静かすぎる1月が終了…今夏の移籍市場は壮大なものに？

彼は行くのか行かないのか。3年以上、レアル・マドリーとパリ・サンジェルマンのファンたちは同じようにこのことを話し続けている。キリアン・エンバペはサンティアゴ・ベルナベウへの移籍話をもてあそび続けているのだ。

2021年、マドリーは2度の高額提示を拒絶された。その後エンバペはパルク・デ・プランスでの契約を更新したが、白い巨人のフロレンティーノ・ペレス会長はそんなことに挫けていない。今のところエンバペはPSGとの契約にある1年の延長オプションの発動を拒んでおり、夏にはフリーエージェントになる。スペインの首都での年収3,000万ユーロ（約48億円）の生活が彼を待っているのだ――『ディアリオ・アス』によれば。

実際にはマドリーにエンバペは必要ないと言うのは簡単だ。ヴィニシウスは左ウイングというお気に入りのポジションで素晴らしいプレーをしている。しかし、これは、あのフランス代表選手が、かの有名な白いユニフォームを着て写真を撮られなければ終わらない移籍物語なのだ。PSGはエンバペ中心のチームを構築してきたが、彼の将来についてしつこく憶測しない方がよいだろう。エンバペが出ていけば、新しいスターを2人か3人雇えるだけの金銭的余裕が生まれるだろうから。

PSGを出ていくことについてエンバペがいまだに「疑問を持っている」という報道もある。フランス王者のクラブに所属してピッチ内外で享受している権力を考えれば、理解できなくもない。しかしながら、新しい挑戦に挑むことは、25歳の成長にとって最高のことであり、本気でバロンドール獲得の野望を持っているなら、なおさらだ。

マドリーは目指すべき理想的なクラブと思われるが、リヴァプールに加入してプレミアリーグに進出するというのも今の段階では排除できない話ではある。エンバペにとって、今こそ翼を広げる時だ。

「そういう理由で、昨年の夏以降、彼の契約更新の交渉は、長く親密に行われてきたと承知している。彼がレアル・マドリーかPSGかプレミアリーグのどこかのチームに行くことは完璧にわかっている」

ナポリのアウレリオ・デ・ラウレンティス会長は、先月、サッカー界で最悪の秘密を認めた。スタディオ・ディエゴ・アルマンド・マラドーナでヴィクター・オシムヘンを見られる時間は、まもなく終わるだろう。現代サッカーにおいて一流のセンターフォワードが不足していることを鑑みれば、ヨーロッパのエリート・クラブを選択する可能性が高い。

サウジ・プロリーグもオシムヘンの選択肢のひとつだ。移籍金は1億3,000万ユーロ（約208億円）ほどを要求するだろうが、デ・ラウレンティス会長の予想はもっと現実的だ。ナポリ所属の野心的なゴールマシーンは最高レベルでプレーをしたいと思っており、彼の才能は申し分なくプレミアリーグに合っている。

チェルシーとアーセナルはともに、正真正銘の背番号9を渇望している。マンチェスター・ユナイテッドも、オールド・トラッフォードでのラスムス・ホイルンドのスタートが苛立つようなものだったために、新しいストライカーを市場で探している。オシムヘンは、マンチェスター・シティの王座を奪いたいガナーズにとって、アーリング・ハーランドに匹敵する選手になる可能性もあるが、チェルシーとマンチェスター・Uの変革をもたらせる可能性もある。

だが、エンバペ物語がオシムヘンの最後に大きな影響を与える可能性もある。PSGのスターがレアルに加入すれば、レアルがオシムヘンをぜひとも欲しいということはなくなるだろう一方、ワールドカップ優勝者の代わりとしてパルク・デ・プランスへの扉が開かれるだろう。

