思えば、久保はラ・レアルでずっと順調だったわけではなかった。加入シーズンの昨季はパフォーマンスに少なからず浮き沈みがあったが、それでもクラブはずっと獲得を望んできた久保のことを信頼し続け、久保はその信頼に極上のフットボールとゴールで応えるようになった。
同じようことは、エイバルの乾にも起こっていた。彼も加入当初こそ苦労を強いられたが、急いで結果を求めないバスクらしい環境に守られながら、徐々に本来のポテンシャルを発揮していった(久保がイマノル、乾がメンディリバルと、人格者として知られるバスク人指揮官に出会えた運もあるのだろう。久保がビジャレアルで指導を受けたウナイ・エメリも同じバスク人ではあるが……)。そしてバスク人の精神性は日本人のものと似通ったところがあり、団結心を失わず、努力を止めない人間は高く評価されることになる。
太陽よりも雨を特徴とするサン・セバスティアンの街で、久保はグラナダ相手に嵐のような大量得点を呼び込んだ。彼は“私たちの一人”であると同時に、“私たちのアイドル”だ。ピッチ内の真剣な姿勢とは打って変わって、ジョークを忘れないメディア対応も素晴らしく、彼のインタビューはいつも私たちを笑顔にしてくれる(しかしソシエダの広報は、彼を試合直後のフラッシュインタビューに出しすぎじゃないか?……最高ではあるのだが)。それと同時に、彼のコメントにはハッとさせられるような内容のものもある。
例えば今回のグラナダ戦直後、イマノルから「タケにはまだまだ厳しく要求していきたい」と言われた久保は、次のように返したのだった。
「監督は厳しい? それが良いんですよ。信頼されていなければ、何かを言われることなんてありません。監督から厳しくされるのは僕にとって本当に大切なことなんです。それは監督がもっと僕の成果を求めている、僕がもっと成果を出せるということを意味していますから」
この一つの真理が含まれた大切な考え方に、私はバスク人のイマノルと日本人の久保のメンタリティーの重なりを見ている。彼が話すと、まるで私たちと日本の距離が縮まっていくようにも感じられるのだ。