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Barcelona HIC 2-1GOAL

バルセロナが初めて「メッシを忘れられた」1年:“ガラクティコス”より必要だったこと【特別寄稿】

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今季のバルセロナは、全大会で圧倒的な強さを発揮している。

ハンジ・フリック監督に率いられた今季、ラ・リーガでは残り5試合で首位を快走、コパ・デル・レイは決勝戦で宿敵レアル・マドリー相手に劇的勝利を飾った。チャンピオンズリーグでも準決勝まで危なげなく勝ち進んでいる。2025年に入ってから公式戦で敗れたのはたったの1試合のみ。破壊力満点のプレーは世界中のサッカーファンを魅了し続けている。

では、なぜバルセロナのサッカーは魅力的なのだろうか?カタルーニャ出身で、スペイン有名カルチャー誌『パネンカ』の著名記者ルジェー・シュリアク氏が「過去を振り切った」現在のチームを紐解いていく。

文=ルジェー・シュリアク/Roger Xuriach(スペイン『パネンカ』誌)

翻訳=江間慎一郎


  • barcelona1(C)Getty images

    メッシを忘れる

    彼のことを覚えているだろうか?

    整えられた髭に、枯れる兆しなどない毛量の多い髪。

    その左足には悪魔、または天使が宿っており、バロンドールを8回受賞。

    つまるところ、史上最高のフットボーラー。

    そんな彼のことを憶えているだろうか? 今、バルセロニスモ(バルセロナ主義)にそう問いかけたら、「ノー」という答えが返ってくる。少なくとも、あの心をえぐられるような痛みは、もう感じていない。遠く離れたところに行ってしまったクラブ最高のレジェンドとの思い出は、もう有毒なものではなくなった。

    レオ・メッシが愛おしい存在であることは、これからだって変わらない……変わってたまるものか! だがしかし、バルサもその選手たちもサポーターも、レオが退団してから初めて、彼がいないことを嘆かなくなった。

    2024-25シーズンのバルサにとっては、それこそが最大の成功なのだ。今季、チームは生まれ変わった。独自のアイデンティーを構築し、誇るべき英雄たちを擁して、新たな歴史的シーズンをつくり上げるべく、力強く歩みを進めている。バルセロニスモはもう、ノスタルジーに浸らなくていい。グアルディオラのことも、チャビのことも、メッシのことも思い出さなくていい。クラブの過去の栄光を振り返って、涙を流さなくていいのだ。

    このバルサは、これまでとは違うバルサだ。バルサは過去を振り切って、未来に立っているのである。

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  • barcelona2(C)Getty images

    精神的指導者

    このバルサの変容ぶりを理解するためには、まずは監督に目を向ける必要がある。ハンジ・フリックはバルサにとって、新たなる精神的指導者だ。彼は華々しい経歴を持ちながらも、このカタルーニャのクラブとまったく関係のない人物だったために、ファンから疑いの目で見られることになった。しかし、それが正解だったのだ。ドイツ人指揮官はバルセロナの過去の誰かの模倣をしろと求められることがなかった。それが功を奏したのである。

    フリックのバルサは凄まじい迫力で目の中に飛び込み、一回心をつかめばもう離さない。リスク上等のハイラインで、縦への突破を重視するスピーディーなフットボールは、バルサにとってカウンターカルチャーではある。だが、「1-0よりも5-4の勝利を望む」というヨハン・クライフの哲学には忠実だ。ドイツ人に率いられるアスールグラナ(青とえんじ、バルセロナの愛称)は野心と確信を持ってプレーし、スタジアムも対戦相手も関係なく、ただひたすらに自分たちが主役であろうとする。打算的、保守的なプレーばかり横行する現代フットボールで、その勇敢さは計り知れない価値を持つ。フリックは彼が擁する選手たちの頭に、即効性のあるトロイの木馬的ウイルスを仕込んだのである。すなわち“リスクなくして成功はない”という思想のウイルスを。

    レアル・マドリーがキリアン・エンバペを獲得したとき、バルセロナの敗北は確実と思われた。スペインの首都クラブはチャンピオンズリーグ(CL)に何回連続で優勝する? ヴィニシウス、ベリンガム、ロドリゴ、エンバペはどれだけのバロンドールを分け合う? ラ・リーガで彼らと優勝を争えるチームなど存在するのか?……しかし蓋を開けてみれば、やはりフットボールでは「2+2=4」になるわけではなかった。それはバルサも2007年に経験したことだ。サミュエル・エトー、メッシ、ロナウジーニョにトリデンテにティエリ・アンリを加えた結果、獲得したタイトルの合計は……ゼロだったのだから。

  •  barcelona3(C)Getty images

    ボールへの献身

    チームの看板となるスターやソリストを何人も集めるのではなく、一つのプレーアイデアのもとに選手たちを集める……それこそがバルサに必要なことだった。そしてフリックのアイデアは、勇敢であると同時に、とても過激だ。

    今季バルサの限界まで高く引き上げられたDFラインは、相手にとっては屈辱的なほど、あまりにも簡単にオフサイドを誘発する。が、この簡単にひっかけられるオフサイドトラップの裏には、チーム全体の機能性と血の滲むような努力が存在している。フリックは頭に描いたアイデアを極限まで体現すべく、選手たちの妥協を許さない。ボールを持っているときも持っていないときにも、全選手が規律とアグレシッブさを持ち、全力でチームに貢献することを義務付ける。11人全員の調和が取れたプレー構造を有するのが今のバルサであり、それなしの彼らはただの“凡庸なチーム”に成り下がるだろう。