12カ月ほど前、サウジ・プロリーグは、懐に大金を入れて世界中に手を伸ばし、クリスティアーノ・ロナウドと必殺の契約を交わした。その後、ネイマール、カリム・ベンゼマ、サディオ・マネ、リヤド・マフレズといった選手たちが5度のバロンドール受賞者の後を追って中東にやってきた。1月には事態は沈静化し、元バルセロナ所属のスター、イヴァン・ラキティッチがアル・シャバブに加入したのが、唯一のトップクラスの選手の移籍だった。だがサウジの首長たちは夏に再び大金を費やす準備をしているだろう。

昨年、アル・イテハドの最優先ターゲットとしてモハメド・サラーの名前が挙がったが、報道によると、リヴァプールのカリスマに対して、再び2億ポンド（約372億円）を準備しているという。もちろんレッズはサラーを失いたくないだろうが、それほどの高額を邪険にすることは非常に難しい。特に31歳の選手が契約の最終年を迎えているという事実のもとでは。

サウジの高額なオファーに魅力を感じるだろうトップクラスの選手は他にも大勢いる。マンチェスター・Uの名コンビであるアントニーとカゼミーロ、ニューカッスルのミゲル・アルミロン、マンチェスター・Cの司令塔ケヴィン・デ・ブライネまでが、ヨーロッパ・サッカーに背を向けるのではないかと予想されている。

アル・ナスルの新たな広告塔であるC・ロナウドは、サウジ・プロリーグが5年後にはサッカー界で最高のリーグのひとつになると主張しているが、決してそれは非現実的な話ではない。トップクラスの選手たちに多額の投資は、すぐには終わらないだろう。サウジの王族のひとり、アブドラ・サード・アブドルアジーズ・アル・サウド殿下はC・ロナウドの言葉を受けて、『CARRE』でこう語っている。「サウジアラビアは今や、市場を席巻している。さらに多くのスターが来るだろう。サウジアラビアはサッカーでNo.1の国になることを計画している」

バイエルンはついに昨年の夏、トッテナムからハリー・ケインを加入させ、チームのレジェンドだったロベルト・レヴァンドフスキの代わりを務めさせることにした。このイングランド代表FWはたちまちドイツで活躍し、全公式戦16試合で17得点を記録。だが、その偉業をもってしてもクラブに根深くはびこっている問題を取り繕ったにすぎない。

トーマス・トゥヘル監督は、ユリアン・ナーゲルスマンの後任となって以来、クラブのオフィシャルやファンと対立してきた。アルフォンソ・デイヴィスやマタイス・デ・リフト、ヨズア・キミッヒといった、契約が残り1年半以内のスター選手が大勢おり、アリアンツ・アリーナから大量流出のリスクが現実味を帯びている。特にもし、バイエルンがブンデスリーガの最終順位において、シャビ・アロンソ監督率いるレヴァークーゼンを下回るようなことがあれば、チームの解体は避けられないように思われる。

レロイ・サネ、ジャマル・ムシアラ、セルジュ・ニャブリも、アリアンツ・アリーナから出ていくことが取りざたされているが、彼らと同等の能力のある選手が足りなくなることはないだろう。加入してくる選手も大勢いそうで、スパーズでケインの同僚だったアヤックスのウイング、ステーフェン・ベルフワインやマンチェスター・UのDFラファエル・ヴァランも同様だ。

バイエルンが、夏の移籍市場で最も忙しいヨーロッパのエリート・クラブになる可能性は高い。2024-25シーズンが始まった時どんなチームになっているか、楽しみなことになりそうだ。ケインは混乱のなかに足を踏み入れてしまったが、4月には、マックス・エベールが新しいスポーツ・ディレクターという形で加入しそうで、ワクワクするような新しい時代が始まるかもしれない。

2022年11月、グレイザー・ファミリーが正式にマンチェスター・Uを売りに出した時、オールド・トラッフォード界隈では大勢の人が安堵のため息をついた。サポーターたちは、クラブから何十億もの配当を受け取りながらピッチ上での質の低下を招いたアメリカのオーナーたちをずっと非難してきていた。あまりにも短い間だったが、ようやくトンネルの先の光が見えてきたように思えたのだった。

