Unai Emery Aston Villa 2023-24 GFXGetty

昨季降格危機から今季は優勝争い…アストン・ヴィラがエメリの下で復活を遂げた理由

ウナイ・エメリは試合後のインタビューを恒例の「こんばんは」から始めた。しかし、「素晴らしい」や「歴史的」でもよかっただろう。水曜夜のマンチェスター・シティ戦に立ち会ったアストン・ヴィラのファンに話を聞けば、プレミアリーグ時代で見た中で最高のパフォーマンスだったと言うだろう。

ただ王者を倒したのではなく、圧倒したのだ。記録破りの1-0の完勝だった。ヴィラは22本のシュートを放ち、シティはわずか2本に抑えられた。ちょっと考えてみてほしい。昨季3冠を達成したシティは、残り80分あまり、相手GKを苦しめることはなかった。コーナーのチャンスも1つも作れず、プレッシャーをかけることすらできなかったのだ。

ペップ・グアルディオラのチームがこのような形で支配されるのを見たことがあるだろうか?答えは「一度もない」だ。欧州5大リーグにおいて、カタルーニャ人監督率いるチームが記録した数字としては過去最悪だったということだ。

ヴィラは王者を解体するために行った方法について、多大な称賛に値する。彼らのエネルギーレベルは驚異的だった。彼らは90分間シティを苦しめ、ファイナルサードで死ぬほどプレッシャーをかけた。さらに、9日の試合では首位アーセナルをも撃破してみせた。

これら最高のパフォーマンスを生み出しているのは、エメリの手腕によるものだろう。

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    ジェラード、ヴィラを混乱に陥れる

    ちょうど1年前、アストン・ヴィラは落ち目だった。スティーブン・ジェラードは明るいスタートを切ったものの、その在任期間は毒々しいものに変わっていた。ファンは激しく幻滅し、選手たちは自信を失っていた。

    フラムに3-0で敗れ、MFジョン・マッギンが「参加するのが恥ずかしくなった」と語った試合の後、サポーターは監督交代を要求した。

    ヴィラのチーフ・エグゼクティブであるクリスチャン・パーズロー氏は、「継続的な改善という目的」が達成されていないことを認め、その声に耳を傾けるしかなかった。

    シーズン最初の3か月間でヴィラはリーグ戦でわずか2勝しかしておらず、得点も7点しか挙げていなかった。ジェラードが解任された10月22日時点では、得点数で降格圏にとどまっていただけだった。

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  • プレミアリーグ屈指の復活劇

    現在、ヴィラ・パークは間違いなくプレミアリーグで最も威圧的な会場となっている。アーセナルを倒してクラブ記録となる15連勝を達成し、首位との勝ち点差は1ポイントに縮まった。

    これはプレミアリーグ史上、最も劇的で急速な展開のひとつだ。エメリは、マウリシオ・ポチェッティーノがチェルシーのとんでもなく高価なチームをトップ4への挑戦者に変えるには時間が必要だという考えを完全に馬鹿にしている。彼がヴィラ・パークで与えたインパクトは瞬時のものだった。

    では、エメリはどうやってそれを成し遂げたのか? 低迷の危機にあったチームを、わずか1年余りで3位にまで引き上げたのはなぜか? 4年前にアーセナルのボスを解任され、ボロボロだった自身の評判をどうやって立て直したのか?

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    エメリの仕事ぶりと細部へのこだわり

    オリー・ワトキンスは昨シーズンの『サンデー・タイムズ』のインタビューで、エメリは「非常に要求が厳しい」と明かし、監督自身もそれを認めている。彼は選手たちに非常に多くのことを要求する。積極的に応える選手もいれば、そうでない選手もいる。それは、アーセナルとパリ・サンジェルマンで彼が早々に退団した理由を説明するのに役立つ。

    しかし、ヴィラ・パークでは、エメリは腐敗を止めるためならどんなことでもしようとする選手たちを受け継いだ。ビデオ分析に時間を費やすチームミーティングは何時間も続いたかもしれないが、細部への細心の注意がすぐに報われたため、選手たちは新監督のやり方を受け入れ、ヴィラはスペイン人監督の下でプレミアリーグ最初の7試合で6勝を挙げた。

    また、エメリが率先垂範を厭わず、しばしば1日に16時間も練習場で過ごすことも助けになった。選手たちが、自分たちのために懸命に働いてくれる監督のために懸命に働こうとしたのは、驚くには当たらない。

