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「二冠しかできない」バルセロナが目指すCL制覇への道:模倣すべき「最も嫌ってきたチーム」の姿

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昨季のラ・リーガ王者として臨んだ今シーズン、安定しない戦いで優勝争いから早々に遠ざかると、スーペルコパで宿敵レアル・マドリーに完敗(1-4)、コパ・デル・レイでも準々決勝敗退に終わったバルセロナ。さらにシーズン終了後のチャビ・エルナンデス監督退任も発表されるなど、難しい時期を過ごしていることは間違いない。そんな中で12日、バルセロナは現状で最も可能性の高いタイトル獲得を目指し、チャンピオンズリーグ・ラウンド16のセカンドレグでナポリと激突する。

大一番を前に、今回はスペイン人気カルチャー誌『パネンカ』の記者であり、カタルーニャ出身のルジェー・シュリアク氏の愛に満ちたコラムを紹介する。

文=ルジェー・シュリアク/Roger Xuriach(スペイン『パネンカ』誌)

翻訳=江間慎一郎

  • barcelona bayern(C)Getty Images

    失望と屈辱の日

    バルセロナが最後にチャンピオンズリーグ(CL)のベスト8に進出したのは、2019-2020シーズンのこと。当時のチームを率いていたのは、ピッチ上のリオネル・メッシだった。

    キケ・セティエンが監督の肩書きでベンチに座り、神と崇められた選手とその仲間たちを見つめていた。試合の舞台は全面改修工事が行われる前のカンプ・ノウで、相手は……ナポリである。ただ、あのときの準々決勝進出は、失望と屈辱への入り口だった。

    新型コロナウイルスのパンデミックによって、私たちの生活が一変した当時、バルセロナはベスト8でバイエルン・ミュンヘンと対戦し、2-8の大敗劇を演じたのである。あの忘れなければいけない過去は今なお、バルセロナ以外のサポーターの語り草だ。

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    “忘れられないシーズン”にするために

    あれから4年が経ち、バルサは再びCLベスト8進出をかけて、ナポリをホームに迎える。今回、監督としてベンチに座るのはチャビ・エルナンデス。背番号10はブライトンにレンタル移籍中で、試合の舞台は市営のスタジアム、モンジュイックである。たった4年で色々なことが変わったが、この試合は希望と期待の入口になれるのだろうか。“忘れられないシーズン”になる余地は、まだ残されている。

    そのためにバルサがしなければならないこと……。それはきっと、自分たちがずっと嫌ってきたチームになること、ではないだろうか。

    一つずつ説明していこう。まず今季のCLは、私たちが慣れ親しんだフォーマットで行われる最後の大会となる。来季には参加チーム数が32から36に増え、異なる対戦相手と8試合を戦う、不均整のグループステージを行うことになる。スーパーリーグの影に怯えるUEFAは、クラブフットボール最高峰の大会の魅力を増そうと、全員が全員納得するわけではない部位にメスを入れたのだった。

    振り返れば、1992年にも似たようなことが起こっていた。チャンピオンズカップと呼ばれていた大会はその年からチャンピオンズリーグとなったが、旧フォーマットで最後に優勝したチームがどこか知っているのだろうか? そう、こんな前振りをすれば分かる通り、もちろんバルサである。5月20日、ウェンブリー・スタジアムで行われた決勝にロナルド・クーマンの一撃で勝利したバルサは、対戦相手のサンプドリアだけでなく、欧州王者には決してなれないというクラブの歴史的な“呪い”をも打ち破ったのだった。

    ヨハン・クライフが率いて、バルセロナの絶対的な哲学であるポゼッションフットボールの礎を築いたあのチームは、クラブに一つの教訓を与えている。「ビッグイヤーを掲げる道は一つしかない。唯一無二の代わりの利かないプレースタイルを完全に機能させ、スペインと欧州で最強のチームになるしかないのだ」と。

    統計を見れば議論の余地などない。バルセロナは過去5回欧州制覇を果たしたが、そのすべてでリーガとの二冠を達成している。さらに、その内の2回ではコパ・デル・レイも制して、三冠すら成し遂げているのだ。バルサは絶対的な哲学、プレースタイルを土台にして、リーグ戦に優勝できる安定した強さを手にしなければ、ビッグイヤーには手が届かないのである(そのためにチャビはボールを保持し、主導権を握って「勝利に値する」ことにこだわるのだ。たとえ、実際にはそうできていないとしても)。

    しかし、だからといって“最高のバルサ”が常にCL優勝を果たしてきたわけではない。レオ・メッシがいたチームにしても、まるで悪夢ような敗退に苦しめられてきた(2010年インテル戦、2012年チェルシー戦、2013年バイエルン戦、2014&2016年アトレティコ戦、2016年ユヴェントス戦、2018年ローマ戦、2019年リヴァプール戦、そして2020年バイエルン戦……)。ここで扱うべきテーマはそういうことではなく、今現在のように決して強いとは言えないバルサが、なぜCL制覇を果たすことができないのか、ということなのだ。

    例えば14回欧州王者に輝いたレアル・マドリーが、リーガとの二冠を達成したのは4回のみだ。彼らは国内リーグの成績が目も当てられないとき、その埋め合わせをするかのように欧州制覇を果たしてきた。彼らやミランやリヴァプールは、皆が納得するような強いチームではないときにも、ビッグイヤーを掲げてきたのである。

