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なぜプレミアリーグ勢はCL&ELで全滅したのか? 最大の原因と今後

最高レベルの息をのむような4試合が終わり、今シーズンのチャンピオンズリーグ準決勝進出チームが決定。6月1日にウェンブリーで繰り広げられる最高の舞台に、イングランドのチームはどこも立てないことになった。ベスト4にプレミアリーグのチームがひとつもないというのは過去25年間で8回しかなく、2019-20シーズン以来のことである。これは何かが大きく間違っていることの証だろう。

事実、プレミアリーグのチームは過去5回の大会中3回チャンピオンズリーグのトロフィーを掲げており、その間、イングランド同士の決勝が2回ある。前回チャンピオンのマンチェスター・シティは、優勝14回を誇るレアル・マドリーに熾烈なPK戦の末に敗れて栄冠を手放すこととなり、アーセナルはバイエルン・ミュンヘンに善戦はしたが、結局は負けてしまった。

彼らの敗戦がイングランド・サッカーにとって由々しき事態であることは間違いない。プレミアリーグの資金力は他のヨーロッパ「五大リーグ」のチームを凌駕しており、最高の選手や監督をすべて手中に収め、彼らが成功するためのツールを提供している。

それなのに失敗したのは、まさに信じがたいことだ。レアル・マドリーとバイエルンのこの大会における比類なき経験が最後に物を言ったのであり、彼らは、規律と優れた戦術を駆使してプレミアリーグ最強神話を粉砕した。この結果を誰も異常とは感じず、むしろ重大な力の移動が起こっていることが明らかになった。

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    マン・Cの歩みは狂わない

    マンチェスター・Cの場合、パニックになる必要はない。ペップ・グアルディオラ監督のチームは準々決勝第2レグの試合の120分間、レアル・マドリーのサイドで試合をし続けた。相手のシュート8本に対して33本のシュートを放ち、ボール支配率は68%を誇ったのである。

    先制点はレアル・マドリーの素早いカウンターアタックからロドリゴが決めたが、それ以外にゴールの匂いはほとんどせず、マンチェスター・Cが追いつくのは時間の問題だと思われた。それが76分でのことだったのは驚きでしかなかったが、アントニオ・リュディガーがクリアしきれなかったボールを拾ったケヴィン・デ・ブライネが至近距離からゴールの上隅に得点を決めた。その後もレアル・マドリーは幸運もあって延長戦を乗り切った。

    マンチェスター・Cは、ほとんどのチームに対してやってきたように敵を追い詰め、試合終了の笛が鳴ったとき、レアル・マドリーの多くの選手が膝をついた。それでも、ロス・ブランコスは熾烈なPK戦においてゴールを死守し、敵地の熱狂的なサポーターの前で戦うというプレッシャーも加わる中で、鉄のメンタルを見せつけて勝ち抜いたのだった。

    マンチェスター・Cの2度目の三冠獲得に向けての戦いは終わった。今大会と、昨シーズン両チームが戦い、マンチェスター・Cが4対0で勝った準決勝第2レグの試合との違いは、ただマンチェスター・Cがチャンスを決めきれなかったことだけだった。

    グアルディオラ監督は、次の土曜のFAカップ準決勝のチェルシー戦で、選手たちから力強い答えを得ることだろう。この秋、115件のFFP違反に関する重罰が下るのではないかという恐れは依然としてあるものの、マンチェスター・Cがエリートチームであることは間違いなく、チャンピオンズリーグ敗退によって彼らの歩みが狂うことはないだろう。

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  • Declan Rice Arsenal 2023-24Getty Images

    アーセナルの挫折

    グアルディオラ監督は、「我々はすべてをやった」、「素晴らしいプレーをした」として、マンチェスター・Cのチャンピオンズリーグ敗退に「なんの悔いもない」と言った。ミケル・アルテタ監督も、ミュンヘンでアーセナルが1対0で負けた後、「ほんのわずかの差だった」とのコメントを残したが、かつての師とは違い、彼の言葉はうつろに響いた。

    アーセナルはホームでの第1レグを幸運にも2対2で引き分けることができたが、第2レグではまったくいいところがなかった。ガナーズは出足は良かったが、前半終了の笛が吹かれる頃にはバイエルンが優勢となり、後半45分はバイエルンが支配していた。決勝点は、反対サイドからマークをかわして亡霊のように現れたヨズア・キミッヒが、ラファエル・ゲレイロのクロスに合わせて決めたものだった。

    2022-23シーズンにプレミアリーグ優勝を僅差で逃したアーセナルは、チーム全体で多くのことを改善してきた。ウィリアム・サリバはケガの問題を克服し、クラブ史上記録的な契約をしたデクラン・ライスは、中盤に新次元をもたらした。だが、最大の試合において相変わらず強気になりきれず、大事なところでの真の強さに欠けていた。

