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Antony Betis love affair GFXGetty/GOAL

なぜアントニーはベティスで復活を遂げたのか?“マンチェスター・ユナイテッド史上最大の失敗”が「自分」を取り戻した半年間の物語

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オールド・トラッフォードは近年、将来有望な若手選手にとって“墓場”のような存在になってきた。低調なクラブの戦いに巻き込まれ、その多くが輝きを放てずに消えていった。

それでも、退団後に再起を果たした選手も多い。アンヘル・ゴメスはリールで目覚ましい活躍を見せてイングランド代表に復帰すると、アンソニー・エランガはノッティンガム・フォレストを約20年ぶりに欧州カップ戦に導いた。スコット・マクトミネイはナポリにスクデットをもたらし、セリエAのシーズンMVPを受賞。スタディオ・ディエゴ・アルマンド・マラドーナの新たなアイドルとなった。数々の選手がマンチェスター・Uを去った後、驚くほどの輝きを放っている。

だが最大の衝撃は、やはりアントニーだろう。アヤックスで最も期待された才能はプレミアリーグで枯れてしまったかに思われたが、スペインでのたった半年間で誰もが待ち望んだ姿を見せ、2年ぶりにブラジル代表復帰まで果たした。おそらく、今季最高の「カムバック」と言っていいはずだ。

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  • FBL-NED-EREDIVISIE-AJAX-GRONINGENAFP

    困難の連続

    アントニーはブラジルの貧民街で育った。貧困に苦しみ、暴力に囲まれた生活を送っていた。それでも、サッカーだけが生きがいだった。『The Players' Tribune』で当時のことを振り返り、「麻薬の売人をかわし、泥棒をかわした。そんなことはどうでもよかったんだ。足元にボールがあれば恐怖はなかったよ」と語っている。

    生まれた環境は決して恵まれていない。当然、様々な問題に苦しんだ。しかしサッカーの才能が彼を導き、サンパウロを経て、オランダの強豪アヤックスで大ブレイク。次世代を担うタレントとして大きな注目を集めると、2022年におよそ8200万ポンドでマンチェスター・Uという世界的メガクラブにたどり着いている。

    だが、イングランドでの挑戦は困難の連続だった。プレミアリーグデビューから3試合で3ゴールを奪う活躍を見せたが、それ以降は目立った活躍なし。徐々にプレーから自信も消えていった。そして2シーズン目に突入した直後、元パートナーを含む3人から暴行容疑で告発された。起訴はされなかったものの、昨年8月に終了したこの件の調査は、確かに彼に影響を与えている。

    そして3シーズン目となる今季を前に、アントニーは「あれからすべてを学んだ。過去2年間とは全く異なるはずだよ。成長し、成熟できたんだ」と自身を奮い立たせるように語っていた。

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  • Manchester City FC v Manchester United FC - Premier LeagueGetty Images Sport

    悲痛な思い

    だが、失った自信は簡単には戻ってこない。半年間でプレミアリーグでの出場はたった8試合。ゴールもアシストもなく、「終わった選手」との評価をまったく覆せなかった。それは本人の精神を確実に蝕み、食事や息子と遊ぶ気力すらをも失わせている。『TNT Sports Brasil』のインタビューで、アントニーは悲痛な思いを告白していた。

    「兄弟に『もう耐えられない』と打ち明けたんだ」

    「でも『もうちょっと我慢しよう。状況はきっと変わる』と励ましてくれたよ」

    そしてその言葉通り、2月から彼の状況は劇的に好転する。

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  • ACF Fiorentina v Real Betis Balompie - UEFA Conference League 2024/25 Semi Final Second LegGetty Images Sport

    転機

    当時のアントニーに対する評価は、当然低かった。彼をオールド・トラッフォードに連れてきたエリック・テン・ハーグでさえ、もう信頼していなかった。後任のルベン・アモリムもほとんど起用せず、クラブが必要としていないことは明白だった。

    だが、ベティスは彼の才能を信じていた。マヌ・ファハルドSD(スポーツダイレクター)は、アントニーがアヤックス時代のような輝きを放てると確信していたようだ。唯一の問題は資金面。完全移籍で獲得する余裕はなく、給与の全額を負担することもできなかった。それでもマンチェスター・Uと交渉を重ね、レンタル移籍と給与の大部分を負担してもらう形で説得に成功。25歳ウインガーをチームに招き入れ、今季の成功を賭けたのである。

