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「生き方の証明」。挑戦を止めない岡崎慎司、ストライカーとしての矜持――そしてラ・リーガ1部での戦いへ

ふとしたときに、思うのだ。今の自分は、過去に志したことのある自分の姿と一体どれだけ距離を離されてしまったのか、と。あの頃のようなたぎるような思いは、果たして今も自分の中にもあるのか、と。今は挑戦することなど忘れて、こなすことしかしていないのではないか、と。もっと大きなはずの自分を探す旅に乗り出したはずなのに、待たずとも過ぎていく日常に飲み込まれていやしないか、と。ありふれた日常も、もちろん大切で愛しくはあるのだけれど、今の自分が本当にすべてなのか、と……。

そんな考えが誰かの頭によぎっている間も、岡崎慎司は欧州で挑戦に臨んでいる。一サッカー選手として、自分の在り方を“証明”するために。

「僕が自分自身の価値を見つけ出したかったんです。プレミアリーグで一つの選手像ができ上がったけど、でも自分自身もっとストライカーとして、結局はストライカーとして、もっと違う自分を見せられればいい。結局、挑戦し続けるっていうことなんですね。そこにはプライドとか、自分なりの生き方を証明することがあって。それは口に出すことじゃなく、結局はプレーで証明しなきゃいけない。それがサッカー選手だと思っています」

■ゴールへの思い

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昨夏、岡崎は「契約を延長しようと思えばできた」はずだったレスター・シティを離れて、ラ・リーガに挑む道を選択した。レスターでは最前線のDFとも称される献身的な働きで称賛を受けたが、彼はそれだけで満足することができなかった。

「基本的には、前線で汗をかくことが強みでいいと思うんですけど、ゴールを決めるか決めないかで評価されてはいなかった。ゴール以外のこともやって、ゴールも決めようとしていて、『相当ハードなことやってるんだから、そこは評価してくれよ』って葛藤が僕の中ではあったんですけど、でも結局ゴールは取れていないので言い訳にもならなかった」

点を取るか取らないか--岡崎は最前線で汗を流すことを当たり前として、ストライカーとしての本来の評価軸の中で勝負することを望んだのだった。それが、たとえイングランド最高峰のリーグから、ラ・リーガ2部とカテゴリー的に下の舞台に移ることになっても……。本人は割り切って、スペインへの一歩を踏み出した。

「プレミアリーグの価値が高い分、興味はみんな持ってくれるんですけど、実際獲得するかどうかってなると、スペインリーグは外国人枠もあるし、なかなか……。その辺はまた、やっぱり厳しいという現実を見るきっかけにはなったなとは思いますね。ただ、いつも代理人と話ししながら、そういう現実を受け止めて、そこで、でも2部でもレベルが高いし、そこでやれることができれば間違いなく1部に、アピールすれば1年で1部に上がれることもできるっていうところで……。そういう意味では、決断的には早かったかもしれないですね」

最初に加わったマラガではクラブの財政問題によって選手登録が認められず、結局は内陸アラゴン州の北部にあるウエスカへと移籍。入団セレモニーでは2000人が集まり、地元メディアからすれば“ガラクティコ(銀河系選手)”としての待遇を受けた。そのセレモニーの真っ只中、岡崎がサインを求めるサポーター全員に対応しているとき、この記事を書いている僕はウエスカのゼネラルディレクターであるホセテ・オルタスに話を聞いていた。オルタスは「別に得点数は関係ない。彼は前線から精力的にプレスを仕掛けてくれる選手で、それはチーム全体のパフォーマンスにポジティブな影響を与える」と話したが、今思えば岡崎と彼の意図するところにはズレがあった。岡崎は得点数にこそこだわっていたのだから。

「これでダメやったら、自分の中ではっきりするなって。自分自身がFWとしてできるかできないかが。最初の方はゴールを決められなくて結構苦しむことになりましたね。もちろんそれ以外のプレーもチームにフィットするようにやるんですけど、基本的には1年間、そういう気持ちでいれたっていうのは良かったことだと思います」

■理由

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点取り屋としての責任を引き受けるという挑戦。壁には、ぶつかった。ミチェル監督率いるチームで1-4-3-3のワントップを務めた岡崎は、シーズン前半戦はずっと起用されながらも4得点を決めるにとどまった。かてて加えて、ウエスカは冬の市場で“純粋なセンターフォワード”としてラファ・ミルを迎え入れ、点を取る役割を取り上げられそうな時期もあった。しかしながら、そうした状況にも本人は「ボールが来たときにどれだけのクオリティーを見せられるかに今はフォーカスしています。やらなければいけないのは、点を取るっていうこと。動きの質で点を取るっていうことです」と、壁の乗り越え方を見つめ続けた。

