Barcelona La Masia GFXGoal

バルセロナの凋落と未来:ラ・マシア崩壊の理由とファティ、モリバ、ラポルタが示す原点回帰

■未来

イライクス・モリバは、今しがた起きたことが信じられなかった。

この才能あふれる18歳は、利き足ではない左足で、憧れ続けたバルセロナで、プロキャリア初ゴールを奪ったのだ。すると、あの伝説的な選手、リオネル・メッシが腕の中に飛びこんできたのである。

「絶対に忘れない」。3月6日、2-0で勝ったオサスナ戦の後、『バルサTV』で見るからに興奮した様子のモリバは語った。「この感情と記憶はお墓までもっていくよ!」

だが、これはモリバ本人だけが特別な瞬間ではなかったのだ。バルセロナというクラブにとっても非常に重要な出来事だったのである。

モリバとメッシがうれしそうに抱きあう姿は、ブラウ・グラナ(バルセロナの愛称)の過去、現在、未来を象徴するものだ。このクラブが本質的に再びラ・マシア(下部組織)で1つになったことを表している。

“バルセロナとは何であったか”を思い起こさせ、再びそうなることができると思わせる姿だったのだ。

■腐敗

パンプローナでモリバが象徴的な得点を挙げたわずか24時間後、2003年から2010年に会長を務めたジョアン・ラポルタが、再びバルセロナの会長に選出された。

ラポルタ会長はクラブの伝統的な価値を復活させると約束し、当選した。この10年、バルセロナの評判は地に落ち、その気風はあらゆる面で崩壊、腐敗していた。

UNICEF(国連児童基金、全世界の子どもに人道的で心身の成長をもたらす支援を提供することを目的とする国連組織)との無償のユニフォームスポンサー契約は、事実上、カタール財団との1億5000万ユーロ(約194億円)にとって代わられた。一方でサントスからネイマールを獲得したことは訴訟へと発展し、2014年、当時のサンドロ・ロセイ会長は辞任に追い込まれる。その年の暮、バルサは未成年選手の移籍に関する規約違反で処分も受けた。

Neymar Josep Maria Bartomeu Barcelona GFXGetty/Goal

ロセイの後任、ジョゼップ・マリア・バルトメウ下で事態は悪化を極める。前理事会がI3ベンチャーズなどの企業と契約を結び、SNSを通じて以前の理事会や次期会長選挙においてバルトメウ氏のライバルとなりそうな人物、挙げ句の果てにはFWリオネル・メッシやDFジェラール・ピケといった選手たちの名誉を毀損する投稿を行なっていた通称“バルサゲート”。この前代未聞の大事件は全世界に衝撃を与えた。後にバルトメウらはこの事件の捜査中に逮捕されている。

この事件は、バルサが自ら財政面、そしてモラルやクラブの格といった面で崩壊していたことを示すものであった。あらゆる不祥事と責任のなすりつけ合いが、その格式高いクラブをむしばんでいたのである。

ラポルタ新会長は、基本に立ち戻ると誓っている。会長選の最中に『Goal』に語ったとおり、2期目の彼が重視するチームの原則は1期目と変わらない。「クライフ、ラ・マシア、カタルーニャ、ユニセフ、プロ組織」だ。

彼らの伝統である圧倒的勝利を取り戻すため、とりわけ重要な役割を果たすのはユース・アカデミーを守り育てていくことだ。もちろん、それには欠かせない要素がある。

そもそもバルセロナには、もはや移籍市場で大盤振る舞いできるような資金はない。バルトメウがクラブ史上最も高額な3人の選手、フィリペ・コウチーニョ、ウスマン・デンベレ、アントワーヌ・グリーズマンのためにおよそ4億ユーロ(約518億円)もの金額を無駄にしたため、破産寸前まで陥っているのだ。

だから、もはやラ・マシアに頼るしかない。ラポルタ会長は「カンテラ」(直訳すると「石切り場」。スペインサッカーにおける育成組織のこと)を自身の計画の中心部分に据えた。

思いだしてみよう、2008年にペップ・グアルディオラを監督に任命したのは、ラポルタ会長だ。これはカンプ・ノウをホームとするクラブの歴史上、最も重要な決定のひとつである。

Joan Laporta Johan Cruyff Pep Guardiola Barcelona GFXGetty/Goal

Bチームの監督だったグアルディオラは当時37歳と若く、それまでトップチームでの監督経験はなかった。だが、重要だったのはグアルディオラがクラブの精神を体現していたことである。ラ・マシアのイメージ・キャラクターであり、最初のサクセス・ストーリーだった。

グアルディオラは、ヨハン・クライフの教育術を奉ずるアカデミーで育った。クライフは1970年代、カンプ・ノウに初めて「トータル・サッカー」の原理をもちこんだ選手である。この元オランダ代表は、1988年にトップチームの監督として戻ってくると、ただちに自身のサッカー哲学の権化と対面することとなる。

