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エミリアーノ・マルティネスは世界最高のGKではないが…サッカー界の究極の煽り屋として語り継がれる

エミリアーノ・マルティネスは、現代サッカー界で最も多くのタイトルを獲得したGKのひとりである。アルゼンチン代表の背番号1は、2022年のワールドカップで母国の優勝に重要な役割を果たし、その前後の2回のコパ・アメリカでも優勝して、3つの大会で12回ものクリーンシートを記録した。

また、2020年にアーセナルからアストン・ヴィラに移籍する前にFAカップを制覇し、さらに、栄誉あるヤシン・トロフィーを2度受賞した唯一の選手でもある。「自分が世界最高のGKだと思うかって? そう、少しは思うかも。楽しんでもいいだろう?」と、マルティネスは2年連続での受賞について2024年のバロンドール授賞式で語った。

彼は確かにその称号を楽しんでいるが、本当にそれに値するのだろうか。答えはノーだ。特にティボー・クルトワ、アリソン・ベッカー、ヤン・オブラク、ジャンルイジ・ドンナルンマといった真の世界トップクラスの選手たちを差し置いては。マルティネスはアーセナルで輝くチャンスを8年間待ち続けた末に、ここまで素晴らしい活躍を成し遂げた優秀なGKだが、偉大な選手ではない。

マルティネスが最終的にグローブを置いた後、彼はその両手や足よりも、人をいらだたせる才能の持ち主として記憶されるだろう。彼はサッカー界の究極の煽り屋であり、勝利よりも相手をいらだたせることのほうに満足感を見出すようなキーパーだ。彼が他のGKよりも目立ち続けているのは、良くも悪くもそのためである。

  • 恥知らずな目立ちたがり屋

    マルティネスは今週、アルゼンチン代表がブラジル代表に4-1で圧勝したワールドカップ予選で主役を演じ、またしても多くの注目を集めた。南米の2強によるスーパー・クラシックの試合はどれも白熱したものとなるが、今回はバルセロナのスター選手ハフィーニャが試合前にブラジルのレジェンド、ロマーリオとの対談で「勝つのはブラジルだ。間違いない。必要とあればピッチの中でも外でも。く*を叩きつぶす」と言ったことで、余計に熱い試合となった。

    レアンドロ・パレデスによると、このハフィーニャの軽率な暴言はアルゼンチン代表チームのWhatsAppグループ内で士気を高める材料として共有され、最初の笛が鳴った瞬間から、明らかに選手たちの目の奥に炎が燃えていた。アルゼンチン代表は前半を完全に支配し、3-1でハーフタイムを迎えた。そしてついには、ジュリアーノ・シメオネが試合終了20分前にとどめの一撃を決めたのだった。

    アルゼンチン代表はプロらしく悠々と試合を進めたが、その前にリオネル・スカローニ監督はマルティネスの恥知らずな目立ちたがり屋ぶりを叱責していた。ブラジル代表が高いプレスをかけてこなかったため、ヴィラのスターGKはバックパスを空中に大きく蹴りあげ、そのボールを膝でキャッチするというパフォーマンスを披露。これにスカローニ監督が指を鳴らして厳しく注意したのだ。

    「ボールがたまたま自分のところにきたから、膝でスピンを2、3回しただけだ」と、後にマルティネスは記者団に語った。「それだけのことさ。ファンには喜んでもらえたけど、リオネル(監督)はこういうことが好きじゃないってことは知っているよ」。相変わらず、32歳のマルティネスは反省の色を見せなかった。しかも、この夜、エスタディオ・マス・モニュメンタルの観衆を喜ばせるようなプレーをしたのは、これだけではなかった。

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  • 茶番劇の敵役

    マルティネスはハフィーニャの傷口に塩を塗りこみもしたのだ。試合終了のホイッスルが鳴った後、アルゼンチン代表GKは打ちひしがれたブラジル代表のウイングにわざとぶつかり、たちまちハフィーニャの頭に血が上った。

    ハフィーニャはパレデスを突き飛ばしているところを目撃され、事態の悪化を防ぐためにセレソンのチームメイトのエンドリックに制止されることとなった。マルティネスは、その間ずっと知らん顔を決めこんでいた。

    そしてアルゼンチン代表の選手たちがブエノスアイレスのサポーターたちと勝利を祝って踊りだすと、マルティネスは本性を現した。「1分間の黙祷...シー!...死んだハフィーニャのために!」と、歌いだしたのだ。そう、アルゼンチン代表がカタールで開催されたワールドカップ決勝でフランス代表を破った後、キリアン・エンバペをあざけるためにこの歌を考案したのはマルティネスだった。