    実際的に、ハフィーニャ、ロベルト・レヴァンドフスキ、フレンキー・デ・ヨング、イニゴ・マルティネスら、昨季まで凡庸なように扱われてきた選手たちは、フリックのもとで眩いほどの輝きを取り戻している。彼らが再び輝けたのは“ボールへの献身”という考えが、チームに浸透しているからにほかならない。ボールは決して恐れるものではなく、素早く、絶えず動かし続けるもの――それはバルセロナ創立125周年のスローガン「ケレモス・エル・バロン(私たちはボールがほしい)」に込められた意味でもある。

    そして、もちろんこのバルサには、ボールとともにプレーを創造できる選手たちがいる。ぺドリ、ダニ・オルモは正真正銘の魔法使いであり、フェルミン、ガビは力強さと繊細さを併せ持ったハイブリッド型。F・デ・ヨング、マルク・カサドはボールを受けたり奪ったりキープしたりして、高い位置までそれを持ち運ぶことのできる操縦士だ。

    現代フットボールの流行に乗っかり、ボール扱いに長けたMFをないがしろにして、マドリーのように屈強なフィジカル型MFの獲得を優先すべきと考えていたファンがいたならば、今頃、その考えが間違いだったと痛感しているだろう。その好例と言えるのが、今や“世界最高のMF”とも称されるぺドリである。彼の卓越したテクニックとプレービジョンは、間違いなくチームにとって大きな武器であり、脚力と持久力はあとから強化すれば良かった。その点においても、フリックは素晴らしい。

    フリックと彼のコーチングスタッフは各選手の年齢、筋肉の質、消耗具合など、ありとあらゆるパラメーターを考慮しながら、ほぼ完璧な練習メニューをつくり上げている。フリックは選手を走れるようにし、走り切れる選手しかピッチに立たせない。マドリーとのコパ・デル・レイ決勝では、ジュール・クンデが115分に相手陣地でボールを奪って、右足のミドルシュートを突き刺して勝負を決めた。今季最もローテーションされず、遅刻で罰せられる以外は出ずっぱりのフランス人DFが、あの時間帯にあれだけ動くことができて、歴史的なゴールを決めたのは、決して偶然の産物ではないのだ。

  • barcelona4(C)Getty images

    信じてみてくれ、後悔しないから

    今季のバルサも若手たちが躍動しているが、それはもはや目新しいことでもないだろう。18歳パウ・クバルシはセンターバック、17歳ラミン・ヤマルは右ウィングとして絶大な影響力を発揮しており、チームの快進撃を語る上で欠かすことができない。一人はカタルーニャの片田舎出身で(※クバルシは人口約180人の村エスタニョール出身)、もう一人は移民の子と、彼らはカタルーニャの二つの現実を反映している。カタルーニャ語という同じ言葉でつながり、フットボールでも“同じ言語”で話す2人は、ピッチ上で目を見張るような大胆さと、唯一無二の個性を発揮している。

    バルサが最後にチャンピオンズリーグ優勝を果たしてから、もう10年が経った。当時ルイス・エンリケが率いていたチームは、クラブ史上2回目のトリプレテ(三冠)を達成したが、今季その偉業を繰り返す可能性は十分にあり得るだろう。

    少し前までリーガ2位やヨーロッパリーグ参加を喜び、依然として組織的、財政的問題を抱えているクラブにとって、トリプレテはあまりに楽観的過ぎるって? 確かに、過度な期待は禁物かもしれない。しかし、ヤマルの言葉に反論する者がいるのだろうか? コパ決勝で2アシストを記録した17歳FWはその試合後、メディアの前で大きな笑みを浮かべ、矯正器具を見せつけながら、こんなことを語ったのだった。

    「1点決められても、どうってことはない。2点だって同じさ。今季の彼らは僕たちに勝てないんだ」

    信じてみてくれ、後悔しないから――彼はそう言っているようにも思えた。実際、今季のバルサは“ガラクティコス(銀河系軍団)のマドリー”からスペイン・スーパーカップ、コパ・デル・レイと2タイトルを奪い去り、3タイトル目としてリーガも取り上げようとしている。そう、道を切り拓くためには、豪胆なほどの意思の強さも必要なのだ。ヤマルの目には、バルサが過去に失ったものではなく、これから勝ち取るものしか映っていない。マドリー相手にも、ひたすらに勝って、勝って、また勝つだけなのである。

  • barcelona5(C)Getty images

    “新しい香り”

    水曜日、ホームにインテルを迎えるバルサは、前だけを見ている。チャンピオンズリーグではここまでの12試合で37得点……その攻撃的な姿勢と研ぎ澄まされた牙は、彼らの現在のメンタリティーも反映するものだ。

    このチームは、ただ前だけを見ている。それはつまり、後ろには未練が一切ないということ。後悔を断ち切ったということである。今のバルサは、たとえ困難な状況に陥っても、「メッシならばどうする?」と問いかけたりはしないのだ。

    このバルサからは“新しい香り”がする。春はタイトルが花開く季節であり、その香りは何倍にもなって、広がっていくだろう。