『バルサとレアル スペイン・サッカー物語』(原題:Morbo: The story of Spanish football)によると、クライフはクラブに戻った最初の1週間のあいだにBチームの試合にサプライズで現れ、中盤の右サイドでプレーする17歳の完璧なテクニックと何事にも動じない態度に衝撃を受けたという。

クライフはその17歳の名前を尋ねた。コーチを務めるカルロス・レシャックは「グアルディオラ」と答えた。「いい子だよ」。その後すぐにトップに呼ばれたこの若いスターは、早速ディフェンスの前のポジションにコンバートされた。そのわずか2年後、グアルディオラはクライフ監督の「ドリーム・チーム」の中心となる。

それから20年後、今度は監督となったグアルディオラがセルヒオ・ブスケツで同じことをやったのだ。高額なスターたちを構想外とし、アカデミー出身選手でチームを構築したのだ。その結果が、サッカー史上最高で最強のチームであったことは言うまでもない。

2011年1月、リオネル・メッシ、アンドレス・イニエスタ、シャビがバロンドールの上位3位を独占した。トップ3が同じユース・アカデミー出身選手であったのは、歴史上この1回のみである。

Lionel Messi Andres Iniesta Xavi Barcelona GFXGetty/Goal

翌年のレバンテ戦、グアルディオラの後任にしてBチームでもトップチームでもグアルディオラの右腕だったティト・ビラノバは、同時に11人のラ・マシア出身選手をピッチに送りだした。

だが、ビラノバは健康上の理由で2013年の夏に辞任を余儀なくされ、2014年4月、わずか45歳でこの世を去った。彼の死はクラブに関わるすべての人に衝撃を与えた。ラ・マシアにも恐ろしい影響を与えた。そしてバルトメウやビラノバ後の指揮官たちは、カンテラに同じような意義をもたせることに失敗。ラ・マシアの影響力は薄れていってしまった。

■ラ・マシアの崩壊

メッシが13歳でバルサに入団したとき、チームメイトたちは「ドワーフ(小人)」というあだ名をつけた。同じくアカデミー出身の元選手、ロジャー・グリベトは『Goal』に対して当時を振り返る。「僕は12歳で170cmあった。ところが、メッシは150cmもなかったんだ!」

以前のラ・マシアは、体格よりも技術のある選手により注目していた。だが、この優先順位はバルトメウの時代に変化する。「クラブの考え方は以前と変わっている」。元ラ・マシアのコーチである人物が2017年、『Goal』に対してこう語っていた。

「今では、ラ・マシアのトライアルで『残念だ! あの子は背が低すぎるね』という言葉が聞かれるようになった。最近では才能ある選手ではなく、強そうに見える選手が注目される」

「我々は選手たちに『競争心を持ち、フェアプレーを順守しろ』と教えてきた。勝つことは最後だった。クライフはいつもどういうプレーをしたかを尊重した。結果を問うことは決してなかった」

「だが、今のバルサBは勝つためにプレーし、成長途中にある選手たちを排除している。若い選手たちをだましているのも同然だ」

そして、当然のようにクラブはアカデミー出身選手たちをものすごい速さで失いはじめた。もちろん、大型契約や出場機会を提示するプレミアリーグの影響は大きかったとはいえ、ラ・マシアは次々に選手を引き抜かれていく。ジェラール・ピケとセスク・ファブレガスはユース在籍時に引き抜かれた。この10年で、ラ・マシアから異国へ向かった選手は数えきれない。

彼らも自分が「フットボール界で最高のアカデミーに所属していた」ことはわかっていた。しかし、より簡単にトップへの将来が約束されている道には抗えないのが常である。2013年に16歳でリヴァプール移籍を決断したセルヒオ・カニャスは、『Goal』のインタビューでこう振り返る。

「(アカデミーを去る)2年前、エクトル・ベジェリンとジョン・トラルがアーセナルに行った。2人は2歳年上だったけど、ラ・マシアではいつも一緒にいて、友達だった」

「2人が出て行くのを見て『すごい!』と思った。これこそフットボールだよね。アーセナルやリヴァプールに入れば、U-17とかU-18、たぶんBチームとかでもプレーする必要はなく、すぐにトップチームに入れる可能性があるんだ」

「(バルセロナにいると道のりが)長すぎる。毎週すごいプレーをしてハットトリックでもしない限り、時間がかかるんだ」

ほどなくしてバルサは、アカデミーの意義を「トップチームに優秀な若手を送りだす」というよりも「将来有望な選手を売りに出して大金を稼ぐ手段」とみなすようになる。カルレス・ペレスは2020年にローマへ売りにだされたとき、『ムンド・デポルティーボ』で「バルサの人間はカンテラについてたくさん話す。でも、結局やることは正反対だ」と嘆いている。

その結果、バルサからかつてないほど多くの才能が流出した。ユースのうちに出ていくもの(シャビ・シモンズ)もあれば、トップにあがってから出て行くもの(アダマ・トラオレ)もいた。

