Cristiano Ronaldo Al-Nassr HIC 16:9GOAL

クリスティアーノ・ロナウドのサウジ挑戦は失敗なのか?リーグ優勝を逃した責任は…

現地時間5月20日、下着姿をインスタグラムにアップし、わずか2時間で400万いいねを獲得したクリスティアーノ・ロナウド。サッカー史上最高額の契約でアル・ナスルへ加入し、先日発表された『Forbes』のスポーツ選手長者番付けでリオネル・メッシから首位を奪還。ピッチ外では成功が続いている。

だが、ピッチ上では少し話が違う。1月に鳴り物入りでリヤドに到着した時、アル・ナスルはサウジ・プロフェッショナルリーグの首位にいた。ところが、最終的にはアル・イテハドに次いで2位で終わったのだ。アル・イテハドは14年ぶりの優勝だった。C・ロナウドとチームメイトはアル・イテファクと1-1で引き分け。その結果、残りが1試合で首位との勝ち点差が5となったのである。

これは失敗と言えるのだろうか?アル・ナスルは、優勝を自ら捨ててしまったのだろうか? C・ロナウドとの契約は、チームにどんな影響を与えたのだろうか?

  • 「前よりもっといい男に」?

    C・ロナウドは最近、マンチェスター・ユナイテッドへの2度目の加入は「キャリアとして良くなかった」と認めている。彼にとって最もつらい状況に陥り、最も信頼できるサポーターの中にも批判する者が出はじめ、チームを去ることとなったのだ。

    しかしながら、それも「自分の成長の一部」であり、自分を成熟させてくれたと話す。「僕は今、前よりもっといい男になった」と、3月に『Sport TV +』のインタビューで強調していた。

    それは本当かもしれない。だが、彼が前よりも穏やかな性格になったわけでは決してない。むしろサウジアラビアでのC・ロナウドは、以前の「CR7」のどの姿よりもさらにずっと攻撃的で怒りっぽく見えた。

    この1カ月の間、怒りにまかせてボールを蹴り出したり(アル・ナスルは2-0でリードしていた)、水の入ったボトルを蹴ったり、自軍のベンチに向かってののしったり、言い争って癇癪を起したり、自撮りをしようとした敵チームのスタッフを押しのけたり、ユニフォームの交換を拒否したり、レスリングのテイクダウンのように相手選手を地面にたたきつけたりもしたのだ。

    中でも論争になったのは、試合前にメッシのチャントを歌ってC・ロナウドをからかったアル・ヒラルのファンたちに向かって、猥褻なしぐさをしたことである。4月18日、キング・ファハド国際スタジアムで2-0と負けた後のことだった。

    見るからに挑発的なしぐさでパンツの股の部分を握ったC・ロナウドに対し、リーグからの追放を求める声すらあった。しかしながら、C・ロナウドは処罰を免れた。それには、サウジアラビアサッカー協会の規律倫理委員会が試合の公式映像を見ただけで、試合後SNSに投稿されたファンの動画は見なかったことが少なからず関係している。

    C・ロナウドの行為について、クラブとしてはむしろ絶妙な言い訳をしている。さらにジャーナリストのムハンマド・アル=エネジがこう言ったことも功を奏したかもしれない。

    「ロナウドはケガをしていた。アル・ヒラルのグスタボ・クエジャールとの争いは、非常にデリケートな場所を強打したことから始まっている。これは確認された情報だ。ファンというものは、すべてのことを、自分たちがそう思いたいように解釈するものだ」

  • 広告
  • Ronaldo & Georgina RodriguezGetty Images

    「妬みが噂を生み出す…」

    サウジアラビア到着以来、プライベートにもメディアが押し寄せて気が滅入るほど我慢を強いられていたことは言っておく必要がある。4月には、飛行機の中で喧嘩をしたジョージナ・ロドリゲスとの関係が破綻したという報道すらあった。だが、C・ロナウドのパートナーであるロドリゲスは、インスタグラムでこう言っている。「妬みが噂を生み出し、ゴシップがそれを広め、愚か者がそれを信じる」

    あいにく、この程度の話はこの一家にはよくあることである。唯一新しいのは、サウジアラビアでは未婚のカップルが同居することは違法なので、二人が婚姻関係にあるのかどうかをはっきりさせなければならないということだ。

