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ディオゴ・ダロト独占インタビュー「マンチェスター・ユナイテッドの目標はCL出場権ではない」

ディオゴ・ダロトは子どものころからポルトのサポーターだったため、当然のことながらジョゼ・モウリーニョはダロトにとって常に特別な存在だった。現在マンチェスター・ユナイテッドの右サイドバックを務めるダロトがユース時代を過ごしたポルトをモウリーニョがチャンピオンズリーグ制覇に導いた時、ダロトはまだ5歳だった。オールド・トラッフォードで赤い悪魔を下し、憧れの膝スライディング・セレブレーションを目にしてから、わずか2カ月後のことだった。

そんな、忘れられない勝利から14年後、ポルトに入ったばかりの2018年夏、ダロトは当時マンチェスター・Uにいた「特別な存在」に呼ばれることとなる。そして、プロとして7試合しか出場していなかったにもかかわらず、モウリーニョは当時19歳のダロトに「同世代でヨーロッパ最高のフルバック」という究極のお墨付きを与えたのだった。

「そのせいで、僕は大きな責任を背負うことになった」と、GOALの独占インタビューでダロトは語った。「サッカー界のレジェンドであるモウリーニョが言ったから、余計に特別だった。当時の監督と僕の関係は僕にとって素晴らしいもので、彼のように僕を支えてくれる監督と巡り会えてよかった。あの言葉で僕は大きな責任を負うことになったけど、僕は一生をかけてそれを成し遂げようと努力している」

すべてが順風満帆ではなかったかもしれないが、ダロトは今やモウリーニョの予言を実現する道を進んでいる。モウリーニョはダロトが加入してわずか6カ月後にマンチェスター・Uを去り、フルバックだったダロトは2年後にACミランへレンタル移籍。マンチェスター・Uに復帰したときには、5,000万ポンドで契約したアーロン・ワン=ビサカがおり、ダロトは先発メンバーのレギュラーになれなかった。

だが、ポルトガル代表となったダロトは、モウリーニョが見出だした能力を存分に発揮しており、右サイドバックにおけるテン・ハーグ監督のファーストチョイスとしての地位を確立した。シーズン後半のクラブの復活において重要な役割を果たしている。

  • Diogo Dalot Manchester United 2023-24Getty Images

    クラウチング・タックル

    ダロトは2024年に入ってからのマンチェスター・U復活の中心選手である。赤い悪魔は1敗もせずに公式戦7試合で6勝を挙げている。年が明けて以降、ダロトはすべての試合で先発し、FAカップのウィガン・アスレティック戦では美しいカーブのかかったゴールを決め、ニューポート・カウンティ戦やアストン・ヴィラ戦ではアシストを記録した。ヴィラ・パークでの初めての見事なクロスが86分にスコット・マクトミネイのヘディング・ゴールを生み、マンチェスター・Uのトップ4フィニッシュおよび来シーズンのチャンピオンズリーグへの復帰の夢を活性化させたのだった。

    ダロトは守備の実力にも磨きをかけている。3対0で勝ったウェストハム戦でジャロッド・ボーウェンを倒したように、ダロトの稲妻のようなスライド・タックルはマンチェスター・Uのファンを喜ばせている。

    「あれは本当に早かった。僕はただ、全力で彼を追いかけようとしただけだ。彼がシュートを打つのに絶好のポジションにいることはわかっていた。タックルでボールを奪えたのは幸運だった」と、ダロトは回想する。イングランドでは血気盛んなスライド・タックルが熱狂を生むことに微笑みながら。

    「そう、他の国よりはそうだね。芝生だからうまくいくし、スライディング・タックルやそういう動きにもってこいだ。ファンが喜んでくれるのはわかっている。ああいうことをすると、いつもちょっとファンの興奮が増すんだ」

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  • Diogo Dalot PumaGetty

    スピードに必要なもの

    ボーウェンへのタックルとそれを可能にしたダロトのスリリングなスプリント力も、ダロトの猛烈な走力を示すものだ。Optaによると、今シーズンのプレミアリーグにおいて、ダロトはマンチェスター・Uで最も早くトップスピードを記録することができる。

    それこそが、今週ダロトがプーマと契約し、世界で最も速いサッカー・シューズと言われるウルトラを履けることに興奮している理由である。

    「現代サッカーではスピードが非常に重要だ。特に、僕のポジションでは。すべてに高い強度が求められ、長い距離を本気のハイスピードで走らなければならない。だから僕はハッピーだ、ウルトラを履けば、もっと速く走ることができるだろう」と、ダロトは言っている。

    ダロトは、これまでプーマのシューズを履いてきた、ヨハン・クライフやディエゴ・マラドーナ、ポルトガルのカリスマ、エウゼビオといったレジェンドたちの仲間入りをしたのである。現在プーマを履いている選手としては、アントワーヌ・グリーズマン、ネイマール、ジャック・グリーリッシュのほか、ダロトのマンチェスター・Uのチームメイトであるアントニーの名が挙げられる。