  • 復活

    その賭けは大いに成功した。

    アントニーはベティスデビュー戦となったアトレティック・クルブ戦で印象的なプレーを見せると、次のセルタ戦では初ゴールをマーク。続くヘント戦で1ゴール、レアル・ソシエダ戦で1ゴール1アシストと、初出場から約2週間で3ゴール1アシストを記録したのである。

    ここまで半年間の公式戦25試合で9ゴール5アシスト。同期間で見れば、フヴィチャ・クヴァラツヘリアやヴィニシウス・ジュニオール、ロベルト・レヴァンドフスキ、アレクサンデル・イサクといったワールドクラスのアタッカーを上回るスタッツだ。失われた自信を完全に取り戻すことに成功した。

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  • Real Betis Balompie v Real Valladolid CF - La Liga EA SportsGetty Images Sport

    人生最高の決断

    アントニーはベティス移籍の決断を「人生最高の決断だった」と振り返っている。

    「僕は自分自身を見つけたんだ。幸せを見つける必要があったんだ。家族も同じくね。僕にとって最高の選択だったと気づいたよ。この街、このクラブを毎日楽しんでいる。セビージャはブラジルを思い出させるものがたくさんあるね。太陽も食べ物も、すべてがそうだ。人々もとても温かい。本当に幸せだし、それはブラジル人である僕らにとって重要なことなんだ」

    そしてそれには、もちろん監督の手腕が大きく貢献している。マヌエル・ペジェグリーニは、自らの“派手なプレー”に執着する傾向のあったアントニーの考え方を完全に変え、より勝利へとフォーカスすることで今の結果を導いている。『El Larguero』でこう語った。

    「マンチェスター・U時代を分析するつもりはないが、今の彼は『自分の能力を発揮するだけの選手』ではなく、『試合において実用的な選手』であることを証明していると思う。ボールを持って周囲を驚かせるプレーをするよりも、試合展開に影響を与える重要な2~3のプレーをする方がいわゆる“良い選手”なんだ。彼はシュートやクロスなどのフィニッシュフェーズ、さらにチャンスメイク、そして攻守両面でのチームプレーにより集中できるようになったんだ」

    名将の薫陶を受けたことで、アントニーは「試合に勝利する」ためにプレーできる選手となった。それはチームメイトの信頼を勝ち取り、より手厚いサポートを受けることで、むしろ自分を「自分を魅せる」プレーを披露できるようになったのである。ベティスが継続的に結果を出し、カンファレンスリーグという欧州大会の舞台で決勝まで進んだことも大きいはずだ。それらすべてが失った自信を取り戻させ、精神的な安定につながった。今の彼は不安に押しつぶされることもなく、力が入りすぎることもなく、のびのびと自分のプレーを楽しんでいる。

  • “恩返し”

    こうなると、次の問題は彼の将来だ。ベティスへのレンタル期間は半年で、買取オプションも付帯していない。このままでは一度マンチェスター・Uに戻ることになるが、アモリムが指揮するオールド・トラッフォードに居場所はないだろう。

    そしてベティスは、クラブだけではなくサポーターも彼を手放したくない。クラブ史上初の欧州カップ戦決勝進出を決めた5月8日のフィオレンティーナ戦(2-2)後、1ゴール1アシストを残したアントニーに対し、サポーターは「アントニー、残ってくれ!」の大合唱で懇願している。

    さらにチームの絶対的中心であるイスコも、彼の「圧倒的な才能」と「謙虚さ」を絶賛し、「もう1年残すためにクラウドファンディングを設立しようよ」と冗談を飛ばすと、レジェンドであるホアキンまで「彼の誘拐なら車を提供するよ」と語っている。たった半年で、アントニーはアンダルシアのアイドルになったのだ。

    だが残念ながら、やはりベティスにとってアントニーは高額すぎる選手だ。再レンタルも完全移籍も資金的に難しい。そして補強資金を必要とするマンチェスター・Uは、彼を売却に動くだろう。実際、ユヴェントスやアトレティコ・マドリーといった強豪からアプローチを受けていることも伝えられている。所属元クラブとしての判断は、当然のことながらベティスよりも、資金力あるクラブへの売却を進めるはずだ。悲しいことに、アントニーとベティスの物語はわずか半年で終わってしまうことが濃厚だ。

    だからこそ、28日のカンファレンスリーグは最高の舞台にしなければいけない。終わりが間近に迫っている物語だからこそ、有終の美を飾るべきなのだ。アントニーは彼が心身で苦しんだプレミアリーグを戦うチェルシーを相手に、この半年間でキャリアを救ってくれたベティスとサポーターへの“恩返し”を最高の形で果たせるのだろうか。少なくとも、それを予感させるだけの自信は、今の彼には備わっている。

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