Real Madrid campeón Liga 2019-2020Getty Images

ジダンが見せた圧巻の手綱さばき。レアル・マドリーにこの男以上の騎手はいない

■気性の荒い白馬と凛々しい騎手

夏、秋、冬、春、再び夏と5回も季節を横断する史上初の超長距離レース。一度中断してから迎えた最後の直線、白毛の、気性の激しい馬は、度肝を抜くような力強い走りですぐにライバル馬を抜き、1馬身差でゴール板を通過した。

白馬が差し返されるという感覚は一切なかった。騎手との相性も悪そうなバルセロナ号は、暑さや芝の状態を危惧しながら心臓破りの坂を駆け上がり、競争が終わる前から審議を訴えていた様子だったが、その一方でレアル・マドリー号は、騎手の叩く鞭にしっかりと呼応して、脇目も振らずターフを思い切り蹴っていった。ただ前へ足を出すことにこそ栄光はある。死など、どうだっていい。大切なのは、今この一歩、その次の一歩、また次の一歩……といった具合に。その走りは、感動的ですらあった。

ラ・リーガ杯の優勝を決めた直後、騎手がゴーグルを外した。現れたのは、きっと前世には最強馬として栄誉をほしいままにしたであろう、凛々しい馬顔の男。彼は感情のままに叫び声をあげ、見事な走りっぷりを見せた馬を優しくなででいた。

■日々食べるパン

Sergio Ramos Karim Benzema Real Madrid 2019-20Getty

マドリーの3シーズンぶり、通算34回目のラ・リーガ優勝が決まった。その最後の直線での走りっぷりは見事としか言いようがない。しかし昨夏までを振り返ってみれば、彼らは決して優勝の本命と言い難かった。長いスパンで見れば、これはマドリーの、いや、ジネディーヌ・ジダンが手綱を握るマドリーの大いなる逆転劇だったのである。

チャンピオンズリーグ(CL)三連覇の立役者、クリスティアーノ・ロナウドとジネディーヌ・ジダンを失って迎えた昨季、マドリーは3月上旬に、わずか1週間でラ・リーガ、コパ・デル・レイ、チャンピオンズリーグと、すべてのメジャータイトルに別れを告げた。黄金期の終焉が騒がれた中で、会長のフロレンティーノ・ペレスはジダンを再び招へいして何とか取り繕うとしたが、目先の勝利の延長線上にタイトルがなければモチベーションがあるはずもなく、チームはシーズン終了まで敗戦に敗戦を重ねた。CL三連覇を果たしたジダン・マドリーはすでに終わったのと、陣容の刷新が声高に叫ばれることになった。

しかしながら蓋を開けてみれば、チームは刷新されたわけではなかった。ロドリゴ、フェルラン・メンディ、エデル・ミリトン、ルカ・ヨヴィッチ、そしてエデン・アザールが次々にサンティアゴ・ベルナベウでお披露目されたが、目玉のアザールがケガがちであったことを含めて、チームの軸はCL三連覇の頃とほぼ変わらず。ジダンが切望していたポール・ポグバもやって来ず、刷新ではなくマイナーチェンジを施された程度にとどまった。

ラ・リーガ開幕節セルタ戦で、新加入選手が誰もプレーしなかったマドリーはまるで古馬を思わせ、その後、過去2シーズン同様の浮き沈みを見せ、CLのグループステージで苦戦し、コパ・デル・レイでは準々決勝でレアル・ソシエダに敗戦するなど結果が伴わなかったことで、ジダンの解任論が浮上するまでに至っている。

けれども、そうした中でジダンは、ラ・リーガ優勝を見据えたチームづくりを進めていた。そもそも日々の尊さを説き、足元に転がるものを大切にする、逆に型破りなフットボール界の超大物ジダンは、運も存分に絡んでくる豪華なディナーたるCLよりも、日々食べるパンであるリーグ戦に大きな価値を見出す人物だ。CL三連覇を果たした直後の1回目の退任は、ラ・リーガで早期に優勝争いから脱落したことが理由だった。

「来季はラ・リーガに勝つことが最優先だ。勝ち取ると断言はできないが、最後まで争い抜く」

「モドリッチのような選手が1度しかリーガを勝ち取ったことがないなど、普通ではない」

今季初め、メディアや選手たちを前にそう話していたジダンは、確固たるテーブルマナーをつくってパンを食し始めた。つまりは、守備意識と得点意識の植え付け、である。それはクリスティアーノに対する慕情を捨て去る、と言い換えてもいいかもしれない。1シーズンの公式戦で平均50ゴールを奪ってきたクラブ史上最高のゴールゲッターがいなくなり、得点力で競り勝つ保証はなくなった。だからこそジダンは失点数を減らすこと、全員で得点力を埋めることで、彼が空けた巨大な穴を埋めようとしたのだ。

実際、今季のマドリーはほぼ全員に守備意識が植え付けられ、ジダン第一次政権の終わり頃から仕掛けるようになったハイプレスをはじめ、各ゾーンで仕掛けるべきプレスの使い分けがより巧みになった(フェデ・バルベルデが躍動し、トニ・クロース&ルカ・モドリッチとローテーションができるようになったのも大きい)。それでも時折、相手に守備網を破られてしまうのはご愛嬌だが、シュートの確度がある程度低ければ、ティボー・クルトワのポジショニングが素晴らしいおかげで好セーブに見えない好セーブによって、ゴールにしっかり錠をかけられる。ラ・リーガが後半戦に入るあたりでマドリーの守備力の高さは数字として顕著に表れるようになり、クルトワはアトレティコ・デ・マドリーGKヤン・オブラクのラ・リーガのタイ記録、5シーズン連続のサモラ賞(最小失点GK)獲得を阻む存在として君臨。19試合無失点はマドリー歴代1位タイの記録となり、1試合あたりの失点率「6.2」は1964-65シーズンに次いで歴代2位だ。