    「プーマを履いている選手たちはその時代を代表するような選手たちばかりだから、僕もその仲間入りがしたかった。今後もさらに成長していくブランドだし、プーマと契約できて本当にワクワクしている」ともダロトは語った。

  • Diogo Dalot Man Utd 2023-24Getty

    さらに上を目指す

    ダロトは今が絶好調であると認めているが、本当に満足できるのはファンがここにいるべきと信じている場所にマンチェスター・Uが戻れたときだろう。今シーズンは赤い悪魔にとって試練のシーズンであり、開幕から18試合で9敗し、チャンピオンズリーグも驚くほど早く敗退した。

    「僕個人としては最高のシーズンだと思うけど、これが僕の目標とするところじゃない。チームとしてもっとよくなりたいし、チームを成功に導きたい。それが達成できたら、今よりもっとずっとハッピーになれると思う」とダロトは言う。

    マンチェスター・Uがトップに返り咲く道を進んでいることは間違いなく、サー・ジム・ラトクリフと彼のイネオス・チームが少数株主となったことで、クラブを取り巻くムードは高まっている。彼らの登場とともにチームの成績もあがっているのだ。だが、ダロトはこれからまだ長い道のりが待っていることをわかっている。

    それに、ダロトは昨シーズンのテン・ハーグ監督のもとでのマンチェスター・Uの姿に戻りたいと言っているのではない。昨シーズンはリーグ3位、FAカップ準優勝、カラバオ・カップ優勝という結果だったが、マンチェスター・Uはプレミアリーグのタイトルを奪還すべきだと思っているのだ。ダロトが子ども時代には当たり前だったことである。

    「昨シーズンは良い年だった。トロフィーを獲得したし、FAカップの決勝を戦えたし、チャンピオンズリーグの出場権を獲得できた。だけど、それはクラブの目標じゃない。もっと上を目指しているんだ」と、ダロトは言う。

    「今シーズン、うまくいけばタイトルひとつとチャンピオンズリーグの出場権は獲れるだろう。スタートが思い通りにいかなかったから、それでも僕としては前進だと思う」

  • Diogo Dalot Man Utd 2022-23Getty

    「僕らに必要なメンタル」

    「プレミアリーグとチャンピオンズリーグを戦って、あらゆるタイトル争いをするのがマンチェスター・Uのスタンダートだ。そこに向かうための正しい方向にいることができると思う。もう何年もプレミアリーグを優勝していない。7年だ。ファンを長く待たせすぎている」

    「今こそ、僕らは優勝しなければならない。ファンからすれば、昨シーズンのカラバオ・カップ優勝は大したことじゃない。次のシーズンは2つ以上のタイトルを取らなければならない。プレミアリーグも優勝だ。毎年、開幕の時には優勝できると期待されている」

    「それこそ、このクラブで僕らに必要なメンタルだ。クラブにとって当たり前のスタンダードなんだ。それをピッチの上で示して、実行できるかどうかは僕ら選手たち、クラブ、スタッフにかかっている」

  • Jim Ratcliffe Erik ten Hag Dave BrailsfordGetty

    イネオスがこれまでと違うエネルギーをもたらす

    エリート・スポーツをバックグラウンドにもつイネオスの到来は、マンチェスター・Uがダロトの目標を達成するのに役立つに違いない。スポーツ・ディレクターのサー・デーブ・ブレイルズフォードは、昨年12月にイネオスがクラブの27.7%の株を所有することが決まって以来、頻繁にキャリントンの練習場を訪れ、全試合に姿を現している。彼はすでに、宿敵マンチェスター・シティを去ってマンチェスター・UのCEOになるよう、オマー・ベラダを説得したし、ニューカッスルからスポーツ・ディレクターとしてダン・アシュワースを雇う寸前まできている。

    「(イネオスは)これまでと違うエネルギーをもたらした。物事がうまくいっていない時、常に大事なことだ。どこを見てもみんなが前向きだとがわかる」と、ダロトは説明した。

    「彼らは、たくさんの良いエネルギーと、未来へのポジティブな雰囲気をもって僕らのもとに現れた。彼らが仕事をすることに僕らには本当にワクワクしている。今のところ、僕らはみんなハッピーだ」

    クリスマスイブにイネオスとの契約が最終的に決まるまで、マンチェスター・Uはクラブが戦略を再検討し売却の可能性を探っていると公表してから13カ月にわたって機能不全に陥っていた。テン・ハーグ監督は、そのことはチームに影響していないと言っていたが、先行きの不透明さが監督や選手の役に立つはずはなかった。

    「マンチェスター・Uはずっと、ピッチの外で多くの騒ぎがあったから、そう(先行きが不透明に)なった。僕らは出来るだけ、キャリントンの外では大人しくして、ピッチ上の仕事に集中しようとしていた。騒ぐのはメディアや、クラブのことをあれこれ言うのが好きな人たちに任せることにした」

