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ユヴェントス、アーセナル、バルセロナ…1月冬の移籍市場の勝者と敗者

フットボール界の移籍マーケットはコロナウイルス禍の影響から立ち戻ろうとしている。それが良いことなのか、悪いことなのかは非常に議論の余地がある。だが、はっきりしているのは、少なくともイングランドでは、コロナ禍で経済的な大打撃を受けたクラブも大きな買い物をし始めているということだ。

リヴァプールはポルトからルイス・ディアスを5000万ポンド(約78億4000万円)で獲得し、今冬最大の移籍を実現させた。だが、ヨーロッパの他の国でも大きな取引がいくらか行われている。

ユヴェントスはマーケットでの大きな存在感を再び見せ始めた。フィオレンティーナFWドゥシャン・ヴラホヴィッチを7500万ポンド(約117億6000万円)で獲得。一方、バルセロナは新たなスポーツダイレクターを迎え、非常にクレバーなやりくりで復活の道を歩んでいるようだ。

さて、それでは1月冬の移籍市場での勝者と敗者は誰なのか。マーケットを詳細に見ていこう。

  • Dejan Kulusevski Rodrigo Bentancur JuventusGetty/Goal

    勝者:ユヴェントス

    『ガゼッタ・デロ・スポルト』は“オールド・レディー”(ユヴェントスの愛称)を「冬のウィンドーの女王」と命名した。

    中立的な立場の人の中には同意できない人もいるだろう。だが、ユーヴェの1月の動きは印象的であるとともに、驚きをもたらした。

    元監督アルベルト・ザッケローニ氏は『ガゼッタ』に対して「ユーヴェがこんな動きをするなんて誰も予想できなかっただろう。今回は少しだけレベルを下げた取引をするにとどめて、夏に大きな移籍をするのではないかと予想していたんだ」と話した。

    その予想に反して、ユーヴェはヨーロッパを驚愕させた。マーケットで最注目のストライカー、ドゥシャン・ヴラホヴィッチと契約したのだ。また、同時にデニス・ザカリアを素早く獲得する決断力を見せた。ボルシア・メンヘングラードバッハとの契約が今夏切れることになっていたため、いくつかのクラブが興味を示していたところであった。

    完璧に実行された2つの移籍によって、ビアンコネリは「前線の得点力不足」と「中盤のクオリティ不足」という2つの最も大きな問題を基本的に解決することができたのだ。

    また、フロジノーネからフェデリコ・ガッティを獲得したことでDF中央の若返りに大きな一歩を踏み出すことにも成功している。

    それ以上に、ユーヴェは今回、余剰戦力の整理という大きな悩みのタネを解決することができたのだ。

    皮肉なことに、その件に関しては前スポーツダイレクターのファビオ・パラティチ(※現トッテナム)が大きな役割を担っていた。

    多くの高額移籍をこのクラブで担ってきたこの男は、ロドリゴ・ベンタンクールとデヤン・クルゼフスキを総額7000万ユーロ(約91億7000万円)で獲得したのだ。オールド・レディーの財政を圧迫していた二人を放出することができ、ユヴェントスは余裕を取り戻すことができたのだ。

    そして、アーロン・ラムジーの移籍先をついに見つけることができたという事実も加わった。ひっきりなしにケガをしていたウェールズ人はローンでレンジャースに加入した。

    オーナー企業のエクソール社からの資金注入があったことを考慮に入れても、ユーヴェのファンは冬のウィンドーがここまでうまくいくとは想像もできなかっただろう。来季のチャンピオンズリーグ(CL)に出場できなくなることを恐れていたサポーターも多かったが、今や楽観的に語るようになっている。

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  • Edu Pierre-Emerick Aubameyang Mikel Arteta Arsenal GFXGetty/GOAL

    敗者:アーセナル

    ミケル・アルテタは先月こう語っていた。「マーケットとは難しく、複雑なものだ」

    アーセナルにとっては確実にその通りだった。冬のウィンドーで一人も新戦力を迎え入れることができなかったのだから。

    ガナーズは夏に巧みな補強を行った。その甲斐あって、有望な若手選手ばかりのエキサイティングなチームはプレミアリーグのトップ4を目指して快進撃を始めている。

    しかし残念ながら、4位以内を確保したいというアーセナルの望みは、今まさに危機にさらされていると考えてよいだろう。

    クラブの目標は質の高いMFと信頼できるストライカーを1月に獲得することだった。ユヴェントスMFアルトゥールはノースロンドンへの移籍を希望しており、ユーヴェも放出する用意があったのだが、結局このブラジル人はトリノに残ることとなった。

    そうなると、ストライカーと契約できなかったことのほうがずっと気になることだろう。

    もちろん、ピエール=エメリク・オーバメヤンを放出したことは完璧に理にかなっていた。

    オーバメヤンは高額なサラリーをピッチ上のパフォーマンスで正当化することができず、逆にピッチ外で問題を起こしてしまった。12月にはチームの規律を乱したことが原因で、キャプテンを剥奪されている。

    だが、不可解なのはアーセナルが代替要員を獲得しなかったことだ。つまりアルテタはオーソドックスなセンターFW2人だけでトップ4に入る戦いを強いられるということになる。アレクサンドル・ラカゼットとエディ・エンケティアは今シーズンのプレミアリーグで思うようにゴールを奪えていないというのに…。