    アルテタ監督の選手たちは、日曜のエミレーツ・スタジアムでのアストン・ヴィラ戦に2対0で敗れ、今シーズンのプレミアリーグの優勝争いの主導権をマンチェスター・Cに渡してしなった時の間違いを、チームとして正そうとしているように見えなかった。ブカヨ・サカやベン・ホワイトといった、今シーズンほとんどの試合にフル出場している選手たちは、アリアンツ・アリーナでの第2レグで明らかに疲れ切っていた。

    バイエルンに負けることは通常なら恥ずかしいことではないだろうが、トーマス・トゥヘル監督のチームは、ハリー・ケインが得点記録を更新した以外、大会中ずっとまとまりを欠いていた。ブンデスリーガでも5試合を残して優勝を決められてしまい、新チャンピオンのレヴァークーゼンとの勝ち点差は16にもなる。さらにDFBポカールでは2回戦で3部所属のザールブリュッケンに負けてしまった。

    「準決勝に行くだけの能力も実力もあると思っている」と、アルテタ監督は言った。「歴史を見れば、他のクラブなら(チャンピオンズリーグの準決勝に行くのに)7、8年、または10年かかっている」

    今シーズンのバイエルンに負けるほどアーセナルが良くないとすれば、ベスト4に残れるようになるには、短くない時間かかるかもしれない。昨夏、2億ポンド(約383億円)を投資したにもかかわらず、アルテタ監督が最大のタイトルに手が届かなったというのが現実だ。

  • Erling Haaland Manchester City 2023-24Getty Images

    ランキング

    統計的な観点からすると、マンチェスター・Cとアーセナルがチャンピオンズリーグで敗退したことは、すでにプレミアリーグに悪影響を及ぼしている。今週の試合の前には、UEFAランキングでドイツはイングランドよりわずかに上なだけだったが、今や圧倒的なリードとなった。

    2024-25シーズンのチャンピオンズリーグは出場数を36チームに拡大し、ランキング上位2カ国は2チーム多く出場できることになる。今のところセリエAとブンデスリーガがその恩恵にあずかりそうだ。ドイツは、チャンピオンズリーグの準決勝に2チームが残り、ヨーロッパリーグでもレヴァークーゼンが、ウェストハムとの準々決勝第1レグを2対0で勝ち、第2レグは引き分けてベスト4に進出した。イングランドがドイツを上回ることはちょっとした奇跡が起こらない限り無理だろう。

    リヴァプールもアンフィールドでアタランタに3対0で敗れ、第1レグは1対0で勝っていたものの、ヨーロッパリーグ敗退が決まった。現状、ヨーロッパの大会を勝ち続け、タイトルを獲得できそうなイングランドのチームはただひとつ、アストン・ヴィラだけ。ヨーロッパ・カンファレンス・リーグの準々決勝第1レグでリールに2対1で勝った後、第2レグは逆に1対2で敗れたものの、PK戦を制して準決勝進出を決めている。

    もちろんマンチェスター・ユナイテッドとニューカッスルが12月に屈辱的なチャンピオンズリーグのグルーブステージ敗退となったこともあって、現状はイングランドのサッカー界にとってお寒いかぎりである。セリエAのチャンピオンとして出場したインテルは、ラツィオとナポリとともにベスト16に進出し、ミランとの同国対決を制したローマがアタランタとともにベスト4に進出したおかげで、イタリアはヨーロッパリーグの準決勝に2チームが残った。フィオレンティーナもヨーロッパ・カンファレンス・リーグに勝ち残っている。

    プレミアリーグが世界一のリーグならば、そのプレーぶりが何故ヨーロッパの大会で発揮されないのか。答えは簡単だ。現在、イングランドでトップクラブと言えるのはマンチェスター・Cのみであり、その他のチームとのギャップは大きく、その差は広がる一方なのである。

  • Jurgen Klopp LiverpoolGetty Images

    アンフィールドの過渡期

    過去6年間、マンチェスター・Cに対抗してきた主なチームはリヴァプールだ。2019-20シーズンにはマンチェスター・Cを上回って優勝し、準優勝も2度ある。ほんの数週間前にも、可能性のある四冠のひとつを獲得すべく、マンチェスター・Cを首位から引きずり降ろそうと戦ったが、アンフィールドで粘り強く戦いながら絶好のチャンスを逃して1対1の引き分けに終わった。

    ユルゲン・クロップ監督のチームはFAカップの準々決勝でマンチェスター・ユナイテッドに敗れ、リーグ戦でのリベンジも、オールド・トラッフォードで大いに残念な2対2の引き分けを喫した。さらにその後、アタランタ戦にも大敗し、ホームでのクリスタル・パレス戦も1対0で敗れた。

    これにより、リヴァプールはカラバオカップ優勝のみのまま、今シーズンを終わることになる可能性がある。プレミアリーグは6試合を残して3位であり、マンチェスター・Cとは勝ち点2の差、アーセナルとは勝ち点が同じで得失点差で負けている。

    まだ望みは残っているが、マンチェスター・Cの今後の対戦相手は強豪ではない。歴史を振り返れば、このところの連勝が続くかもしれない。何が起こるかはわからないが、リヴァプールが再びグアルディオラ監督のチームに近づくまでには時間がかかることだろう。

