Tottenham no longer in big six GFX 16:9GOAL

トッテナムはもはや“ビッグ6”ではない:チャンピオンズリーグ準優勝から6年で降格の危機に瀕する理由

クリスマス時点で、トッテナムのプレミアリーグ順位は14位。今季からイングランドで実績ある新たな指揮官を迎え、再出発を図った彼らとしては、全く満足できない順位だろう。

しかし、そもそも彼らに対する期待値自体が高すぎるのかもしれない。昨季の最終順位は17位であり、2020年代に入ってからトップ4で終えたのはたった1度だけしかない。もはや宿敵アーセナルやチェルシー、リヴァプール、マンチェスター・シティ、マンチェスター・ユナイテッドと並んで“ビッグ6”とは言えない存在なのだ。

もちろん、ファンから非難の声が殺到するだろう。だが20年以上もサポーターとしてトッテナムを追いかけ、トッテナム・ホットスパー・スタジアム開場から7シーズンに渡って記者を務めてきた筆者からすれば、厳しい現実と向き合う時が来たと感じている。今のチームはエリートと争う唯一無二のクラブではなく、中位以下に沈む危険性すらはらむクラブなのだと――。

文=Sean Walsh

  • FBL-ENG-PR-TOTTENHAM-STADIUMAFP

    強固な基盤と戦略

    21世紀に入ってからのトッテナムは常に欧州カップ戦出場権を争い、チャンピオンズリーグには7シーズン出場してきた。これは1992年の創設以降、他の“ビッグ6”に次ぐ記録である。過去を振り返れば、20世紀は攻撃的なプレースタイルで人気を博し、特にカップ戦に強いイングランドを代表するクラブの1つでもあった。

    そして2012年には世界最高峰の設備を誇る練習施設ホットスパー・ウェイに移転すると、2019年には10億ポンドを投じた新スタジアムが完成。スポーツ界全体で見ても屈指のスタジアムであり、熱狂的な雰囲気はまさに圧巻だ。

    オーナーである「ENICグループ」が2001年にトッテナムの過半数株式を取得し、幼少期からスパーズファンだったダニエル・レヴィを会長に任命すると、彼らは即座にクラブのインフラを劇的に改善しようと動いた。トレーニンググラウンド用地としてエンフィールド郊外とロンドン環状高速道路M25の間に土地を確保し、首都圏ではスタジアム建設用地が貴重であることから、ホワイト・ハート・レーン周辺の不動産を迅速に買い占めた。 ピッチ外での潜在力を最大限に引き出し、それが直接的・間接的にピッチ上の成功につながることを常に意図していた。少なくとも、計画はそうだったのだ。

    レヴィ就任から24年が経過したが、前半は有望な若手選手の移籍先としての地位を再確立。“マネーボール”の外で「安く買って高く売る」戦略は賛否もあったが、ここまでクラブが成長したのはこのプランのおかげである。シティが2008年のアブダビ・グループ買収によって劇的に変化したのに対し、トッテナムは自らの戦略とモデルでアーセナル、チェルシー、リヴァプール、ユナイテッドからなる旧“ビッグ4”の牙城を崩す存在だった。

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  • 衰退の始まり

    2011年までにはチャンピオンズリーグにも出場、「安く買って高く売る」モデルによってチームに加えたガレス・ベイル、ルカ・モドリッチ、ラファエル・ファン・デル・ファールトはプレミアリーグ最高レベルの選手になった。そこから欧州最高の大会に復帰するまでは5年を要したが、2200万ポンドでソン・フンミンもチームに引き入れ、ベイル売却マネーでクリスティアン・エリクセンら7選手を獲得。さらに伝説的なスカウト、デイビッド・プリートの推薦で3部から500万ポンドでデレ・アリを獲得すると、言わずもがなハリー・ケインが現代スパーズ最高の選手へと変貌を遂げている。