    大金を投じることができないまま1月を終えたことで、ガナーズはシーズン終了時には手痛いツケを払うことになってしまうのではないだろうか。

  • b(C)Getty Images

    勝者:バルセロナ

    バルセロナの財政状況はいまだに厳しいと言わざるを得ない。前政権での無謀な振る舞いの代償を支払っているためだ。

    それだけに、マテウ・アレマニーが今冬の市場で行った仕事は並大抵のことではなかった。

    まず、バルセロナがリスクを2つ負ったということは、誰も否定できないだろう。

    アダマ・トラオレは長いことフィニッシュに課題を抱えているし、ピエール=エメリク・オーバメヤンは落ち目の選手なのか、単に調子を落としているだけなのかまだ分からない。

    だが、フェラン・トーレスは素晴らしい新加入選手となっている。より明るい未来を暗示する存在であり、アレマニーがこの契約を実現させたことは称賛に値する。

    思い出して欲しい。選手登録だけでも現在のバルセロナにとっては大変なことなのに、バルサのスポーツダイレクターはサミュエル・ウムティティとの新契約を結び、フィリペ・コウチーニョをローンでアストン・ヴィラに放出することでクラブの前線に手を加えることに成功しているのだ。

    ウスマン・デンベレの状況は解決しなければいけない課題として残っているが、チャビ監督はもはやこのフランス人に頼る必要がない立場だ。

    2021年の悲観的な状況から一転、バルサに前向きな空気が戻ってきた。

    バルセロナのジョアン・ラポルタ会長は大げさな表現が好むため、今夏のアーリンク・ハーランド獲得に向けた動向については、彼のコメントを真に受けすぎるのは良くないだろう。

    だが、ラポルタが「できないことは何もない」などと言っても、その意見に反対することは難しくなっている。チーム編成を巧みにコントロールするアレマニーのようなプチ・ミラクルを起こす人がいるのだから。

  • jesse-lingard-202202040900(C)Getty images

    敗者:ジェシー・リンガード

    アントニー・マルシャルはマンチェスター・ユナイテッドを離れたいと明言しており、結局このフランス人FWはセビージャに加入することを許された。

    ドニー・ファン・デ・ベークはオールド・トラッフォードで十分な出場時間を得ることができていなかったため、シーズン後半をローン先のエヴァートンで過ごす。

    彼ら同様、ジェシー・リンガードは今年がワールドカップイヤーであることから移籍を熱望していたが、マンチェスターにとどまることとなってしまった。彼が現在、フラストレーションをためているであろう理由は明らかだ。

    『Goal』の情報筋によると、リンガードはラルフ・ラングニック暫定監督とウィンドー最終日に会談し、ドイツ人監督は移籍してよいと言ったとのことだ。 

    当然、この29歳は引く手あまただった。ウェスト・ハム、トッテナム、ニューカッスルらがリンガードに興味を持っていたが、降格を回避した場合の契約条項でニューカッスルと合意に至らず、ユナイテッドはリンガードを放出しなかった。

    クラブはリンガードのことをいまだにチームで重要な役割を果たす選手であると考えている。ユナイテッドはまだ3つのコンペティションで戦っているからだ。

    だが、ユナイテッドはリンガードが今望んでいる居場所ではないということも確かだ。昨シーズンはウェスト・ハムにローン移籍し、強く印象に残る半年間を過ごしたが、オールド・トラッフォードに戻った理由は、オーレ・グンナー・スールシャールがより多くの試合時間を与えることを約束したからだった。

    このノルウェー人はその後解任され、ラングニックにその座を譲ってしまったものの、確かに他の選手の離脱に伴い出場時間は伸びてはいる。だが、これからシーズン終了までの間レギュラーで出場できる可能性はそれほど高くないだろう。

  • eriksen(C)Getty Images

    勝者:クリスティアン・エリクセン

    ブレントフォードのトーマス・フランク監督は、かつてU-17デンマーク代表を率いた際にクリスティアン・エリクセンを指導していた。この48歳は今週「あれからいろんなことがあった」と話したが、たしかにそのとおりだ。

    エリクセンはアヤックスで台頭し、ヨーロッパで最もエキサイティングな司令塔に成長。トッテナムでプレミアリーグのスターとなり、インテルではセリエAのタイトルを初めて獲得した。

    だが昨年夏、デンマーク代表として出場したEURO2020でのこと。コペンハーゲンで行われたフィンランド戦で、エリクセンはピッチに倒れ込んだ。エリクセンの心臓は停止し、文字通り「5分間死んでいた」のだ。

    あまりに苦しい月日が過ぎ、その間皆がエリクセンの健康状態を気にしていた。そして、フットボールのキャリアは二の次だと考えられていた。

    だが、エリクセンが回復し始めると、インテルで現役を続けることは不可能かもしれないことがすぐ明らかになった。イタリアでは除細動器を着用したまま試合に出場することができないのだ。

    すると、エリクセンはアヤックスで練習を再開。そして先月、競技に戻る意向を明かしたのだった。冬の移籍市場の閉幕が近づいてもエリクセンは所属先を見つけられずにいたが、ブレントフォードへの加入が最終日に発表される。

    冬のウィンドー最大の移籍というわけではないが、世界中どこを探してもこれほど紙面を賑わわせたものはないだろう。

    再び、サッカー界全体がクリスティアン・エリクセンにエールを送っている。