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アーセナルは本当に“FW補強”が必要ないのか:不安なハヴァーツ&サカの控えとぴったりな選択肢

現地時間17日、8月の太陽が燦然と輝くエミレーツ・スタジアムで、アーセナルは夢のようなスタートを切った。ウォルヴァーハンプトンに2-0で勝ったこと自体は驚きではない。近年のガナーズは、特にホーム戦ではほとんど負けないからだ。試合が進むにつれてポゼッションの不安を多少露呈したものの、結果もパフォーマンスも上々だった。そしてそれは、ただ勝ったからだけではない。

先制点は、抜群のキレを見せるブカヨ・サカの正確なクロスからカイ・ハヴァーツがヘッドを叩き込んだ。さらに守護神ダビド・ラヤが大ピンチを驚異的なセーブで防ぐと、残り16分のところで今度はハヴァーツのお膳立てからサカが最高の形でネットを揺らしている。役者2人がしっかりと結果を残したのだった。

タイムアップの瞬間、ミケル・アルテタ監督は大いに満足そうであり、特に前半のパフォーマンスを絶賛した。「我々は非常に良かった。本当に攻撃的で、本当に激しく、攻めようという意図が感じられた。スピードもあり、何度もボックス内を脅かした」、「我々は多くのチャンスを生みだした。もう2点か3点、決められたかもしれない。そうすればまた違った試合になっていただろう」

  • Mikel Arteta Kai Havertz Arsenal 2024-25Getty/GOAL

    “昨シーズン”を継続

    近年の躍進で、アーセナルのパフォーマンスは完成に近づいている。特に、昨季後半戦はほぼ完璧だった。リーグ戦最後の18試合中、16試合に勝利。同期間では、彼ら以上に勝ち点を獲得したチームはない。しかし、もはや信じられないことではあるが、優勝には結びつかなかった。アストン・ヴィラ相手のたった1つの敗戦が、マンチェスター・シティの4連覇を許してしまったのである。

    結果的には何も勝ち取れず、アーセナルにとっては非常に辛いシーズンだった。それでも、彼らは最高のプレーを見つけていた。連勝が始まる直前、ウェストハムとフラム相手に連敗を喫して深刻な得点力不足が浮き彫りになっていたが、ハヴァーツを最前線に起用してデクラン・ライスを一列上げることで、現チームのポテンシャルを最大限に発揮できる布陣が見つかったのである。このオプションがプレミアリーグ最高のパフォーマンスにつながっていた。

    それは今シーズンも継続し、17日の開幕戦も昨季とほぼ同じメンバーであった。ハヴァーツはわずか25分間で今季初ゴールをマーク。昨季は20試合も必要だったことを考えると、アルテタの喜びもひとしおだったはずだ。EURO2024決勝を戦ったサカ&ラヤも、プレシーズンの不在をまったく感じさせない抜群のプレーを見せている。これにはエミレーツのファンも大喜びだった。

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  • Mikel-Merino(C) Getty Images

    新加入選手の存在

    そんなアーセナルだが、ここからさらに進化していくのは間違いない。昨季をケガで棒に振ったユリエン・ティンバー、さらに新加入のリッカルド・カラフィオーリがチームをさらに底上げするはずだ。開幕戦こそプレシーズンで好調だったオレクサンドル・ジンチェンコが抜擢されたが、シーズンが進むにつれてティンバー&カラフィオーリがより重要なポジションを担うだろう。アルテタは、今後に向けてこんなヒントを漏らしている。

    「我々は試合ごとに前進する。ユリエンはここ数週間、体調が良くなかったんだ。2週間~3週間はまったくプレーできない状態だった。リッカルドは移籍してきたばかりだが、多くのことに慣れつつある。2人は順調に成長しているよ。チーム内に多くの競争があることは素晴らしいことだ」

    そして、ミケル・メリーノがやってくる。随分前から移籍が囁かれていたが、18日のレアル・ソシエダの開幕戦でメンバーから外れており、さらにクラブ間での合意も広く報じられている。このスペイン代表が加入すれば、中盤に新たなダイナミズムが生まれるだろう。ウルブス戦ではトーマス・パーティがやや不安を感じさせたが、メリーノとライスが中盤をより強固なものにしてくれるはずだ。

  • Bukayo Saka Arsenal 2024Getty Images

    「替えのきかない」存在

    エミレーツにおける期待と興奮は、ファンの間だけでなくメディアや解説者にも広がっている。今季の優勝候補として、アーセナルを挙げたメディアは王者マンチェスター・シティと同じかそれ以上に存在した。仮にメリーノが到着すれば、その期待はさらに高まるだろう。

