大々的な買収劇により潤沢な資金を得ることになったニューカッスルは、果たしてどのように変わってくのだろうか。そしてそもそも、ニューカッスルはどんなクラブなのか。「新時代」の幕開けを前に、彼らの足跡とこれから歩む道を考察してみよう。
文=田島大
(C)Getty Images大々的な買収劇により潤沢な資金を得ることになったニューカッスルは、果たしてどのように変わってくのだろうか。そしてそもそも、ニューカッスルはどんなクラブなのか。「新時代」の幕開けを前に、彼らの足跡とこれから歩む道を考察してみよう。
文=田島大
(C)Getty Images「ビッグクラブ」に明確な定義はないものの、ニューカッスルは以前からビッグクラブだったと考えるのが自然だ。クラブ規模と成績を鑑みると“眠れるビッグクラブ”と呼ぶべきか。1993年に初めてプレミアリーグに昇格、いきなり3位に入った後も暫くは好成績を残し、1995年頃には優勝候補筆頭の1つに掲げられていた(筆者が初めて英国を訪れた際に、新聞に掲載された優勝オッズの上位に見慣れない「Newcastle」という名前があったのを今でも覚えている)。
さらにニューカッスルはチャンピオンズリーグ本選にも出場したことがあり、ホームでバルセロナやユヴェントスを倒した過去を持つ。何より彼らの本拠地セント・ジェームズ・パークは、2000年に現在の5万2000人収容に増築された際にはクラブ所有のスタジアムとしてマンチェスター・ユナイテッドのオールド・トラッフォードに次ぐ国内2番目の規模だった。近年はロンドン勢の新スタジアムや改修工事を行ったアンフィールド(リヴァプール)などに抜かれたものの、プレミアリーグで7番目の収容人数を誇っている。そして、2018年までの5年間のホーム平均観客動員数は「世界13位」だったのだ。
半世紀以上も主要タイトルを獲得していないとはいえ、彼らは「以前からビッグクラブだった」と言えるだろう。そう言い続けながら10年近くもプレミアリーグでの一桁順位から遠ざかっているはいるが……。
Getty確かに前オーナーのマイク・アシュリーは嫌われていた。クラブの英雄であるケヴィン・キーガン元監督をぞんざいに扱ったり、スタジアム名を変更したりと、「新オーナーがやってはいけないこと」の教科書に悪い例として紹介されてもおかしくないほどだ。それでいて大型補強を渋ったのだから、サポーターがクラブ買収を大歓迎するのは当然である。
しかし、今回の買収劇に納得しない者も多い。3億ポンド(約450億円)の買収資金のうち、8割を用意したのはサウジアラビアの公的投資基金(PIF)である。彼らはサウジアラビアの天然資源が枯渇したあとも国の財源を保つため、投資ビジネスを行う世界最大規模の政府系ファンドなのだ。これまでにウーバーイーツで有名な『Uber』社やフェイスブック、ウォルト・ディズニーなどにも出資したほか、日本のソフトバンクグループとも提携して資産運用を行ってきた。
『PIF』の資産価値は3000億ポンド(45兆円)とも7000億ポンド(100兆円)とも言われており、安く見積もったとしてもマンチェスター・シティのオーナーの14倍、そしてチェルシーを所有するロマン・アブラモヴィッチの33倍である。欧州サッカー界で最も裕福なオーナーが誕生したのだから、ファンやクラブOBが「新時代の幕開け」と興奮するのは当然だ。
しかし、ニューカッスル以外の19クラブは今回の買収劇が「リーグのイメージを傷つける」として反対している。というのも『PIF』の代表はサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子で、同氏は2018年にジャーナリストの殺害に関与した疑いが大々的に報じられたことがある。さらにサウジアラビは人権侵害を問題視されることが多く、イングランドの人権団体からの反発もあるのだ。プレミアリーグは『PIF』がクラブ運営に関して「サウジアラビア政府の影響を受けない」と判断して買収を認めたのだが、果たして……。
故に新オーナーはニューカッスルファンからは絶大な支持を受けるだろうが、それ以外のクラブからは敵対視されることになるだろう。
Getty compositeまず、注目すべきは選手補強だろう。プレミアリーグやUEFAは著しい赤字を規制するファイナンシャル・フェアプレー(FFP)を設けているが、それでもニューカッスルは少なくとも即座に2億ポンド(300億円)の補強を行えるようだ。言い換えると、夏にマンチェスター・シティが獲得したイングランド代表MFジャック・グリーリッシュの「2人分」である。
過去にプレミアリーグのクラブを買収したオーナーは目玉補強を行っており、チェルシーならばアルゼンチン代表FWエルナン・クレスポ、マンチェスター・シティならばブラジルFWロビーニョを獲得している。目玉補強に選ばれるのは南米出身選手が多いようなので、バルセロナのブラジル代表MFフィリペ・コウチーニョが噂に上がるのは自然の流れなのだろう。
選手補強とは別に、設備投資も期待できる。そもそも設備投資の資金はファイナンシャル・フェアプレー(FFP)に引っかからないため、古臭い練習場を一新すると見られているし、ゆくゆくはスタジアム拡張も考えるだろう。
そんな新政権の目下の課題は、監督の去就だ。スティーヴ・ブルース現監督の続投を発表したクラブだが、監督交代は秒読みだろう。大型買収を行ったこれまでの新オーナーは、即座に監督を代えることを避けてきた。忍耐強さや信頼性をアピールするために1年ほど監督に猶予を与えるのが定石だったが、今回は状況が違う。現在19位のニューカッスルは後がないため、早期決断を強いられる。新監督候補にはレスターのブレンダン・ロジャーズ監督やローマのジョゼ・モウリーニョ監督など様々な名前が出ているが、冬の移籍市場の前には新指揮官がチームを率いているのだろう。
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