chelsea(C)Getty Images

【野村明弘:CL特別連載⑤】CL決勝レビュー。ビッグイヤーはひとつひとつ紡いで初めて獲得できるタイトル

連載第1回:嫌われものの金満を愛し、舌打ちもされた。それでも声を大にして言いたい「チェルシーはパッションに満ち溢れたクラブ」

「GKメンディからチルウェル、ワンタッチでマウントに渡す、マウント、ターンをして、前線のハヴェルツにパス、ハヴェルツ、キーパーを交わす、ハヴェルツ、ハヴェルツ、決めたぁぁぁ~~~、チェルシー先制!!!」

前半42分、ポルトガル・ポルトのエスタディオ・ド・ドラゴンに、チェルシーサポーターの歓喜が木霊しました。

チェルシーファンにとっては、そこからがまた長い時間でした。後半のアディショナルタイムも7分ありましたし…。冷や冷や、ハラハラ、ドキドキの時を過ごしましたが、虎の子の1点を守り切り、チェルシーが9年ぶり2度目のUEFAチャンピオンズリーグ制覇。見事ビッグイヤーを獲得しました。

運命の一戦、中盤の底にフェルナンジーニョやロドリを使わず、今季公式戦チーム最多の16得点を挙げていたイルカイ・ギュンドアンを起用し、ここのところ評価を落として序列を下げていたラヒーム・スターリングを先発させるという奇策?ともとれるメンバー選考を見せたマンチェスター・シティのペップ・グアルディオラ監督。それに対し、チェルシーのトーマス・トゥヘル監督は、ここ3試合は逆にしていたセサル・アスピリクエタとリース・ジェームズの位置も元に戻し、至ってシンプル、いつも通りの布陣、いつも通りの試合を展開しました。

■守備陣の集中

chelsea(C)Getty Images

チェルシーは、これまで積み上げてきたものを、そのまま表現する普段着のプレーを見せてくれました。

前半39分、経験豊富でチームの要の一人であるチアゴ・シウヴァが、そ径部を痛めて交代を余儀なくされた時は一瞬、不安もよぎりました。ですが、代わって入ったアンドレアス・クリステンセンがしっかりとリカバリーしてくれました。思えば、シーズン中もチアゴ・シウヴァが怪我の期間中、クリステンセンがしっかりと代役を果たし、それどころか、試合ごとに成長を見せてくれていました。これまでのチームとしての積み重ねが大一番で発揮された格好です。

トゥヘル監督就任後、全体をコンパクトに保ち、各選手が素晴らしい距離感を保ちながら連動して守って結果を出してきました。この大舞台でも、出場した選手全員が本当に集中し、マン・シティの選手に自由を与えませんでした。シティの枠内シュートをわずか1本に抑えたという数字に、それは表れていました。

リース・ジェームズ、ベン・チルウェルは、サイドでの1対1で決して負けませんでしたし、アスピリクエタは、その危機察知能力とカバーリング力でチームを救いました。アントニオ・リュディガーも、持ち前のスピードや身体能力を生かしたプレーを見せてくれるなど、集中した素晴らしいプレーぶりでした。

■ここでも輝いたカンテ

kante(C)Getty Images

全員が殊勲の勝利ではありましたが、試合のマン・オブ・ザ・マッチには、私が第3回のコラムで今季のMVPにあげたヌゴロ・カンテが選ばれました。ケヴィン・デ・ブライネへの完璧な対応を含めた3回というタックル成功数、インターセプト2回、デュエルは8回中7回に勝利、空中戦の勝利数も4回と相変わらずの守備の強さ、巧さも見せました。また、攻撃面では何度もボールを自ら前に運んでリズムを作り、オフ・ザ・ボールでも頻繁に相手ペナルティエリア内に顔を出すなど良さを見せていました。

