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”未完の大器”が放った圧倒的存在感。U-23日本代表、超大型DF高井幸大が示した無限の可能性…アジア制覇は晩成への序章か/コラム

U-23日本代表は現地時間3日、AFC U-23アジアカップ カタール2024決勝でU-23ウズベキスタン代表と対戦。日本が4大会ぶり2度目のアジア制覇を成し遂げた同大会では、高井幸大が圧倒的な存在感を放っていた。【取材・文=川端暁彦】

  • Kota-Takai(C)Kennichi Arai

    見違えるような成長

    日本サッカー協会の宮本恒靖会長は、AFC U23アジアカップ決勝を前に、DF高井幸大(川崎F)について「ものすごい速度で成長した」と感慨深げに語っていた。

    さかのぼること約1年半前、U-19日本代表のアジア1次予選に「団長」として帯同した宮本会長(当時の役職は理事)は高井のプレーを実際に観るだけでなく、共にトレーニングに混じって汗も流している。それだけに、その成長ぶりには驚いていると笑う。「(二つ下の)あの年代でも当時はまだ主力じゃなかったのに」と言い、実際に高井とも言葉を交わし、「本人も『ここまで来られるとは思っていなかった』と言っていましたね」と言う。自他共に認める、特別な成長スピードだったということになる。

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    数字が物語る貢献度

    高井本人もまた「大会を通じて自分自身、成長できたと思う」と言う。「すごく出場機会を与えていただいているので、自信はついてきた」と言うように、プレーは試合を重ねるごとにより堂々としたものになり、当初は少々遠慮している様子も観られた年上の選手との関係も深まった。

    大会を通じて5試合にセンターバックとして先発し、480分(アディショナルタイム含む)出場。デュエル勝率66.7%、空中戦デュエル勝率65.1%、空中戦勝利数28回といった数字は、いずれもある程度以上の出場機会を得た後ろの選手たちの中で抜きん出てトップである。

    また特筆すべきはインターセプト数10回という数字で、これは日本の全選手でトップの数字だ。厳しい試合になったウズベキスタンとの決勝でも、MF山田楓喜(東京V)の決勝点は、高井のインターセプトを起点として生まれたものだった。

    ボールを持ってもパス成功率88.3%、キーパス2回(シュートに繋がるパス)といった数字が示すように、後方からのビルドアップでも持ち味を発揮し、チームに確かな貢献を見せ続けた。

    もちろんミスがなかったと言えば、そうではない。ただ、「プロになってからミスにびびっている自分がいた。ミスしないようにやっているだけだと進歩がないので、そこを変えました」と言うように、ミスを恐れず、またミスしてもすぐに切り替えて次のプレーへ移れるようになったのも高井の大きな進歩だろう。

    間違いなく、確かな進歩を証明するプレーを見せた大会となった。

  • Japan(C)Kennichi Arai

    いざ、再び世界の舞台へ

    もっとも、本人に現状への満足感はない。最終ラインの競争で優位に立っているのではという質問に「そんな気持ちはない」と返しつつ、こう続けた。

    「他のセンターバックの選手もすごく素晴らしい能力を持ってるし、単に僕がこの大会で出ていただけ。みんなにサポートしてもらっていましたし、出場できたのはよかったですけど、チーム全員で勝ってよかったです」

    プレー自体も、まだまだ伸ばせるという意識がある。

    「大会全体通しては良さが出た試合もあったけど、もっと相手の質が高い相手だったり、強豪国とやる上では、これからもっと成長していかないといけないなと思いながらやっていました」

    アジアレベルでは192cmの長身DFの存在感は確かなものがあった。ただ、昨年のU-20ワールドカップでの苦い経験もある高井にしてみると、現状では「まだまだ」という意識でもあるのだろう。満足した様子は皆無だ。

    決勝後の宮本会長も「(高井の)あのインターセプトからのゴール」に言及しつつも、さらなる高みを目指してほしい考えを明らかにしていた。

    「彼にはもっともっと(やってほしい)。あれだけのフィジカルがあるし、もっと強さも身に付けてほしい。(周りから)そういう期待もしてもらえるような試合だったと思う」

    伝統の「川崎山脈」の系譜を受け継ぐ大型DFとして大切に育てられてきた大器は、プロでのシビアな経験、代表でのタフな国際経験の双方を積み上げ、着実なスケールアップを遂げつつある。

    まだ未完成で粗削りな部分は確かにあるのだが、本人も現在の自分に満足しているわけではない。もっと強く、もっとタフに、もっと隙のないDFへ。高井幸大は今、そういう階段を登りつつある。