Right time for City to sell Ederson.Getty

エデルソンはペップにとって理想的なGKだったが、マンチェスター・シティは別れを告げる時

ペップ・グアルディオラとゴールキーパーの関係は常に矛盾していた。監督になって16年、輝かしいキャリアを積んできたグアルディオラ監督のチームは、GKに頼って勝つということがほとんどなかったのだ。

バルセロナで2度のチャンピオンズリーグ制覇を果たした時も、試合を完全に支配していて、GKビクトル・バルデスがセーブするシーンはまったくなかった。

グアルディオラが3年間監督を務めたバイエルン・ミュンヘンにはマヌエル・ノイアーという素晴らしいGKがいたが、ブンデスリーガを3連覇しながら、チームの調子を維持するのにGKに頼るようなところは滅多になかった。監督になっての最初の7年間、グアルディオラにとってGKは空気のような存在だった。だが、マンチェスター・シティに来て、その状況は一変する。

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    ペップの成功の要

    マンチェスター・Cの監督になったグアルディオラの最初の大仕事は、足元の技術がおぼつかなかったジョー・ハートを正GKから外し、その代わりにバルセロナからクラウディオ・ブラーボを加入させることだった。ほどなくチリ代表のブラーボはイングランドのサッカーに合わないことが判明し、それが原因でマンチェスター・Cはそのシーズン、プレミアリーグの3位に沈み、優勝を逃した。グアルディオラの監督人生で優勝と縁がなかったのはこのシーズンのみである。

    マンチェスター・Cは新しいGKを探し、エデルソンを獲得。ベンフィカからの移籍金3,400万ポンド(約63億円)は当時のGK世界記録だった。ブラジル代表のエデルソンは移籍金のプレッシャーに影響されることなく、すぐにグアルディオラ監督を救う「輝く鎧の騎士」となった。

    マンチェスター・Cでの7年間で空前の大活躍をしたエデルソンは、6度のプレミアリーグ優勝と1度のチャンピオンズリーグ制覇を果たし、バルデスと違ってチームの成功に欠かせない存在であることを証明した。だが、すべてをチーム一丸となって成し遂げてきたとはいえ、マンチェスター・Cとエデルソンが別れるには絶好の時が来ているかもしれない。

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  • Stefan Ortega Ederson Manchester City 2023-24Getty

    変化の時

    過去8年にわたって、エデルソンは紛れもなくマンチェスター・Cの正GKであり続けたが、昨シーズンはその立場が少し薄れてきていた。シーズン中、何度かケガに見舞われると、その不在をシュテファン・オルテガが素晴らしいプレーで埋めたのである。

    それまでのブラーボやスコット・カーソン、ザック・ステッフェンといった控えのGKに対しては、エデルソンは何も心配することがなかった。エデルソンの足技にかなう選手はいなかったし、シュートを止める技術も特に優れていたわけではなかったからだ。

    だが、2022年の夏に、ブンデスリーガの1部から2部に降格したアルミニア・ビーレフェルトからフリーで加入したオルテガは、エデルソンのかなり強力なライバルになりうることが判明した。デビューシーズンのカップ戦で出場がかなうと、たちまち冷静沈着にボールを扱える姿を披露し、ゴールエリアを出てもプレーできる能力を示したのだ。

    長距離のパスも印象的で、昨シーズンのFAカップ決勝のマンチェスター・ユナイテッド戦では、イルカイ・ギュンドアンの記録破りのゴールに貢献。さらに昨シーズンは、エデルソンがケガで出られなかったビッグマッチのいくつかに出場し、アーセナル戦では無失点、3-3の引き分けだったチャンピオンズリーグ準々決勝のレアル・マドリー戦でも良いパフォーマンスを見せた。

  • Stefan Ortega Manchester City 2024Getty Images

    オルテガは準備万端

    それだけではない。オルテガが最高のプレーを見せたのは、優勝争いが最も熾烈だった、リーグ戦の最後から2試合目のトッテナム戦だった。その試合、エデルソンはクリスティアン・ロメロと激突し、眼窩を骨折してピッチを去った。86分、マンチェスター・Cのゴール前にソン・フンミンが迫り、同点の絶好のチャンスを作りだした。これが決まっていれば、優勝争いの主導権はアーセナルに移っていたことだろう。だが、オルテガが巨大なクモのように手足を広げ、右足でシュートを阻止したのだ。

    数分後、アーリング・ハーランドがPKを決めて事実上タイトル獲得が決まったが、真のヒーローはオルテガであり、彼のセーブこそが、マンチェスター・Cの歴史的な4連覇へと向かわせたのだった。多くの人々にとって、それは、オルテガがエデルソンの王座を継承できることを証明した瞬間だった。

    その1カ月前、オルテガは、マンチェスター・Cに残って2番手GKとなるか、正GKとなれる別のチームを探すか、次のステップについて「賢い選択」をしなければならないだろうと言っていた。

    それから1カ月も経たないうちに、FAカップ決勝でマンチェスター・ユナイテッドに負けたにもかかわらず、オルテガはマンチェスター・Cと新たな契約を結んだ。つまりオルテガは、来シーズンはエデルソンをしのぐことができるか、またはエデルソンがチームを去って先発の座が空くだろうと思っているに違いない。

