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日本代表の強化のヒントに?カタールW杯から見るサッカー界の最新トレンドとは…【徹底分析】

異例の11月開催となったカタール・ワールドカップは、アルゼンチン代表の36年ぶり3回目の優勝で幕を閉じた。

1カ月に渡って繰り広げられた今大会。優勝経験国2つを破った日本代表を始めとし、アフリカ勢初の4強入りを果たしたモロッコ代表などアップセットが目立った一方で、優勝したアルゼンチンや2大会連続決勝に進んだフランスなど、伝統的なサッカー大国が結果を残した大会でもあった。

そんなカタールW杯を、大国の識者はどう見たのだろうか?スペイン『as』副編集長を務めるハビ・シジェス氏は、「未来が楽しみになるW杯だった」と振り返る。その理由とは何なのだろうか?

文=ハビ・シジェス/スペイン紙『as』副編集長

翻訳=江間慎一郎

  • 20221221 Lionel MessiGetty Images

    それぞれの提案があったワールドカップ

    フットボールにはびこる「先験主義」を始末するためには、これ以上ない決勝だった。アルゼンチン対フランスはこのフットボールというゲームの感情的、技術的な素晴らしさのすべてが詰まっていたし、お堅く退屈な戦術的思考を一蹴している。2022年カタール・ワールドカップで繰り広げられた戦いは、総じて2018年ロシア大会からあった傾向をより強めたものとなり、タレントと感情の発露がその他のコンセプトを上回っていた。

    未来が楽しみになるW杯だった。優勝を果たしたアルゼンチンはサウジアラビアとの初戦の敗北から修正を施すことに成功。決勝ではリオネル・メッシをピッチの中心に据え、確固たる意思でヴァーティカル(縦、垂直)な攻撃を仕掛けてゴールを狙った。その一方でフランスは、あまりに守備的・保守的だったために罰せられている(キリアン・エンバペがそうした流れに反乱していたが)。アルゼンチンは下馬評を覆して優勝したわけだが、それはチームとして勇敢だったことへの褒賞にほかならない。

    各チームがそれぞれの提案をしたW杯だった。アルゼンチンは大胆かつ、それでいて自分たちに必要だったポジショナルな攻撃を調整しながら大会を進めていった。リオネル・スカローニはシステムの変更をためらわなかったが、オランダ戦のような3バックも守備のためには使用せず。戦い方こそ変化させていったものの、自分たちの長所(攻撃)をいかに生かすかという考え方自体は変わっていなかったと言える。

    その一方でモロッコのワリド・レグラギ、日本の森保一もそれぞれ、自分たちの印をW杯に刻んでいる。モロッコが守備的だったのは、そうなることを求められたからにほかならない。モロッコのようなチームに超強豪国と正面からぶつかり合うことを求めるのは筋違いであり、それに彼らはフランス戦のように、すべきときにはしっかりと攻撃に転じていた。

    試合に臨む上で自分たちの背景、能力、特徴はしっかり把握していなければならない。モロッコや日本が、スペイン戦などでなぜあれだけ守備的だったのかと是非を問うことに意味はない。責めるべきチームがあるとすれば、それはモロッコや日本ではなく、フランスだろう。選手一人ひとりの能力を考えれば最強に近いチームだったにもかかわらず、うまく守れないばかりか、攻撃の仕掛けとその速度は選手個人のタレントに依存していた。ディディエ・デシャンは痛ましい形で大会を去ることになり、だがその一方、個人で輝いたキリアン・エンバペは王の器を確かに示していた。フランスが強いのは監督ではなく、選手たちが優れているためだ。

    フランスは優勝まであと数mmのところまで近づいた。が、フットボール的にはどんな足跡も残していない。ほかの代表チームの方が良い意味で大胆さがあった。イングランドとブラジルはベスト8で姿を消したものの、そのパフォーマンスは結果以上に充実していたし、クロアチアも最高の世代は過ぎ去りつつあるが(ルカ・モドリッチがいて過ぎ去ったとは口が裂けても言えない)再び自分たちの力を誇示してる。

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    「過度な慎重さ」ではなく…

    このカタールW杯は、ここまでに醸造されてきたプレーアイデアが明確に打ち出されたのと同時に、ロシアW杯における失敗が修正された大会となった。ロシアW杯では、それこそフランスを中心に守備的・保守的なフットボールが横行し、準決勝などは目も当てられなかった。フランスは“プレーしないプレー”を選択して優勝までたどり着き、大胆さや勇敢さやより過度な慎重さが目立った大会だった。

    翻って今大会は、過度な慎重さより勇敢さが目立った。ヴァーティカルな攻撃、トランジション、セットプレー、サイドでの1対1の攻略……。とりわけ強調されたのはサイドからのクロス攻撃だ。各チームはとにかく中央の守りを厚くしており、そのためにサイドアタッカー、さらには純粋なセンターフォワードの重要性が過去の時代のように高まりつつあるようだ。

    プレーリズムに関しては、やはり速ければ速いほどいいものとなっている。サイドからまた逆のサイドに素早くボールを回して、ボールを保持していない選手もパスを受けずとも継続的に動き続け、相手陣地の深い位置まで入り込んでいくことが必要不可欠。逆に、スペインのもはや風土病になりつつあるパス回しをするためのパス回しでは、各ラインをしっかりと狭めて良いポジショニングを取る相手を崩し切れない。彼らに選手個人のタレント、意欲、そして相手の予測できないひらめきが必要なのは明らかだった。フランスにも言えることだが選手たち、監督が自分たちのできることだけをして、そこで快適さを感じてしまっては意味などないのである。

    システムについて話すならば、スペースを均等に埋められる1-4-4-2(スペインではGKの1から表記する)の復権を感じさせたが、それだけが唯一価値を持っているというわけでもない。システムはすべて使い方次第で、3バックであってもウィングバックの動き方などで1-4-3-3と同じように、もしくはそれ以上に攻撃的になれる。何よりも重要であるのは、ピッチ中央で数的にもフットボールの質的にも相手に上回られないことだ。そうなってしまえば、相手にいとも簡単にチャンスの創出を許すことになる。

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    今後のトレンドは?

    各チームのスタイルにはそれぞれ長所と短所があるが、W杯は全体の潮流というものをはっきりと示してくれる。現代フットボールではボールを持っていても持っていなくても、スピードあるプレーが義務付けられ、攻撃では何よりトランジション、カウンターが物を言い、そして擁している選手の特別なタレントをいかに生かせるかが問われている。要は、「足と頭をフルで使わなければいけない」ということだ。

    戦術は半分くらい勝敗に影響を与えるが、しかしそこに依存し過ぎていると、フットボールの本質から離れることになる。選手に対してはミスを恐れることなく大胆、勇敢にプレーさせなければならない。長い目で見れば、それが不利益よりも利益を生むのだから。自分たちと相手のプレーシステム、戦術を疎かにしてはならないが、しかし最後に“違いを生み出す”のが個々の選手のタレントであることを忘れてはいけない。

    フットボールにおいては、自分たちのリソースを考慮しつつ、勝利のために必要なプレーを導き出すことが肝要となる。そして今回のカタールW杯では、その必要なプレーを可能な限りのスピードで実行し、そのスピードの中で選手のタレントをどこまで生かせるかが鍵を握っていることが明確になった。自分たちのリソースを考慮せず、チームとしても選手個人も大胆にならず保守的なプレーに終始すれば、ツケが回ることになるのだ。

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