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    若手の野心

    バルサは今、まさに危機的状況に追い込まれてる(金がなく、監督は今季限りで退任し、キリアン・エンバペやアーリング・ハーランド、ヴィニシウス・ジュニオールレベルの象徴的な選手もいない)。それならば、これまで見向きもしなかった領域に足を踏み入れるべきではないだろうか。

    バルサは良質なパフォーマンスを見せることなく、国内リーグで継続的に結果を収めることなくCLを勝ち取ったことが、これまでたった一度もなかった。しかし逆に考えてみると、過去のバルサのような精緻な組織力を欠いている今のチームからは、パウ・クバルシ、フェルミン・ロペス、ラミン・ヤマルといった若い才能の爆発を期待できるのかもしれない。つまりナポリ戦で期待したいのは、若手の野心である。

    ヤマルたちはまだ重荷を背負っておらず、守るべき地位もない。ただただ、このフットボールの世界を喰らってやろうという飢餓感にのみ突き動かされている。彼らは、昨季から進化を果たせなかったチャビ・バルサにとってほぼ唯一のポジティブな要素であり、大金をかけて獲得しながらも期待したような結果を残せず、フラストレーションだけをもたらした選手たちへのアンチテーゼだ。加えてロベルト・レヴァンドフスキ、フレンキー・デ・ヨング、ジュール・クンデ、ペドリら昨季リーガ優勝の立役者であり、チームの構造と責任を背負う選手たちの邪魔にもならず、むしろ、海で漂流する彼らが息も絶え絶えにつかんでいる木の板となっている。

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    あのメッシのように

    負傷者が続出し、調子を取り戻せない選手たちもいる中で臨むナポリとの第2ラウンドでは、何よりも図々しいほどの大胆さと純粋な才能を生かし切らなければならない。“私たちは中長期プランで物事を進めている”という言い訳と紙一重の主張は、今は意識する必要がない。クソ食らえ、である。

    メッシに2007年5月に起こったことを聞いてみればいい。当時のバルサもまた目も当てられない状況だったが、あと1ゴールでCL決勝まで到達できるところまで行った。プレーのクオリティー的には、ベスト4進出にもまったく値しなかったにもかかわらず、である。あのオールド・トラフォードでの敗戦は、フランク・ライカールト監督解任の引き金を引いたと同時に、ジョゼップ・グアルディオラが築く新たなる黄金期への号砲となった。そして何よりも、まだ20歳だったメッシはその飢餓感をさらに募らせ(2006年のCL決勝は負傷で欠場していた)、ここから永久に不滅の存在となる道を駆け出していったのだ。

    火曜のモンジュイックで、ヤマルたちは当時のメッシと同じような姿勢でプレーに臨まなくてはいけない。正常ではなくなっているチームを正常に機能させ、なおかつ、サポーターやほかの選手たちに期待する気持ちを伝染させる存在にならなければいけない。

    もちろん、CLにはよりクオリティーの高い相手がいる。豊富な経験を積んでいる相手がいる。スポーツ面のプロジェクトをしっかりと成熟させた相手がいる。しかし、それでもヤマルはマークにつく選手に仕掛けていくことを、ゴールを目指すことを止めないだろう。フェルミンは球際の争いに果敢に臨んでいき、物怖じすることなくミドルシュートを放っていくだろう。クバルシはたとえオシムヘンが相手でも気後れせずタックルを仕掛け、凡百のセンターバックやボランチが出せない縦パスを見事に通していくだろう。

    彼らバルサの若手たちは、3カ月後にはいなくなっているコーチングスタッフ、選手たちを超越したところで存在するクラブの未来であり、現在なのだ。当たり前だが、まだまだ無鉄砲で、生意気である。とはいえ、その怖いもの知らずの勢いゆえに、プレー哲学と理論に染まったバルサのサポーターは、頭脳でなく感情からタイトルを獲得する道を信じられるのではないだろうか。チャビが「チームのプレークオリティーに関係ないところで勝ってしまう」と評するレアル・マドリーのように、とまでは言わないが……。いずれにしろ、そうして得る成功(手応え)・失敗(悔しさ)体験は、未来のバルサの糧となるはずだ。

    コパ・デル・レイで敗退し、リーガ優勝もほぼ不可能な状況で(統計的な可能性はもう0%だ)、CL優勝を狙うバルセロナはまさにクラブ史の中で前例のない礎を築こうとしている。無論、可能性は低い。しかし低ければ低いほど、物語は感動的になる。現在チャビの率いるチームは、バルセロナのプレー哲学で言えば壊滅的だ。が、たとえプレースタイルによる指針がなくとも、若手たちは今の過酷な現実にも立ち向かっていくだろう。そして、もしヤマルたちが感動を呼び起こすとしたら、その理由は若さだけにとどまらない。彼らは世界を食らえるほど、本当に素晴らしい選手たちなのだから。

    バルサが最後にベスト8に進出したとき、人々はマスクを着用していた。あれから4年が経ち、着用は義務ではなくなったが、バルサの若手たちも読唇術を使われないように、手で口をおさえながらヒソヒソ話をしている。果たして、その掌は一体どんな野心的な言葉を、希望の言葉を包み隠しているのだろうか。

    若い内は、悲観的になることなど選択肢に含まないのだ。

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