バルセロナとレアル・マドリー。スペイン、そして世界を代表する2クラブによる直接対決“エル・クラシコ”2020-21シーズン最初の激突は、3-1でアウェイのレアル・マドリーに軍配が上がった。
開始5分にフェデ・バルベルデの先制弾でリードしたレアル・マドリーは、その3分後にアンス・ファティの得点を許して追いつかれる。それでも63分、FKの競り合いの中でセルヒオ・ラモスがクレメント・ラングレに倒されたとして、VARレビューの結果PKを獲得。これを主将自ら決めると、90分にはルカ・モドリッチにもゴールが生まれ、3-1で勝利を収めた。
決勝点となったPK判定については多くの議論が巻き起こっているものの、昨季王者が宿敵を敵地で破った一戦。そんな“エル・クラシコ”を見たスペイン紙『as』試合分析担当ハビ・シジェスは、「どちらも付け入る隙が多いにあることを露わにした」と指摘する。その理由はどこにあるのだろうか? 今回の一戦でピッチ上で起きたこと、カギを握った選手、明暗を分けた交代策を紐解く。
文=ハビ・シジェス(Javi Silles)/スペイン紙『as』試合分析担当
翻訳=江間慎一郎(ツイッター:@ema1108madrid)
弱さ
Getty勝利したのはレアル・マドリー、否定されたのはバルセロナ、しかし弱かったのはどちらとも……。今回のクラシコは両チームの落ち込みぶりを確かなものとした。コントロールがきかず暴走気味で、大きなミスが影響を及ぼした試合で、バルセロナよりもどうにかこうにかできたマドリーが最終的に勝ち点3を持ち帰ったわけだが、どんなに隠そうとしても彼らはフットボール的な危機に直面している。それでも、試合終盤に一気に崩壊した永遠のライバルを打ち破るには事足りていた、ということだ。
「マドリーはその勝者のDNAで勝つ」と、私たちは口癖のように言ってきた。が、この試合の勝利はロナルド・クーマンの痛ましい試合管理の産物でもあった。バルセロナは、クーマンの再生プロジェクトに大きな疑問符がついている。
かつてないほど厳しい批判にさらされていたジダンは、過去の成功と首尾一貫とした決断をベースにして名誉を一応回復している。1-4-3-3を今一度使用し、対応するサイドと逆の利き足を持つマルコ・アセンシオとヴィニシウス・ジュニオールを両翼に据え、フェデ・バルベルデに1レーンを用意。ハイプレスとミドルゾーンのプレッシングを使い分け、前線からDFラインの距離をしっかり狭めた。アントワーヌ・グリーズマンではなくペドリをスタメンとして驚きを与えたクーマンのバルセロナは、このマドリーのパフォーマンスを前に劣勢に立っている。
勝利の立役者
(C)Getty imagesバルベルデがいなければ、マドリーはクラシコに勝っていなかっただろう。彼はポジショナルな攻撃を仕掛けることにおいて必要不可欠な選手だ。カリム・ベンゼマのスペースメイク、トニ・クロースのサイドチェンジを除き攻撃の流れを形づくる選手がいないマドリーにおいて、バルベルデは縦への推進力で相手チームのシステムに矛盾を引き起こす。このクラシコでも、そうだった。先制点での動きはその後も繰り返し行われていたが、彼はマドリーの型にはまった攻撃に一気に変化をつけられる。セルヒオ・ブスケッツ&フレンキー・デ・ヨングの2ボランチはともに先んじて相手を潰すプレーをするが、後方に走って守ることを苦手としている。バルベルデは2ボランチのマークを外して中央のレーンを突破し、クレメント・ラングレ&ジェラール・ピケの両CBを引きつけるベンゼマとアセンシオのサポートもあって、一気にゴール前まで駆け抜ける。ウルグアイ人の縦の動きはバルセロナの各ラインに混乱を生じさせ、ベンゼマのプレーエリアを広げることにも一役勝っていた。