そして、2018年4月17日についにどん底に落ちる。16年ぶりにスターティングメンバーからラ・マシア出身選手がひとりもいなくなったのである。

アイデンティティは完全に崩壊した。メッセージは明快だった。もはやアカデミーで傑出した存在であろうとも、トップチームでプレーするチャンスはないと――。

ボージャン・クルキッチは「僕らを偉大な選手にする計画じゃなかったのか」とクラブを糾弾した。同じくラ・マシア出身のジェラール・デウロフェウは、バルサのユースチームについて、ライバルクラブよりも「数年遅れて」いると明言した。

ラポルタも崩壊を防ごうと、2015年に現職だったバルトメウとの会長選挙に挑んだが、あっさり敗北した。バルトメウは、メッシという史上最高の選手やネイマール、ルイス・スアレスといった外部から獲得してきた選手のおかげ3冠を達成。その結果により、各地で上がっていた悲鳴を無視することができたのだった。

■原点回帰

だがラポルタは抵抗しつづけた。クラブを救わなければならないと確信していたのである。

「3冠は達成したが、私はバルサにとってもっと良いモデルが他にあると言いつづけた」。2017年、『Goal』に対して語っている。「カタール(とのスポンサーシップ)とは無関係に、クラブを経営していく別のモデルがあることを示したかった。ラ・マシアを崩壊させない方法、(移籍)市場に頼らず、どんなことがあっても選手と契約する方法を」

「UNICEFのロゴが入ったユニフォームを着たクラブに戻したいと思った。ヨハン・クライフが発明し、ラ・マシアが強化してきたシステムに基づいてやってきたクラブに戻したかった。そうやって我々はクラブを築いてきたのだ。今の体制(バルトメウ元会長の一派)はそれを破壊している」

「彼らはバルサのトップチームに素晴らしい選手たちがいることを利用している。だが、次の世代を育てる仕事を何もしていない。セルジ・ロベルトは我々が育てた選手だが、他に誰1人としてあの連中が育てた選手はいない」

「むしろ逆だ。彼らは選手を売った。なかには二度と戻ってこない選手もいる。我々のやり方からすれば、これは忌々しき問題だ。我々は才能ある選手を育てる必要がある。バルサのユースにはその能力がある。必ずある」

彼は間違っていない。理事会やラ・マシアでは激烈な政策変更が起こったものの、バルサ自体ではその名簿に何人もの才能ある選手の名前が載っている。忍耐強くチャンスを与える必要があるだけだ。

それを素晴らしい方法で証明してみせたのが、アンス・ファティだ。稲妻のようなスピードを持つアタッカーは、2019年8月に一躍スターダムへ駆け上がった。バルセロナ史上最年少の16歳と304日で、ラ・リーガ初ゴールを決めたのである。

2020年にも数々の記録を破りつづけ、目を見張るような急成長を見せていた。昨年11月に負った膝の重傷で一時停止を余儀なくされたが、ファティはすでに今年の『NxGn』を受賞するに値する活躍をしている。

EMBED ONLY Ansu Fati Barcelona NXGN award GFXGoal

ファティの出現に加え、最近ではモリバやリキ・プッチも台頭。サポーターたちは、地元出身のヒーローが続々と登場し、新世代の成功を築いていくのではないかという期待で湧いている。来シーズンにはアレックス・コジャドがトップチームに昇格するだろう。そこにイリアス・アクホマク、アレハンドロ・バルデ、ガヴィ、アンヘル・アラルコンといった面々が加わるのもそう遠くないはずだ。

これらは、バルセロナの黒歴史といっていい時代における、正真正銘の明るい光だ。

クラブの財政破綻は深刻で、負債総額は12億ユーロ(約1兆5400億円)にのぼる。その健全化は簡単なことではないだろう。さらなるコストカットが行われるにちがいない。トップの選手たちを売りに出さなければならないだろう。

だが、必要は発明の母だ。バルサの場合、「発明」というより「見直し」である。

クライフはいつも信じていた。「どんな欠点にも利点はある」と。今ここでの最大の利点は、バルサの財政問題によりラ・マシアの重要性がかつてないほど高まっていることだ。

明るい未来を築くために、バルサは過去に戻るべきだ。原点に戻り、アカデミーに戻らなければならない。

メッシとモリバが抱きあう光景は、バルサの絆が決して切れていないことを強調している。今ならまだ、天の配剤を取り戻すことができる。ラ・マシアはクラブ再建の礎石となりうる。温故知新、古きを知ればよりよいものを生みだすことができるのだ。

1月、ラポルタは『Goal』にこう語った。「モデルは同じだ。だが、改良される」

そしてそれが同じ結果を生みだすなら、バルセロナはすぐに世界のトップへと戻ることができるだろう。地元出身選手たちであふれるチームを、ファティとモリバがけん引する未来によって――。

ラ・リーガ|最新ニュース、順位表、試合日程

▶ラ・リーガ観るならDAZNで。1ヶ月間無料トライアルを今すぐ始めよう

【関連記事】

広告