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さらば、クリスティアーノ・ロナウド:20年ぶりバロンドール候補選外は彼の時代の終焉を告げる

サッカー界で最も権威ある個人賞の候補者リストから、クリスティアーノ・ロナウドの名前が消えた。マンチェスター・ユナイテッドやレアル・マドリーで世界の頂点に君臨し続けた男は、2004年から2022年まで19年連続でバロンドール候補に名を連ね、5回の受賞歴を誇っている。だが2023年、20年ぶりに最終候補者リストに彼の名前はなかった。

C・ロナウドは現在もポルトガル代表に招集されている。しかし、彼のエゴの大きさを考えると、今回の選外に動揺しているのは間違いだろう。1月にサウジアラビアへと旅立ったにも関わらず、彼のエゴは今までと同じまま。事実、40歳になっても「最高レベル」でプレーし続けると明言している。

だが、以前ほど彼に注目が集まっていないというのも明白だ。ヨーロッパのサッカー界は、C・ロナウドから離れて動いている。その輝かしいキャリアを広げようとして失敗したことで、今や、彼の打ち立ててきた伝説全体がダメージを受けているのである。

  • Cristiano Ronaldo Man Utd 2022-23Getty Images

    20年ぶりにバロンドール候補から外れる

    C・ロナウドはアル・ナスルで華々しいスタートを切った。デビューから16試合で14得点を奪っている。これは立派な数字だろう。しかし、サウジ・プロリーグはヨーロッパの5大リーグに比べてしまえばそのレベルには大きな差がある。だからこそ、2023年のバロンドールの候補者に彼の名前がなくても驚きは少なかった。

    2度目のマンチェスター・U生活が悲しい結末を迎えた後、彼には中東以外の選択肢が残されていなかった。エリック・テン・ハーグ監督の下、2022-23シーズン前半戦はほぼ出番がなく、先発した10試合で3得点をあげるのがやっとだった。そうしたすべてが、あの悪しきインタビューに繋がっている。自身のミスや問題は棚に上げ、指揮官やクラブ、チームに対するイライラをぶちまけた。その結果、双方合意の上で契約を解消。C・ロナウドがいなくなったことで、皮肉なことにテン・ハーグ監督のチームはそれまでよりずっと良くなったのである。

    彼の運は2022年ワールドカップでも好転しなかった。当時ポルトガル代表を率いていたフェルナンド・サントス監督もキャプテンに代わってゴンサロ・ラモスを起用すると、世界最高峰の舞台で大活躍。結果的にポルトガル代表は準々決勝でモロッコに敗れたが、C・ロナウドは5試合でたった1得点しかあげられずに大会を去った。ピッチにいたときでさえ印象に残るプレーをすることはなく、総じて試合のペースについていけないようにも見えた。

    結論として、昨シーズンのC・ロナウドは「世界最高の選手の1人」とはとても言えなかったのである。

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  • Messi Ronaldo GFXGetty/GOAL

    「メッシとのライバル関係はなくなった」

    ここ15年、C・ロナウドはリオネル・メッシとともに世界のサッカーを牽引してきた。この2人のスーパースターは、合わせて79もの主要タイトルを獲得し、それぞれ800ゴール以上を記録。数々の偉大な記録を更新してきた、生けるレジェンドである。

    昨シーズンもメッシは「メッシ」であり、アルゼンチン代表では悲願のワールドカップ制覇を達成。様々な問題はあったにせよ、パリ・サンジェルマンでも能力を証明し続け、リーグ・アン制覇を達成している。今夏インテル・マイアミに移籍しても、その活躍は止まらない。今やアメリカサッカー界は「メッシ・フィーバー」に揺れている。36歳の彼は、バロンドール候補者にしっかりと名を連ねた。あのワールドカップの偉業を見れば、最有力候補と言っていいだろう。

    C・ロナウドとメッシの差は、かつてないほどに広がっている。だが、本人は絶対に認めないだろう。先日の会見では、「僕はそんな風には考えていない。ライバル関係はなくなった」と語っている。

    「僕らは良い関係だったし、ファンはそういうのが好きだった。クリスティアーノ・ロナウドを好きな人がメッシを嫌うべきではないし、その逆も同じ。僕らは素晴らしいことを成し遂げたんだ。サッカーの歴史を変えたんだ」

    「僕らは世界中から尊敬されていて、それが一番大事なことだ。ヨーロッパ以外でプレーしようとしまいと、彼は彼の道を行き、僕は僕の道を行く。僕が見てきたところでは、彼は上手くやってきたし、僕もそうだ。レガシーは生きつづける。ただ、僕はいわゆるライバルとは思っていない」

    事実、C・ロナウドとメッシのライバル関係は、少なくとも1年前からなくなっている。成し遂げてきた偉業に対してまだ「リスペクトが足りない」と言う権利があるとしても、長い目で見るとメッシほど好意的に記憶されることはないだろう。

