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【独占】極限の戦いで鎌田、長谷部とは「目も合わせなかった」スポルティング、欧州CL、そして今後のキャリア/守田英正ロングインタビュー第2回

 日本代表のキーマンにも挙げられるMF守田英正は、川崎フロンターレ、サンタ・クララを経て2022-23シーズンよりポルトガルビッグ3のひとつ、スポルティングへとステップアップを果たした。どのチームでも存在感を発揮してきたこのクレバーなミッドフィルダーは、どのようなメンタリティでキャリアを歩み、自身の現在地を分析しているのか。

 GOALでは、川崎F時代から守田を追ってきた記者によるロングインタビューを実施。サンタ・クララでの苦悩や新天地での日々に続く第2回は、今スポルティングで学んでいること、そして欧州最高峰の舞台である欧州チャンピオンズリーグ(CL)について聞いた。(聞き手:林遼平)

【第1回:初の海外挑戦での苦悩】

■「スポルティングは川崎に似ている」

 スポルティングへの移籍当初、チームの中盤にはポルトガル代表マテウス・ヌネスが絶対的な存在として君臨していた。しかし、守田は「スタメンで出られるかどうかは分からないけど」と前置きしつつ、「ある程度試合に出るチャンスは与えられるだろうと思っていた」という。とはいえ、すべてがスタートから順調にいったわけではない。

――8月のリーグ開幕プラガ戦(3△3)はマテウス・ヌネスとダブルボランチで先発、60分に交代しています。見ていてまだ信頼がないのかなと感じました。

 まさにその通りなところもあります。見ている人の印象どおり、プレーしている自分からしても信頼を得られていないと感じていました。3バックなのにバックパスが多かったというコメントも見かけました。サッカーをやっていた兄にも言われたんですけど、前に急ぎ過ぎていましたね。引き込んで相手を釣ってからスペースを使って前に進むことができるのが3バックのいいところなのに。一概に前を向いてドリブルすることだけがすべてではないと今になって分かります。

ここに来た当初は、いかに自分がいいプレーをするか、どれだけパスを受けられるか、いいパスをつけてゲームメイクするかだけを考えていたんです。でも、必ずしも受ける必要がないことが分かった。(1ゴール1アシストの第8節)ジル・ヴィセンテ戦にしても決して多くボールを受けていたわけではなくて、全然ボールが入ってこないけど、チームとしてはボールが回っている。自分がボールを触りたいというのは置いておいて、チームがうまく回っているのならそれでいいと今では思っています。

――確かにジル・ヴィセンテ戦は、受けずとも周りを空ける動きをしていた印象があります。

 もちろんパスを出してくれたら仕事をしますが、出してくれなくても他が空くようなポジショニングの取り方を意識しています。結構周りが個の能力で目の前の1枚を剥がせたりするんですよね。たとえばこれが代表だったら、そもそも4枚なので運ぶスペースがなくて、そうなると立ち位置を少し後ろ目に取らないといけなくなる。

ただ、スポルティングの場合は、ウイングバックのところにスペースがあったり、3枚の脇のCBがうまく相手を釣るようにドリブルしたりするので、あまり綺麗にボールを受けられるポジショニングをしなくてもいいということを学んでいます。あえて隠れているというか、その次、入った時の3枚目で受けられる場所を探しているみたいな感じです。代表だと奥に入り過ぎて隠れているような感覚でも、今のクラブならシステム上成り立つところがあって、そこを探り探りやっていますね。

――初ゴールを奪ったジル・ヴィセンテ戦で一番印象に残っているのが、ゲーム終盤に失点を喫してかなり怒っていたところです。

 そこはある意味、川崎Fに近い匂いを感じているところで。サンタ・クララにいる時からこのチームに伸び代を感じていました。やっているサッカーは面白いし、ここからどうとでもなれるチームだなと。ポルトガルリーグのビッグ3のうち、ポルトはTHE強いチーム。ベンフィカはうまさと強さを兼ね備えたチーム。二つとも形がありますけど、スポルティングが一番柔軟で、かつまだ秘めているものがあると思っています。対戦して自分はそう思いました。

ただ、ジル・ヴィセンテ戦も結局、最後に失点してしまったり、前半の最後の5分間も意味の分からないミスが続いて攻め込まれてしまったりする。そういうもったいない展開になってしまうところに、すごくフロンターレっぽさも感じています。改善できると思うのでそれは伸び代と言えますね。それ以外にもクラブ愛というか暖かさや一体感。サポーターも優しい人が多くて、すごく川崎に近いものを感じているんです。

――マテウス・ヌネスはプレミアリーグ(ウォルヴァーハンプトン・ワンダラーズ)に移籍しましたが、一緒にプレーしての印象は?