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    冒険的なアプローチ

    エメリはチームを団結させただけでなく、明確なアイデンティティと進歩的で積極的なプレースタイルを与えた。2022-23シーズンの開幕までに4度もフォーメーションを変更したジェラードの下で、チームが構造的なものを失っていたことを考えれば、これは非常に大きなことだった。

    エメリは、特に対照的なスタイルの相手に対して、戦術的な微調整をすることを恐れないが、エミリアーノ・ブエンディアやタイロン・ミングスといった特定のキープレーヤーに頼ることで、すぐに先発メンバーに安定感と堅実さをもたらした。

    さらに、元ビジャレアルのボスは保守的な監督として知られているが、実際はかなり冒険的だ。エミリアーノ・マルティネスをもっと活用することで、ヴィラに後方からボールを出すことを望み、ハイラインとハイプレスも効果的に実行した。

    「サッカーではリスクを冒さなければならない」とエメリは『スカイスポーツ』のインタビューで説明した。「私はボールをキープしようとしている。GKがボールを持ったときに、ビルドアップを始めるんだ。GKがロングボールを蹴れば、勝てるものもあれば負けるものもある。私は自分たちでボールをキープすることを好む」。

    この大胆なアプローチは見事に功を奏した。2月の低迷期を経て、ヴィラはプレミアリーグ最終15試合で10勝を挙げ、プレミアリーグを7位で終えた。これにより、2010-11シーズン以来となる欧州カップ戦への出場権を獲得した。

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    ワトキンスをペナルティボックスの捕食者に

    エメリの就任によって、何人かの選手が多大な恩恵を受けている。

    ジェラードの下では、ヴィラはオーソドックスなウイングなしでプレーするのが常だった。マンチェスター・シティ戦で決勝点を挙げたレオン・ベイリーなど伝統的なワイドマンだけでなく、セントラルMFのドウグラス・ルイスにも悪影響があった。前進してくるウイングバックのカバーのために深い位置まで下がってプレーしなければならなかったからだ。しかしエメリ就任から、ベイリーもルイスも、自分の得意なプレーに集中できるようになった。

    エメリがワトキンスに与えた影響は、間違いなく他のどの選手よりも大きい。昨シーズン、ジェラード政権ではリーグ戦11試合で、このストライカーの得点はわずか1度だけだった。しかし、エメリの下では13回ネットを揺らし、全コンペティションでキャリア最多の16ゴールを挙げてシーズンを終えた。今シーズンもその記録を更新するはずだ。

    今季ここまで、ワトキンスは22試合に出場し、13ゴール6アシストを記録している。5大リーグで、これ以上のゴールに直接関与した選手は5人しかいない。

    そのカギは、エメリがワトキンスのボールタッチを減らしたことにある。ワトキンスは4月にこう語っている。

    「僕はときどきボックスの外に出たくなるのですが、監督は『行くな、そこにいろ!』と単刀直入に言うんだ。笑っちゃうけど、うまくいっているね」

  • Unai Emery Aston Villa 2023-24 Premier LeagueGetty

    タイトルへの挑戦者に?

    マンチェスター・シティ戦後、監督はタイトルへの挑戦について質問された。15節を終えてこれほど勝ち点を伸ばしたのは、1980-81シーズンにヴィラがリーグ優勝を果たしたのが最後だったからだ。もちろん、エメリは即座にそのような目まぐるしい話を一蹴し、間違いなくタイトルレースにふさわしいチームが7つあると指摘した。

    確かにヴィラにはイングランドのエリートたちのような層の厚さがないことは否定できない。しかし、昨年11月にエメリが監督に就任して以来、プレミアリーグでより多くのポイントを獲得しているのがシティ、アーセナル、リヴァプールだけであることを考えれば、トップ4フィニッシュは決して不可能ではない。

    第一に、クラブは夏の間にパウ・トーレスとムサ・ディアビを獲得するために多額の資金を費やしたかもしれないが、エメリはジェラードから引き継いだチームとほぼ同じメンバーで仕事をしている。これは、彼の監督としての能力の究極の証である。

    第二に、ヴィラはミングスとブエンディアを負傷で失い、今季第2節のニューカッスル戦で5-1と屈辱的な大敗を喫した。しかし、エメリは言い訳を探すことはしなかった。解決策を模索し、それを見つけたのだ。

    彼はヴィラでの最初の50試合で、マンチェスター・シティでのグアルディオラよりも多くの勝ち点を挙げており、彼の素晴らしくエキサイティングでエネルギッシュなチームは今、王者でさえ答えられないような質問を投げかけている。ヴィラはリーグ優勝を逃すかもしれないが、楽しい夜を過ごせることは間違いない。