    しかし視野を広げると、今のアーセナルが「完璧」ではないことは明らかだ。サカが過去3シーズンでリーグ戦を欠場したのはわずか3試合であり、あまりにも替えのきかない状態だ。ハヴァーツも昨季リーグ戦37試合に出場し、ライスやウィリアム・サリバもほとんど休みはなかった。主力を休ませられるようなスカッドがないのは事実である。

    特にサカとハヴァーツに関して、開幕戦で再び見事なパフォーマンスを見せたことは喜ばしいものの、2人が離脱するようなことになれば、アーセナルは大ピンチに陥ってしまう。確かにプレシーズンでガブリエウ・ジェズスが好調ではあったが、長期的な問題を解決するのは難しいだろう。リース・ネルソンやエディ・エンケティアといった選択肢もあるが、ヘイルエンド出身の彼らの成長はここ数年で停滞してしまった。もう若いとは言えず(24歳と25歳)、退団も近いと伝えられている。サカとハヴァーツの代わりを見つけるのは難しいとはいえ、人数的にも代えがまったくいなくなってしまうのは大問題である。

  • Arsenal FC v Wolverhampton Wanderers FC - Premier LeagueGetty Images Sport

    意固地?な指揮官

    以上を考えれば、移籍市場閉幕前に「もう1人アタッカーを獲得しよう」と考えるのは当然だろう。ストライカー、もしくは右サイドで競える選手が必要だ。

    だが、アルテタの考えは違うのかもしれない。新たな選手を獲得するのではなく、サカとハヴァーツをどう支えるかに神経を集中しているようだ。ウルブス戦の後にこう語った。

    「最初に言った通りだ。今いる選手たちを成長させ、彼ら自身が夢にまで見たレベルまで成長させるような余裕を生み出すことに集中しなければいけない」

    「チームにはすでに偉大なストライカーが何人もいるよ。我々のアタッキング・ラインは素晴らしい」

  • Eddie Nketiah Arsenal 2024Getty Images

    バックアッパーが不在に?

    今の時点ではそれでもいいのかもしれない。だが、移籍市場閉幕までに状況は変わる。アルテタ自身も開幕戦の前に「市場は開いているのだから、何かが起こってもおかしくない」と語っていた。そして、アーセナルは余剰戦力の整理にも動いている。

    そして、クラブ側はエンケティアの放出に前向きだ。マルセイユ移籍は破談に終わったようだが、現在はクリスタル・パレスやエヴァートンに加え、ノッティンガム・フォレストが熱心な関心を寄せているという。そしてネルソンに対しても、レスターなど移籍候補が挙がっていた。ヘイルエンド出身の彼らはアーセナルに特別な思いを持っているかもしれないが、もうベンチを温める時間はないだろう。これに加え、キーラン・ティアニーなども新天地を求める可能性は非常に高い。

  • Ivan Toney Brentford 2024-25Getty Images

    ラストピース?

    今季はプレミアリーグだけでなく、チャンピオンズリーグのフォーマット変更で試合数も増加。夏には2つの国際大会があり、どれだけ気をつけていても筋肉系のケガのリスクが増加するのは確実だ。だからこそ、これまで以上にサブ組を含めた全体の「チーム力」が問われるシーズンになる。やはり、色々な場所で何度も指摘されてきたように、ストライカーの補強は必要だ。そして、彼らにうってつけの選択肢が市場には存在する。

    イヴァン・トニーは、18日のブレントフォードとの開幕戦でメンバーを外れた。契約が残り1年を切ったイングランド代表FWについて、トーマス・フランク監督は「問題は退団することではなく、いつ退団するかなのか?」と問われて「それがフェアだね」と回答。どうやら移籍は決定的のようだ。現在、アル・アハリと交渉を行っていることも伝えられている。

    そんな28歳ストライカーの獲得は、若手路線を進めてきたアーセナルのエドゥSD(スポーツダイレクター)にとってはありえない動きなのかもしれない。しかしメリーノのケースと同様に、今のアーセナルが「補強」するとすれば即戦力が必要なのだ。トニーには今のアーセナルに欠けている、純粋なゴール数とセンターフォワードというオプションをもたらしてくれるだろう。ハヴァーツやジェズスとはまた違った特徴を持ち合わせ、かつプレミアリーグの舞台でその能力は証明済み。当初はブレントフォードの要求額6000万ポンド(約114億円)がネックになっていたが、契約延長の見通しが立たない状況で市場閉幕に近づけば近づくほど、買う側に有利な状況になっていくのは間違いない。

    そしてトニーとの契約は、最大のライバルであるマンチェスター・Cに対して決定的な意思表明になるだろう。現スカッドでの完成形を見せているアーセナルが、さらなる高みを目指すため、ライバルに差をつけるために、本当の意味で「補強」を行うのかどうか。移籍市場残りの1週間は、今季を占う7日間となりそうだ。