  • Ederson - Al NassrGetty Image/ GOAL AR

    行き先はサウジ

    あのセーブについてエデルソンがどう反応したのか、多くのことが言われている。『The Athletic』は、チームメイトが称賛されるのをエデルソンは面白く思っていないと報じたが、これはエデルソンの妻によって「フェイク・ニュース」だと却下された。しかしながら、トッテナム戦の勝利のわずか数日後、エデルソンがまだ目のケガの治療を受けているさなか、サウジアラビアへの移籍に興味を持っている可能性があるとの第一報が報じられた。

    おそらくはエデルソンがオルテガへの賛辞に神経質になっている可能性に気づいたのであろうグアルディオラ監督は、トッテナム戦の勝利の直後、どれほどエデルソンがチームにとって必要かをわざわざ指摘した。

    「我々がチャンピオンズリーグで勝てたのが誰のおかげか、わかるか? エデルソンのおかげだ。レアル・マドリーとの試合で、(カリム)ベンゼマのヘディングを見事にセーブしてくれた。チャンピオンズリーグの決勝では、エデルソンが要の選手だった。勝てたのは彼のおかげで。エディーがいなければ時代を作れなかった。不可能だった」

    だが、その時代は終わりに近づきつつあるようだ。この夏、サウジアラビアがエデルソンに興味を示しているという報道は増すばかりで、聞こえてくる数字には目を見張るものがある。クリスティアーノ・ロナウドのアル・ナスルは、マンチェスター・Cの5,000万ポンド(約93億5000万円)という評価額に応じようとしない一方、エデルソンに対して週90万ポンド(約1億70万円)という驚異的な額を提示した。

    現在エデルソンとの契約で先頭に立つのはアル・イテハドで、提示額はアル・ナスルを下回るものの、それでもマンチェスター・Cに衝撃を与えることだろう。報道によると、マンチェスター・Cでのエデルソンは週19万ポンド(約3,500万円)だという。昇給を受け入れてマンチェスターに残ることになったという噂もあるが、カネに関する限り、マンチェスター・Cに勝ち目はない。

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    「心の痛み」

    仮にマンチェスター・がエデルソンの代わりに5,000万ポンド(約93億5,000万円)を得ることができれば、ビジネスとしては申し分ない。7年前に契約しまもなく31歳になる選手で1,600万ポンド(約30億円)の利益が得られるのだ。しかも代わりの選手として、フリーで獲得し何のおぜん立てもする必要のない、すでに準備万端整ったオルテガがいるのである。

    先週グアルディオラ監督はエデルソンには残ってほしいが、早く決心してほしいとも言っていた。「私はできるだけ早くエデルソンが自分の将来を決めてくれることを望む。私としては残ってほしいだけだ。彼のことは好きだし、必要な選手である。彼は『poterazo(偉大なゴールキーパー)』だ。それでも彼が…心を痛めながらも行かなければならないのなら…私は受け入れよう」

    エデルソンの態度ははっきりしないが、残留についても何の約束もしていない。ギュンドアンやリヤド・マフレズのような前例と同じく、獲れるタイトルをすべて獲得し、マンチェスター・Cで進むべき道は終わっているように思われる。

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    力の衰え

    エデルソンの力の衰えを示す兆候もある。イスタンブールで行われたチャンピオンズリーグ決勝、インテルに勝利した試合では、97分にロビン・ゴセンスのニアへのシュートを阻止し、重要な役割を果たしたが、プレミアリーグでは安定性を欠いていた。

    この同じシーズン、エデルソンは最初の枠内シュートを必ず決められていた。シーズンの3分の2において、リーグでのセーブ率が下から3番目だった。マンチェスター・Cの攻撃が素晴らしかったため、エデルソンのせいで勝ち点を失うことはほとんどなかったが、世界最高のGKというこれまでの評判に影響がないとは言えない。

    長い間、エデルソンは足技の素晴らしさからマンチェスター・Cの背番号1は彼しかいないと思われていた。だが、彼が不在でも、マンチェスター・Cはやりたいようにプレーして、後ろからの試合を組み立て、GKから素早く攻撃を仕掛けられることを、オルテガが示してきている。

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    後釜計画

    プレシーズンのアメリカツアーが、マンチェスター・Cでのエデルソンの最後の日々になるかもしれないという雰囲気がある。だが、それがクラブでの未来をかけたチャンスだったというなら、エデルソンはうまくやれなかった。合衆国でプレーしたのはわずか135分で、5失点もしてしまったのだ。そのうちの3つはセーブすべきシュートだった。オルテガのほうがはるかに鋭い動きをしており、エデルソンからバトンを受け継ぐ準備ができているように見えた。

    グアルディオラ監督はエデルソンに残ってほしいと思っているかもしれないが、マンチェスター・Cはしばらく前から後継計画を進めていたように思われる。このままエデルソンが去れば、彼はマンチェスター・Cの歴代最高GKとして認識されるべきである。このポジションの役割を再定義し、チームのGKへの要求を再認識させた選手なのだ。だが、歳月人を待たず。マンチェスター・Cは首にバラのタトゥーをした男に、以前ほど頼らなくてすむようになっている。

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