    C・ロナウドとロドリゲスは例外扱いされているようだが、それでもサウジアラビアにおける衣服やSNSへの投稿に関する法律に照らして、ロドリゲスのネットでの活動についての憶測はやむことがない。アルゼンチン生まれでスペイン国籍のモデルがサウジアラビアへの定住を望まず、ヨーロッパに帰りたがっているという噂が生まれるのは、ほとんど必然だろう。

  • 「彼の人生はそんなに幸せではない」

    ブラジルのレジェンド、リバウドは最近C・ロナウドがアル・ナスルへの移籍を決心したことを疑問視し、「サウジアラビアでの巨額の契約にだまされる選手もいる」と語った。

    「サウジでの生活はそれまでより閉鎖的で、サッカーも必ずしも予想どおりに簡単ではない」と、リバウドは『AS』に語った。「おそらく彼は失望の時を過ごしており、熟考していることだろう。彼に支払われた金では、今現在の彼の人生はそんなに幸せではないのではないか」

    スペインの報道では、レアル・マドリーの歴代最多得点記録保持者はサウジアラビアのインフラの程度の低さに辟易しているという。『ムンド・デポルティーボ』は、C・ロナウドが「現代社会とは程遠い」と感じていると書いている。だが、C・ロナウドのサウジアラビアでの生活を完全にみじめな経験として描写するのはフェアでないかもしれない。

    3月初旬、アル=バーティンに劇的勝利を収めて大いに喜ぶ観客席に、C・ロナウドの家族がいた。彼自身はクラブから2回特別なケーキをもらって満面の笑みだった。1回目は誕生日プレゼントで、2回目は国際的なサッカーの歴史において代表での出場数が最多となったことのお祝いだった。チーム練習の際にカメラマンの役割を引き受けたC・ロナウドがはしゃいでいる姿も目撃されている。

  • 昔の姿を彷彿とさせる

    今、C・ロナウドが再びサッカーを楽しんでいるらしいことは間違いない。バロンドールを5回受賞したC・ロナウドは、アル・ナスルに移籍して最初の2試合は得点できなかったかもしれないが、たった4試合で8得点をあげ、サウジ・プロフェッショナルリーグの2月の月間最優秀選手に選ばれた。19試合で14得点をあげており、そのうちの5得点がPKによるものだったとしても、見事な成績である。スピードに変化をつけてディフェンダーを置き去りにしていたかつての姿を彷彿とさせることもあり、フリーキックからの得点もあった。

    だがもちろん、今現在の自分をさらけ出すこともたびたびある。年齢を重ねたスーパースターは、レベルの低いチームメイトとの連携に苦労している。「神に誓っていう」と、アル・ナスルの元スター、ファド・アル=フライフィはツイッターでつぶやいた。「私はクリスティアーノにアル・ナスルに来てほしくなかった。アル・ナスルにはタリスカがいる。2人の選手が『決めてやるからボールをよこせ』と言い出したら、大惨事になる」

    「私はロナウドが大好きだ。彼のプロ意識は素晴らしいし、尊敬している。すべてに文句のつけようがない。だけど、彼はもはやドリブルができないし、ひとりで完結することはできない。彼はアシストを欲している」

    それこそが、その驚くべきキャリアを続けるために彼がならなければならないストライカーの姿だ。だがそれは、代理人のジョルジュ・メンデスが昨年の夏、当時クライアントだったC・ロナウドをヨーロッパのエリート・クラブに移籍させることができなかった理由でもある。それゆえ、二人はつらい「別れ」をすることになった。

    C・ロナウドは、自分はまだ最高のレベルで得点を決めることができると信じている。サッカー人生であらゆることを成し遂げてきた自分に「できないはずがない」と。だが、マンチェスター・Uのレジェンド、エリック・カントナはC・ロナウドがどこでプレーしようと、もはや先発メンバーにはなれないことを受け入れるのに苦労していると感じている1人だ。今シーズン早々、エリック・テン・ハーグがオールド・トラッフォードで早急に結論づけていたことである。

    「ベテラン選手には2つのタイプがある。自分はまだ25歳だ、全部の試合でプレーしたいと思う選手と、自分はもう25歳じゃない、若い選手たちがいるのだから、全部の試合でプレーするのは無理だ。でも、自分が輝ける瞬間はあると知っている選手だ」

    「新しい選手を助ける選手たちがいる。(ズラタン)イブラヒモヴィッチはまだミランでそういうことをしているし、(テクニカル・ディレクターの)パオロ・マルディーニもミランの選手だったとき、そうだった。ロナウドは自分が25歳でないことに気づいていない。彼はもう年を取っているし、フルタイムでプレーできないことを不幸だと思うのではなく、状況を受け入れることを知るべきだ」