    このような「ク*のような」卑劣な行為は、マルティネスほどの地位と経験を持つ選手にはふさわしくない。しかし、彼はどうしても自分を抑えることができないのだ。

    「ハフィーニャはもう少し教育を受けるべきだ」と、マルティネスはメディアに語った。「俺はいつも言われてきた。試合の後で言え、前には言うな、と」。この発言の偽善性には驚かされるが、マルティネスが本気なのかどうかは判断が難しい。彼は自分が茶番劇の敵役であることを十分に理解しており、その役柄に徹する機会を逃さない。

  • Emi Martinez Copa America trophy celebrationGetty

    破られる誓い

    マルティネスは誰を怒らせようが、誰を不快にさせようが気にしない。彼の主な目的は反応を引き出すことなのだ。実際、ワールドカップでゴールデン・グローブ賞を受賞した際、そのトロフィーを股間に押し当てて祝ったことで広く批判されながら、コパ・アメリカのトロフィーでも同じジェスチャーを繰り返した。

    FIFAは昨年のコパ・アメリカの決勝の後、マルティネスが取った行動に対して2試合の出場停止処分を下し、マルティネスはSNSでうわべだけの謝罪をした。「私は処分を受け入れます。もし誰かを不快にさせてしまったのであれば謝罪します。お祝いの瞬間は多くの子供たちを笑顔にすることであり、誰かを侮辱するものではありません」と、インスタグラムに書き込んだのだ。「誰かを侮辱するつもりは決してなかったし、人々から好意的に受け止められるジェスチャーが侮辱的であるとは理解していませんでした。しかし、今後は誰も侮辱しないよう努め、アルゼンチン代表とアストン・ヴィラでのタイトル獲得に集中するつもりです」と。

    マルティネスがすでにその誓いを破っていることは驚くことではない。彼の幼稚な振る舞いは代表チームでの試合に限ったことでもない。ヴィラ・パーク以外のプレミアリーグのファンや選手のほとんどが証言してくれるだろう。

    実際、12月にホームで行なわれたマンチェスター・シティとの試合でヴィラが2-1で勝利した際、マルティネスは、元チームメイトのジャック・グリーリッシュが前半のアディショナルタイムが少なかったと審判に訴えたことに腹を立て、執拗に攻撃した。マルティネスはグリーリッシュをロッカールームまで追いかけ、ずっと罵り続けて「自分が偉くなったつもりか、え?」と、言ったのだ。

    この時、グリーリッシュはうまくその挑発に乗らずに済んだが、誰もがマルティネスの心理戦に免疫があるわけではない。

  • Manchester United v Aston Villa - Premier LeagueGetty Images Sport

    「混乱を生み出す」

    プレミアリーグのライバルの頭に血をのぼらせるマルティネスの最高の例は、2021年9月、オールド・トラッフォードでヴィラがマンチェスター・ユナイテッドを1-0で破った時だ。88分にコートニー・ホースが決勝点を挙げたのだが、試合終了間際にブルーノ・フェルナンデスがPKをバーの上に外していなかったら、試合は引き分けになっていたかもしれない。

    いつものフェルナンデスなら、ペナルティ・スポットから冷静沈着に決めていただろうが、マルティネスはフェルナンデスのキックを妨害するためにあらゆる手を尽くした。「(クリスティアーノ)・ロナウドがPKを外してがっかりしているのを見たことがある。あそこの空気は張り詰めてるんだ」と、ヴィラの背番号1は、『Behind The Game』でイアン・ライトとオリアナ・サバティーニに語った。「俺は『さあ、来いよ。おまえが蹴るんだろ。あいつ(ロナウド)は蹴りたくないんだ』と、言った。(エディンソン・)カバーニに、『なんでロナウドが蹴らないんだ?』とも言ったよ」。

    マルティネスは、フェルナンデスがシュートを打つ前に、左右に揺れ動き、飛び跳ねた。これは、アルゼンチン代表の同僚リオネル・メッシから学んだ戦術だ。「あれは、ただの挑発じゃない。混乱を生み出すんだ」と、マルティネスは言った。「試合は92分を過ぎていた。やつらは勝つためにあらゆることをしていたから、俺は何らかの方法でやつを混乱させる必要があった。ブルーノは、25本もあるPKのうち1本も見逃さない選手だった。前にメッシに聞いて、『こういう風に動き回られたら、相手は嫌がるだろう』と教えてもらったんだ」。

    フェルナンデスが外しただけでは、マルティネスにとって十分ではなかった。彼はゴール裏のマンチェスター・Uに向かって踊りながら股間を突き出して喜んだのだ。「踊ったのは踊りたかったからじゃない。そんな練習はしたことないし、今じゃ、どうやったかも覚えてない。その場の思いつきでやったんだ」と、彼は主張した。しかし、故意かどうかは別として、必要ではなかった。マルティネスの望みは、混乱を起こして優位に立つことだけではない。その混乱を楽しんでいるのだ。