だが、ほどなく、グレイザーはクラブをまるまる売却する気はなく、サッカー部門を引き継ぐことの出来る少数の投資家を探し始めたことが明らかになった。最終的に、サー・ジム・ラトクリフとINEOSがクラブの株式の25％を購入し、数年後にはすべての買収が完了する可能性が見えている。

これは必ずしもファンの望むところではないが、正しい方向へ向けての第一歩と思われている。すでにラトクリフは彼のビジネス手法を発揮している。INEOSのトップであるサー・デーブ・ブレイルズフォードとジャン＝クロード・ブランのサポートを受け、現在オールド・トラッフォードでは改革が始まっている。まもなく、マンチェスター・Cのチーフ・フットボール・オペレーション・オフィサーがそこに加わることだろう。

オマール・ベラダは、赤い方のマンチェスターのチームのために、エティハド・スタジアムでの新しいプロジェクトの成功が保証されているにもかかわらず、それを投げうつという大胆な決心をした。1月20日、マンチェスター・Uは46歳のベラダを新しいCEOにすると発表した。ベラダはマンチェスター・Cで移籍に関して重要な役割を果たしてきており、オールド・トラッフォードで同じような影響力を発揮することが期待されるだろう。マンチェスター・Uの移籍部門は過去10年間の大部分でみじめなほど失敗してきている。

ラトクリフはマンチェスター・Uの移籍方針を大幅に変え、枯れ木を一掃することを決めた。とりわけ、アントニー・マルシャル、ヴィクトル・リンデロフ、ジェイドン・サンチョ、アントニーのような問題児や失敗した契約を。そして、報道によると、4件の大きな契約を狙っているらしい。クリスタル・パレスのウイング、マイケル・オリーズがその筆頭であると言われているが、「ケイン級の」ストライカーと新しいディフェンダーを2人も欲しいようだ。

こうした変化の後も現監督のエリック・テン・ハーグに監督を続けるチャンスがあるかどうかは予断を許さないが、たとえグレイザーがまだ陰に潜んでいるにしても、もはやマンチェスター・Uでは凡庸であることは許されないだろう。

前述したとおり、移籍市場が再開すれば、エミレーツ・スタジアムとスタンフォード・ブリッジには新しい背番号9を受け入れる余地がある。チェルシーとアーセナルがオシムヘンとの契約を争っても誰も驚かないだろうが、この2チームは、2023年、それぞれ、モイセス・カイセドとデクラン・ライスと契約するために移籍に関する記録を大幅に更新したチームであるため、より安価な選手を探す可能性もある。

現在のところ候補として名前が挙がっているのはイヴァン・トニーで、報道によると、ブレントフォードは8,000万ポンド（約150億円）という高額をつけているようだが、本人は、賭博規則違反による8カ月の出場停止処分明ければ、とにかくピッチに戻りたいと思っているようだ。トニーには、セリエA優勝を経験したオシムヘンのような誇るべき経歴はないが、プレミアリーグでの実績は折り紙付きで、より大きなクラブでワールドクラスの選手となるだけの素質はもっている。

27歳のトニーはブレントフォードの先発に定着してからは2試合で1得点を挙げており、ロンドン内での移籍をもくろんでいるが、アーセナルはチェルシーより少し優位であるかもしれない。ガナーズはトニーにチャンピオンズリーグでのプレーを提示できるだろう（シーズン後半に前代未聞の崩壊が起こらないかぎり）が、ブルーズは、今なお、マウリシオ・ポチェッティーノ新監督のもとでの過渡期の真っ最中である。

スタンフォード・ブリッジが総じてストライカーの墓場となっている事実もあり、アーセナルはこの獲得競争に勝てる自信を持ってしかるべきである。チェルシーは、その経済力を考えればあきらめる必要はまったくないが、オシムヘンか、むしろユヴェントスのFWドゥシャン・ヴラホヴィッチに、ほぼ全力を投入したほうが賢い選択かもしれない。