    だが、C・ロナウドにそんな役割は向いていないように見える。自身で認めているとおり、2回目のマンチェスター・U在籍中、若い選手たちとうまくやろうと苦労していた。間違いなく自分よりも若い選手たちのためだと思っていたのだ。

  • 「ロナウド・スクール」

    C・ロナウドがチームメイトにまったく良い影響を与えていないというわけではない。実際、まったく逆だ。ユヴェントスにいた時と同じく、アル・ナスルでも周りにいる選手たちに健康やフィットネスレベルをあげるよう促している。

    「他の人たちのように、クリスティアーノと一緒に仕事をすると何が起こるのか、私にはわかっていなかった。クラブが大きく変わることもわかっていなかった。彼以上にプロに徹したサッカー選手を私は知らない」と、栄養士のジョゼ・ブレサは『Ideal』に語った。「彼と話をするたびに、新しいことを学ぶ。会って、彼の食事やその重要性にどうやって気づいたか、パフォーマンスにとって休息が必要なことについて話した」

    「彼は最初に練習場に来て、最後まで残っている。彼と一緒にいられることは素晴らしい。クリスティアーノは私を大いに助けてくれる。彼に教えることはもはや何もない。彼自身が学校だ」

    「他の選手たちは彼がすることをする。彼がしていることはすべて、パフォーマンスを向上たせるために素晴らしいことだ。彼がここに来て以来、選手たちは全員前よりも真剣に練習するようになり、厳格に食事をするようになった」

    「今までこんなクラブは見たことがない。選手たちに会う度に、身体組成が実際に90%も改善している。体脂肪率が減って、筋肉が増えている。選手たちはつま先立ちですべてのエクササイズをしている」

  • Cristiano Ronaldo Al-Nassr 2022-23Getty Images

    「常にリスペクトされるべきだ!」

    C・ロナウドが加入したことが何人かの選手たちの気持ちを害する恐れがあった。実際、そのせいでヴァンサン・アブバカルはクラブを去らざるを得なかったし、その結果アル・ナスルは多すぎる外国籍選手を抱えることとなった。もっとも、アブバカルは後に実際にはロナウドはチームにとどまるように自分を説得しようとしていたと語っている。

    C・ロナウドが加入してすぐにキャプテンマークを巻くことになったことにも眉をひそめる人たちはいた。だがこの件についても、MFジャロリディン・マシャリポフがチームメイトの全員、それまでキャプテンだったアブドゥッラー・マドゥでさえも、この決定に異議を唱えなかったと主張している。

    「他の選手の誰かがロナウドのキャプテンになるなんて、ちょっと変じゃないか」と、ウズベキスタン代表のマシャリポフは『Sports.ru』で語っている。「僕らは彼がキャプテンになることを期待していた。前のキャプテンも喜んでキャプテンマークを(クリスティアーノ・ロナウドに)渡した。何の問題もなかった。最良の決定だったと思う。それ以外ありえない」

    「クリスティアーノが来る前、大勢の人に『背番号7を譲るのか』と聞かれた。そうじゃないことなんてありえるかい? 相手はクリスティアーノ・ロナウドなんだよ! 彼のような選手は常にリスペクトされるべきだ! 僕が背番号を譲った後、大勢の人が僕はチームを離れるだろうと思いこんだ。でも僕は、背番号を譲るのに何の問題もなかった」

  • 監督ガルシアとの不運な関係

    アル・ナスルにとって不運なことに、キャプテン・ロナウドはチームをリーグ優勝に導くことができなかった。しかしながら、この驚くべき失敗は頑としてルディ・ガルシア元監督の責任であるという人たちもいるだろう。

    フランス出身のガルシア元監督がこの衝撃の契約にどう対処するか、常にアル・ナスルの戦いの鍵となっていた。ふたりの関係は初めからよくなかったと考える人もいる。ガルシア元監督は最初の記者会見で、C・ロナウドがクラブに来る前にメッシと契約したかったと冗談を言っていたのだ。

    だが、実際に問題が始まったのは、1月26日のサウジアラビアのスーパーカップで、アル・イテハドに1-3で負けたときだった。ガルシア監督は事実上、敗戦の原因を「試合の流れを変えてしまった」C・ロナウドのミスだと言ったのだ。その時から二人の関係は変わりはじめ、今にも爆発しそうな数カ月が過ぎた4月9日、アル・フェイハと0-0のドローで終えた後に衝突は起こった。

    イライラを募らせたC・ロナウドが通路で暴れた後、ガルシア元監督が大っぴらにチームを批判したのである。「私は、選手たちのプレーに満足していない。この前の試合(アラーデルに5-0で勝利)と同じレベルでプレーするよう求めたのに、そうならなかった」

    それから4日後、ガルシア元監督はチームを去った。

  • Jose Mourinho Zinedine Zidane GFXGetty

    狙うはモウリーニョかジダン?