右インサイドハーフのバルベルデが縦への突破で猛威を振るえば、左のクロースはボールを配りながら攻撃にリズムをつけている。いつも通りビルドアップ時にサイドに寄るクロースは、素晴らしい素材ながらまだ成熟していないペドリ&セルジーニョ・デストと対面することで、より容易に攻撃を組み立てられていた(加えてブスケッツは最初のボール奪取の試みをしくじれば、もう何もできなくなる)。こうしてマドリーはしっかりとした意図を持ってボールを動かしたものの、試合の序盤にはヴィニシウスの悪質な判断から危うい形でボールを失う場面も散見された。ただバルセロナのプレッシングが弱まった後には、ベンゼマがあらゆる場所に顔を出すようになり、途中出場のルカ・モドリッチも躍動してGKネトを苦しめている。
マドリーのボールを持ったプレーの改善は、その守備にも良い影響を与えていた。が、危ない時間帯も多かった。バルセロナは凄まじきリオネル・メッシとスペースを突くジョルディ・アルバ&アンス・ファティを中心とした攻めを見せ、カセミロの両脇でメッシを見つけられるときにゴールへの活路を開いた。カセミロ、ラファエル・ヴァラン、セルヒオ・ラモスは、メッシの鋭いドリブルを前に紙一重の守備を強いられ続けている。
メッシ依存と躍動したファティ
Getty Imagesしかしバルセロナは最後までメッシ依存の攻撃から逃れられず、徐々に勢いを落としていった。それにメッシのプレーの質に疑いの余地はないものの、ペナルティーエリアから離れていればその効果性はやはり薄れてしまい(彼がボールを失った回数は26回)、チーム全体にマイナスの影響を与えることにもなる。
メッシのほか、ファティも9番として良いプレーを見せていた。クーマンはこの試合で初めて彼を1トップで起用したが、その期待にしっかりと応えている。ファティはマークを外すべきタイミングを熟知しており、それがマドリーに打撃を与えていた。ヴァランとS・ラモスは彼の背後を突くコンスタントな動きに苦慮し続け、完全に抑え込むことはついにできなかった。クーマンが1-4-2-3-1で実現しようとする縦に速く、アグレシッブな攻撃に、ストライカーのファティはぴったりはまるようだ。
ファティがセンターバックとサイドバックの間に亀裂を生じさせていたバルセロナは、ここまでは見られなかったワイドな攻撃も実現している(横幅の平均は52.6メートル)。デストも良い印象を残したが、何よりJ・アルバが再びクラシコという舞台で危険な存在となった。J・アルバはメッシとの相変わらずのコンビネーションをベースに、フィリペ・コウチーニョがナチョを引きつけることで空いたスペースを再三にわたって突いた。マドリーは負傷したナチョの代わりに投入されたルーカス・バスケスが、その守備の欠陥を修正。攻撃面でも貢献著しかったL・バスケスは、コウチーニョを執拗に追わず、J・アルバの動きを常に警戒し続けていた。
クーマンの失策
Gettyマドリーは確かに連敗を喫したカディス戦(0-1)、シャフタール戦(2-3)より良い守備を見せ、バルセロナを制止することに成功。後半の立ち上がりにバルセロナの攻撃に耐え、VARとS・ラモスのおかげで勝ち越しゴールを決めて、あきらめが見えたバルセロナを相手に優勢に試合を運んだ。
バルセロナは、クーマンの終盤の交代策(ブスケッツ、A・ファティ、ペドリ、J・アルバとの交代でデンベレ、グリーズマン、トリンコン、ブライトバイテを投入)がピッチ中央に大きな穴を空けることになり、引き分けに追いつく可能性すら消失させている。確固たるプレーの骨組みがない中で輝きを失うブスケッツの現状に鑑みるに、ミラレム・ピャニッチを入れてロングボールを出すことは有効な手にも思えたが、クーマンは0-1で負けたヘタフェ戦のようにただ攻撃的選手を寄せ集めて、やはり満足な攻撃を実現できなかった。
マドリーはバルセロナの意図のない攻めを跳ね返しながらカウンターを仕掛け、モドリッチの狙いすましたシュートでとどめを刺した。
今回のクラシコは、マドリーもバルセロナも付け入る隙が多いにあることを露わにした。ともに確固としたチームの再構築を必要としているが、大舞台で勝利をつかんだ方が、そうするのは簡単だ。マドリーは空気を吸い込み、バルセロナは呼吸が困難になり始めた。
▶ラ・リーガ観るならDAZNで。1ヶ月間無料トライアルを今すぐ始めよう
【関連記事】