転機となったのは、2月中旬に行われた第28節アルメリア戦(3-1)のゴラッソだった。22分、ダビド・フェレイロが左サイドからクロスを上げるや否やの刹那、岡崎はマークにつくDFを一瞬の加速で振り切る。だがボールが飛び込もうとするところは自分のいる位置の少し後方だった。すると、この日本人は後ろに低く飛び上がり、しかし頭をしっかりと前に振って、ボールを枠内に向かわせた。叩かれたボールの勢いは速くも遅くもなかったが、まさかシュートまで持ち込むとは思っていなかったGKが弾き損ね、ゴールラインを割った。

あのゴールはスペイン、いや、ウエスカ内でも岡崎というストライカーの捉え方を変えるものだった。ボールを出したら、あいつは点を取る--志していた自分の姿を、周りと共有できた瞬間だった。

「自分自身も結構、『自分に出せよ』っていう感じの動き方はこれまでしてたんですけど、そういうことを続けていて、後半戦になってどうしても点が欲しいときに、たまたまボールが上がったときに自分が決められた。それがアルメリア戦なんです。フェレイロ自身も『あれが入るか』ってびっくりしていたんですけど、でも、結局ああいうところでゴールが決まったことが、結局は選手たちのイメージを変えたというか。そこからは『お前、ヘディングすげえな』ってなったんですけど」

「それまではラファ・ミルとレギュラー争いをしてたんですけど、そこが一つのきっかけになりましたね。チーム内でも『こいつにちょっと無理なボールだとしても、上げておけばやってくれる』みたいな雰囲気になったのは、その一発がすごく大きかった。大事なところでゴールを取る。そういうものでFWは色々もらっていけるわけじゃないですか。パスをもらって、ゴールを決める……それが積み重なっていったら評価ももらえるっていう。『ああ、これだな』っていう感じを取り戻せたのは、あの瞬間かもしれないですね」

自分の理想像に追いついた岡崎は、もう止まらなかった。それまで報われないことも多々あった果敢な走り込み、相手DFとの巧みな駆け引きを味方がしっかりと見るようになると、ゴールを量産。アルメリア戦以降の15試合で8得点を記録してウエスカの1年でのラ・リーガ1部復帰、そして2部優勝に貢献した。シーズン合計は12得点で、レスターではかなわなかった、もしかしたら望まれてもいなかった2桁得点をマインツ時代以来達成し、“点を取る岡崎慎司”を再び印象付けている。彼は壁を乗り越えた。扉をこじ開けたのだった。

岡崎の挑戦は、ラ・リーガ1部で続く。その目標は2部と変わらない。「二桁得点ですね。どのリーグに行っても二桁は取りたいっていうのはあったので。そこは二桁取れりゃいいなと思いますね。あとチームとしては1部残留です」。そして36歳となっている頃、カタールのピッチに立つ自分にも想像を膨らませる。

「ワールドカップには出たいと思っています。そこに行くには生き残らないといけないですけど。W杯に行きたいからといって守りに入る年齢でもないし、1回もそうしたことなんてないし。僕から出場を決めるという選択肢はないから、自分のやることの延長線上にW杯があればいい、という風には思いますね」

しかし、岡崎を突き動かす原動力は何なのだろう。きっと、それは“証明”すること。彼は何度も何度も、繰り返しその言葉を口にする。

「やっぱりこれだけサッカー選手としてやってきて、僕なりのサッカー選手像は口で言うものじゃなくて、プレーヤーとして結果を出して自分の生き方を証明するものだと思っていて。去年の自分も結果で証明したし、一年一年、次に自分ができるかどうかがまた自分の生き方を証明するものだと思っているので。結局サッカーは、サッカー選手として結果を出すことがすべてで、それを次の1部でどれだけできるかっていうのは、自分の挑戦ですね。そういうことを続けてきてるだけだと思います、自分は。今までも変わらず」

「僕自身のサッカーをやっている、挑戦をしている意義が、結局は証明するということなんです。誰かに何かを証明するわけじゃなくて、『サッカー選手ってこうあるべき』みたいなものを僕は持ってるから、日本人として。それがずっと自分がモチベーション高くやれてる、チャレンジし続けている理由かもしれないですね。まあ、続けるだけですよ、僕は」

岡崎は体を投げ出して、“利き足”とされる頭でゴールネットを揺らし、叫び声をあげる。点を取るか取れないかという至極単純な白黒の重圧を享受し、自分というサッカー選手としての価値を、自分が生きている証を、今、このときに打ち付ける。彼は「誰かに何かを証明するわけじゃなくて」と言うが、そのゴールを喜ぶ姿はそれを見る者の中にいるもう一人の自分を目覚めさせるかのようだ。もう一人の自分は、「おい、本当にこのままでいいのか?」と叫んでいる。岡崎の叫び声に、憧れている。

取材・文=江間慎一郎(スペイン在住ジャーナリスト)

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