昨季ヨーロッパリーグ(EL)を戴冠したことで出場権を得たフランクフルトだが、5日のブンデスリーガ開幕節ではバイエルンに1-6で大敗。最悪のシーズンスタートとなったが、過去22度のスーパーカップでは、8度にわたってEL王者が勝利しているように、シーズン始めの一戦でもありアップセットの可能性も十分にある。今回は、ドイツサッカーに精通する島崎英純氏が、フランクフルトがレアル・マドリーに勝利するために必要なポイントを解説する。
(C)Getty ImagesUEFAスーパーカップ、レアル・マドリー戦でキーマンになり得る鎌田大地&長谷部誠。フランクフルトがCL王者に勝つために必要なコト
(C)Getty Imagesマリオ・ゲッツェと鎌田大地の共存
フランクフルトは今季、オランダ・エールディヴィジのPSVアイントホーフェンから元ドイツ代表MFマリオ・ゲッツェを完全移籍で獲得した。2014年のブラジル・ワールドカップ優勝に貢献した稀代のファンタジスタであるゲッツェは当然、今季のフランクフルトで戦力の中心と目されている。
オリヴァー・グラスナー監督が採用する3-4-2-1システムの中でゲッツェに適正のあるポジションはダブルインサイドハーフの一角。しかし、このポジションにはデンマーク代表歴のあるイェスパー・リンドストロム、そして日本代表の鎌田大地がいる。ふたりは昨季のUEFAヨーロッパリーグ優勝に大貢献しており、ゲッツェの加入によってポジション争いの激化が予測されていた。
そんな中、グラスナー監督はDFBポカール1回戦のマグデブルグ戦で鎌田をボランチで起用し、鎌田はその期待に応えて2ゴールをマークした。当然ブンデスリーガ開幕戦のバイエルン戦でも鎌田のボランチ起用、そしてゲッツェとリンドストロムのインサイドハーフ抜擢で3人を共存させると思われたが、グラスナー監督はバイエルン相手の劣勢を予測してダブルボランチにキャプテンのセバスティアン・ローデとジブリル・ソウを起用。しかし。結果はご存知の通り1-6の完敗で終わったため、レアル・マドリーとのスーパーカップでは果敢な采配で鎌田の起用を選択するかもしれない。
ゲッツェ、リンドストロム、鎌田の共存。それこそが好戦的なフランクフルトが目指す理想の姿だけに、グラスナー監督の采配に期待がかかる。
(C)Getty Imagesコスティッチ不在、新たな攻撃パターンの確立
ここ数年のフランクフルトは左サイドアタッカーのフィリップ・コスティッチが多くのチャンスを生み出し、勝利に結びつけてきた。コスティッチの馬力ある縦へのドリブルを封じるのは難しく、また、たとえ対面の守備者が彼に追いついたとしても、コスティッチは技巧的な左足を鋭く振ってゴール前に効果的なクロスを上げられる。この左サイドの“槍”が仕掛けるアタックによって、ルカ・ヨヴィッチ(フィオレンティーナ)、セバスティアン・ハラー(ドルトムント)、アンドレ・シルバ(ライプツィヒ)ら多くのFWたちが得点を量産し、ビッグクラブへと移籍していった。そして今回、そのコスティッチはユヴェントスへの移籍が濃厚と報じられ、今回のレアル・マドリー戦を欠場することになった。
フランクフルトとしては早急に新たな攻撃パターンを構築しなければならない。昨季から在籍している右サイドアタッカーのアンスガー・クナウフもスピードを有する選手だが、彼はチャンスメイカーというよりもフィニッシュワークに関わる頻度が多い。現状の戦力ではサイドアタックが停滞する懸念もあるため、まずは中盤中央からのパスワークで打開を模索するしかない。その点も踏まえると、ポイント1で挙げたゲッツェ、鎌田、リンドストロムの3人の共存は必至の状況とも思える。
(C)Getty Imagesリベロ不在の解消
フランクフルトは今季、3バックのリベロでレギュラーだったマルティン・ヒンターエッガーが諸事情で29歳にして第一線から退くという衝撃に見舞われた。その結果、グラスナー監督は今季、本来左ストッパーのトゥタをバックライン中央で起用しているが、正直に言ってそのプレーは不安定さが否めない。
長谷部誠を今ポジションに抜擢すれば問題が解消されるとも思われるが、チーム最年長、38歳の長谷部をブンデスリーガ、DFBポカール、UEFAチャンピオンズリーグの3大会全てでフル稼働させるのは現実的ではない。また、長谷部の現役生活がいつまで続くのかも定かではない中では、クラブ及びチーム側には彼の後継者を育成する責務もある。
最も適切な手段は新たな人材の獲得だが、現状では芳しいニュースが伝えられていない。したがって直近のレアル・マドリー戦に関してはひとまず、長谷部を先発起用するのが最も得策かもしれない。トゥタが軽度の負傷を抱えている点もあり、マグデブルグ戦、バイエルン戦の2試合連続で長谷部が途中出場していることからも、レアルとの『スーパーカップ』の舞台に長谷部が立つ可能性は十分にあるだろう。
(C)Getty Images全方位の得点
フランクフルトの昨季リーグ戦チームトップスコアラーはFWラファエル・ボレの8得点で、決して多い数字ではない。それでも今季のフランクフルトはFWの新戦力獲得に苦しんでいて、現状ではフランス・リーグ・アンのナントで昨季36試合12ゴールをマークした23歳のFWココ・ムアニを迎え入れるだけに留まっている。ただし、そのムアニはバイエルン戦でGKマヌエル・ノイアーからボールを奪い取ってチーム唯一の得点をマークしており、彼の台頭が為されれば攻撃力の促進が見込める。
ただ、やはりボレ、ムアニらのFWだけに得点の責務を託すのは心もとないだけに、中盤以下の選手たちが如何に相手ゴール前付近で勝負できるかが肝になる。クロス攻撃の際、バイタルエリア付近から中盤の選手がゴールを射抜く場面を築ければ勝機が得られる。
鎌田、リンドストロム、ゲッツェ、アンスガー・クナウフ、ローデ、ソウらのMF陣の攻撃関与、そしてセットプレーからのエヴァン・エンディカ、トゥタ、アルマミ・トゥーレらDF陣の空中戦が今季のフランクフルトの得点力アップの鍵を握るだろう。
(C)Getty Images局面強度
昨季ELを制したときのフランクフルトは、どのチームよりも局面でのプレーインテンシティが高かった。特に同準々決勝のバルセロナ戦ではスキルフルな相手に猛然と襲いかかって激しく自由を奪い、高速攻守転換で敵陣へ殺到する迫力あるプレーの連続で戦慄させた。
今季開幕戦のバイエルン戦後、途中出場した長谷部はレアル戦について、『おそらくレアルは、バイエルンほどにはインテンシティが高くないと思うので、逆に少しはやりやすいかなとは思う』と語っている。もちろん油断は禁物だが、フランクフルトのハイインテンシティはすでにヨーロッパの舞台で猛威を振るい、その力が証明されている。
まずは自らのストロングポイントを惜しみなく発揮すること。それがチャンピオンズリーグ覇者にしてスペイン王者を砕く突破口になるだろう。
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