Man City offside injury gfxGetty

またもオフサイド・ディレイによる犠牲者。最新ルールによるリスク、誰もが考えるべき事態

VARの導入は、我々が想像できた以上にサッカーの姿を変えている。主にハンドに関して、ルールの書き換えや解釈の変更を伴わない「正しい」判定が増加している。

サッカーにとって良いことなのか、その波及効果にどれだけの価値があるのか、審判団はまだ結論を下していない。

ただ、技術の導入の効果により、選手たちのケガのリスクを増やしていることが明らかになってきている。2018年にVARの導入を決めた時、FIFAがそこまで考えていなかったことは確かだ…。

  • Ederson Man City NewcastleGetty

    3週間で2度のケガ

    「オフサイド・ディレイ」。紛れもなく明らかにオフサイドであっても、副審が即座にフラッグをあげないというこのルールは、長くファンをいら立たせてきた。導入当初から、多くの人々が選手のケガの増加につながりかねないと警告もしていた。

    直近でそのリスクがどれほど現実的なものであるかを直接的に知ったのは、マンチェスター・シティである。1月14日のニューカッスル戦で、明らかにオフサイドであり決して行われるべきでなかった一連のプレーによってショーン・ロングスタッフと衝突したGKエデルソンが、負傷退場することになったのだ。

    このわずか3週間前には、ジョン・ストーンズがエヴァートンのFWベトと衝突して負傷しているが、これも明らかにオフサイドにもかかわらず副審がフラッグをあげなかった以外に原因のない事故だった。

    いずれの試合もマンチェスター・Cが勝ったが、どちらのプレーも試合の展開に大きな影響を与えた。サッカーに関わるすべての人が、選手たちを危険にさらす無意味なルールの廃止を求めるべきである。

  • 広告
  • Stefan Ortega Man CityGetty

    3分間で2失点のオルテガ

    マンチェスター・Cはニューカッスルを3対2で下したが、これは途中出場したケヴィン・デ・ブライネが2度にわたって素晴らしいプレーをしたおかげである。昨年の王者は試合開始からわずか8分でエデルソンが交代しなければならなかった後、もう少しで優勝争いに必須の勝ち点を逃すところであった。

    エデルソンはロングスタッフに脚をぶつけた後もプレーしようとしたが、その直後ミゲル・アルミロンにプレッシャーをかけられてパスミスという大失態を犯しそうになった。そのためロドリがペップ・グアルディオラ監督に進言し、すぐにエデルソンは交代となったのだった。

    シュテファン・オルテガは第二GKとしては堅実な選手だが、足技も手技もエデルソンにはかなわず、3分間で2失点してしまった。アレクサンデル・イサクとアンソニー・ゴードンの得点はいずれもオルテガの手が届かなかったもので、オルテガよりも長身のエデルソンならばセーブできたのではないかと言われている。

  • John Stones Man City 2023-24Getty

    無意味なケガから復帰できないでいるストーンズ

    すでにマンチェスター・Cはストーンズの欠場により弱体化していた。昨シーズンの3冠達成に重要な役割を果たしたストーンズの今シーズンは、ケガのために最悪のシーズンとなっている。グディソン・パークで、オフサイドでプレーが止まるべきだったのにベトに足首を蹴られたのは、2度の長期離脱から調子を取り戻しつつあった時だった。あの出来事以降、ストーンズはマンチェスター・Cで練習することができなくなっており、復帰の時期も見通せない状態である。

    マンチェスター・Cにとって幸運なことに、エデルソンのケガは重傷ではなかったようだ。グアルディオラ監督によると「うまく歩けない」状態であるようだが、ただの打撲だという。もうひとつ幸運だったのは、このケガがリーグ戦の2週間の中断の直前に起こったものであり、1月31日のバーンリー戦まで治療にあてられる時間がたっぷりあることだ。