    彼らを軸に、フランス代表主将ウーゴ・ロリスやカイル・ウォーカーといった選手が脇を固めたチームは4シーズン連続でトップ4入りを果たし(1959年~1964年に次ぐ偉業)、クラブ史上最多となる1シーズン86ポイントを記録。極めつけは2019年、劇的な勝ち上がりでチャンピオンズリーグ決勝まで駒を進めている。当時の彼らの実力は、全く疑いようのないものだった。

    だが、マウリシオ・ポチェッティーノが補強を求めたにも関わらず、過去18カ月間で1人も選手を獲得しなかったクラブは、決勝の時点で完全に消耗しきっていた。それが崩壊の始まりだ。決勝での敗戦後、エリクセンは新たな挑戦を望み、デレ・アリは度重なる負傷と精神的な問題に苦しみ、ケインとソンは残ったものの、彼らを囲むチームメイトのクオリティは大きく低下している。2人のエースが背負わされるものは、あまりにも巨大だった。

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    迷走

    チャンピオンズリーグ決勝前夜、ポチェッティーノはスパーズが勝利した場合に監督を退任すると表明した。自身の使命は果たしたと感じていたのだろう。結局敗れたものの、数カ月後には解任されることになっている。当時は大きな驚きだったかもしれないが、決断自体には十分な理由があった。トッテナムは2019-20シーズン序盤で深刻な不振に苦しみ、前シーズンに見せた特徴的なインテンシティとは程遠いプレーを続けていた。不可解だったのは、レヴィが彼の戦略を大きく捻じ曲げてしまったことである。

    過去2年間でわずか4人の補強しか行わず、チームが明らかに疲弊しているにもかかわらず、レヴィは「最も重要なトロフィーに近づいている」と確信し、長年の念願だったジョゼ・モウリーニョの招聘を実行した。彼がすでに世界最高の指揮官ではなくなっていたのは、誰の目にも明らかだっただろう。「現時点で世界最高の監督2人のうちの1人」と称賛したレヴィの目は曇っていたに違いない。

    「スペシャル・ワン」は巨額予算に慣れた指揮官であり、明確に補強を求めるタイプの指揮官でもある。だが、スタジアム移転を経た彼らには十分な予算を約束できなかった。モウリーニョ到着後の移籍市場で獲得したのは、マット・ドハーティ、ピエール=エミール・ホイビュア、セルヒオ・レギロン、ジョー・ロドン、ジョー・ハートのみ。ベイルもレンタルで復帰したが、レヴィ主導の補強であることは明らかである。誰もが予想した通り、モウリーニョ体制は早期に幕を閉じている。2020-21シーズン序盤に首位を走ったものの、2021年4月に解任。カラバオカップ決勝まであと6日、というタイミングでの決断だ。

    しかし、レヴィはモウリーニョの過ちから何も学ばなかった。後任探しに2カ月以上を費やした後にヌーノを招聘したものの、本命だったアントニオ・コンテが前向きだったため、わずか17試合で解任。念願のコンテは直ぐに結果を出し、宿敵アーセナルを抑えて予想外の4位フィニッシュを飾ったものの、結末は同じである。指揮官の求める補強を実現せず、コンテはあの有名な記者会見でクラブのすべてを攻撃し、そのままクラブを去っている。その夏、ケインはバイエルン・ミュンヘンと移籍。スパーズの黄金期はここで終焉を迎えた。

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  • Manchester City v Tottenham Hotspur - Premier LeagueGetty Images Sport

    レヴィの補強

    エースの退団があったものの、アンジェ・ポステコグルー体制の序盤はうまくいっていた。プレミアリーグ10試合で8勝2分けという驚異的なスタートを切り、攻撃的なフットボールでサポーターを沸かせ続けていた。

    しかし、プレミアリーグは甘くない。彼のスタイルはすぐに見破られると、Bプランのないチームは信じられないほど単調になり、個々の選手の能力に頼り切るが、それでも打開できない試合が殆どになる。ケイン退団から1年後にようやく6000万ポンドを投じてドミニク・ソランケを獲得したが、それ以外の補強はすべて10代の若手選手。どうやって結果を出せというのだろうか。

