2017-08-28-gaku-shibasaki(C)Getty Images

スペインが日本人の鬼門だった“意外な理由”とは?柴崎獲得のヘタフェSDが分析/インタビュー

一昔前まで、スペインは日本人選手にとって「鬼門」と呼べるリーグだった。

数々の日本代表プレーヤーが挑戦してきたものの、高い壁に跳ね返され続けてきた。イタリアにおける中田英寿や長友佑都、ドイツにおける香川真司や長谷部誠のように「このリーグといえばあの人」といった象徴的な選手が出てこなかったのだ。

乾貴士(エイバル)の登場によってようやく扉は開かれたが、他国に比べると活躍へのハードルは高いように感じられる。

以下に続く

なぜ、リーガ・エスパニョーラで活躍することがとりわけ難しいのだろうか?

この疑問をテーマとした識者の見解を見ていくと「技術面やフィジカル面、あるいは文化的な要因により活躍が阻まれていた」とするものが数多く見受けられる。確かに、多くの日本人が活躍するドイツは、スペインに比べるとリーグ全体の技術レベルで劣る面がある。多くの日本人選手が技術を持ち味に活躍してきた点を踏まえると、一理ある見解と言っていいだろう。

一方、ヘタフェのスポーツ・ディレクターを務めるラモン・プラネスは異なる見解を示す。彼は柴崎岳をチームに招き入れた張本人であり、「ガクはリーガで通用する力がある」と考える人物だ。

なぜ、彼はそう確信を持って言えるのか? リーガが日本人選手の鬼門だった理由とは? 『Goal』の独占インタビューで、その考えを明かしてくれた。

■日本人選手がリーガで輝けなかったワケ

プラネスは日本人選手がスペインで成功をつかめなかった理由の一つに「ドイツ」を挙げている。極東の選手たちが欧州に渡る際、ソーセージとビールの国が“停留所”になっているというのだ。

「リーガ・エスニョーラでも、日本人選手たちは意識されている存在です。しかし、これまで時代を代表する選手たちがやって来たわけではありませんでした。日本代表の主力など、トップレベルと形容できる重要な選手はほとんどやって来なかったというのが現実です。“そういった”日本人はまずドイツに移籍し、あの国の重要なクラブで成功をつかんできました」

今までスペインに挑戦してきた日本人選手に敬意を払うと、プラネスの発言が必ずしも正しいわけではない。中には日本代表の主力として活躍していた選手もいた。

もっとも、挑戦の絶対数が少なかったというプラネスの主張も否定できないことだ。日本人選手が欧州に挑戦する道を切り開いた三浦知良や、日本代表の絶対的支柱だった中田が選んだのはイタリアだった。本田圭佑にしてもそうだ。そして、ドイツで成功をつかんだ香川や岡崎慎司が挑戦の場に選んだのはイングランドだった。他の欧州リーグで成功を手にした際にも、スペインがステップアップの場として選ばれるケースは多くなかったのだ。(もちろん、乾や中村俊輔、清武弘嗣などの例もあったが)

もし単に挑戦の絶対数が少なかったとするなら、プラネスが柴崎を獲得した理由も説明がつく。彼にしてみれば、柴崎は“そういった”日本人選手なのだ。

「ガクはまだ若いですが、重要な選手です。(決勝のレアル・マドリー相手に2得点を決めた)クラブ・ワールドカップでブロンズボールを獲得したことにより、その価値をさらに引き上げましたね」

さらに彼は、日本を知る大物選手の証言を用いて日本人選手が持つ可能性の大きさを説く。

「日本のフットボールは選手たちのテクニックを養ってきました。あそこでは選手、監督と多くのブラジル人が活躍してきましたし、そのためにテクニックを重視してきたのでは?」

「ディエゴ・フォルランと私は親しい関係にあります。彼がセレッソ大阪に入団した際に驚いたことも、やはり選手たちのテクニックの高さでした。それと仕事の量と質にも感嘆していましたね」

■日本人選手に足りないもの

では、挑戦の絶対数以外に日本人選手たちに足りないものがあるとすれば、何になるのだろうか?

プラネスが口にしたのは「ピジェリア(詐欺、ぺてん)」「ピカルディア(悪意、いたずら、ずる賢さ)」という言葉……。いわゆる純粋なプレー以外の駆け引きの部分がカギになっているという。

「フィジカルの問題はさて置くとして、スペイン、ひいてはイタリア、ポルトガルといったラテンの選手たちとの間に決定的な違いが一つありますね。ここのフットボールにはピジェリア、ピカルディアがあります。それらがあることで、フットボールはさらに熾烈な競争となるのです。相手を騙すような行為は、競争のレベルを飛躍するものと捉えるべきです。……もちろん、そういったことは各国の文化や精神論にも通じるものですが」

ここである種興味深いのは、日本人はブラジル人からテクニックを学び、スペイン一部リーグのSDやワールドカップMVP(フォルラン)に評価されるほどの進化を遂げた一方、いわゆる“マリーシア”の面は学ばなかったという点だろう。真面目であること、規律に忠実なことは日本人の美徳とされる部分だが、ピッチ上においては明確な課題として残り続けているのである。

では、日本人選手が、日本代表が世界で活躍していくためにはどんな道を歩むべきなのか? ヘタフェが日本人選手に抱くイメージと、次なる選手獲得の可能性は?

その答えは、次回明らかにしていこう。

インタビュー=ホセ・アントニオ・デ・ラ・ロサ(スペイン紙『アス』ヘタフェ番記者)

翻訳・文=江間慎一郎

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