    C・ロナウドはSNSへの投稿で解雇された監督への敬意を表し、59歳の監督と一緒に仕事ができて「楽しかった」と述べたが、元監督の解雇に重大な役割を果たしたのがこのストライカーであると広く報道された。C・ロナウドが元監督の戦術に不満なのは明らかで、その意向をチームが汲んだというのだ。

    直ちにディンコ・イェリチッチが暫定監督となったが、シーズン中にチームを立て直すことはできず。アル・ナスルは優勝を逃しただけでなく、サウジ国王杯でもアル・ワフダに敗れた。

    結果として、来シーズンの成功を保証するために、クラブは優秀な監督を招聘するだろうという憶測が強まり、ジョゼ・モウリーニョとジネディーヌ・ジダンという最高のふたりの名前が取りざたされた。しかしながら、このチームの監督として無様なリーグ戦を戦う羽目になるのは、ガルシア元監督にかぎったことではないかもしれない。

    振り返れば1月にアル・ナスルの選手として初めて記者会見に臨んだとき、C・ロナウドはガルシア元監督とクラブのムサリ・アル・ムアンマル会長のふたりに挟まれて座っていたが、ムサリ会長は今や激しいプレッシャーに襲われている。ムサリ会長の任期はまだ2年残っているが、アル・ナスルの理事会の栄誉ある理事たちは、ムサリ会長の任期途中での解任を準備していると信じられている。

  • 残るのか、去るのか

    C・ロナウドの立場が安泰なのは明らかだ。クラブは2025年まで続く彼との契約が満了するまで、何としても引き留めるだろう。その理由は簡単だ。C・ロナウドはアル・ナスルのSNSにとてつもない影響力を持っており、クラブのインスタグラムのフォロワーは、C・ロナウドが来るまでは86万人だったのが、現在は1470万人にもなっている。ムサリ会長が最初の記者会見で言ったとおり、この契約はサッカーに関することだけでなく、クラブのみならずサウジ・プロフェッショナルリーグの活性化にも役立つと期待されているのだ。

    しかしながら、C・ロナウドのいら立ちやガルシア元監督とうまくいかなかったことが何かを示すとしたら、それはC・ロナウドがまだ激しく戦う選手だということだ。どんなレベルにいても、勝つことにこだわり、得点することにこだわる。現状に満足していないことは明らかで、つまるところ、ヨーロッパに戻るという話はそう簡単に消えないだろう。

    ただし、チャンピオンズリーグで戦うトップクラブがC・ロナウドを欲しがる可能性は、かなり低いままのようだ。もっとも、ピアーズ・モーガンは自分のフォロワーたちに、そうではないと思わせる試みを実行中だ。エリート・クラブのレベルのサッカーで求められるものが過去6カ月で変わっておらず、C・ロナウドがサウジ・プロフェッショナルリーグで、自分はまだ人寄せパンダ以上の実力ある選手だと思わせるのに充分な活躍をしていないとしても。

    それでもドルトムントがC・ロナウドと接触したとき、マネージング・ディレクターのカルステン・クラマーは、ドイツ『kicker』で「(クラブの価値は)SNSのフォロワーの数で決まるのではない。われわれはサッカークラブであり、それが一番大事だ。最高のブランドのプレゼンでも、究極の目的は結果だ」と語っていた。

    それでもC・ロナウドはC・ロナウドであり、少なくとももう1シーズン、サウジアラビアにいることを決心しているかもしれない。この歴史的な移籍が間違いなのはC・ロナウド本人にとってだけでなく、アル・ナスルにもだと主張する人々を黙らせるために。

    「私がアル・ナスルの経営陣のひとりだったら」と、アル=フライフィは語った。「クリスティアーノとは契約しないだろう。メッシか、他の選手を探しただろう」

    正直言って、アル・ナスルが優勝できなかった理由となるすべてのトラブルが、C・ロナウドの責任ではないとしても、期待された多くの解決策を授けられなかったのも事実である。