    「ただ、勝てなければ、何もかもが一緒くたにされてしまうのは当然だ。あれ(戦略の再検討)にも少しは責任があるだろう。だけど結局、僕らがピッチで何をするかが、常に重要なんだ。結果が良ければ、みんながハッピーになれる。勝てなければ状況は悪化する。(人々は)何かを批判しようとする。だけど、選手として、僕らはピッチで全力を尽くし、練習して試合に勝とうとしているんだ」

  • Alejandro Garnacho, Rasmus Hojlund Kobbie Mainoo Manchester United 2023-24Getty

    バック・トゥ・ザ・フューチャー

    このところのマンチェスター・Uは、シーズン当初には見られなかった堅実さで試合に勝ち続けている。以前よりも攻撃的な姿勢と大胆さをもってプレーしているのだ。好調なのはダロトだけではない。ラスムス・ホイルンドは直近で出場したプレミアリーグ6試合で7得点を挙げているし、若きチームメイトのアレハンドロ・ガルナチョとコビー・メイヌーもリーグを明るくしている。ピッチの中でも外でも、強い絆のある3人だ。

    「それこそクラブがあるべき姿だと思う。アカデミー出身の選手たちが昇格し、長期契約を結んで、クラブのために成長し、偉大なサッカー選手になっていくんだ。僕らが将来できることのちょっとした見本だね」と、ダロトは言う。

    だが、彼の言葉には警戒感も感じられる。自分も含めて、より年配の選手たちに、台頭してくる世代に気を付けるべきと警告しているのだ。

    「わかりきったことだけど、サッカーでは何も保証されていない。今年絶好調だったとしても、翌年には消えているかもしれない」

    「あの3人もそうだけど、他にも子どもの頃とてもよく指導されていて、大人になるまで多くのサポートを受けていた選手がクラブにはあと何人かいる。僕が契約したのは19歳の時だった。今の彼らと同じ年齢だ。その時こう感じていた。サッカー界は厳しい世界だし、このクラブは厳しいクラブだ。精神的にもしっかりしなければならないし、最高の舞台のために充分に準備しておかなければならない」

  • Diogo Dalot Man Utd 2023-24Getty

    サー・ボビーへの哀悼

    ダロトはまだ24歳ながら、今やマンチェスター・Uに最も長くいる選手のひとりである。ダロトより長くチームにいる選手は5人しかおらず、ダロトはクラブの歴史を深く理解している。

    昨年10月、ダロトは、サー・ボビー・チャールトンが亡くなってから初めてのマンチェスター・Uの記者会見に選ばれ、「ミュンヘンの悲劇」と呼ばれる飛行機事故の生存者にして、その10年後、チームをチャンピオンズ・カップ(現チャンピオンズリーグ)優勝に導いた英雄について雄弁に語った。

    それゆえ、マンチェスター・Uで挙げたゴールの中で一番気に入っているのはどれかと尋ねられたダロトが、チャールトンの訃報が伝えられた数時間後のシェフィールド・ユナイテッド戦で決めた、30ヤード(約27m)の稲妻シュートを選んだことのは驚くことではない。

    「長距離だっただけでなく、たぶん、サー・ボビーが亡くなった後ファンと哀悼の意を捧げた試合でのことだったから、僕にとってはものすごく特別なゴールだった。それに、あのゴールは決勝点にもなったから、ものすごくハッピーだった」と、ダロトは言った。あの衝撃のゴールは、チャールトンがよく決めたことで有名なゴールにも似ていた。「彼の導きだったのかもしれない」

  • Diogo Dalot Man Utd 2023-24 celebrationGetty Images

    「特別なことが起こるに違いない」

    ダロトはマンチェスター・Uのサポーターや、イングランド全土のみならず、ヨーロッパ遠征にもついてきてくれる何千人もの熱心なファンについても熱っぽく語った。

    「僕はたくさんのスタジアムに行って試合をしたけど、アウェーで、マンチェスター・Uのファンのようなファンを見たことはないと思う」と、ダロトは言う。

    「遠いところでも、僕らが行くところはどこでも、ファンがいつもいてくれる。彼らがいることを感じさせてくれる。だから、アウェーで試合する時はいつも特別な感じがするんだ。どんなことになっても、ファンがいつも一緒にいてくれると感じられるから」

    「アウェーで勝てなかったことも時にはある。ファンの人たちは怒ってもいいのに、いつも、毎週末に特別なものが見られると信じてくれている。このクラブの美しいところはそこで、どの試合でも、特別なことが起こるに違いないと感じられるんだ。それがマンチェスター・Uの魔法なんだ」

    ダロトは、マンチェスター・Uがもう一度魔法を起こすのに貢献している。まさに今、何かが起ころうとしている気配がある。だが、ダロトは、チームが本来いるべき場所に戻るまで、休むことはないだろう。