そして得点意識については、もちろんクリスティアーノのあの異常な得点数を取り戻せはしないものの、それでもクロースやモドリッチらインサイドハーフをはじめ、全員でそれを補おうとする姿勢はあった。マドリーはミリトンとブライム・ディアス以外の21選手が得点を記録したが、これはリーガの一チームの得点者人数における最多記録である。彼らの攻撃における鍵を握ったのは、無論カリム・ベンゼマ。C・ロナウドがいた時代には影に徹することを義務付けられていた男は、今なお洗練されていくパスコースづくり、スペースづくり、チャンスづくり(あのエスパニョール戦のバックヒールといったら!)で常に攻撃の解となり、そして自らもゴールをかっさらっていった。流れの中でゴールまでの道程をつくり上げる“非”フランス代表FWは、残り1節を残した段階で20得点5アシストを記録。さらにセットプレーではS・ラモス(なぜか流れの中でも頻繁に顔を出すが)がその容赦のなさを誇示し、キャリアハイの10得点を決めて、いくつもの勝利に貢献している。

■相応しい歌

zidane-realmadrid(C)Getty Images

マドリーという騎手を振り落とすこともある気性難の馬に言うことを聞かせるという点で、おそらくジダン以外の適任者を見つけるのは難しい。そして新型コロナウイルスという乱入者が出たことで一時中断となったレースが再開し、短くも熾烈を極めた炎天下での最後の直線に入ると、フランス人指揮官はバシッと白馬の尻に鞭を入れた。再開初戦となったエイバル戦、残り試合で全勝を貫くことを目標に設定したジダンは、後半からパフォーマンスが一気に落ち込んだことに失望し、選手たちを叱咤。選手たちは温和な顔を捨て去った指揮官に最初驚いたが、ここで口先だけではない真の決意を固めたのである。

それから見せたのは、まさに圧巻の走りだ。勝利したクラシコ直後のベティス戦に敗れて、バルセロナに再び1位を明け渡して中断期間を迎えるなど、ずっとつきまとってきた不安定さはどこにもなかった。究極の9.5番になりつつあるベンゼマ、優勝を左右するPKを決め切る心臓に毛が生えたS・ラモス、ここに来て第二の春を迎えたように躍動するモドリッチ、疲れ知らずの至上の汗かき屋カセミロ、股の間以外あらゆる方向に飛んでくるボールを防ぐクルトワ……。ジダンはチームの軸と呼べる彼らこそ進んで代えなかったものの、選手層の厚さを存分に生かした。4-3-3、4-4-2、4-2-3-1と各試合で最適と考えるシステムを駆使して、ピッチ上ではあの闘将ばりの咆哮をあげていた。あのパルティード・ア・パルティードという言葉を、その一挙手一投足によって表現していた。

「勝利のために死ぬ気で行く」。第37節ビジャレアル戦の前日会見でジダンはそう話し、マドリーはその言葉通りに勝利して優勝を決めた。ラ・リーガ再開後の成績は10戦10勝19得点4失点という驚異的なもの。そしてレース終了直後に騎手が発した言葉はやはり、という趣旨のものだった。彼は本来の柔和な笑顔に戻り、馬の力を信じ、真っ直ぐ走らせただけと強調。そして最後には、少し汚い言葉遣いで、ラ・リーガ優勝の価値を説いた。

「戦ったのは選手たちだ。もちろん、私にも役割があるが、彼らが信じてくれなくてはどうにもならない。このグループは素晴らしい人間たちの集まりだ。選手たちは見事なことを成し遂げた。今ある感情は、言葉では表せないよ」

「チャンピオンズはチャンピオンズだが、しかしラ・リーガの優勝は本当に嬉しい。この大会は本当に、多大な努力を必要とするんだ。38節もあって、最後に誰よりも勝ち点を獲得しているなんて……やばいよ」

惜しむらくはウイニングランを喜ぶ観客が、場内にいないことか。だがしかし、もし今のマドリーが観客のいるサンティアゴ・ベルナベウで試合をしていたとしたら、今季にも存在したあの独特なヒステリックさはかき消えているだろう。それどころかCLの魔法の夜を顕著とする、あの独特な狂熱が間違いなく生まれていたはずだ。

1979年にマドリー優位の判定に憤慨したスポルティング・ヒホンのサポーターが歌い始め、後にマドリーファンが劇的な逆転勝利の際の定番チャントとした「アシ! アシ! アシ・ガナ・エル・マドリー(マドリーはこうやって勝つ)!」。ジダンの伝説的なボレーシュートによって9度目のCL優勝を果たした際に誕生し、勝利にこそマドリーを愛する理由があると説く「コモ・ノ・テ・ボイ・ア・ケレール(どうして愛さずにいられようか)」。マドリーのアイデンティティーを表すこれらのチャントは、今の彼らにこそふさわしい。

文=江間慎一郎

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