  • Emi Martinez Aston Villa 2024-25Getty

    PKを失敗させるスペシャリスト

    とは言うものの、マルティネスが得意なのが人をいらつかせることだけなら、こんなにも長く、イングランド・サッカー界のビッククラブや現世界チャンピオンのチームの先発イレブンではいられなかったに違いない。マルティネスは、シュートストッパーとして非常に有能であり、大きなプレッシャーのかかる状況で力を発揮してきた。

    2022年のワールドカップ決勝では、まさに最後の最後で、フランス代表を優勝に導いたかもしれないランダル・コロ・ムアニのシュートを素晴らしいセーブで防ぎ、続くPK戦ではキングスレー・コマンのシュートを止めた。他にもマルティネスは、コパ・アメリカ2024の準々決勝でアルゼンチンがエクアドルを破った試合でもPK戦で2度のセーブを見せ、アルゼンチンの1人目としてまさかの失敗を犯した8度のバロンドール受賞者であるメッシを救ったのだった。

    彼はヴィラにとってもPK戦のヒーローであり、2023-24シーズンのUEFAカンファレンスリーグのリール戦でのPK戦で、バンジャマン・アンドレのシュートを止めるという重要なセーブを披露し、ウナイ・エメリが率いていたヴィラを準決勝に導いた――ただし、スタッド・ピエール=モーロワでフランスのサポーターたちに向かって黙れと言ったのに、退場処分をまぬがれていたことは物議を醸した。さらに、アストン・ヴィラがノッティンガム・フォレストに1-2で敗れたシティ・グラウンドでの試合で、ニコラス・ドミンゲスのヘディングシュートを阻止した際のマルティネスの超人的な反応を忘れる人はいないだろう。このスーパーセーブにより、マルティネスは12月のプレミアリーグ月間最優秀セーブ賞を受賞した。

    問題は、マルティネスの素晴らしいプレーと狂気じみた振る舞いがほぼ同じ頻度で起こることだ。彼は決断が不安定なため、エラーを起こしやすく、ポジショニングやボールの配球でも説得力に欠ける。プレミアリーグ史上最多のキーパーによるオウンゴール(3回)という不名誉な記録を保持しており、これは昨シーズンのヴィラ・パークでのリヴァプール戦(3-3)で、ハーヴェイ・エリオットのクロスがディフレクトしたボールをハンブルして、自陣のゴールネットに入れてしまった際に更新したものだ。

  • Martinez-ArgentinaGetty/GOAL

    観客を惹きつける力

    おそらくはそんなわけで、2020年9月、ミケル・アルテタはマルティネスを1,600万ポンド(約31億円)でヴィラへ売却することを承認した。アーセナルの監督は、それ以降、この売却が「クラブにとって最善の利益」であったと主張している。マルティネスは、前のシーズンに負傷したベルント・レノの代役としてようやく大舞台に立つことができていたが、ペトル・チェフ、ヴォイチェフ・シュチェスニー、ダビド・オスピナ、ウカシュ・ファビアンスキ、ヴィト・マンノーネといった同僚のGKの影に隠れ、エミレーツ・スタジアムを去るまでのトップチームでの出場はわずか38試合にとどまった。

    「彼の能力は常に見てきたが、アーセナルではエネルギーが有り余っていた」と、アーセナルの元GKチェフは、最近、『Amazon Prime』で語った。「エネルギーをひとつの方向に集中することを学んで、本当に成長し、次のレベルに到達することができた」。マルティネスはアーセナル退団後、間違いなくより高いレベルに到達したが、彼が「エネルギー」を集中させる方法を学んだかどうかは議論の余地がある。

    マルティネスは、サッカーのピッチでは常に感情に流されてしまう。驚かせることと同じくらい失敗し続けるだろうが、それ故にこそ、観客は彼に惹きつけられるのだ。

    アルゼンチン代表とアストン・ヴィラの両方の観点から最も重要なことは、マルティネスが連続して勝利を収めていることである。ライオンズはFAカップとチャンピオンズリーグの両方で好調を維持しており、今シーズン終了時にはヴィラ・パークで初めてトロフィーを獲得する可能性もある。また、来年、北米で開催されるワールドカップでアルゼンチン代表が王座を守る際には、再び最前線で活躍することになるだろう。

    マルティネスは、決して最高のGKになることも、最も好感度の高い選手になることもないだろう。しかし、サッカー界の偉大な挑発屋は、自分の能力を最大限に発揮したことで、多大な称賛を受けるに値する。そして、いつも通り、次に何をしでかすか、非常に楽しみなのも確かだ。