クラブOBのジョー・コールが「(クロード・)マケレレにプラスアルファ」と表現しましたが、まったくもって同感です。表彰式の後、皆がビッグイヤーにキスをしたり、高々と掲げたりしていたのに対し、控えめに触るだけで、なかなか掲げようとしなかった謙虚な姿勢もまた、彼のプレースタイルを彷彿させました。

今季、成長が著しかったメイソン・マウントも攻守にわたって利いていましたね。ハヴェルツの決勝点をアシストしたスルーパスは圧巻でした。育成出身の選手がトップチームに定着することが少ないチェルシーにあって、6歳からクラブに所属するマウントの成長は嬉しい限りです。ポジションもプレースタイルも違いますが、ジョン・テリーに負けないキャプテンに、いつかなってくれることを願ってやみません。今回は明暗分かれたマン・シティのフィル・フォーデンとともに、今後、イングランド代表も背負って立つ存在になってくれるでしょう。

そして、この試合で忘れてはいけないのはティモ・ヴェルナーの存在です。裏を狙ったり、サイドに流れたりする動き、また前線からの守備やパスコースの限定、このようなオフ・ザ・ボールの動きはボディーブローのようにシティに影響を及ぼしていたはずです。ゴールシーンでも左斜めへのランニングで中央のハヴェルツへのスペースを創出しました。トゥヘル監督が彼を評価する所以を大いに見ることができた決勝でした。14分の決定機、足元にボールが入り、シュートはGK正面というあたりはご愛嬌ではありましたが…。公式戦12ゴール15アシストという今季の成績は、実は素晴らしい数字なのです。

■来季、そしてマン・Cファンへ

chelsea(C)Getty Images

トゥヘル監督は、選手たちの良さを最大限に発揮する土台を作り上げました。彼の手腕は、想像以上のもののようです。どうやら、クラブは彼との契約延長を準備しているとか…。

今回はチェルシーが勝ちましたが、成熟度といった点ではシティの方がまだまだ上だと感じますし、リヴァプールには怪我人が戻ってくる上に、ライプツィヒから有望なCBイブラヒマ・コナテも獲得しました。どう考えても来季のマン・シティ、リヴァプールは手強いでしょう。ただ、チェルシーはさらなる進化をみせてくれそうな予感もしますし、来季のプレミアリーグ、CLでのイングランド勢の凌ぎあいが、今から楽しみで仕方ありません。チェルシー、そしてイングランドフットボールの未来は明るいと感じています。

そして、冬にはクラブ・ワールドカップでチェルシーが来日する予定。さらなる進化を遂げたチェルシーを日本に居ながら、生で観ることができる機会が近づいています。皆さん、首を長くして待ちましょう。

その頃には、コロナが終息していることを願って…。

PS:シティズンの皆さんは今回、とても悔しく辛い思いをされたかと思います。私も2007-08シーズン、チェルシー初のCL決勝、ジョン・テリーがPKを決めれば優勝という状況から逃す悔しい思いを経験しました。これで、初めて決勝に進出したクラブは8連敗ということになりましたが、やはりビッグイヤーというタイトルはひとつひとつ紡いでいって、初めて獲得できるタイトルなのだと思います。ただ、ライバルながらマン・シティが確実にビッグイヤーに近づいているとも感じています。それを阻止するべく、我々も進化していきます。これからも、互いに切磋琢磨していきましょう。良きライバルとして、これからも宜しくお願い致します。


文・野村明弘

nomura

1975年生まれ、東京都出身。1998年に長崎文化放送に入社し、記者・アナウンサーとして活動。2003年に退社後、渡英して現地のフットボール文化に触れる。帰国後はフットメディアに所属し、プレミアリーグやチャンピオンズリーグ、Jリーグなど国内外のサッカー実況を担当してきた。2020年に独立してフリーとなった現在、スポーツコメンテイターとして様々なメディア、媒体で活躍の場を広げている。

▶WOWOWが2020-21のCL決勝トーナメント独占配信!無料トライアルに今すぐ登録

広告

ENJOYED THIS STORY?

Add GOAL.com as a preferred source on Google to see more of our reporting

0