らしい仕事をしていた。だが、もっと強い相手に対しても中盤で効果的なプレーができるかどうかはわからない。

    イングランドはボールをもっていないとき、サウスゲート監督のもとで厳格な形を保ち続けることにも長けているが、アレクサンダー=アーノルドはその調和を崩すかもしれない。ベリンガムの方がより組織的なプレーのできる選手であり、右サイドのファーストチョイスがベリンガムであり続けている理由は、そこにある。

  • Southgate-EnglandGetty

    最強のラインナップ

    イングランドが2024年のユーロで輝けるかどうかは、サウスゲート監督が最終的にウィングに注意を払うかどうかにかかっている。イングランドはグループCの予選が始まってから4試合すべてに勝ち、すでに本大会に片足を踏みいれていると言っていい。

    今後ウクライナとイタリアの2試合に勝てば、イングランドは上位2チームに入ることがほぼ確定する(訳注:ウクライナ戦は1-1の引き分け)。サウスゲート監督は今後数カ月、賢くも実験的な選手起用をするかもしれないが、本大会での最強のラインナップはもう明らかになっていると言っていい。

    ゴールを守る背番号1は、代表でも常に最高のパフォーマンスを見せているジョーダン・ピックフォードで決まりだ。エヴァートンのゴールキーパーは、4-3-3のフォーメーションの時に最高のプレーを見せており、フルバックにはウォーカーとルーク・ショーが起用されるだろう。

    センターバックには再びジョン・ストーンズを固定すべきであり、チェルシーのレヴィ・コルウィルと並べるのが理想的だ。コルウィルは、マンチェスター・ユナイテッドが夏の移籍市場で元キャプテンのハリー・マグワイアを売りそこなった後、代表ではマグワイアを陰に押しやる最高のチャンスをつかんでいる。

    ライスには、アーセナルでそうしているように中央でどっしり構えていてもらおう。イングランドが出ていかないときには、ベリンガムが右サイドでライスのすぐ前にいるべきであり、フォーデンが左だ。他のどの国もこの中盤のコンビネーションに対抗することはできない。

    ラインを統率するのはケインに決まっている。特にトッテナムからバイエルン・ミュンヘンに移籍した今となっては。サカは再び右ウイングから敵を恐怖に陥れる守備をすることになり、現在クラブでのフォーメーションを基本に、左からプレーする選手の最有力候補はラッシュフォードだ。

    サウスゲート監督はしばらく前からこのシステムを気に入っており、問題はどのポジションに誰を起用するか、特に中盤の選手を誰にするかを精査し、可能な限り強力なチームを作ることだけだ。ライスがボールを保持し、ベリンガムが休むことなくピッチを上下し、フォーデンはイングランドの攻撃陣が駆け上がるスペースを見つけ出す。どんなチームもイングランドを止めることは難しいだろう。

    2024年、サッカー界の栄光はついに母国に戻るのか。サウスゲート監督がイングランドの夢の中盤を解き放たない理由は、どこにもない。