    クロップ監督は5月いっぱいでアンフィールドを去ることを公式に発表し、リヴァプールに新時代が訪れようとしている。9年間、ファンを楽しませ、誰の目にも明らかな成功を収めてきた監督だ。誰からも愛されたドイツ人監督の後任が誰になるにせよ、レッズが何の問題もなく過渡期を乗り越えることが容易ではないことは誰もが想像つくだろう。全盛期を迎えたモハメド・サラーやフィルジル・ファン・ダイクのようなスター選手たちの今後についても憶測が飛び交っている。

    リヴァプールが衰えるとするならば、トップ4に上がって来れそうなチームはどこだろうか。マンチェスター・ユナイテッド、ニューカッスル、チェルシーは今シーズン、期待を大きく下回っているし、攻撃的なスタイルを好むアンジェ・ポステコグルー監督がトッテナムを一段階高いレベルに引き上げられるかどうか、まだわからない。来シーズンの今ごろ、プレミアリーグがさらに弱いリーグになっている可能性は充分にあるのだ。

  • Pep Guardiola Manchester City 2023-24Getty Images

    予測不可能

    今や他のヨーロッパのリーグはお祭り騒ぎだろう。バイエルンは、早々と2023-24シーズンのチャンピオンズリーグの優勝候補と言われていたアーセナルをひきずり下ろし、レアル・マドリーがマンチェスター・Cに勝ったことは、ノックアウト方式におけるサッカーが依然として予測不能であることを充分に示した。

    レアル・マドリーとバイエルンはともに、勝ち進むための優れたノウハウを惜しみなく利用した。もちろん両チームは、同じく準決勝に進出したパリ・サンジェルマン同様、もともとサッカー界の強豪であり、どんなに想像力をたくましくしたところで今回のことはおとぎ話でも何でもない。

    だが、プレミアリーグはラ・リーガやブンデスリーガ、リーグ・アン、セリエAを、TVの放映収入において何十億という単位で上回っているし、選手たちにこれら4リーグよりも20億ポンド(約3,825億円)以上多くの報酬を支払っている。

    今シーズンの準々決勝がスリリングだったおかげで、大会は活気を取り戻した。最初から最後まで底流には本物の危機と希望が潜んでおり、良くも悪くもターニングポイントは人々が席を立った瞬間にもたらされた。

    来シーズンの大会規模拡大に対する不安も消え去った。36チームによるリーグ戦が行われてもプレミアリーグのクラブがすべてを思い通りにできるわけではないと、安心して言えるようになったのだ。

  • Bukayo Saka Arsenal 2023-24Getty Images

    プレミアリーグ最大の弱点

    スペイン、イタリア、ドイツ、フランスのトップクラブはここ数年、プレミアリーグに追いつこうと、日ごろから鍛錬を重ね、移籍市場を精査して最大のお買い得契約を得ようとしてきた。

    プレミアリーグ、FA、EFL(2部から4部)の過密スケジュールはすべてのトップチームの監督にとって悩みの種となっており、近年マンチェスター・Cは見事に対処してきたものの、アーセナルとリヴァプールはそれぞれのキャンプ地で、燃え尽き症候群に苦労している。

    FAカップの再試合は廃止され、正しい方向へ歩み出したが、イングランドのチームにヨーロッパの大会で成功するための最大限のチャンスを与えるには、もっといろいろなことをしなければならない。

    マンチェスター・Cとアーセナルは、それぞれ水曜に今シーズンの51試合目と46試合目を戦ったが、レアル・マドリーとバイエルンにとっては45試合目と42試合目であった。大差ないように思えるかもしれないが、休息期間がそれだけ余計にあったことは、スペインとドイツの巨人にとって、いくばくかのアドバンテージになったことだろう。チャンピオンズリーグが拡大されれば、さらに試合が増え、同じようなことが起こる可能性がある。

  • Carlo-Ancelotti(C)Getty Images

    今後はどうなる

    マンチェスター・Cは今なお、卓越した基準を設定し続けているが、アーセナルは相変わらず最高の状態からは程遠いように思われ、リヴァプールは不確かな未来に直面し、マンチェスター・Uやチェルシーは、またしばらくヨーロッパ最高の舞台に立つことすらできないかもしれない。

    今シーズンのチャンピオンズリーグ準決勝進出チームは、ここ数年で最も魅力的なチームばかりで、4チームとも優勝できる力を持っている。アンチェロッティ監督が自身5度目の栄冠をレアルで成し遂げるのか。2013年のウェンブリーでの決勝と同じく、ドイツの2チームが今回も決勝を戦い、バイエルンがついに「ハリー・ケインの呪い」を払拭するのか、はたまた、ドルトムントが11年前のリベンジを果たすのか。それとも、キリアン・エンバペが、パリ・サンジェルマンを初めてのヨーロッパ王者のタイトルへ導いてから去っていくことになるのか。追いかけるべき数多くの素晴らしい物語が繰り広げられる中、全滅したイングランド勢は来季の巻き返しへ試行錯誤することになる。

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