 間違いなくプレミアにいくような選手だなと思いました。能力があって、ポルトガルリーグならイージーというか簡単にやれちゃうレベルでした。もうありがたいですよ。自分がどれだけ調子いいな、キレがあるなと思っていても、隣にあんなすごい選手がいたから天狗になれないし、「お前はその程度やぞ」と突きつけられる感じもありました。そういう環境が好きですし、成長につながるはずなので、いいクラブに来たと思います。

――9月の日本代表デュッセルドルフ遠征の際も「自分のできることをやっと普通にスポルティングでもできるようになっただけ」と話していました。

 まさにそんな感じです。もともと持っているものを普通に出せるようになって、それをスポルティングでできているのがすごい、という評価をされただけ。僕の感覚としてはもともとできるものを出しているだけなのに。フロンターレからサンタ・クララに行った時もそうで、川崎でやっていたことをやっているだけで評価される。そこがしっくりこなかったところがあります。

その上で、今は自分に伸び代を感じています。自分の伸び代に気づくことができるクラブと監督に出会えている。それはボールを運ぶ力や数字のところなど、主に攻撃のところですね。自分の苦手と思っていた部分に楽しみを見出してトライしています。

■鎌田、長谷部とは「目も合わせなかった」

20221026_Morita-2-2(C)Ryohei Hayashi

 フットボーラーなら誰もが憧れるUEFAチャンピオンズリーグ。守田はまさに今、その場を戦っている。9月7日、22-23シーズン開幕のグループステージ第1節・フランクフルト戦。自身初となるCLの一戦は、0-3の勝利を収めアシストも記録した。その後3試合を経てスポルティングはここまで2勝2敗の3位。来る27日4時(日本時間)にはグループ首位・トッテナムとアウェイで対戦する。

――欧州CLのピッチに立って何を感じましたか?

 すごく緊張しました。もともと緊張しないタイプなんですけどね。最終予選すら一度も緊張しませんでした。ただ、CLの初戦でフランクフルトと対戦した時は、前半からすごく緊張していて、ちょっと地に足がつかない感じでした。普段ならターンするところをバックパスしてしまうみたいな、余計に圧を感じてしまうところがありましたね。

――それはCLアンセムなのか、それともスタジアムの雰囲気が圧を感じさせるのか。

 両方です。アンセムは感動しました。1回目だけかなと思ったんですけど、2回目のホームの試合でもアンセムが流れた時に「一緒だ。これこれ」みたいな感じになりました(笑)。こうやって話しているだけでも興奮します。アンセムが流れている時もブワーっとくるんですけど、終わった後の盛り上がり方がすごい。ホームでトッテナム戦が残っていますが、そこでも緊張するんだろうなと思っています。

――そういう場を経験するかしないかで、W杯でもメンタルを作りやすいなどある気がしますね。

 絶対あります。それはすごく良かったなと思っていて、大会こそ違いますけど、どちらも最高峰じゃないですか。その経験を一度しているのといないとでは全然違うだろうなと思っています。

――CLは普段と違うチームと対戦しますが、チームとしての方針は変わったりするのですか?

 根本的には変わりません。ただ、より練習だったりミーティングだったりの熱、時間は変わりますね。そこの違いは楽しいですし、たぶんいい意味で慣れないです。本当に刺激しかない。プレシーズンマッチでも違う国の相手とやるのは楽しくて気持ちが入るんですけど、それをこれ以上ないレベルの大会でやるので、それは興奮するし、楽しい。勝った時はもうどんちゃん騒ぎです。リーグやダービーでもあそこまでいかないだろうと感じています。

――9月7日、CL初戦の相手は鎌田大地選手や長谷部誠選手がいるフランクフルトでした。

 あの試合は気合いが入っていましたね。変に特に意識したくなかったので、目も合わせませんでした。一回も会話しなかったですし、たぶん向こうも同じだったと思います。終わった時に何か話そうかと思いましたけど、2試合目もあるので必要以上に声をかけたりすることもなくて。引き分けていたら何か喋れば良かったかとも思いましたけど、勝ちましたし、向こうの状況もあるので喋る必要がないなと思って喋らなかったんです。

とはいえ、もともと大地とはめちゃくちゃ仲良いですし、結局(その後の)代表で長谷部さんも来ていたのでそこで結構話しましたね。でも、仲良いからこそ、試合前からすごく喋った後で削ってお互い嫌な感じになるのは嫌じゃないですか。僕はいつでも削って削られて、がいい状態にしたいので、積極的にコミュニケーションを取ることはないです。

――第2戦ではホームでトッテナムと対戦し、2-0で勝利を収めます。印象は?

