Mbappe Barcola GFXGetty/GOAL

ブラッドレ・バルコラとは何者か。約71億円のエンバペの後継者…ラッシュフォードと似ている?

この夏、パリ・サンジェルマンの移籍活動はリーグ・アンの外を向いていた。マヌエル・ウガルテ、ゴンサロ・ラモス、シェール・ンドゥールはポルトガルからやってきたし、マルコ・アセンシオとウスマン・デンベレはラ・リーガから、ミラン・シュクリニアルはセリエAから獲得した。だが今、最後にPSGはフランスの玄関にある巨大な才能の宝庫に手を伸ばしたのだった。

ブラッドレ・バルコラはフランス国内にいた選手の中から、PSGが今シーズン初めて、そしておそらくは最後に契約した選手である。リーグでのライバル、リヨンから獲得したバルコラは、前線を動き回ることのできるダイナミックな攻撃の選手だ。昨シーズン、オーナーの交代とベテラン勢の残念なパフォーマンスのせいで傷ついたリヨンが、何とかリーグ戦を乗りきれたのはバルコラのおかげであり、それによってバルコラはスターダムにのしあがった。

とはいえ、まだ20歳で国外では有名とは言い難いバルコラに、PSGが費やした4,500万ユーロ(約71億円)という金額は大金だ。現在の市場では、かつてないほど選手の価値が高騰しているとはいえ、4,500万ユーロ(約71億円)の選手はことさら調べなくても目につく。では、ブラッドレ・バルコラとは何者で、PSGに何をもたらすのだろうか。すでに大勢の選手がいるにもかかわらず、PSGが大金を支払ってこのポジションの選手を獲得した理由は何か。フランスで最も興味深い若き才能のひとりについて、検証してみよう。

  • 始まり

    バルコラは、ずっとリヨンの下部組織に所属していた。フランスの古豪リヨンがかつて本拠地にしていたスタッド・ドゥ・ジェルランから10マイル(約16キロ)と離れていない場所で、トーゴ出身の家庭に生まれ、子どものころは様々な育成クラブでプレーしていた。

    最初に入ったクラブはASビュエールというリヨン近郊のビルールバンヌの郊外にある小さな育成組織で、2年後にリヨンのアカデミーに加入した。かつてエリック・アビダル、ハテム・ベン・アルファ、フローラン・マルダ、サミュエル・ウンティティ、カリム・ベンゼマといった才能ある選手たちが成長していった道をたどりはじめたのだ。それからのバルコラの物語は、比較的よくある話である。バルコラはとてつもない才能の持ち主ではなかったが、故郷のチームの階段を着実にのぼっていった。

    リヨンのアカデミーでは珍しく不毛な時期を過ごしたことが、かえってバルコラにはよかったのかもしれない。リヨンはフランスの有名クラブであるが、2010年代後半のごく短期間はワールドクラスの選手を輩出することができないでいた。それでもバルコラはユースレベルの各段階で活躍し、注目されるのに充分なプレーをしていた。

  • 広告
  • Bradley barcolaGetty Images

    大ブレイク

    そして、UEFAユースリーグとリーグ・アンのリザーブの両方で、U-19として楽しくゴールを決められるようになってくると、クラブの上層部がバルコラに気づきはじめた。2020年初頭、バルコラはリヨンのユースチームにて15試合で9得点3アシストを決め、最も得点するウイングとなった。この働きによりリザーブチームに昇格し、トップチームの練習に参加できるようになっていく。

    リヨンの前監督ピーター・ボスは在任期間が短く、このオランダ出身監督はたった10試合指揮を執っただけで2021年末に解雇された。しかしながら、彼は将来性豊かな若い選手にたびたびチャンスを与え、バルコラもそのひとりとしてシーズン前半にトップチームの練習に呼ばれると、試合に出る選手たちに混ざって定期的に参加してきた。

    完全なるデビューでは、非常に大きな印象を残した。バルコラはヨーロッパリーグのスパルタ・プラハ戦に途中出場し、その夜のリヨンの3点目をアシストしたのである。素早い足技と繊細なチップキックでファーポストにあげたバルコラのクロスが味方選手の頭にドンピシャで合い、チームを3-0の完勝に導いたのだった。

    このアシストだけではレギュラーになるのに充分ではなく、新監督のローラン・ブランは即座にバルコラを信頼したわけではなかった。だが、バルコラがレギュラー争いに入ったことは間違いなく、この若者はリヨンのシーズン最後の3試合のうち2試合に先発出場した。これは、その後起こることの前兆であった。

  • ブレイクの仕方

    実際、バルコラは2023年にレギュラーとなった。チームに溶けこむのに数カ月かかり、シーズン序盤に出番があったのはほんの数分だけだったが、1月上旬のクープ・ドゥ・フランスのメス戦で初先発すると、大活躍の果てに得点まで決めたのだった。

    ここからチームの快進撃が始まった。リヨンはシーズン前半には悪戦苦闘しており、ワールドカップで敵味方に分かれた選手たちは調子が悪く、チームとしても振るわなかった。だが、バルコラが先発メンバーとして名乗りをあげてからは、状況が変わった。バルコラはウイングとしてシーズン後半のほとんどの試合に先発し、7得点8アシストを積みあげて、チームの運命を好転させたのだ。

    4月上旬、ブラン監督はバルコラの才能を絶賛した。「彼はつまらない後悔をしない。純然たるストライカーである必要はないにもかかわらず、得点を決めることができる。素晴らしい技術とスビートで、簡単に相手を出し抜くことができるのだ」

