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C・ロナウドもベンゼマも目ではない…エンバペがアル・ヒラルに入れば サウジリーグは真に一変する

1月にアル・ナスルに移籍してサウジ・プロリーグを一躍有名にしたクリスティアーノ・ロナウドは、さすがは話題性のある人物だと証明された。その後、カリム・ベンゼマが夏にアル・イテハドへ移籍し、このリーグがベテランのスーパースターたちに影響力をもつことを確信させた。だが今、サウジアラビアが喉から手が出るほど欲しがっている信用という貴重な宝物を、まさにキリアン・エンバペがもたらそうとしているところかもしれない。

先日、このフランス代表選手がアル・ヒラルに加入するよう2億ユーロ(約311億円)のオファーを受けたと報じられた。ほんの数カ月前だったら、こんなニュースはすぐにナンセンスだと退けられただろう。

エンバペがヨーロッパを去ってサウジアラビアに行くつもりだと考えることさえ、お笑い種だった。だが、今はそうではない。その理由はいくつかある。

  • Kylian Mbappe Nasser Al-Khelaifi PSG HIC 16:9Getty

    窮地のPSG

    まず、今のパリ・サンジェルマン(PSG)はエンバペを喜んで売りに出す。当の本人が、来シーズンの契約満了以降もパルク・デ・プランスにとどまるつもりは毛頭ないとはっきり公言しているからだ。新しい契約を昨年交わしたばかりではあるが、2024年以降も契約を延長するという選択肢はありえないと雇い主に通知ずみである。つまり、PSGは本当の窮地に立たされているのだ。

    PSGが野望を達成するための計画全体において「礎石」となる選手を失いたくないのは明らかだ。だが、クラブのナセル・アル・ケライフィ会長は、エンバペをフリーで移籍させるようなことは決してしないと認めている。PSGは、レアル・マドリーにスター選手を取られないよう懸命に戦ってきた。来年の夏、タダでサンティアゴ・ベルナベウに移籍させるようなことはありえないだろう。

    だから、サウジアラビアから確約された2億ユーロ(約311億円)というオファーについて、必ずしもレアル・マドリーにエンバペを取られないようにする必要はなくても、PSGは真剣に検討しているのだ。イタリアのジャーナリスト、タンクレディ・パルメリ氏によると、アル・ヒラルはエンバペ獲得に必死で、2024年にエンバペに声をかけられるのはレアル・マドリーだけであるというバイアウト条項を契約に入れることも考えているという。

    そうなれば、エンバペは本気でこの移籍に魅力を感じるかもしれない。サウジアラビアでたった1シーズン、歴史的な高額報酬を受けた後で、レアル・マドリーに移籍するという夢を叶えることができるのだから。

    だが、サウジ・プロリーグで仕事に精を出すという未来予想図ですら、もはやエンバペにとって(または他の誰にとっても)魅力的ではないと思うべきではない。ここ数週間で、サウジ・プロリーグに対する認識は大きく変わったのだ。

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  • Jordan Henderson Liverpool 2023-24Getty Images

    金がモラルを超える

    その主な要因は、明らかにベンゼマの加入である。ベンゼマは35歳になろうとしているが、まだとてつもなく高いレベルのプレーができる選手だ。昨シーズンもレアル・マドリーで43試合に出場して31ゴールをあげ、そのことを証明している。

    だからこそ、サウジアラビアへ行くというベンゼマの決心は、サッカー界のすべての人を驚かせた。最も驚いたのはカルロ・アンチェロッティ監督だったかもしれない。このイタリア出身監督は、フランス代表のベンゼマが最高の状態で来シーズンも自分のチームにいてくれると信じていた。「キング・カリム」を失った悲しみを隠そうともしていない。

    しかしながら、現バロンドール保持者の獲得がサウジ・プロリーグのブランドを大いに高めたことは否定できない。事実、それ以降のサウジ・プロリーグは他の、より有意義であることの間違いない取引をいくつも行っている。