    グアルディオラ監督のチームはリーグ最強チームのひとつでもあり、主要選手のケガが続いても優勝争いに残ることができている。デ・ブライネはハムストリング断裂から5カ月試合に出られなかったし、アーリング・ハーランドは現在、足の故障で離脱中だ。

  • rui patricio wolves 03/15/2021Getty Images

    初めての犠牲者ではない

    貧弱なオフサイド・ルールのせいで同じようにケガした他の選手やそのクラブは、マンチェスター・Cほど幸運ではない。昨シーズンの開幕戦でチェルシーと対戦したエヴァートンのベン・ゴッドフリーは、明らかにボールはアウト・オブ・プレーだったのにタックルを受け、脚を骨折した。ゴッドフリーは4カ月間サッカーができず、エヴァートンはあわや降格の憂き目にあった。

    2020年、プレミアリーグで初めてオフサイド・ディレイのルールが導入された最初のシーズンのリヴァプール戦で、当時ウルヴスのGKだったルイ・パトリシオは、10分もピッチに冷たく置き去りにされた。モハメド・サラーにボールが渡るのを阻止しようとしたチームメイトのコナー・コーディと、頭と頭をぶつけてしまったのだ。

    すぐにサラーはオフサイドと判定されたが、フラッグが上がるのが遅く、パトリシオの容態が懸念された。ユルゲン・クロップ監督はこの状況を「おぞましい事態」で「本当に衝撃的」だと称した。

    幸い、パトリシオはすぐに回復し、当時ウルヴスの監督だったヌーノ・エスピーリト・サントは、このケガのことで審判団を批判しようとはせず、どんなプレーでも起こりうることだと言った。

  • James Maddison injury Tottenham 2023-24Getty Images

    ケガのリスクは今後も増える

    確かに試合のどんなプレーでもケガが起こる可能性はあるが、試合の主催者は出来るだけケガのリスクを減らすようにするべきだ。フラッグを上げるのが当然だと誰もが思うような場合でもプレーが続行されれば、ケガが起こる可能性は増える。

    そんな出来事が立て続けに2件も起きたマンチェスター・Cは、ひどく運が悪かったのかもしれないが、今後もオフサイド・ディレイの呪いの餌食にならない保証はない。

    男子も女子も試合数が増加し、試合間の日数が減ったためにケガが蔓延している現状で、ケガのリスクを高めるようなルールのことをサッカーに関わる者はみな怒るべきである。

  • Premier League referee outrageGetty Images

    負の遺産

    ただし、度重なるケガだけがオフサイド・ディレイの負の側面ではない。選手たちはどんなに見込みがなくとも前に後ろに走り続ける。万が一を期待して笛が吹かれるまでプレーすれば、オフサイドに見える動きも最終的にVARでオンサイドと判定されるかもしれないからだ。

    とはいえ、フラッグが上がることもしばしばある。それは、選手たちの努力を無にし、残りの試合時間のやる気を失わせ、ひいてはプレーに影響する選手の能力に衝撃を与える。

    このルール変更は、攻撃的な選手たちにアドバンテージを与え、攻撃に向かう動きが間違ってオフサイドと判定されることを防ごうとする明確な試みの一環として導入されたのかもしれないが、選手たちやサポーターたちをいら立たせるという負の遺産をもたらしている。

  • Assistant referee offsideGetty Images

    狂気を終わらせよ

    そう滅多にあることではないが、重大な結果としてエデルソンやストーンズ、パトリシオらが予防できるはずのケガを負っている。彼らは、決して起こるべきではなかったプレーのせいで大きな代償を払うことになってしまったのだ。

    ルールを改定した者たちは、サッカーをよりよいものにしたいという希望のもとにルールに手を加えたのだから、そのことが望まない結果を生んでいることを謙虚に受け止めるべきである。

    今こそ狂気を終わらせ、線審たちが再び適切に仕事を行えるようにするべき時である。オフサイドのプレーを見たら、誰かが重傷を負う可能性を生むような時間である20秒を待たずして、オフサイド・フラッグを上げるべきなのだ。