    金融専門家の『Swiss Ramble』が報告している通り、スパーズの給与総額対売上高比率は「42%」。昨年の会計年度においてプレミアリーグ最低だ。上位3つのリーグを見ても、他に50%を下回るのはリーグ1のルートン・タウンだけ。これは深刻な結果である。さらに他クラブの選手に提示できる“魅力”はほぼなく、移籍先として人気になりようがない状況だ。

    レヴィ時代のスパーズは、移籍交渉において「必ず勝たなければならない」という姿勢が支配的だった。確信の持てない取引は「行う価値すらない」と判断、スポーツダイレクターがいてもレヴィの影響力は巨大だ。

    では、近年の大型補強を振り返ってみよう。ソランケ、リシャーリソン、タンギ・エンドンベレにそれぞれ6000万ポンド以上を投じている。今夏にも、モハメド・クドゥスとシャビ・シモンズに合わせて1億600万ポンドを費やした。その結果は、どう判断すべきだろうか?

  • AS Monaco v Tottenham Hotspur - UEFA Champions League 2025/26 League Phase MD3Getty Images Sport

    上層部の退任劇

    今年9月にレヴィがクラブを去るまでの間も、上層部は常にサポーターの不評を買っていた。国内屈指の高額なチケットは、ポチェッティーノ時代は結果が出ていたから受け入れられていただけであり、このひどい状況のチームには決して許されない価格設定である。さらに2021年の欧州スーパーリーグ騒動でも、大多数のファンが彼らに背を向けている。

    こうした状況から、今年初めにはアーセナルで実績十分のヴィナイ・ヴェンカテシャムがCEOに就任し、9月にレヴィが退任。クラブは新時代の幕開けをアピールしようとしている。しかし、依然として筆頭株主は「ENIC」だ。そしてルイス家が突如として登場し、『The Athletic』によれば「より多くの勝利を、より頻繁に」求めているという。  10月には1億ポンドの新規資本を注入し、1月の活動に向けて準備を始めたとも伝えられている。しかし、これが単なる見せかけの変化ではないことを示す確かな証拠はまだない。

    そしてスポーツダイレクターでは、ヨハン・ランゲが30カ月に及ぶ活動禁止処分を終えたファビオ・パラーティチにその座を譲ったものの、イタリア人SDはフィオレンティーナに引き抜かれる可能性がある。2人が1つの移籍市場でともに働くことはないかもしれない。どの階層でも、今のスパーズに安定性など微塵もないのだ。

  • FBL-ENG-PR-BRENTFORD-TOTTENHAMAFP

    止まらない凋落

    ベンカテシャムとレヴィはこの夏、トーマス・フランクが「理想的な人物」だと大々的に宣伝した。ヨーロッパリーグ優勝で17年ぶりタイトルをもたらしたポステコグルーは容赦なく解任された。これは理解できる。プレミアリーグを17位で終わったことは決して無視できない。ある意味で冷静な判断だったと言える。しかし、フランクの苦戦は再び上層部の失策である。

    今のチームは、はっきり言って退屈だ。フランクもブレントフォードからのステップアップに戸惑い、ファンから人気も獲得できていない。特に、今年何度も生じたホームでの嫌な雰囲気を公然と批判したことは、全く受け入れられなかった。これは彼のミスでもあるが、今では解任を求める声すら上がるほどファンとの関係は悪化の一途を辿っている。ピッチ内に目を向けても、17試合で勝ち点22、14位まで低迷。今のチームを評価できる場所は殆どない。

    プレミアリーグの競争がかつてないほど激化する中、スパーズは中位を争う平凡なチームに逆戻りしてしまった。そして、この流れを止められる時期すら不透明だ。今後数年間で降格の危機に陥る可能性すらある。数年前にチャンピオンズリーグ決勝に進んだチームが、だ。もはや、“ビッグ6”なんて呼ぶことはできないだろう。

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