  • Cristiano Ronaldo Nassr 2023Getty

    「目標は高くなければならない」

    C・ロナウドは直近のサウジ・プロリーグの試合でキャリア850ゴール目を決め、アル・ハズム戦(5-1)の大勝に貢献した。試合後、この偉業について問われると「歴史的瞬間だよ。僕にとって、達成できるとは思えなかった数字を達成してきたことはプライドの源なんだ。だけど、僕はさらに上をめざす。サッカーをしている限り、目標は高くなければならない」と語っている。

    彼が絶好調であることは間違いなく、2023-24シーズン開幕4試合で6ゴール4アシストを記録している。だが、こうした数字は驚くには値しない。C・ロナウドの目標は決して高いとは言えず、最低レベルの期待に応えているだけだ。

    C・ロナウドが加入したばかりの頃より、アル・ナスルはずっと強くなっている。サディオ・マネ、オタヴィオ、マルセロ・ブロゾヴィッチ、アイメリク・ラポルテ、アレックス・テレス、セコ・フォファナといった選手たちが今夏に合流した。平凡なディフェンスを崩すためにこれほどまでにハイレベルなサポートがある中で、決定機を失敗する言い訳はできない。

    「僕の一番の願いは、常に進化し続けることだ。ここ(サウジ・プロリーグ)が一流になるようにね」

    彼の言葉とは裏腹に、サウジ・プロリーグが一流なるには、たとえヨーロッパのトップ選手たちに驚異的ペースで投資を続けたとしても、どれほどの時間がかかるかは想像できない。確かに、サウジアラビア成長を誰もが注視している。ネイマールやガブリエル・ベイガといった選手も惹きつけられた。だが、中東での移籍市場が閉まってしまえば、プロリーグへの注目度は下がるだろう。

  • Cristiano Ronaldo PortugalGetty

    ポルトガル代表進化の障害

    6月、C・ロナウドは『Record』のインタビューでこう語った。「僕は毎年、何かを証明してきた。今はサッカーを長く続ける手本になれることを証明している。38歳だけど、まだまだやれるよ」

    「何をかって? ゴールも、アシストも、代表に選ばれることも、予選でいいプレーをして、EUROで活躍し、21年のキャリアで成し遂げてきたことを続けられるんだ。同じように楽しんでね。僕はまだ役に立つし、良い選手だよ」

    昨年のワールドカップで活躍できなかったが、彼は未だにポルトガル代表のキャプテンマークを巻き続けている。大きなアクシデントが起こらないかぎり、C・ロナウドはEURO2024でもそうなるだろう。なお、ポルトガルは予選4連勝だ。

    C・ロナウドはグループGで5得点を決めているが、そのほとんどはリヒテンシュタインとルクセンブルクに大勝した試合。代表の歴代得点記録を伸ばしているが、最高レベルの試合でもまだ活躍できるかを証明するまでには至っていない。

    ポルトガル代表には才能あふれる若い選手が揃っている。特に攻撃的ポジションはそうだ。ラモス、ラフェエル・レオン、ジョアン・フェリックスは来年夏のEUROで脅威的な3トップになるポテンシャルを秘めている。だが、おそらくチャンスはないだろう。選手リストの一番上に来るのは、C・ロナウドであるからだ。

    その結果、ポルトガル代表が苦しむことは間違いない。チームのために身を粉にする気はなく、新生代の進化の障害になりつつある彼が、輝かしい“白鳥の歌(辞世の歌)”を歌うことはない。

  • Cristiano Ronaldo Al-Nassr 2023-24Getty

    今後は…?

    C・ロナウドは、9月のEURO予選2試合にも出場するだろう。ここで6ポイントを稼げば、ドイツ行きの切符を確実にできるはずだ。そして代表ウィーク終了後、アル・ナスルに戻ってアル・ラーイド戦を戦い、AFCチャンピオンズリーグの開幕に向けて準備を始めるだろう。

    今シーズンが終わるまでに、C・ロナウドがさらなる栄冠を手にする可能性はある。得点王のタイトルも、またひとつ獲得するかもしれない。だが、サウジアラビア以外に住む人々は、C・ロナウドがクラブでどんな快挙を達成しようと、もはや興味を示さない。多くのヨーロッパファンは、今の段階での彼の引退を受け入れるかもしれない。

    C・ロナウドはサッカー界の英雄のひとりだ。それは間違いない。

    だが、先達たちと違い“引き際”をわかっていない。バロンドール候補にならないことも、「自分への評価が間違っていることを証明したい」という意欲を燃え上がらせるだけかもしれない。

    C・ロナウドのサッカー人生の最終章は、スパイクを脱ぐその時に悲しい結末を迎えるかもしれない。とはいえ、ほとんどの人はすでに彼に「アディオス」を告げているかもしれない。