    バルコラがブレイクする瞬間は、PSGに1-0で勝った試合で訪れた。バルコラは先発ではなかったが、アミン・サールのケガで急遽ピッチに立つこととなり、そのスピードと技術でPSGを大いに混乱させて70分間PSGを分裂させた。

    バルコラは最終的に決勝点となる得点をあげた。ファーポストの前に忍びこみ、GKジャンルイジ・ドンナルンマのわきを整然とすり抜けるゴールを決めて、パルク・デ・プランスでの1-0の勝利をチームにもたらしたのだ。この活躍は、大金での移籍をもたらすに充分な働きだったろう。

  • Bradley BarcolaGetty

    最大の強み

    バルコラは典型的な現代的ウイングである。超一流の選手たる特徴をすべて持っている。昨年、ヨーロッパ最速の20歳だったバルコラは、相手を1対1で負かすことのできる、まさに素早さと正確さを兼ね備えたドリブラーだ。ラインブレイクの際の動きが秀逸で、前進するフォワードたちに鋭角なパスを出すのがうまい。キリアン・エンバペと同じチームでプレーすれば、間違いなく役に立つ選手だ。

    サッカーに対してマルチな才能があることも評価すべきだ。バルコラの利き足は右足だが、前線の両サイドで活躍することができる。右のタッチラインを颯爽と駆けあがることもできるし、左サイドのフォワードとしてゴール前に入りこむこともできるのだ。

    ルイス・エンリケ監督にとって重要なことに、バルコラはボールを持っていない時でも、厳しい場面に対応することができる。ウイングの選手としてのインターセプトやブロック、空中戦のランキングでかなり上位にいるのだ。これこそ素晴らしい才能であり、適切なシステムが与えられれば、間違いなく成長できるだろう。

  • 伸びしろ

    若いウイングにはよくあることだが、バルコラの最終成果物にはいくつかの懸念がある。昨シーズン、バルコラはコンスタントに右サイドでボールを受けていたが、常に正しい判断ができていたわけではなかった。パスのタイミングを逃したり、考えなしにシュートを放ったりして、フラストレーションを貯めたアレクサンドル・ラカゼットに睨みつけられることも度々あった。

    ただし、そうしたことはPSGでは大きな問題にならないだろう。PSGでなら、とてつもない数のチャンスに恵まれることが間違いないからだ。実際、いつでも好きな時にアタッキングサードに入っていい許可証が与えられるはずである。

    スペースがない時のプレーの能力についても、疑問符がつくかもしれない。フルスピードで走っているときのバルコラには迫力があるが、ルイス・エンリケ監督はポゼッション・サッカーの方が好みであり、PSGがリーグ・アンで対戦する相手はほとんどが守備的な陣形を敷いてくる可能性が高い。サディオ・マネやガブリエウ・マルティネッリのような選手同様、バルコラはそうした場面では苦労するかもしれない。少なくともPSGに入ってすぐの頃は。

  • Micky van de Ven Marcus Rashford Tottenham Man Utd 2023-24Getty Images

    ネクスト・マーカス・ラッシュフォードか?

    明らかにバルコラが比較される対象となる選手は、何人かいる。多くの点でルティネッリを思い起こさせるが、特にラインブレイクのときの大胆不敵さや加速力、速度を落とすときの驚くほどの精密さがマルティネッリっぽく、マネにも少々似ているようだ。

    だが最も似ていて、新しいシステムでターゲットとされるのが当然なのは、マーカス・ラッシュフォードだ。バルコラは左サイドでも活躍できる右利きの選手で、極端に直線的だ。ラッシュフォードと同じくボールをもった時の動きが素早く、非常にテクニカルで、裏に走りこんでのシュートは堅実だが一流というわけではない。ラインとラインの間でボールを受け、前にダッシュする能力もラッシュフォードに似ている。ふたりは走っている姿まで、そっくりだ。

    ラッシュフォードは長身でターゲットになりやすく、カリスマ的な選手だと言っていい。このマンチェスター・ユナイテッドのスターには、過去にPSGが関心を寄せているという噂もあった。だが、20歳の時のラッシュフォードの値札はそれほど法外ではなかった。

  • 今後どうなる?

    バルコラのPSGでの生活は簡単なものではないだろう。思い起こせば、バルコラは近い将来リヨンの中核を担う選手になるはずだった。数年のうちにトップチームにあがるのも間違いなかっただろう。ところが、PSGへの移籍でバルコラはリセットを余儀なくされることとなった。エンバペやデンベレ、アセンシオ、ラモスに加え、おそらくランダル・コロ・ムアニもPSGにおける選手の序列に関し、バルコラの前に立ちはだかることになるだろう。どちらかのサイドのウイングとしては、イ・ガンインと出場時間を争うことにもなりそうだ。

    だが、それでもチャンスは来るだろう。ルイス・エンリケ監督は進んで若い選手にチャンスを与える監督だ。バルコラはおそらく、いつかエンバペと並んで起用されるための準備を怠らないだろう。ワールドカップ優勝経験者から学び、一緒にプレーするチャンスが得られれば、その価値は計り知れない。

    代表チームについても良いニュースはある。バルコラは昨年の夏、U-21ユーロでフランス代表として活躍した。チームを引き継いで自身のスタイルを改善しようとしているティエリ・アンリと、今後ともにサッカーをするチャンスが来るかもしれない。

    毎週90分プレーしたいと思っているとしたら、バルコラにとってPSGは最高のチームではないだろう。だが、自分の能力を成長させたいと思っている若い選手にとっては、素晴らしいチームであるに違いない。