 自分たちの戦術や狙いで相当、相手のしたいオープンサッカーをさせず、不自由にさせたんです。それでも「それだけやられるのか」というレベルでした。彼らの流れに持っていかれたらそれは勝てないよなと。これだけ抑え込んでいるのに、それでも向かってくる感じを見ると、ああいうチームと毎回対戦するプレミアリーグは、それは大きな刺激をもらえるんだろうなと思います。レベルの高さを感じました。

■「日本では学べないことがある」

20221026_Morita-2-3(C)Getty images

 加入以降、守田はここまでの公式戦すべてに出場し、中盤の一角として定位置を確保している。ルベン・アモリム監督からの信頼も厚い。選手として充実した日々を送るが、実際、スポルティングの特徴をどう捉え、自身の未来像をいかに描いているのか。

――強い相手に対しては守備的に行くなどチームによっていろいろな考えがあると思います。スポルティングの思考はどういうものですか?

「俺たちはやりたいことを見失わないぞ」「俺たちのアイデンティティはこうだ」というのを常に監督から言われます。それに対する自信や日頃の取り組みが分かっているからチームはブレない。そこがスポルティングのいいところだと思います。しっかりしたベースの上に、「相手のこういうところが苦手」「こういうところは得意」というのをちゃんと情報として持っているので、あまり迷いがない。

あとは試合の時の選手たちのコンディションやそこで初めて感じる圧で上下するくらいですね。いい意味で相手を立て過ぎない、だけどちゃんと俺たちはこうだから相手は関係ないとはしない。すごくバランスがいいというか、そこが好きですね。

――言葉の端々からいいチームに行ったことが伝わってきます。

 気付いたら褒めてますよね(笑)。でも、嫌なところが一つもない。いらない失点するくらいですね。ただ、それさえも愛おしく感じるくらいです(笑)。

――CLを経験して体感したことはありますか?

 トッテナムと対戦して思ったのは、まず整列した時に圧を感じたこと。前にはハリー・ケインやソン・フンミン、リシャルリソンがいますが、みんなでかいし、強いし、速い。説明できないですね。「すごい」という一番簡単な言葉になってしまいます。ソン・フンミンへのファウルでイエローをもらった時は、後ろにたぶん2、3枚余っていたんですけど、ここで行かせたらダメだと思ってファウルしました。それだけの圧を感じました。

それこそ川崎Fにいた時にみんなで海外のサッカーを見ていて、PSGのエムバペが1対1を仕掛けてDFが一瞬で食いついて入れ替わってしまった場面があったんです。ある意味、なんでそんな軽いディフェンスなの? と見ていたら思うわけです。なぜかと言うと、日本は飛び込むのではなく、しつこくしつこくやるみたいなのが基本なので。

ただ、それはこちらに来て分かったことですが、ここでは絶対にカードをもらってでも止めないといけないタイミングがあります。それは日本では学べないことだと思いました。セーフティーに、綺麗に、ノーファウルでカードをあまりもらわないようにというのが美学なところがある。でも、それはスポーツにおいて弊害でもあって、やらないといけない時はやらないといけない。あえてシミュレーションくらいでマリーシアのように騙すこともサッカーは必要なので、そこは日本だと学べないと感じています。

――改めて、ここからのシーズン、スポルティングで目指すものは?

 まずはリーグが終わった時に3位以内に入っていないといけない。あとはCLのグループステージを突破すること。タイトルを何か1年目から穫れればと思っています。個人としては、より得点に絡んでいけるような選手になりたいです。

――そこができるようになったらさらに上が見えてくると。

 ここができるようになったらと思っているのが、シュートとドリブルで運ぶ力です。このどちらかができるようになるだけで絶対にもう一個上に行けるという実感があります。今はその両方にこだわってやりたいですね。代表でも(遠藤)航くんが一番手で、そこに異論はありませんし、彼のほうがいい選手だと思っています。ただ、差別化した時にどこが違うかといえば攻撃の部分なので、ボランチで点を取れる選手はすごく貴重ですし、そこにこだわっていきたいです。

――今後のキャリアプランをどう描いていますか?

 以前はプレミアを絶対に目指してやっていくんだという気持ちでいましたけど、ある意味、今はそれだけがすべてではないと思っています。もちろんプレミアに行けたらいいですが、別のリーグでやるのもステップアップだと思いますし、スポルティングでしばらく頑張るのもアリだと思っています。今後の目標で言えば、ざっくりですが「ステップアップ」でしかない。結局、紙でオファーが来ないと何もできないので、紙で来るオファーの選択肢をどれだけ増やせるかだと思っています。

Profile

1995年5月10日生まれ。大阪府高槻市出身。ポジションはMF。177cm/74kgの右利き。高槻清水FC-9FC高槻-金光大阪高-クラブ・ドラゴンズ-流通経済大を経て、2018年に川崎Fでプロデビュー。初年度からレギュラーを確保して18年、20年のJ1リーグ制覇に貢献した。21年1月よりサンタ・クララ、22年7月にスポルティングへと完全移籍。日本代表としては18年9月11日、森保一監督初陣のコスタリカ戦でデビュー。21年3月のW杯アジア2次予選から本格的に定着し、カタールW杯でも中心としての期待を背負う存在。

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