今シーズンのヨーロッパ5大リーグにおけるビックリ箱はレヴァークーゼンだけではない。どこからともなく現れてラ・リーガのタイトル争いをしているジローナもそうだ。カタルーニャ州に本拠地を置くジローナは、シティ・フットボール・グループ（CFG）の傘下のチームで、かなりの金額を自由に使うことができる。それを有効利用して昨年の夏には、サヴィオとアルテム・ドフビクという攻撃的スター・コンビを含む、10人の新加入選手と契約した。

デイリー・ブリント、パウロ・ガッサニーガ、ヤンヘル・エレーラといった選手たちも活躍しており、ミチェル監督のチームは開幕から22試合で勝ち点55を積みあげた。ジローナがこのまま勝ち続け、かつてプレミアリーグでレスターが果たしたようにスペインで優勝することになれば、最高の選手たちが出ていかないようにするという大仕事が待っている。マンチェスター・Cは、サヴィオを初めとする、そうした選手たちをかっさらえる特権的な立場にいる。

とは言え、ジローナの長期計画は予定よりもかなり早く進んでおり、今後何年もラ・リーガのトップに居続けられる体制を整えている。レヴァークーゼンの方はそれほどうまくいかないかもしれず、夏にアロンソ監督を失うことはすでに諦めていることだろう。

スペイン出身のアロンソ監督は、リヴァプールのユルゲン・クロップ監督の後任候補の筆頭と予想されているが、わずか14カ月でバイ・アレーナで奇跡を起こした手腕に、レアル・マドリー、バイエルン、PSGも興味を示していると言われている。レヴァークーゼンはチームの中核選手たちも失う危険が現実味を帯びており、レアル・マドリーはチームの司令塔でスター選手のフロリアン・ヴィルツを追いかけており、ヴィクター・ボニフェイスとジェレミー・フリンポンは複数のプレミアリーグのクラブの標的になっている。

素晴らしいチームを構築したジローナとレヴァークーゼンが強襲されるのを見るのは残念なことだろうが、カネがモノを言う世界であり、両チームともサッカー界のトップにいつでも上がって来られる能力を宿している。

夏には、男子サッカー界でファンを居ても立っても居られなくする移籍のドラマがたくさん生まれるだろうが、女子の方も超大型の取引が生まれるに違いない。その主な理由は、非常に多くの世界最高の女子選手たちが、フリーエージェントになるからである。

夏までの数カ月で契約延長を取り付けることができなければ、バルセロナ、チェルシー、バイエルン・ミュンヘン、マンチェスター・C、マンチェスター・ユナイテッド、レアル・マドリー、ユヴェントスをはじめ、多くのクラブが主力選手たちを失うことになるだろう。

イングランド女子代表のGKメアリー・アープスは、オールド・トラッフォードでの新しい契約締結に行き詰っているようだ。昨年はアーセナルのトップ・ターゲットだったが、特に代理人を変えたばかりだったこともあり、最終的に北部ロンドンのチームと契約したことは驚きではなかった。一方、マンチェスターの反対側では、アープスのイングランド代表の同僚ローレン・ヘンプとエリー・ローバックも、船を飛び移る準備ができている。バルセロナはヘンプだけでなく、キアラ・キーティングに守護神の座を奪われ、心機一転を望むローバックにも注目している。

すでにバルサには、ルーシー・ブロンズというイングランド女子代表のスターのひとりがプレーしているが、彼女はアメリカ合衆国のチームと強いつながりがあり、2度のバロンドール受賞者のアレクシア・プテジャスも、大きなケガを経験し、将来に疑問がもたれている。こうしたことすべてが、WSL（女子スーパーリーグ）、女子チャンピオンズリーグ、NWSL（ナショナル・ウィメンズ・サッカーリーグ）での勢力図を大きく変える可能性がある。

今はまだ、女子サッカーが移籍金や報酬の面で男子と競合できないが、急速に成長しており、数年の間にその差は縮まっていくだろう。すでに2024-25シーズンは歴史的なシーズンになりつつあり、夏の移籍のジェットコースターが撒きあげた砂埃が収まった後には、何千人ものサポーターたちが、新たなヒロインが自分たちのクラブで輝くのを見ようとスタジアムに押し寄せることだろう。