チームの看板となるスターやソリストを何人も集めるのではなく、一つのプレーアイデアのもとに選手たちを集める……それこそがバルサに必要なことだった。そしてフリックのアイデアは、勇敢であると同時に、とても過激だ。
今季バルサの限界まで高く引き上げられたDFラインは、相手にとっては屈辱的なほど、あまりにも簡単にオフサイドを誘発する。が、この簡単にひっかけられるオフサイドトラップの裏には、チーム全体の機能性と血の滲むような努力が存在している。フリックは頭に描いたアイデアを極限まで体現すべく、選手たちの妥協を許さない。ボールを持っているときも持っていないときにも、全選手が規律とアグレシッブさを持ち、全力でチームに貢献することを義務付ける。11人全員の調和が取れたプレー構造を有するのが今のバルサであり、それなしの彼らはただの“凡庸なチーム”に成り下がるだろう。
実際的に、ハフィーニャ、ロベルト・レヴァンドフスキ、フレンキー・デ・ヨング、イニゴ・マルティネスら、昨季まで凡庸なように扱われてきた選手たちは、フリックのもとで眩いほどの輝きを取り戻している。彼らが再び輝けたのは“ボールへの献身”という考えが、チームに浸透しているからにほかならない。ボールは決して恐れるものではなく、素早く、絶えず動かし続けるもの――それはバルセロナ創立125周年のスローガン「ケレモス・エル・バロン(私たちはボールがほしい)」に込められた意味でもある。
そして、もちろんこのバルサには、ボールとともにプレーを創造できる選手たちがいる。ぺドリ、ダニ・オルモは正真正銘の魔法使いであり、フェルミン、ガビは力強さと繊細さを併せ持ったハイブリッド型。F・デ・ヨング、マルク・カサドはボールを受けたり奪ったりキープしたりして、高い位置までそれを持ち運ぶことのできる操縦士だ。
現代フットボールの流行に乗っかり、ボール扱いに長けたMFをないがしろにして、マドリーのように屈強なフィジカル型MFの獲得を優先すべきと考えていたファンがいたならば、今頃、その考えが間違いだったと痛感しているだろう。その好例と言えるのが、今や“世界最高のMF”とも称されるぺドリである。彼の卓越したテクニックとプレービジョンは、間違いなくチームにとって大きな武器であり、脚力と持久力はあとから強化すれば良かった。その点においても、フリックは素晴らしい。
フリックと彼のコーチングスタッフは各選手の年齢、筋肉の質、消耗具合など、ありとあらゆるパラメーターを考慮しながら、ほぼ完璧な練習メニューをつくり上げている。フリックは選手を走れるようにし、走り切れる選手しかピッチに立たせない。マドリーとのコパ・デル・レイ決勝では、ジュール・クンデが115分に相手陣地でボールを奪って、右足のミドルシュートを突き刺して勝負を決めた。今季最もローテーションされず、遅刻で罰せられる以外は出ずっぱりのフランス人DFが、あの時間帯にあれだけ動くことができて、歴史的なゴールを決めたのは、決して偶然の産物ではないのだ。