    リヴァプールのキャプテン、ジョーダン・ヘンダーソンが加入したことで、サウジアラビアがモラルを考えることを完全に無意味にするような「生活を変える」大金を提示しているという疑いが、単なる疑いでないことが証明された。過去には不平等や社会的不正義について声をあげ、長くLGBTQコミュニティの味方として活動していたヘンダーソンのような人物でさえ、サウジアラビアに行くのだから。

  • Marcelo Brozovic Nassr 2023Al Nassr Twitter

    権力を失いつつあるヨーロッパ

    だが、サッカーの観点からすると、たとえヘンダーソンが2022年ワールドカップでまだ最高のプレーを見せられることを示していたとしても、セルゲイ・ミリンコヴィッチ=サヴィッチやマルセロ・ブロゾヴィッチの契約のほうが、はるかに重要である。

    ブロゾヴィッチはまだ30歳で、6月にマンチェスター・シティと戦ったチャンピオンズリーグ決勝ではインテルの中で最高の選手だった。バルセロナからも声がかかったのに、アル・ナスルに行くことになった。これは、今や経済力がモノいう時代になったことを目に見える形で我々に突きつけている。ヨーロッパの由緒ある最強のクラブでさえ、獲得しようとしている選手が中東へ行ってしまうことを阻止できないほど、長く間違ったことをしてきたということなのだ。

    実際、ミリンコヴィッチ=サヴィッチはここ数シーズン連続でユヴェントスから声がかかっており、最終的にはユヴェントスに行くのだろうと思われていた。ところがユヴェントスは虚偽会計などでセリエAの勝ち点をはく奪され、来シーズンのチャンピオンズリーグ出場権を失うこととなり、事実として安商いに手を出すしかなくなり、若手に投資することを余儀なくされている。

    その結果、ミリンコヴィッチ=サヴィッチはラツィオを去ってアル・ヒラルに行くこととなった。実に驚くべき展開である。このセルビア代表はまだ28歳。絶頂期を過ぎたどころか、むしろ絶頂期に入りかけているところだ。C・ロナウドやベンゼマのようにすべてをやり遂げたとか、すべての栄光を手に入れたというわけでもない。エンゴロ・カンテや、ましてやロベルト・フィルミーノのようでもない。キャリアの中でチャンピオンズリーグの常連でもないし、ラツィオに残っていれば何かオファーがあっただろうが、たとえ出ていくにしてもマンチェスター・ユナイテッドやレアル・マドリーのようなヨーロッパのエリートクラブに行くだろうと思われていたのだ。

    ところが、彼は自身のピークとなるこれからの数年間をサウジアラビアで過ごすことに同意した。これもまた、サウジアラビアの吸引力の強さをはっきりと示すものだろう。

  • MbappeGetty Images

    エンバペはいるだけでプライスレス

    とはいえ、エンバペと契約できればサウジ・プロリーグはさらなる高みに舞い上がることになるだろう。たった1シーズンしか所属していなくても、エンバペはサウジ・プロリーグに正当性を与えることができる。これは他の誰も(C・ロナウドやベンゼマでさえも…)真似できないことだ。なぜならエンバペは単なるスーパースターではなく、まだ若くこれから何年も全盛期が続く選手なのだから。

    今、世界で彼以上に価値のある選手はいない。サウジアラビアがバカバカしいほど巨額な資金を使ってエンバペと契約するとしても、驚くことではないのだ。サウジ・プロリーグに限っては、彼がいるというただそれだけのことにプライスレスな価値がある。

    これは歴代最高額の移籍ではないかもしれない。もっと驚くべき移籍もあるかもしれない。そして今や、そういうことも起こりうると感じられるようになったこと自体に、サウジアラビアがこれまでサッカー界をどう変えてきたかを知るために必要なすべてが詰まっているのである。