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謙虚な勝者ナポリ…スパレッティが作り上げたスクデットのメンタリティ

「この街では、市民のほとんどがナポリのファンだ。我々はその愛や気持ちに応えなければならない」

スパレッティがやって来た当時のナポリは、アイデンティティの危機に立たされていた。だが、ナポリ指揮官は、すぐさま野心と簡潔さを織り交ぜた適切な言葉を、適切なタイミングで投げかけ、チームのメンタリティを変えると、33年ぶりのスクデットへと導いてみせた。

チームが成長を遂げる中で、違いを作り出さなければならない肝心のところで自らを見失ってしまうことが頻繁にあったが、スパレッティは、2年間にわたって、チームの弱点を少しずつ減らして最終的に消し去り、技術面および戦術面、そして特に心理面において仕事を成し遂げた。

ルチアーノの指揮官就任により、ナポリはメンタル面において特色が変わったほか、組織運営や外部とのつながりにおいても、まるでマニュアルのような体制が組まれた。トスカーナ人指揮官は、ナポリの環境に溶け込み、選手たちの心をつかみ取り、ピッチを越えた関係を築き上げることに成功した。

  • Spalletti NapoliGetty Images

    ようやく迎えた成熟期

    ナポリは、マウリツィオ・サッリ指揮下で“心の中の夢”まであと一歩に迫った後、不安定で大きな混乱の時期を過ごした。カルロ・アンチェロッティはいきなりアプローチを変更し、前年までのサイクルにおけるプレースタイルを一変させたが、チームに所属する選手たちの特徴に不適応なものであり、ナポリファンの期待を満たすこともできなかった。ジェンナーロ・ガットゥーゾ指揮下においては、優勝を目指せるチームとなるためには、あらゆる限界が存在することが明らかとなった。

    そんな中、スパレッティは、ナポリのプロジェクトにおいて、次の1ページをめくることに成功した。パーソナリティに、ちょうど良いずうずうしさと驚きをミックスすることで、ピッチで戦う選手たちにバランスを与え、チームとファンの間に強い絆を再び取り戻させた。

    1年目のシーズンの3月から4月にかけては、完全に乗り越えることができていなかった心理面の欠点が再び露呈し、手が届きそうに見えていたスクデット獲得の可能性は消え失せてしまった。だが、この2021-22シーズンの経験は、ナポリの欠点を確認したうえで、それを完全に消し去り、最高の翌シーズンを作り上げるために有益となったと言えるだろう。

    移り気なナポリの環境において、自らのクオリティを意識しつつ、地に足をつけ続けることは、誰にとっても遂行可能なミッションではない。スパレッティは、毎回の記者会見やインタビューをこなす中で、時々、怒りっぽいところを見せることもあった。だが同時に、自然と熱狂が致命的なブーメランとなって選手たちの心理面に影響を与えないように大切な役割を果たし、目標を達成することに成功した。

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  • 謙虚さと自覚の融合

    チェルタルド出身の指揮官によるアヤックス対ナポリの試合前の発言は、象徴的なものだった。

    「互角であると考えてはならない。それが成長を目指して仕事を行ううえでの正しい考え方だ。隠れるつもりはない。最初から積極的に行き、アヤックスが自らのプレーを仕掛けるスペースと時間を奪いに行く。実行できるかどうか、見てみようじゃないか」

    「イタリアにおいて、カルチョは変わった。ただ隠れて待っているだけではない。常に勝利を目指していきたい。時には、相手に阻まれることもあるだろうが、われわれのメンタリティは、常に挑戦することを求めている」

    スパレッティは、こうした発言をしつつ、チームを飛躍へと導き、ナポリは勝利を重ね、目標へと近づいていった。

    そんな中、指揮官はフランクフルト対ナポリ終了後、このように強調した。「最大限の謙虚さが必要だ。慢心は敵だ」。

    脇目も振らず、目の前の一戦に集中する “鍛冶屋のゴーグル”の哲学を目指す一方で、弁舌を振るうのも上手い。謙虚さを保ちながら、必要とあれば、エンポリ対ナポリの試合終了後、マリオ・ルイの退場に関して述べたように、選手たちに対して誉め言葉を注入することを忘れない。

    「極めて重要な反応を見せた。特に後半、中盤の選手たちは、絶対に結果を持ち帰ろうと意地を見せ、本当にタフな試合を見せてくれた。これが重要になるはずだ」

  • Spalletti NapoliGetty Images

    ビッグクラブになるためのレシピ

    スパレッティの研究室は、その瞬間を嗅ぎ分けながら、勝利を収めるために有効なレシピを完成させた。チャンピオンズリーグ(CL)の物語はついえたが、スクデットの獲得の瞬間まで、チームは完全な状態で集中力を保ち続けた。

    ナポリは今シーズン、ブラックアウトに陥ることは一度もなく、試合のアプローチやマネージメントに関して、継続的に主導権を握り続けた。そんなナポリは今年、イタリアの頂点へ上り詰めるための最後のステップを踏むとともに、ヨーロッパでも注目を浴び、正真正銘のビッグクラブとなったと言えるだろう。

    ベンチから選手たちに愛情を傾け、ほめたたえ、鼓舞することでやる気を引き出し、チームの歩みを見守ってきた指揮官の功績と言えるだろう。シーズンのカギとなる局所においては、過度な熱狂の火消し役も務めた。「街中に掲げられた旗を見ると、誇りで胸がいっぱいになる。だが、それは幻想でしかない」。指揮官は今年4月初めに、このようにチームを戒めた。「目標を達成するためには、やつれるまで頑張らなければならない。われわれは最強のチームなんだ」とも述べている。

    今年3月、指揮官は「われわれのチームは強く、健全でフレッシュであり、ひとたび起爆すれば、長年にわたって継続するだろう。これから一時代を築くことができるはずだ」との見解を示した。補強が大当たりし、心理面での改革にも成功したナポリの将来は、これまで以上に青く明るいだろう。

    「私は長年にわたって指導してきたが、『優勝経験のない指揮官』と何度か言われてきた。だが、そのキャリアが、ここナポリでの経験につながったのであれば、自分の過去に満足している」