セビージャMFヘスス・ナバス(39)が、ついに現役最後の日を終えている。
スペイン代表として2010年南アフリカ・ワールドカップ、EURO2012、EURO2024で優勝し、下部組織から過ごしたセビージャではUEFAカップ/ヨーロッパリーグを2回ずつ制覇。スペイン、マンチェスター・シティでプレーしたイングランド、ひいては世界で名声を獲得した稀代のサイドアタッカー、ヘスス・ナバスが22日に現役最後の公式戦に臨んだ。
最終戦は22日のラ・リーガ第18節、アウェーでのレアル・マドリー戦だった。マドリーおよびその本拠地であるサンティアゴ・ベルナベウは、フットボール界のレジェンドに対して見事に敬意を表していた。
試合前にはセビージャ、マドリーの選手たちが花道をつくってヘスス・ナバスを出迎え、マドリーのキャプテンMFルカ・モドリッチ(39)が同チームの全選手のサインが記されたユニフォームを贈呈。この時点ですでに目が潤んでいたJ・ナバスは、カルロ・アンチェロッティ監督と抱擁を交わしてからベンチへと座っている。
そしてこの試合の65分、セビージャのガルシア・ピミエンタ監督はヘスス・ナバスを途中出場で起用。先立った親友、故アントニオ・プエルタの16番をつけた男は、スタンド全体でスタンディングオベーションが巻き起こる中でピッチに入り、「ナーバス! ナーバス!」のかけ声に手を振って応じていた。だがボールを受ければ、そこにいるのは最高のプロフェッショナルである。ヘスス・ナバスは得意のドリブル、精度高いクロスでセビージャの攻撃を牽引しようとしていた。
そして試合終了後、観客はマドリー、セビージャサポーターに関係なく、ヘスス・ナバスに再びスタンディングオベーションと「ナーバス! ナーバス!」のコールを送った。感動で顔をクシャクシャにしていた同選手は、手を上げてその喝采に応じ、いつものように十字を切ってから現役最後のピッチを後にしている。……マドリーおよびそのサポーターはこれまでもフットボール界のレジェンドに敬意を表してきたが、拍手だけでなく名前まで呼んで他クラブの選手の功労を称えるなど、極めて稀である。ヘスス・ナバスの功績がうかがえる現象だった。
試合後、ベルナベウの地下にあるミックスゾーンで報道陣の取材に応じたヘスス・ナバスは、この日ベルナベウで生まれた光景に強く胸を打たれた様子だった。全キャリアを通して887試合目、心のクラブであるセビージャで704試合目のプレーを終えた同選手は、あふれる涙で声を詰まらせながら、言葉を紡いでいった。
「今日は圧巻だった。アウェーのスタジアムでこんなことが起こるなんて……一度も目にしたことがない光景だった。凄まじかったよ」
「ピッチでの最後の瞬間は、何も見ていなかった。ただ地面を見ながら、これまで過ごしてきたこと、これまで経験してきた喜び、僕のセビージャと代表チームに尽くしてきたことを思い出していた。こんなにも多くの人たちを幸せにできたのは、唯一無二のことだと思う」
セビージャの世代交代を円滑に進めるため、キャプテンとしてその生き様を若手たちに見せるために半シーズンだけセビージャにとどまることを決意したヘスス・ナバス。しかし、その体はもうボロボロで、腰には爆弾を抱えていた。一度プレーすれば、2日は動くことができなくなった。
それでも彼は、セビージャのトップチームでデビューを果たした2003年と変わらぬ情熱、同クラブに対する変わらぬ愛情でもって、現役最後の試合までプレーしている。
「本当に多くの出来事、喜びがあった。僕が心に残すのは皆から言われてきたこと……つまりは、いつだって僕は僕のままだったということだ。だからこそ、ここまでたどり着くことができた。僕は僕のセビージャの移行期に付き添いたかったんだ。自分が守ってきた価値観を伝えられたと思っているよ」
ヘスス・ナバスのあの縦に抜ける鋭いドリブル、そしてセビージャへの愛は、フットボール史に深く刻まれている。同時代を生きる人々の網膜に焼きついている。
取材・文=江間慎一郎




